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ガルフブルグ郊外で出会った人は

お待たせしました、新章スタートします。

 銃の弾が映画のスローモーションのようにゆっくりと迫ってくる。

 左に躱して間合いを詰めた。都笠さんがそれを読んでいたかのように僕にハンドガンの銃口を向ける。

 爆発するような白い発砲煙と赤い火が三つ広がって、煙を切り裂くように弾が飛んできた。切り返すように右にステップを踏む。

 でも横によけたところで、胴に衝撃がきた。防御プロテクションの光がまばゆく光る。

 都笠さんの銃口がこっちを向いていた。動きを読まれてステップの先にあらかじめ撃たれていたのか


「大丈夫ですか?ご主人様」

「大丈夫だよ」


 セリエが心配そうに聞いてくるけど。

 弾の衝撃は感じたけど、殴られたかなという程度だし、防御プロテクションが聞いているから痛みは感じない。

 勿論血が流れているわけではないし。


「風戸君」


 当たったところを手で払っていると、都笠さんが声をかけて来た。珍しく苛立たし気な口調だ。


「ちょっとワンパターンだわ。右と左にジグザグに動くだけじゃなくて、大きく横に飛ぶとか、そういうの頼める?」

「了解」


 セリエが薄くなった防御プロテクションをかけ直してくれる。

 都笠さんが銃をホルスターに収めて、僕はもう一度距離を離して銃剣を構えた。



 今日も訓練でパレアの郊外に来ている。

 訓練するだけなら別にここでなくてもいいんだけど、都笠さんの銃はパレア市街の探索者ギルドの訓練施設で使うにはあまりにもうるさい、というのが理由だ。

 タイミングが合えばアーロンさんたちに付き合ってもらうんだけど、今日は予定が合わなくて僕らだけだ。


 ただ、今日の訓練は普段とはかなり違う。特に都笠さんの纏う空気は。

 ヴェロニカとの戦いで結果的に都笠さんも僕もあいつには歯が立たなかった。あいつらがもう一度僕らを狙ってくる可能性はあるのなら、今度は簡単にやられるわけにはいかない。


 訓練の前半は僕が銃剣くらいの長さの棒を使って司さんがスロット武器の枴を使った組打ちをした。

 明らかにあいつは僕より早かった。スロット武器の性能で押し切ることはできない。自分より早い相手にも対抗できるようにしておかないといけない。


 そして、この組み合わせで練習して思うのは、スロット武器の性能の高さってはいかに強力かということだ。

 動きを読み勝っても、速さで挽回されてしまう。今更ながら、僕より遅かったはずのガルダや、スロット武器を普通のサーベルで圧倒したらしい籐司朗さんのすごさを思い知る。


 15本近くやったけど、結局のところ、スロット武器もちの都笠さん相手に一本取るのが精いっぱいだった。先が思いやられる。

 ただ、普段なら軽口の一つでもいいそうな都笠さんは何も言わなかった。


 そのあとは組み合わせを変えて、僕がスロット武器を持って間合いを詰めてそれを司さんが銃で迎え撃つ、という訓練をしている。

 もちろん実弾を使うから、防御プロテクションをかけてもらっているのだけど。


 都笠さんの動きは徹底している。

 逃げるように動きながら打つ、動いている的を撃つ、狙うは胴、三連射。あと、不意打ちを想定しているのか、ホルスターに銃を納めたところから抜き撃ちで対応する。

 三連射なのは大抵の防御プロテクションは3発程度で効果を失うから、胴を狙うのは命中率重視だからだろう。


 詳しくは話してくれなかったけど、ヴェロニカとの戦いでまったく銃を当てれなかったことを、そしてその結果近衛の一人が倒されたことに相当思うところがあるんだろう。

 ハンドガンと89式の弾を8割がた使ったところで司さんの訓練の終わった。


 クーラーボックスのペットボトルの水を飲みながらアーロンさんの言葉を思い出した。


「スミト。お前がもし死んで悲しむ人間が居ないというなら好きにすればいい。だがそうでないなら生き残るために最善を尽くす義務がある、忘れるな」


 固いこと言うな、と聞いたときは思った。でも今はその意味が分かる。

 籐司朗さんが死んだときのダナエ姫のことを思い出す。自分の為にも、大切に思ってくれている人の為にも死ぬわけにはいかない。



 訓練を終えてパレアに戻る途中、馬車が不意に止まった。


「どうかした?セリエ?」


 御者台に顔を出すと、聞くまでもなく止まった理由がわかった。

 二車線道路くらいの広さの土が踏み固められた街道。その道端に馬車が乗り捨てられていた。

 というか乗り捨てられている、というのは違うか。2頭の馬がつながれたままで、のんびり草を食んでいる。

 乗っていた人が何処かへ行ったという感じだな。


 隊商の荷馬車とかじゃない。6人乗り程の中型の馬車だけど、脱着可能な黒い幌をつけた結構立派なタイプだ。からっぽのキャビンの中にはクッション張りの椅子が据え付けられている。

 車体にはどことなく和風だけど見たことがない紋章と、もう一つ、見たことがある紋章が並んで彫刻されていた。

 片方はバスキア家のやつだ。いい加減長くこの世界にいて旗とかもとかも見たからこのくらいは覚える。 


「野盗とかかな?」


 パレア近郊は比較的安全だけど完璧にそうというわけじゃない。

 旅人や隊商がトラブルに巻き込まれることはある。ただ争ったって感じはしないけど。


「いえ……違うと思います」

「見て、風戸君」


 セリエが首を振る。

 都笠さんが指差した先を見ると、何人かの足跡が草むらについていた。森の中にそのまま足跡が伸びて行っている。

 セリエの使い魔ファミリアで空から見ると、森の中に砦の跡があることが分かった。方向的にはそっちに向かっているっぽい。


「どうする?」

「……行ってみようか」


 馬車の主は恐らくバスキア公家の関係者だろうし、さすがにこれを見たのに見なかったことにして帰るのは気が引ける。


「ちょっと撃ち過ぎたわね」


 都笠さんがつぶやいてサブマシンガンを取り出した。



 薄暗い森の中の叢を踏んでできた獣道みたいなのをたどる事、約20分。森の中に築かれた古い石組みの砦に着いた……こんな変な場所に何のために建てたんだろう。

 砦を囲む壁はあちこち崩れていて、組まれた石も丸くすり減っている。砦本体の壁にも蔦が張っていてかなり古いものなのは分かった。

 ただ、馬が何頭かつながれている所を見ると、何かに使われているらしい。


「先行するよ」

「よろしくね」


 都笠さんに一声かけて前に出る。


「ご主人様……お気を付けください」


 セリエが不快そうに口元を抑えて言う。

 何が言いたいのかは僕にも分かる。というか、僕にも分かるくらいに嫌なにおいが立ち込めていた。

 元はアーチが組まれていたであろう入り口をくぐって壁の中に入ると……予想通りと言うべきか、砦の中は血の海だった。



 惨状を見てユーカが小さく怯えたような声を上げた。

 其処彼処に切り捨てられたれたり叩き潰すような傷を受けた人間の死体が転がっていて、血の匂いが立ち込めている。


 この世界に来て戦いは何度もやったけど、これだけの人間の死体を見るのは初めてだ。レブナントは切り倒したら消えてしまっていたし。

 流石にいろんな意味で気分が悪くなる。 


 建物の中は壁の裂け目から光が差し込んでいるけど薄暗い。都笠さんがライト付きのハンドガンに持ち替えて先を照らしてくれる。

 血まみれの床には足跡が残っていて奥に伸びていた。遺体を踏まない様にそれを追うように進む。


「奥から何か来ます」


 広間の様な部屋に入ったときにセリエが警告を発した。ちょっとの間があって、奥の出口から足音が聞こえてくる。複数だ。それに泣き声と何かを話す声。

 都笠さんがショットガンに持ち替えて奥に向ける。出口に影が見えて、盾を構えた男がアーチをくぐって姿を現した



 野盗か何か、と思ったけど違った。

 190センチ近い長身の人。着ている胴鎧は血で汚れているけど、かなり立派だ。少なくとも山賊とか探索者の類じゃない。

 身なりから見て、騎士か準騎士か。それに近いポジションだろう。


 此方に気づいていなかったんだろうけど、僕と目が合ったとたん、瞬時に空気が緊張した感じに変わった。

 全身を隠すような大きな盾タワーシールドを構える。


「主よ!警戒を!」


 男が入り口を盾で塞ぐようにして一歩下がった。

 僕も銃口を入り口に向ける。都笠さんが前に出てきてサブマシンガンを構えた。


「何者だ。残党……ではなさそうだが」


 盾の向こうから男の誰何が聞こえる。


「君達こそ何者だ。これは君がしたのか?」


 銃口を向けながらこっちも問いただす。

 見た目は正規の騎士っぽくても油断できないのは最近思い知らされたし、この状況で気を抜くわけにはいかない。


「探索者のようだが、名乗れ。何者だ。こいつらの味方なら降伏した方が身のためだ。死体の仲間入りをすることになるぞ」


 威圧するように言って、男が一歩進み出てくる。後ろのスペースからもう一人が出てきた。

 背が低くて、手には変わった武器を持っている。手甲の先から短い刃が伸びているような武器だ。


「通りがかりの探索者だよ、こいつらの味方じゃない。そっちこそ何者だ」

「もう一度言う、名乗れ」


 僕の問いを無視してそいつが言う。応える気はない、というか譲る気はないという感じだ。

 ユーカがフランベルジュを抜いて、セリエが後ろで防御プロテクションの詠唱を始める。油断なくショットガンを構える都笠さんと目が合う。


 都笠さんが軽くうなづいた。

 まあ名乗るくらい構わないだろう。明らかに探索者じゃないけど、少なくとも山賊とかじゃないようだし。


「僕は風戸澄人。竜殺し、の方が通りはいいかな」

「……証明できるか?」


 一瞬雰囲気が緩んだ気がしたけど、警戒心丸出しな感じでまた問いただされる。


「といわれてもね……」


 ゲームのように称号を見せるわけにはいかない。免許書とかがあるわけでもないし。こういう時は不便だな。


「……東京で一番高い建物はなんだい?答えられるかな」


 盾越しに違った声が聞こえた。男の声だ。盾の後ろにまだ誰かいるな。

 ただ、かなり謎の質問だ。

 東京で観光客に聞かれるならともかく、少なくともガルフブルグの修羅場の後の砦で騎士に聞かれるのは。


「東京スカイツリー?」


「中央線の東京駅の前の駅は?」

「神田」


 一年以上もう乗ってないけど、案外すんなり出てくるな。


「……本物みたいですね。ウルス、ブリジット、武器を下ろして」


 後ろから声が聞こえて、男が盾を床につけた。

 盾の影になってわからなかったけど、セリエより小さいけど墨のような黒髪から獣耳がのぞいている。獣人だ。

 もう片方の背の低い人も武器を下した。二人がすっと頭を下げる。その間を通り過ぎて現れたのは。


 簡単な鎧と紋章入りの外套に身を固めてはいるけど。

 神経質そうな細目に細面。おしゃれな眼鏡をかけていて、黒髪は整髪料でととのえたらしくきれいに後ろになでつけられている。

 まごうことなき日本人のルックス。僕らよりは年上っぽく見える。


 鎧姿がちょっと細めの体にはイマイチ似合ってなくて、この世界でスーツとかを着たがる放浪願望者ワンダラーとは逆の意味でコスプレっぽい。

 眼鏡姿も相まってスーツの方が似合うだろうなと言う感じだ。

 

「初めまして、風戸澄人さん、それに……都笠鈴さん」


 そう言って男の人が軽く会釈してくれる。


「いずれ会えると思ってましたけど、意外なところで初顔合わせになってしまいましたね」

「あなたはもしかして?」


「ええ。察しの通りですよ。私は綾森遊馬あやもりあすま。日本人です」



とりあえず一話。少し間を置いて3連投程で行きます。

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