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池袋強襲計画、再び。

かなり遅くなりましたが、新年おめでとうございます。

約1年ぶり(医者に行くほどひどかったのは3年ぶり)に体調を崩したので投稿が遅れました。インフルエンザではなかったのですが。


6連投です。待っていてくれた皆様に感謝を。

 翌日。

 前に作戦会議を開いた高田馬場駅前のコンビニ跡地で、オルドネス公たちも含めて作戦会議がもう一度開かれた。

 あのヴァンパイアの言っていることを額面通りに受け取るなら、いずれ数をそろえてレブナントの軍隊が進軍してくる。池袋で会った時のペースで数を増やせるんなら時間の問題かもしれない。


 いままでさんざん思い知らされたんだけど、数が多いってのは単純にそれだけでとんでもない脅威になる。

 寡兵で大軍を打ち破るというエピソードもなくはないけど、それが語り継がれるのはそれが珍しいからだ。そういう奇跡的な逆転劇の裏には、寡兵が妥当に数に押しつぶされる、という冷酷な現実があるわけで。 


 しかもレブナントとはこの間何度も戦ったけど、とにかく頑丈だ。

 ダナエ姫の剣聖の戦列(レヴァンテインくらいのスロット能力をもっているならともかくとして、一般の探索者じゃあ同時に複数に押し込まれたら危ない。

 前回の強襲は失敗したけど、早いところ根元を切らないといけない、というのは変わらない。



「ブレーメン殿、分かっておられるのか?」


 険悪な口調でダナエ姫が言った。

 会議は最初から荒れ模様、というか。ブレーメンさんが相変わらずオルドネス家だけで片をつけることにこだわっている。


「シンジュクの防衛ラインが破られればディグレアまでは大した距離はない。門を抑えられればガルフブルグにレブナントがなだれ込んでくるのじゃぞ」


 ダナエ姫の口調は静かだけど、怒りを抑え込んでいるって感じだ。

 確かに門を押さえられてしまえばあの数のレブナントがガルフブルグに攻め入ってくる。

 オルドネス公が門を閉めるしかなくなるんだろうか。


「一刻も早く精鋭を揃えてヴァンパイアを討つか、兵力を整えてじゃな」

「そんなことはブルフレーニュ家に言われるまでもない。これはわが家が解決すべき問題だ、といっているのだ。お分かりだろう」


 何か言いかけたダナエ姫が口ごもった。

 4大公家はお互いの領域に干渉しない、というのは、どうやらかなり強い不文律らしい。正論と言うか教条的にはブレーメンさんの言っていることの方が正しいってことなんだろうけど。

 ただ、そういうことを言っている場合じゃないだろう。


「一ついいですか?」


 僕が声を掛けると、ダナエ姫が口を閉ざして、ブレーメンさんがこっちを向いた。


「オルドネス家の突撃部隊には僕らも入ってるんですか?」

「無論だ。龍殺し」


 ブレーメンさんが当然って顔でうなづく。


「じゃあ言わせていただきます。しかるべき協力を仰いで最善の体制を整えて下さい」

「……なんだと?」

 

 僕がこんな事言うとは思ってなかったんだろうか。あっけにとられたって感じの顔でブレーメンさんが僕等を見る。


「僕等は籐司朗さんの敵を討ちたい。だから突撃部隊に加わるのは構わないですよ。

でも、相手を倒してこそ敵討ちなんですよ。自殺まがいの特攻をする気はないです」


 ガルフブルグの伝統だのオルドネス家の体面だのにつきあわされて不利な戦いを強いられるのは御免だし、それにセリエ達や都笠さんを危険には晒せない。


「あたしも同感ね」


 都笠さんが相槌を打つ。ちょっと勇気が出た。


「僕らはあなたたちの旗下じゃない。全力で当たれる態勢がないならさすがにお断りです。死にに行く気はない」

「貴様、誰に向かって言っている」


 ブレーメンさんが僕を睨みつける。立場の違いを分かっているのか、とその視線が言っていた。

 ただ、身分の違いは分かるけど、僕等にはこの人の言いなりになる義務はない。

 それに言い始めた以上は、ごめんなさい、やっぱり撤回しますってわけにはいかない。それに僕は間違ってないと思うし。

 

「竜殺しとはいえど……」


 睨んでくる目つきは流石に年配の大貴族の貫禄を感じる。

 でもここで目を逸らしてはいけないってことは、いい加減経験で学ばされた。目を逸らすってことは気圧されるってことだ。

 都笠さんが軽くうなづくのが視界の端で見えた。周りに控えている従士たちが小さくざわめくのが聞こえる。

 重い沈黙の中。


「……黙りなよ、叔父さん」


 その空気を破ったのはオルドネス公だった



「なんだと……エミリオ?」


 一瞬、誰が発した言葉か分からなかった。オルドネス公は今までこういう会議にはいても積極的に発言することはなかったからなんだけど。

 ブレーメンさんが驚いたような顔をして、険悪な目でオルドネス公を睨んだ。でも、オルドネス公がひるむ様子もなく睨み返す。今までとは雰囲気が全然違う。


「聞こえなかったか、ブレーメン……少し黙れと言ったんだがね」


 強い口調でそう言って、オルドネス公が僕の方を向いた。

 ブレーメンさんが唖然とした顔をしている。予想外の対応なんだろう。僕としても予想外だ。

 

「龍殺し、カザマスミト。君の言い分には理がある。

僕の名において、バスキア公家、ブルフレーニュ公家への援護を要請することにしよう」


 オルドネス公が静かだけど断固とした口調で言って、周りの従士たちがどよめいた。

 僕等も、ダナエ姫も口を挟める雰囲気じゃない。ブレーメンさんとオルドネス公、二人がにらみ合った。


「血迷ったのか?エミリオ、何を言っているのかわかっているのか?」

「……無論だ、ブレーメン」


 椅子に座ったままのオルドネス公が、ブレーメンさんを見上げたまま威厳のある口調で言い返す。 いつもの子どもっぽい気楽な感じは全くない。


「これは当主の決断だ、お前こそ分かっているのか?」


 当主の決断、という部分に強いアクセントをつけてオルドネス公が言う。ブレーメンさんがひるんだように顔をしかめた。


「だが」

「口を慎め」


 さらに何か言おうとしたブレーメンさんに、ぴしゃりとオルドネス公が言う。

 ブレーメンさんが顔を赤くしたり青くしたりして、そのまま足音高く退出していった



 ブレーメンさんが出て行ってしまった。

 従士たちが顔を見合わせて何かささやき合っているけど、ジェレミー公が指で指図すると何人かが後を追うように出ていく。

 部屋が何とも気まずい雰囲気に包まれた。


「ダナエティア姫。こういうことです。支援をいただきたい」

「無論、喜んで。妾自らやらせていただく」


 オルドネス公が何事もなかったかのようにダナエ姫に言う。

 ダナエ姫が椅子から立ち上がって外に出ていった。ガラス越しにノエルさんと何か話しているのが見える。

 緊張が解けたように、オルドネス公が大きく息を吐いて、ソファに深く座り込んだ。


 どう声を掛けていいものか、都笠さんと顔を見合わせる。ジェレミー公や従士たちもなんというか居心地が悪そうな感じだ。

 僕はよく知らないけど、多分こんな風に積極的に意思表示をするってのは珍しいんだろう。少なくとも僕は見たことが無い。


「お兄さん、お姉さん」


 俯いていたオルドネス公が僕等の方を見て声を掛けてきた。


「あ、うん」

「言ってくれてありがとう」


「……何が?」

「叔父さんにしっかり言ってくれてさ」 


 僕としては好き勝手言いすぎたかと思うくらいだけど……僕の気持ちを察したのかオルドネス公が首を振った。


「4大公家とかかわりのないお兄さん達が言ってくれたからよかったよ。

ダナエティア姫が何を言おうともブレーメン叔父さんは折れなかったよ。むしろ頑なになったと思うし、僕の言う事も聞いてくれたかは分からない」


 そういうものか。まあ役に立ったなら良かったけど。


「ちょっとは当主らしかったかな?」


 オルドネス公が安堵したって感じで微笑む。


「お兄さんたちが戦ってくれるのに僕だけ関係ないって顔をしてるわけにはいかないと思ってさ」

「あんた……いい指揮官になるわよ」


 都笠さんが感心したように言う。

 ともあれ、とりあえずこれで最大戦力を整えることは出来そうなのは良かった。敵討ちに行って返り討ちにされました、なんて結末は遠慮しておきたい。

 

「しかし、頑固なオッサンよね」


 都笠さんがうんざりした口調で言う。これについては正直言って同感だ。


「ああ、ちょっと待って、お兄さん、お姉さん。誤解しないで上げて欲しい。おじさんは決して……そう、無能とかじゃないんだよ」

「というと?」


 オルドネス公の口調がいつもの感じに戻る。

 申し訳ないけど、今や頑固なオッサンという印象しかない。最初は礼儀にうるさいだけかと思ってたし、貴族なら当然とも思ったけど。この状況であれはないだろうと思う


「しきたりを遵守し、礼節に通じている。旗下の家への目配りも効くし、内政も優秀。領地の民からの信頼も得ている。良い貴族の当主なんだよ。ただ……」


 そこでオルドネス公が口ごもった。


「いい当主なんだよ。でも今必要なのは、そういう人じゃないんだよね」


 オルドネス公が感情を交えない口調で淡々と言う。


「でも、大丈夫だよ。叔父さんは大公家の執権として序列は守るさ。心配はしてないよ、僕は」


 オルドネス公が言うけど、あの権幕だと本当に大丈夫なのか、僕としては不安だ。都笠さんも本当か?って表情で僕と顔を見あわせる。


「ジェレミー」

「はっ」


 僕等のことをしり目にオルドネス公がジェレミー公に呼び掛けた。ジェレミー公が姿勢を正す。


「すぐにパレアに伝令。バスキア公家に使いを出して援護を要請すること」

「直ちに」


 ジェレミー公が一瞬硬い表情になったけど、すぐその表情を隠して歩み去って行った



 伝令が行って数日後、渋谷にバスキア公が現れた。10人ほどの従士を連れている。


 会談の場所はQfrontビルの2階の広間になった。当たり前だけどブレーメンさんも居る。

 この間の感情的な雰囲気は全くなくて紋章入りのマントと礼装に身を包んでいる。この辺はさすがにベテランというか、いざ仕事となったらその辺は割り切るってころだろうか。


 久しぶりに見るバスキア公は、前と違ってコートじゃなくて、儀礼的な鎧に身を固めて紋章入りの青いマントを羽織っていた。前線の指揮官の武将って感じだ。

  

「エミリオ・オルドネス公、それに、執権ブレーメン殿。支援の要請は確かに承った。貴殿の勇気ある決断に敬意を払う」

「こちらの要望を受けていただき感謝する、バスキア大公」


 テーブルを挟んで、かしこまった口調でバスキア公が言う。ブレーメンさんが恭しく返礼をした。

 序列を守る貴族、とオルドネス公はブレーメンさんを評していたけど、確かにそうかもしれない。堂々とした立ち居振る舞いでバスキア公に対応している。

 それぞれが椅子に腰かけて、僕等も座った。


「相手が相手だ、全力で支援させてもらう……と言いたいところなんだが」


 挨拶もそこそこにって感じで話を始めたバスキア公が口ごもった。


「なにかあったのか、バスキア大公」

「ソヴェンスキの軍が国境に集結している。師団規模だ。ルノアールの……ルノアール公が外交に失敗した」


 苛立たしげな口調でバスキア公が言う。ブレーメンさんの表情がわずかに曇った。


「戦争になるかね?」


 一瞬動揺した様子があったけど、ブレーメンさんはあくまで落ち着いた口調でそれを感じさせない。


「本格的な会戦になるかはわからないが、警戒を怠れる状態とは言えない」


 バスキア公が淡々とした口調で言う。

 ソヴェンスキって確かガルフブルグの隣国って話だったと思う。それが国境で不穏な動きを見せているってことらしい。

 間が悪いことこの上ない。悪いことは重なるってことだろうか


「いずれにせよ、だ。主力の騎士団はそっちに当てなければならん。その代わり俺の近衛をそちらの旗下に入れる。好きに使ってくれ」


 そういうと、部屋に詰めていたオルドネス公の従士や準騎士がどよめいた。

 バスキア公の後ろに控えているジェラールさんたちは特に表情を変える気配はない。初めからこうするつもりだったってことか。


「……本気かね、バスキア大公」

「ああ」


 ざわついた雰囲気の中。表情を隠していたブレーメンさんも明らかに驚いた感じで、ジェレミー公と視線を交わし合っている。

 最精鋭の側近を相手の家の旗下に入れるってのはたぶん相当に異例なんだろうな。

 オルドネス公の対応への返戻なのかもしれないけど……それだけバスキア公にも危機感があるんだろうということが僕にも分かった。


「ジェラール。しっかり頼むぞ」

「御名を汚すことはありません、我が主よ」


 バスキア公の呼びかけに、後ろに控えていたジェラールさんが頭を下げた。



 会談の大まかなところはまとまって解散になったけど。


「ちょっと待て、竜殺し、それにスズ」


 部屋を出ようとしたところを、バスキア公に呼び止められた。

 相変わらず目力の強い青い瞳が僕らを射抜くようにと言うか、睨むように見ている。


「お前等も戦いに参加するらしいな」

「ええ、そうしないといけない理由があるんで」


「そうか……」


 多分、籐司朗さんのことも聞いているんだろう。それ以上は聞いてこなかった。


「そういえば、随分気前がいいんですね」


 沈黙をまぎらわすように、都笠さんが言う。

 ジェラールさんは話によればバスキア公の最側近で、ガルフブルグでも屈指の剣士だって話だ。

 ダナエ姫の強さを見ればあれに近いってだけで、その実力は想像がつく。あの旧市街の庭での戦いは、おそらく実力の半分も見せていなかったんだろう。


 それを、この突入作戦に貸してくれる、しかもオルドネス公の指揮下に入れる。

 このたとえがいいかどうかは分からないけど、自国の軍隊のエリート特殊部隊を他の国の指揮下に入れるようなものに近いと思う。

 しかも戦争になるかもしれないって時に。


「俺はバスキア家の当主として、国を守る義務がある。それが貴族の役目だ」


 当然って顔で言うけど、これもなかなか出来るものじゃないと思う。


「騎士団が動員できれば、数を揃えて戦うことも選択肢に入ったんだがな……まったくゾヴェンスキの狂信者共が嫌なタイミングで仕掛けてきやがったもんだぜ」


 砕けた口調だけど……声色からかなり深刻な雰囲気は伝わってきた。

 ソヴェンスキって国がどんな国かは分からないけど、かなり緊張が高まっている状況なんだろう。


「こうなった以上、これが最善だ。それに、ヴァンパイア相手なら少数精鋭での切り込みの方がいい」


 自分に言いきかせるようにバスキア公が言う。

 年は聞いたことないけど、多分30半ばくらいかそれより少し上くらいだろう。僕より一回り位上ってくらいだ。それが軍の最高指揮官として他国と相対しているわけで。

 毅然としているけど、その肩にのしかかっている重たい責任が少し見えたような気がした。


「じゃあな。俺はすぐにパレアに戻らなきゃならねぇ。

死ぬなよ、スミト、それにスズ。お前等にはまだまだガルフブルグのために働いてもらわない困るかならな」


 そういってバスキア公が出て行った。




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