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高田馬場駅前、防衛戦。

出勤前にひっそり更新していきます。

 山の手線の高架の下の丸いトンネルの向こうから黄色いオーラを纏ったレブナントがこちらに歩いてくる。1体だ。

 高架の上の線路からも2体が降りてくるのが見えた。


 切りかかってくる一体を切り伏せる。

 都笠さんが高架の上から降りてきたレブナントの脚を枴で薙ぎ払って転ばせた。


「風戸君!」

「了解」

 

 倒れたレブナントの頭に銃剣を突き刺すと、黄色い光が消えて、そのまま遺骸が煙のように溶けた。

 都笠さんは、銃を控えて拐を使っている。この数相手に撃ちまくったらあっという間に弾切れだろうから仕方ない。

  

 つい数日前に逃げてきた道、コンビニ前の学習院下の交差点の防衛ラインが僕等の持ち場になった。

 この間逃げてきた線路沿いの道からは絶え間なくレブナントが歩み出てくる。大軍、というのはどのくらいなのかと思ったけど……予想をはるかに超える数だった。


「えいっ!」


 気合の声を上げたユーカのフランベルジュが路地から出てきたレブナントをまとめて薙ぎ払う。

 こうしてみると、こういう多数の敵を相手取って戦う分にはユーカが一番頼れる。身長より長い剣を振り回すたびに夜の闇を照らすように赤い炎が噴き出し、レブナントを両断して焼き尽くす。

 炎を浴びせるだけではなかなか死なないレブナントも、剣で切られて追撃で焼かれると流石にそのまま崩れ去っていた。


 線路の上にわだかまっていた黄色い光が消えて、暗闇に戻った。高架の上のレブナントはようやく全滅したらしい。

 一息ついてスマホの時計を見る。もう9時くらい。もう日は完全に落ちて、暗い夜空には探索者の一人が出してくれた光の玉が輝いている。


 普段なら夜の戦いは避けたいところなんだけど。レブナントはオーラのような黄色の光を纏っているから、夜でも相手がどこにいるのか分かるのは有り難い。

 トンネルの向こうの光も消えた。これでようやく打ち止めだろうか。 


「……どれだけ倒した?」


 防御プロテクションの蒼いオーラを纏った都笠さんが聞いてくる。

 流石に息が荒い。頭の中で数を数えて、数えるのをやめた


「……お前は今までに食べたパンの数を……」

「そういう冗談は今は良いから」


 都笠さんが疲れた口調で言う。


「まじめな話をすると20体から先は覚えてない」


 多分みんな合わせて100体近くは倒してるような気がする。

 ただ、レブナントは数は多いし、かなり頑丈で厄介ではあるけど、敵というかこちらを認識して剣を振りまわしてはくるだけで、連携して動くことはないのは助かった。


 うんざりするくらいの数だったけど。救いなのは、切り倒したら灰の様に消えてくれることだ。

 これで残骸がのこるようだと足の踏み場もなくなりそうだし、そこら中に死体が転がってます、なんてことになったら途中で吐いてしまう気がする。


「お兄ちゃん、こっちはもういないみたいだよ」


 ユーカが言う。

 ユーカの周りに倒れたレブナントの遺骸が崩れて消えていって、コンクリの表面で赤い炎が瞬く。

 路地の方にもあの黄色い光は見えなくなっていた。改めて見上げるけど、高架の上にも姿は見えない。


 遠くの方から剣劇の音と魔法の炸裂音が聞こえてくる、まだ全体としては終わってないけど、こっちに来ていた群れは大体仕留めたらしい。ようやく一区切りか。


「みんな大丈夫?」

「はい、なんとか」


 僕達と一緒に戦ってくれたのは探索者ギルドのメンバー4人が応じる。

 防御プロテクションが切れて傷を負っている人もいるけど犠牲は出なかったらしい。それぞれ、疲れた顔で壁に寄りかかったり、剣を杖にして立っている。とりあえず無事で良かった。


 セリエも疲れた顔をしてコンビニのガラス窓に体を預けている。

 探索者4人のうち、防御プロテクションを使えるのは1人だけでセリエと合わせて二人。その二人で6人に防御プロテクションを掛けつつ攻撃魔法で支援してくれたのだから。


 しかし、普段当たり前のようにかけてもらってるからありがたみが薄れてる感があるけど、防御プロテクションを使える術者は決して多くない。

 使い手が身近にいるってのは有り難いな。


 あと、こうしてみると、僕等が塔の廃墟の最大戦力、と言われた理由が分かった。

 アーロンさんやリチャードを見慣れてると感覚がマヒするけど、一般の探索者はスロット武器も魔法もそこまで強力じゃない。たぶんレブナントも7割がた僕等が倒していると思う。


「とりあえず、一休みを……」


 と言っているところで、ポケットに入れておいた通信機が呼び出し音を鳴らした。

 都笠さんがうんざりした顔で顔を伏せる。応答したくないのが本音だけど……そういうわけにはいかないか。


「はい、こちらスミト」

『竜殺し殿!』


 通信機から声が聞こえる。


『西の防衛線が崩れました。

援護を!タカダノババまでお戻りください!』


 ……人使いが荒いな、本当に。

 勘弁してくれ、と言いたいところだったけど。切羽詰まった声から、ただならない状況であることが伝わってきた……行かないわけにはいかないか。


「悪いんだけど……ここの防衛は任せていいですか?」

「はい、竜殺し殿」


 探索者のうち、一番年配の30歳くらいのベテラン剣士風な男が答えてくれる。

 もう一度路地を見るけど、あの黄色い光は見えない。夜の戦いは人間には不利なんだけど、あれのお陰で奇襲を受けないのは不幸中の幸いかもしれないな。


「都笠さん、セリエ、ユーカ、大丈夫かな?」


「まあ仕方ないわね」

「あたしは大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 都笠さんとユーカが返事をして、セリエが疲れた顔でうなづく。

 本当は休んでいてほしいけど、今はセリエに戦列を離れられるわけにはいかない。


「すみません、気力回復にポーションか何か持ってます?」


 そういうと、探索者の一人が腰に下げていたポーションを渡してくれた


「ごめん、セリエ。もう少し頼むよ」

 

 顔色が悪いセリエがポーションの封を切って口をつける。


 ポーションにせよ回復魔法にせよ、確かに傷はいえるし気力は戻る。これは僕も経験している。

 ただ、痛みが消えるわけじゃないし、疲労感は残るから、ゲームみたいにアイテムで完全回復、元気一杯、という風にはならない。

 どっちかというと、薬を飲んで一時的にドーピングしているような感覚だ。


 ポーションを飲み干したセリエが、大きく息を吐いて気合を入れるようにブラシで地面を突く。


「ご心配をおかけしました、ご主人様、行きましょう」

「ありがとう……管理者アドミニストレーター起動オン動力復旧イグニッション


 コンビニの駐車場に停まっていた軽のワゴンを動かす。まだこの夜は終わらないらしい。



 高田馬場の駅前はすでに乱戦になっていた。

 ロータリーに10体ほどのレブナントが居て探索者たちが戦っている。


 車から飛びおりて、とりあえずこっちに向かってきた一体を切り倒す。次はどうするか。周りを見まわしたところで。


「ご主人様!危ない」


 セリエの警告の声がかかった。振り向くと、黄色く光るレブナントの体が垣根を越えて、こっちに飛んできているのが目に飛び込んでくる。


「うわっ!」


 慌てて飛び退ると、レブナントが頭からコンクリートに叩きつけられた。鈍い音がしてレブナントが動かなくなる。打ち所が悪かったのか。


 レブナントが飛んでくるってどういうことだ、と思ったけど。垣根の向こうにはアデルさんがいた。バイクにまたがって、片手には細いロングソードを持っている。

 その周りを囲むように4体のレブナントが剣を構えていた。


 援護しようと近寄ろうとした瞬間、アクセル音が甲高く響いた。正面から切りかかっていったレブナントに、弾かれた様にバイクが突っ込む。鈍い衝突音が響いて、バイクにはねられたレブナントの体が飛んで、鉄柱に叩きつけられた。

 何かが砕ける嫌な音がしてレブナントが動かなくなる。


「下がれ、雑魚どもが!」  


 3体のレブナントがアデルさんの周りを囲んで剣を振り上げるけど。今度はその場で後輪をスライドさせ、円を描くようにターンした。

 白煙を立てて回転するタイヤがレブナントの足を払うようにしてなぎ倒す。足にダメージを負ったレブナントが体勢を崩した。

 倒れたレブナントの頭をバイクの重いタイヤが容赦なく踏みつぶす。立ち上がろうとするレブナントの首を剣で一刀のもとに切り飛ばした。


「遅いぞ!スミト!」


 こっちに気付いたアデルさんが叫ぶ。

 しかし……バイクに乗る、と聞いたときは、移動とか伝令とかに使うと思ったんだけど、こんな風に乗るのか。あっという間に5体のレブナントを倒してしまった。

 鉄騎の乗り手、なんて自称してたけど、これなら名前負けしてないな。


「こっちはなんとかなる。向こうを止めてくれ!」


 アデルさんが剣で高架下を指す。

 見ると、高架下のからぞろぞろとレブナントが迫ってきていた。西側の防衛ラインが崩れたってことは、高架の向こう側というか線路の向こう側からレブナントが来ているってことか。



 高架下の待機所はめちゃくちゃになっていた。

 机や地図、コアクリスタルのランプがそこら中に散らかっていて、何人かの探索者やギルドの係官らしき人達が血を流して倒れている。


「くそっ!」

 

 6体のレブナントがこっちを見て剣を構えてよろめくように向かってくる。

 高架の向こうでは従士たちが、群がるレブナント相手に戦っているのが見えた。


「急がないと」

「弾がもったいないんだけどね……解放オープン!」


 都笠さんが枴を仕舞ってショットガンを抜く。

 僕の銃剣やユーカのフランベルジュと違って都笠さんの枴はレブナントには少し威力不足だ。


「食らいなさい!」


 都笠さんが剣を振りあげたレブナントの懐に飛び込む。甲高い銃声が響いて、レブナントの頭が吹き飛んだ。

 映画でよく見るようにバレルの下のポンプを引いて次の一体の胸に一発撃ちこむ。動きが止まったところをもう一発。

 レブナントが吹っ飛んで地面に倒れる。流石に至近距離からの散弾二発は耐えられなかったらしい。そのまま動かなくなった。


「ユーカ、炎は控えめにしてね」

「うん、お兄ちゃん!」


 倒れている人たちが死んでいるとは限らない。ここで大規模に炎を使って焼き尽くすなんてことはできない。

 ユーカのフランベルジュの切っ先がレブナントの胸を貫いて、同時に炎が吹き上がった。火に包まれたレブナントが崩れ去ると炎が消える。

 

「どう?」

「いいよ!」


 こうしてみると本当に炎の使い方が上手くなったというか。成長を感じるな。


 レブナントを蹴散らして効果を抜けると、従士たちが円陣を組んで戦っていた。

 円陣を組んでいるけど多勢に無勢だ。円陣に群がるレブナントを後ろから銃剣で突き刺す。黄色い光が消えてレブナントが糸の切れた人形のように倒れた。


「みんな、大丈夫?」

「援護に来たわよ!!」


 都笠さんが大声で叫ぶ。


「竜殺し殿と……|雷鳴の弩、スズ殿だ」


 都笠さんの声が聞こえたらしい。というか、鼓舞するように大声を出したんだろう。

 従士たちが歓声を上げる。円陣のなかにはけがをした従士の姿が見えた。


「怪我人は下がって!」


 銃剣でレブナントを突き倒す。ユーカの炎がレブナントの群れの真ん中で燃え上がった。

 従士たちが僕等と入れ替わるように怪我人を引きずっていく。


 通りの向こうの方から、新手のレブナントの群れの黄色い光が迫ってくるのが見えた。

 ゾンビ映画というか、突っ込んでくるのが剣を振り上げているレブナントなあたりはファンタジー風ゾンビ映画って感じだ。


 あの数に勢いのまま突っ込まれるのは不味い。少しでも数を減らさないと。

 銃を構えて狙いをつける。


「【新たな魔弾と引き換えに!狩りの魔王ザミュエル!彼の者を生贄に捧げる!】」


 炸裂弾をイメージする。少しでも沢山を巻き込めるように。

 

「焼き尽くせ!魔弾の射手デア・フライシュッツ!」


 引き金を引く。赤い光弾が飛んで正面のレブナントに着弾した。

 爆音が響いて両脇のビルのガラスが砕け、狙い通りに道のわきに止まっていた車が誘爆するように赤い炎を噴き上げる。爆発で引き裂かれたレブナントの体が空中に散った。

 

 恐れをなした、ってわけではないんだろうけど、レブナントの脚が少し鈍った。

 今ので多少は数を減らせたけど……光の加減から見るにまだ相当の数がいそうだ。


「隊列を整えよ!」


 後ろから数人の従士たちが駆けてくる。


「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】!」

「【雨の如く降る矢、戦列の槍衾、如何なる災いであろうとも、我が友を傷つけること能わず。勇者たちに加護を】!」


 揃いの衣装に身を包んだ従士たちが、雑居ビルに挟まれた二車線道路に横隊を敷く。

 けがをしている人も多いけど、士気は高そうだ。セリエともう一人の呪文が聞こえて青い防御プロテクションの光が皆を包む。


「ともに戦えて光栄です!竜殺し殿、スズ殿」

「そのお言葉はありがたいけど……生き延びてから聞くよ」


 それぞれ違ったスロット武器を構える。そして、レブナントが突っ込んできた。



 途中からはアデルさんも加わってレブナントを切り続け、ようやく戦いが終わったのはもう11時近かった。

 周りを見渡してもあのまがまがしい黄色いオーラはもう見えない……どうにかしのぎ切ったようだけど。


 ……ただ、振り返ってみると、高田馬場に作った待機所はほぼ壊滅していた。高架の間に張られた天幕も落ちて無残な有様だ。


 従士たちにもかなりの怪我人が出てしまった。

 西側の防衛ラインを破られた、ということは、そっちで戦っていた探索者や従士たちもどうなったか分からない。

 防衛に徹する、どころの話じゃ無くなってきている気がする。




 続きはプロットは纏まってます。ようやく体調も戻ってきました。描き始めてますのでしばらくお待ちください。

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