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対峙・中

長くなってきたので分けました。

 反射的に視線が上を向いた。銀の雨のように何かが落ちて来る……手裏剣だ。手裏剣が天井から降ってくる。

 僕の動きを見たのか、ミハエルとヴェロニカが上をみる。けどもう遅い。


 ヴェロニカが手裏剣を払いのけるけど、都笠さんを抱えているミハエルの肩に手裏剣が突き刺さった。

 二人が慌てて飛びずさる。そこにさらに手裏剣が降り注いだ。フロアに当たった手裏剣が鋭い音を立てる。


 何が起きたのか……を考えるのは後だ。この距離なら打つよりも突っ込む方が早い。

 2歩踏み込んで銃剣を振り下ろした。切っ先が灰色の床にぶつかって火花を散らす。ヴェロニカとミハエルが飛ぶようにそれぞれ下がる。間に割り込めた。


「【雪待流中伝、術式茜!連ね火針!】」


 同時にラティナさんの手裏剣が飛んだ。

 ミハエルが前にも見た独特の厚刃のサーベルを抜いて手裏剣を叩き落す。

 ただ、何本かがそれをかいくぐるように手裏剣が胴に突き刺さった。ミハエルがうめくような抑えた悲鳴を上げる。


 ノエルさんの姿が視界の端に見えた。

 加勢してくれないかと思ったけど……槍で体を支えているような状態だ。多分傷は相当深い。援護は期待できない。


「お越し頂けませんか?」


 ヴェロニカが半身になって双剣を構えた。


「お前がどこの誰だかしらないけどお断りだ」

「そうですか……残念です」


 感情を交えない言葉を言い終わるより早くヴェロニカが踏み込んできた……速い。

 横なぎに払われた刀身を体を逸らして躱す。でも、切り返そうとした時には目の前に刃が迫ってきていた。

 

「何?」  

 

 防御プロテクションの光が輝いて首筋に頭の芯まで貫くような衝撃が響いた。思わず首を手をやる。血が噴き出していたりはしなかった。

 ヴェロニカが手の中の双剣をくるりと回転させて、間髪入れずまた双剣が振られた。固まってる暇はない。銃身で受け止めて一歩下がる。


 ヴェロニカが手首を返すと、手に握られた剣の二つの切っ先回って球のような軌跡を描いた。

 さっきも振り抜く途中に手首を返したのか。柄の両側に刀身がついている剣なんて見たこともないから軌道が読めない。


 そしてそれよりも、今の一撃は……速い。

 僕よりも速い。速さだけなら僕よりもジェラールさんよりも上だ。自分で言うのもなんだけど、僕より速い相手は初めてみた。

 それに両方に刃がついているからなのか切り返しが鋭い。


 息つく暇もなく、気合の声一つ上げずにヴェロニカが踏み込んできた。

 風のように速い剣の切っ先が体をかすめる。防御プロテクションの光が薄くなるけどまだ持ちそうだ。

 考えるより先に体が反応する。銃身と双剣がぶつかり合って火花を散らした。


 ヴェロニカが切っ先を僕に向ける。

 話しているときは人形のようだったけど、対峙すると無機質な対戦ゲームのCPUのようだ。油断するとか自分より弱そうだから侮るとかそんな気配はまったくない。

 そして、ついさっきまで同行を求めていたけど、今は太刀筋に微塵の容赦もない。

 手に入らないなら壊してしまえってことか。


 逃げるべき時は逃げろ、だがそうでないときは恐怖は押し殺せ、弱気は死を招く、はアーロンさんの言葉だけど。

 僕もいい加減実感としてわかってきた。戦いは波みたいなものだ。怯えて下がったらそのまま押し流されてしまう。


 振り下ろされた剣を受け止めて、気合いを入れて銃身を横にして押した。ヴェロニカが少し足並みを乱して下がる。さすがに体重がある分、単純な力押しなら僕の方に分があるか。

 それに、この剣は躱すより払う方がいい。速さで負けている上に、躱していたら二つの刃の変則的な斬撃を追いきれない。払って少しでも剣の動きを止めた方がいい。


「流石ですね。普通ならもう死んでいます」


 ヴェロニカが少し距離を空けて言う。感情のこもってない言葉に無表情で本気でっているのは分からないけど。

 僕より速いってことは、並みのスロット武器じゃこいつの剣速についていけないだろう。


「もうやめませんか。ここであなたと戦うのは本意ではありません、スミト様」


 わずかに余裕を感じさせる口調でヴェロニカが言う。

 僕の銃も銃剣と銃床でのコンビネーションが基本的な戦術で、こいつの柄の両方についている刀身での連続攻撃とやっていることは似ている。

 ただ、似てはいるんだけど……こいつの方が練度が高い。間違いなく。

 

 いい加減何度も戦えば、自分が相手より強いか弱いかくらいは分かる。勿論こいつにも分かっているだろう。

 でも今は僕が戦うしかない。ラティナさんはミハエルを牽制しているしノエルさんは今は戦力にはならない。

 尻尾を巻いて逃げれば、僕が倒されれば……都笠さんは連れ去られる。負けは考えず、強気を保つ。


「共に来ていただければ都笠様、セリエ様、ユーカ様とともいられます。しかも奴隷などという身分ではなく。なぜ拒まれるのです?」


 ヴェロニカが静かに問いかけてくる。


「塔の廃墟の住人の貴方にガルフブルグに忠誠をささげる理由はないはずです」


 確かに僕にガルフブルグに忠誠をささげる理由はない。でも、もう一年近く居ていろんな人とかかわりを持った。細やかながら愛着はある。

 それに。


「あんたが本当に正しいというなら……こんな人攫いをせずにサンヴェルナールの夕焼け亭に話に来い」


 少なくとも正義を自称するなら、剣の力でごり押しするのはどうかと思う。 


「正しいって口で言うだけなら誰でもできるよ」


 ヴェロニカの表情がわずかに不快気に歪んだ。

 

「ミハエル!」

  

 ヴェロニカが鋭く叫ぶ。後ろで手裏剣を捌きつつ様子を見ていたミハエルが、都笠さんを担いだまま走り出した。

 追いかけたいんだけど、とてもじゃないけどヴェロニカから目を切れない。


 明らかに僕を舐めてたガルダや、加減をしてくれていたジェラールさんとは違う。ヴァンパイアの押しつぶされそうな威圧感とも違う。

 剃刀のような鋭い殺気が突き刺さってくる。少なくとも今まで対峙した人間では一番の相手だ。


 ラティナさんが手裏剣を投げるけど、ミハエルに叩き落とされる。甲高い音がホールに響いた。

 何本かは当たっているようだけど……威力が足りない、と本人が申告する通り、あれだけでは完全に動きを止められない。それに都笠さんの体を抱えているから、それが障害物になっている。

 ミハエルが人一人を担いでいるとは思えない速さで、ドアの方向に駆けていく。

 逃げられる。


「ナラバ!【雪待流中伝、術式茜!連ね火針!正鵠!】」

 

 ラティナさんが手裏剣を投げた。一本の手裏剣が地面すれすれを飛ぶ。

 受けようとしたミハエルのサーベルの切っ先を手裏剣が軌道を変えて避けた。でも勢い余ったのか、そのまま通り過ぎてしまった。

 ミハエルが身をひるがえしてまた走ろうとする。その時。


BACKもどれ!」


 ラティナさんが叫ぶと、小さく悲鳴が上がってミハエルの膝が崩れた。



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