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もう一つの闇の正体

 おはようございます。今日も朝投稿。3連投の2投目、行きます。

 何となく気まずい雰囲気になりつつ、一度を輪を離れた。今回はバスキア公の近衛の人達にも世話になったし、そっちにも挨拶しておかないと。

 都笠さんと一緒に輪に近づくと、近衛の人達が道をあけてくれてジェラールさんの姿が見える。

 軽く会釈すると、ジェラールさんがグラスを上げて応えてくれた。


 ラヴルードさんが亡くなったことを知らせた時のことを思い出す。流石にラヴルードさんの死を聞いたときは沈痛な顔をしたけど。


「主のために戦い、名誉ある最期を遂げたラヴルードを誇りに思う」


 ジェラールさんはそれだけを言っただけで、ラヴルードさんの遺体は回収されて、荼毘に付された。

 一応作戦は成功してヴァンパイアは倒せた。でも結果的には都笠さんを守るために犠牲者が出てしまった。バスキア公の近衛のグループについては、手放しで戦勝祝いってわけにはいかない気がする。

 どう話せばいいのか、一瞬迷ったけど。 


「死を嘆くな。カザマスミト、それにスズ。我々はいつでも我が主のために死ぬ覚悟はできている」


 僕等が言いたいことを察したのか、ジェラールさんが先に口を開いた。静かな口調だ。


「もしラヴルードが何もせず倒されていればスズはもっと早く連れ去られてただろう。そうすればお前も間に合わなかったかもしれん。違うか?」

「ええ……」


「だが間に合った。そしてスズは連れさられずに済んだ。ならばラヴルードの死は無駄ではなかった。そうだろう?」


 変わらず静かな口調でジェラールさんが言う。皆に言い聞かせるかのように。


 これはダナエ姫が教えてくれたけど。なんでもバスキア公の近衛は身分を問わず、強さと忠誠心の高さのみで選ばれたガルフブルグのエリート戦士らしい。

 その強さと死をも恐れない勇敢さでガルフブルグのみならず近隣の国にも名前が知れているそうだ。


 副官格のヴァラハドさんはかなり高位の貴族出身とのことで、ジェラールさんより年もかなり上っぽい。それに対してジェラールさんは奴隷出身。

 これだけ色々な差がありながらも彼を指揮官として仰ぐのはなぜか。質問してみたけど、単純にジェラールさんの方が自分より強いから、というシンプルな答えが返ってきた。


 そしてナンバー3がエレンさん。前にも少しだけ話したことがある、20歳の女性の魔法剣士。出身は旅商人の家なんだそうだ。

 おとなし気な感じの見た目だけど、高速詠唱で魔法を連発しながら最前線で戦うスタイルで、戦場ではとんでもない強さを発揮するらしい。

 

「われわれがここで死を嘆いていても奴は喜びはしない。勝利を称え、ラヴルードの死が無為でなかったことを喜ぶのだ」


 そう言ってジェラールさんが一口飲んでグラスを差し出してきた。ガルフブルグの乾杯か。僕も一口飲んでグラスをジェラールさんに渡す。

 アーロンさんが前に言っていた。探索者は次の日に喜べるかどうか分からない、だから喜ぶときはすぐに喜びを分かち合うんだ、と。

 死と隣り合わせだからこその覚悟か。


「もし、奴の死を悼むのならば。お前等がいずれ死んでラヴルードと再会した時に、命を懸ける価値がある戦士だっただろうと、奴に自信をもって言えるように生きろ」

「はい」


 ジェラールさんのグラスのウイスキーを飲みほす。ヴァニラのような香りがして、熱い塊が喉を抜けていった。



「ところで一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

 

 酒が進んでくると緊張感も薄れてくる。

 なんとなく漂っていた重たい雰囲気もなくなって会食場もにぎやかになってきていた。

 相変わらずグループが三つに分かれているのは変わらないんだけど。まあこればかりはガルフブルグのしきたりだから仕方ないんだろう。


「今回戦った相手が変わったスロット武器を使ってたんですよ。知ってますか?」

「どんなものだ?」


 ジェラールさんがウイスキーを飲みながら聞いてくる。

 ジェラールさんは普段は面頬をつけているけど、流石に今はつけていない。面頬を取ると、顎から唇を切り裂いて頬まで伸びる大きな切り傷があった。それを隠しているらしい。

 かなり痛々しい傷で昔ならちょっと目を逸らしたかもしれないけど、今は名誉の負傷なんだろうな、と感じる。僕の感覚も変わってきたのかもしれない。


「剣なんですけど……柄の方にも刀身がついているんです」


 この剣についてはダナエ姫も知らなかった。ノエルさんも覚えがあるというだけで具体的なことは分からなかった。

 ただ、ヴェロニカには逃げられたし、ミハエルの遺体からはこれと言った手掛かりが得られなかったから、その武器以外にあいつの正体を探る手掛かりがない。

 

 ヴェロニカはバスキア公のニセの通行証を持っていたうえに、近衛の一人が倒されたからそれを報告する、と言って門をくぐって逃げたらしい。

 用意周到なことには感心するけど、自分で切っておいてそれをダシにして逃げるとは、二重に腹立たしい。


 ヴァラハドさんは首を振ったけど、ジェラールさんが記憶を探るような顔で考え込んでいる。

 なにか覚えがあるのか、と思ったところでジェラールさんの顔色が変わった。


「短めの片手剣ブロードソードの柄に……同じような長さの刃を取り付けたものか?」

「ええ、そんな感じです」

 

 どうやらジェラールさんはあの武器を知っているらしい。

 あの戦いで手掛かりが少しでもつかめたんなら、ラヴルードさんも少しは報われると思うけど。

 

「……戦ったのか?」

「ええ」


 ジェラールさんが僕の顔を覗き込むかように見た。


「良く生き残ったな、スミト……相当の手練れのはずだぞ」

「知ってるんですか?」


「傭兵団にいた時に一度だけ戦ったことがある……ソヴェンスキの司教憲兵アフィツェイルの武器だ……」


 ジェラールさんが何かを思い出すような顔で言う。この人に手練れと言わしめるんだから相当だろう。

 それに、思い出すと確かに恐ろしい相手だった。僕のスロット武器の性能は、スピードだけならガルフブルグでも屈指らしい。それをおそらく上回っていた。

 そもそもセリエが防御プロテクションを掛け直してくれていなければ最初の一太刀で死んでいたかもしれない。


 ただ、速さとかよりむしろ、あの纏っていた雰囲気の方が恐ろしい。

 仲間であるはずのミハエルを迷いなく切り殺したのもそうだけど。息詰まる殺気とか圧迫感じゃなく、人を切ることに何の躊躇もない底冷えするような感じ。

 戦っている時の雰囲気が今までの相手の誰とも違っていた。


 もちろんそんな体験をしたことはないんだけど、戦闘用のロボットとかと向き合ったらあんな気分になるんじゃないかと思う。

 正直言ってもう一度戦うのは遠慮しておきたい。


「ソヴェンスキって……たしか戦争になりかけた国でしたっけ?」


 聞いてみたけど、ジェラールさんがそれには答えてくれず、真剣な顔になって何か考え込む。

 ヴァラハドさんが近衛の一人に何か耳打ちすると、その人が慌てたように会食場を出て行った。



 バスキア公の近衛の人たちが固まってなにか話始めたので一旦その場を離れてセリエ達の方に戻った。

 ユーカが嬉しそうな顔で僕の方に小走りで寄ってきて僕の腰に抱き着いてくる。セリエがグラスにワインを注いでくれた。


 今日はセリエもユーカも普段とは着ているものが違う。というか、オルドネス公の好意でドレスを貸してもらっている。

 セリエはいつものメイドドレスと似た黒い長めのドレスに白いサッシュベルト、ユーカはピンク色のワンピースのようなドレスだ。フリルをあしらったかわいい感じで似合っている。


 普段は探索者もガルフブルグの人達もあまり着飾ったりすることはない。ちょっとしたアクセサリーをつける位が精々だ。

 東京から大量の服が持ち込まれて少し状況は変わったようだけど、既製品の服が溢れていてオシャレに気を使うことができる環境はまだかなり先だろうな。

 なので普段と違った格好を見るのは新鮮だし、セリエ達も嬉しそうだ。

 

 セリエやユーカも直接ヴァンパイアと戦ったけど、不死の討伐者の称号はもらえなかった。

 これは奴隷だから称号を貰うのは主人の僕だけ、ということらしいけど。パーティの席には普通に入れてもらえている。

 この辺は奴隷だのなんだのというのは全然関係ないらしい。


「如何した、スミト」


 ダナエ姫はいつも通りの和装だけど、今日は赤地に金銀の糸で刺繍が入った華やかな文様のを着ている

 さっきの情報を話していいものか迷ったけど……これは共有すべき情報なような気がする。それに、その情報を知れたのも僕が戦ったからなわけだし。


 都笠さんも軽くうなづいてくれたので、さっき聞いた話を一通り話した。

 僕の話を聞くと、ダナエ姫が深刻そうな顔で頬に手を当てて首を傾げる。


「ソヴェンスキか……なるほどの、あの国の者ならば確かにお主が申していたことをほざくやもしれんな」

「なんなんです?それ」


 都笠さんが聞き返すと、ダナエ姫がちょっと困ったような顔をした


「そうか……お主等はソヴェンスキのことは知らぬのか」

「まあ」


 ガルフブルグの人なら隣国のことは知っているのかもしれないけど、僕等は知らない。国境を越えようと思ったこともないし、そもそもかなり行動範囲が狭いっていうのもある。


「あの国は我々とは戴く神が違うのじゃ」


 ガルフブルグは地水火風をつかさどる4つの神を信仰している。

 僕等は教会に行ったりはしないけど、スロットシートを管理していたり、渋谷とラポルテ村を結ぶゲートが教会の中にあったりと接する機会はそれなりある。


 セリエは割と信心深くて、時々地の神である``白狼``レキの教会に祈りを捧げに行っているし、渋谷の探索者ギルドには火の神であり戦いの神である``金竜``ヴァフニールの礼拝所があったりする。

 ただ、世俗的な影響力はあるものの、ガルフブルグは4大公家の力が強いようで宗教が政治に絡むことはあまりないらしい。


「彼の国は、神殿が国をつかさどる。オルデクシア・ストラストという神を奉じその教義を絶対とする国じゃ。ガルフブルグにもたびたび侵攻してきておる。信仰を糺すのだ、と申してな」


 ダナエ姫が不快気な口調で言う


「あの国が絡んでおるなら……非常に頭の痛いことよな」

「なんでです?」


「あの国は話が通じぬ」


 ダナエ姫が一言で言うけど……何となくわかる気がする。

 ヴェロニカも自分の言いたいことを押し通そうとするだけだったし。いくら何でも上から下まであんな調子ではないとおもうけど。


「その兵士が探索者に紛れていたのは……偶然の訳ないですよね」

「まあそうじゃろうの」


 少なくともバスキア公の率いる主力の騎士団が動員できなかったのはソヴェンスキが国境を脅かしたせいだ。だからこそ少数精鋭での強襲をせざるを得なかったわけで。

 結局のところ戦争にはならなかった、というのはギルドの方経由で聞いた。


 オルミナさんの協力もあったから直接攻撃もできたけど……オルミナさんの鍵の支配者キーマスターがなければサンシャインをレブナントと戦いながら登るしかなかった可能性だってある。

 そうなればヴァンパイアを仕留められたかは分からないし、あのレブナントの大群を見た限り、時間がたてばたつほど僕等にとっては不利な状況になっていたと思う。


「ソヴェンスキとやらがヴァンパイアが連携していたとか?」


 ダナエ姫がそれを強く打ち消すように首を振った。


「ありえんな……魔獣を自由に召喚できるなど聞いたこともない。それに戦ってみて分かったであろう、スミト。アレが人間の指揮下に入るようなものと思うか?」


 そう言われてみるとまあ人間の言う事なんて聞くことはなさそうだし、そもそも人間と組む理由はないか。


「じゃあソヴェンスキがヴァンパイアの出現を利用した、と言う可能性は?」

「それは……ありえるの」


 ヴァンパイアが居たこと自体はミハエルの口から伝わっているだろうけど。

 どういう意図でどういう風に利用しようとしたのかは分からない。

 

「混乱に乗じてお主等の身柄を抑えに来たのやもしれぬな」

「うーん……そこまでやりますかね」


 都笠さんの兵器工廠アーセナルと銃は単独でも使い出がある。こういう言い方はアレだけど、都笠さんを攫うことにはメリットがあると思う。

 でも、僕の管理者アドミニストレーターは東京の建物や車とかを動かすスロット能力だ。僕を単独で連れて行ってもあんまりうまみはない気がするんだけど。


「お主は……もう少し危機感を持つべきじゃぞ、スミト」


 あきれたような顔でダナエ姫が首を振った。


「前も申したであろう。スロット能力は勿論のこと、お主等の持つ知識は重要なのじゃ。我らよりはるかに進んだ世界の知識、他国にとっては垂涎じゃろう」

「風戸君……あたしはあり得ると思うわ」


 黙っていた都笠さんが真剣な感じで口を開いた。


「あいつらはたしたちのことをよく調べている……少なくともあたしの銃のことは知っていたわ……信じられないかもしれないけど……」


 都笠さんが何かを思い出す様な顔で一瞬口ごもった。


「あいつは銃弾を避けたわ、というより狙いにくい動きをしていた。あれは銃の性質をよく知っているからこそやったんだと思う」


 言われてみると、あいつは僕のことを初対面でも名前を言い当てた。ラティナさんのことも。セリエやユーカのことも知っていた。

 ……何か、背後に立たれているような気がして後ろを振り返ったけど、もちろん誰も居なかった

 

 


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