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池袋への強襲部隊を編成する。

お待たせしました。

 結局、強襲部隊は僕ら4人とノエルさん、そして探索者ギルドから腕利きの3人が入ることになった。

 8人は車で移動するならこれが限界だってのもあるけど、前のヴァンパイアの征伐の時にも8人編成だったらしい。ゲン担ぎってことかな。


 ギルドからは志願者が何人かいた……人のことは言えないけど、よくこんな危険な話を受けるな。

 アデルさんも志願したけど、却下されたそうだ。これはラティナさんも同様だ。


 強襲部隊の条件は、火力の高さだ。

 アデルさんのバイクを使った戦いや、ラティナさんの手裏剣は強いかもしれないけど。単純な火力と言う意味では僕の魔弾の射手や、司さんの銃、ユーカの炎には及ばない、とそういうことらしい。



 高田馬場駅のロータリーのベンチに腰かけて都笠さんが銃の残弾を確認していた。

 この間の高田馬場駅前の攻防戦で結構撃っていたからだろう。


「いいの?都笠さん」


 結局なし崩しに僕等も参加せざるを得なくなった。

 というより、竜殺しっていう称号は結構インパクトがあるようで、断れる空気ではなかった。


 それに、単純な強さ、という以外に、池袋の道を実際に歩いたことが有るのは僕と都笠さんだけだ。

 戦力というのとは別の意味で、ギルドやジェレミー公とかからすれば行ってもらわないと困るってところだろうけど。


「まあ、そりゃあね、怖くないわけじゃないけどさ」


 そう言って都笠さんがハンドガンをちょっと構えて狙いを定める動作をして、下ろす。


「……この世の中に誰かがやらなければならない事がある時、その誰かになりたいってね」


 そう言って、都笠さんがハンドガンを革鎧の腰に巻いたホルスターにおさめた。

 最近は抜き撃ちがしやすいように、鎧を改造して銃を納められるようにしている。


「へえ……」

「言っておくけど、あたしのオリジナルじゃないわよ、昔そういうことを言った人がいたのよ、それに」


 そう言って、都笠さんが俯く。


「それにさ……ここでやりたくないからって逃げるのもね、ちょっとねぇ」


 まあ確かに、この状況で僕は下りる、というのは気が引けるものはある。

 ただ、今回は相手が相手だ。僕等の力で倒せるんだろうか。


「ユーカ、セリエ、一応聞くけど……」


「置いてっちゃヤダ。一緒に行くから」

「ご主人様のお側にお仕えするのが私の務めです」


 二人からは予想通りな答えが返ってきた。


 防御プロテクション回復ヒーリングを使えるセリエは、パーティの要に近い存在だ。

 ユーカの火力も今や侮れないというか。魔力を消費して魔法をかける僕の魔弾の射手に比べると継戦能力がかなり高い。

 勿論戦力としては居てもらえるとありがたいけど、一緒に来てもらうのは心配でもある。


「あのね、お兄ちゃん……ちょっと怖いのは怖いんだよ。でもね」


 顔に不安が出ていたのか、ユーカが口を開く。


「うん」

「でもね……お兄ちゃんとお姉ちゃんだけ行っちゃう方が……もっと怖いな」


 ユーカの後ろでセリエが頷いている。たしかに、待っていてもらうのはたぶん別の意味で辛いもんだろう。


 それに、どっちかというと、自分の心配をしろって話か。

 僕だってそんな人の心配が出来るようなほどご立派な腕か、といわれると。竜殺しの称号は貰ったけど、自分がそこまで強いとはあんまり思えないしな。



 しばらくして、ノエルさんがロータリーにやってきた。礼装を脱いで、白い革の胴鎧に着替えている。

 手には片方にだけ枝刃がある穂先の槍を持っていた。スロット武器だろう。

 白い刃に蔦のような模様が刻まれている。身長が高いからなのか、槍も長い。


 外套を脱ぐとそのガタイの立派さがよくわかる。鎧の左肩には大きめの肩あてがついていて二つの紋章が染められていた。

 一つはダナエ姫の三本のサーベルの紋章、もう一つは槍の穂先と同じ二股の穂先だ。これがノエルさん、というか聖堂騎士ホーリーオーダーの紋章なのかな。


「まあ、ドンと任せろや。レブナント位ならどうってことねぇ

さすがにヴァンパイアとはやったことはねえがな。ご先祖さんは戦ったらしいんだがよ」

 

 さっきと同じ、豪快な口調で言う。

 そういえばガルフブルグでは一度ヴァンパイアが現れたって話だ。その時にこの人の先祖が戦ったんだろうか。


「なんか弱点とか、そういうのは伝わってないんですか?」

「さあなあ。

一応、俺の家に伝わる本はあるんだがな。ヴァンパイアと戦うなんて考えてなかったからよ。真面目に読んでねえんだ」


 あっけらかんと言われた。この人は……


「傭兵になった時点でこんな風になるなんて思ってなかったからなぁ

人生いろいろってやつだぜ……だがよお、英雄さん」


 そう言って、ノエルさんが少し真面目な顔になった。


「なんです?」

「ヤバくなったら格好つけずに逃げろよ、俺も逃げるからよ。

勝てない相手に特攻するのは単なるバカだぜ。名誉も何も生き延びてナンボさ」


「へぇ……いいこと言うじゃない」


 都笠さんが言う。そういえば、前に都笠さんも同じようなことを言ってたな。


「おっと、分かってくれるのか?」

「ええ、分かるわ」


「それによ、死んでなきゃもう一度リベンジできるしな。無理して死んだら終わりだぜ」

「そうね……貴方の言うとおりだと思う」


「いやー、話せるねぇ。正々堂々としてないってよくお姫様には怒られるんだがよぉ」


 嬉しそうにノエルさんが笑って、また肩を叩こうとするけど、都笠さんがすっと避けた。

 この辺は傭兵時代の経験が言わせるのかもしれない。自衛官とガルフブルグの傭兵、おなじ戦うものとして共通するものはあるのかもな。



 探索者ギルドからは腕利きの二人と、それとフェイリンさんが参加することになった。

 ただ、フェイリンさんは副ギルドマスター姿しか見たことない。


 普段のイメージから魔法使いかなにかかと思っていたけど。

 ロータリーに現れたフェイリンさんは体にぴったりとフィットした革鎧に、下半身は細めのハーフパンツのようなものをはいていた。身軽な戦士って感じだ。

 手には赤く染めた手甲を嵌めていて、脛にも文様が入った赤い脛当てのようなものをつけている。


 いつもは流している長いウェーブがかった髪も今は動きやすく止めていいて、髪から短い鹿の角のような角が見えていた。

 頬と額には染料かなにかで茶色のラインを入れている。そういえば獣人は戦いに挑むときそういう風に化粧する風習があるって話だっけ。


「……フェイリンさん……戦士なんですか?」


 どうみても魔法使いとかそんな感じじゃないけど、フェイリンさんのふだんのほんわかしたイメージと戦っている姿はいまいちマッチしない。あと、スロット武器は持っていなさそうだけど。


 僕の言葉にフェイリンさんがにっこり微笑んで、突然姿が視界から消えた。

 頭の上を何かが通り過ぎて髪が浮いて、同時に後ろから金属がぶつかり合う硬い音がする。振り返ろうとするより早く、もう一度金属音。

 後ろを見ると、僕の後ろに立っていた看板の鉄柱が、丁度僕の頭の少し上のところでひしゃげて斜めになっていた。


 前を向き直ると、フェイリンさんがさっきと同じようににっこり笑って立っている。

 スロット武器を出してなかったから全く見えなかったけど……何だったんだ?


「……何が起きたの?」

「飛び蹴りで風間君の後ろの鉄柱に一蹴り、そのあと逆立ちした状態で後ろ回し蹴り

……離れてみてたからどうにか見えたわ。カポエラみたいね」


 都笠さんが感心したように言って拍手するように手を叩く。


「一応副ギルドマスターですからねぇ、スミトさんほどじゃないですけど弱くはないですよぉ」

「鹿や山羊の獣人は独自の格闘術を承継しています。

間合いは武器には及びませんが、達人になれば武器を持った相手も圧倒できます」


 フェイリンさんが微笑んで、セリエが冷静な口調で教えてくれた。先に言ってほしい。


「すみません」

「他にも奥の手はありますよぉ、足手まといにはなりませんからぁ、ご心配なく」


 いつもどおりのほんわかした笑い顔がちょっと怖かった。

 ていうか、この状況でも落ち着いた感じが歴戦の経歴を醸し出しているな。



 最後の二人がこっちに歩み寄ってきた。探索者だ。何度か、渋谷でも見たことがある気がする。

 アーロンさんより少し年輩のベテランの男性二人組だ。


「やあ、若き竜殺しよ。会ったことはあるが名乗るのは初めてだな。

私はオルゾン・カヴェフラ・シャトレ。こいつはペルサック・ヴォルティエ・ジャーヴェールだ」

「初めまして、カザマスミトです」


 親し気に言って握手してくれる。

 たしか、戦士と魔法剣士の組み合わせだ。

 

 オルゾンさんは使い込んだって感じの金属の補強を所々に入れた革鎧に茶色の外套を羽織っている。手にしているのは、薙刀を思わせるような長柄の武器だ。

 短く切った金髪と鋭い目つきで顔は似ていないけど……がっしりした体格と身に纏う雰囲気がアーロンさんに似ているきがする。


 ペルサックさんは腰位までの短めのマントを羽織っていて、スロット武器らしきサーベルを持っていた。

 紺色っぽい長めの黒髪。なんか剣士と言うより穏やかそうな顔立ちで眼鏡が似合う学者風って感じだな。


「しかし……こんな危険な仕事を良く受けますね」

「なにせ、報酬が破格だからな。やる価値はある。

さすがオルドネス大公家の依頼だ。桁が違うよ」


 オルゾンさんがニヤリと不敵に笑う。

 報酬については正確な処は知らないけど、セリエとユーカの買取値を超える額らしい。数千万円レベルか。

 命を懸ける代償として適正かはわからないけど。


「むしろ、今回は君達が居るから十分に助かるよ。

ある程度の道案内は期待してもいいんだろう?」

「遺跡の攻略とかをする時は、敵も地理も情報がないのが当たり前ですからねぇ」


 オルゾンさんとフェイリンさんが言う。

 池袋の地理にそこまで詳しいわけじゃないけど、まったく知らないわけじゃない。


「まあ、なんとか」

「完全に未知の場所を探索しつつ進むのは大変だからな。それに比べれば、案内役がいるのは恵まれているさ」


 まあそうかもしれない。


「しっかり稼いで、不死の討伐者の名を得て……いい機会だからこれで引退もいいかもな」


 しみじみとした口調で、ペルサックさんが言う。

 改めて顔を見ると、結構年は行っているのかもしれない。


 探索者の年齢は結構まちまちで、初老って人くらいの年の人から、ユーカより少し上ってくらいの子供までいる。

 でも、探索者は魔獣と戦うシビアな仕事で、いつまでも続けられるものじゃないことくらいは分かる、というか当たり前だ。実際の所、僕くらいの年齢かそれより少し低いくらいの人が多い。30越えならベテランって感じだ。

 ある程度の年になるまでに一稼ぎして引退、その後はほかの仕事に転身っても人生の進路なんだろう。


 腕利きならフェイリンさんみたいにギルドの仕事や、探索者の教官とかもできるだろうし。

 街を守る衛兵部隊見たいのがあればそこの隊長格とかに迎えられるとかもあるかもしれない。


「しかし、もっと人数を掛けるとかできないんですかね」


 今回の8人が多いのか少ないのか分からないけど、こういう時は少数精鋭での強襲がガルフブルグのセオリーらしい。

 ただ、頭数が増えればそれだけ戦力も増えると思うんだけど。


「まあそれは尤もだと思うんですねぇ」


 フェイリンさんが


「ですが……スミトさん、傷ついた仲間を見捨てられますかぁ?」


 フェイリンさんが真剣な顔で言う。思わず言葉に詰まった。


「人数を揃えることは悪いことではないが、力不足の者が入ると足手まといになるかもしれん」

「そういうときに傷ついたものを切り捨てれる非情さがあればいいですがぁ……皆、なかなかそうはいかないものですからねぇ」


 確かに。人間は駒じゃないし、僕だってその場になって、誰かを見捨てて行けるか、といわれると……迷わないとは絶対に言えない。

 指揮官は時に非情であるべき、と言うのは理屈としては分かるし、映画とかでもよくきいたセリフではあるけど。


 ただ、実際に自分で直面したら、非情にはなり切れないだろう。でも、其の迷いがパーティ全体の運命を左右することも十分ありえる。

 少数精鋭による強襲、というガルフブルグのセオリーにも理由はあるってことか。

あと2~3話描きます。

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