たくさんの人々から
魔王様の執務室からキース様とアリスと共に退出しまして、昨日の円卓の部屋にやってきました。昨日も思ったけど、ここ食事をとるための部屋じゃないよね。どうみても会議室とかそんな感じだよね?世界地図のようなものが貼ってあるし。
で、昨日と同じ席に座ることになりまして目の前には本の山。分厚い本が山と積んである。本を読むことは嫌いじゃないけど、これは…ちょっと。
「ライラ殿は文字は読めますか?」
「はい、教会で習いました」
「それなら予定よりも早く進みそうですね」
「が、頑張ります」
これを、全部…先は長いな…
というか、表紙を見た感じ文字も同じだし文化的な違いはそんなにないのではないかと思ったんだけど。うん、歴史書とか地図があるのはわかるんだけどね?なんで料理本とか建築技法の本まであるのかな。料理本は完全に昨日のが原因ですよねーもう誤解は解けたから大丈夫ですよー。建築技法はあれかな?学んでお城の修繕のスペシャリストになればいいのかな??
「ではまず一般常識を身に着けるところから始めましょうか」
「ハイ」
取り出されたのは数冊の絵本。表紙絵が色鮮やかでとても高価な代物であることがわかる。そして内容は……どうやら魔の者の中でポピュラーなお伽噺らしい。勇者を魔王が打ち破る話やドラゴンの決闘の話、魔の者と魔物の違い?のような話などなど初めて読むものからどこかで読んだことがあるようなものまでいろいろある。なかなか面白い。
読み進めていくうちに少しずつ本の内容は難しくなり、事実と創作が半々といった内容になってきた。
魔の者から見た人の様子は魔力が少ない事から生活水準が低く不便な生活をしている生き物で、個々の武力は低いものの魔物や魔の者に滅ぼされることがなかったことから戦力に優れた生き物とされているようだ。
しかし、魔の者には集団戦法でも多くの場合勝てず、まれに現れる人の中でも魔の者に匹敵する勇者や賢者と呼ばれる能力者によって魔の者や魔王は危機にさらされる事がある、と。
多くの場合人に倒される魔王は圧政を働いていることが多く、魔の者からしてもざまあみろといった感情が本から読み取れた。
それから、魔物と魔の者について人は混同しがちだけど理性のある魔物が魔の者に変化するということで彼らからすると全くの別ものらしい。ふむ。そして魔の者のが超強いと。んで魔の者の中でも人型に変われるようになったものを魔人と呼ぶんですね。てことは彼らは魔人って言うのが正しいってことね。まぁ人間は理性のある魔物とそうでない魔物の見分けがつかず人型の者のみを魔の者と指しているってことみたいだからどっちでもいいかな。
「なるほど面白かったです」
「ライラ殿は読むのが早いですね」
「ご主人様?人の子の事は深く知らないのですが皆そのように本を読むことが出来るのですか?」
うーん?キース様も私に文字が読めるのかと聞いていたなそういえば。
私が暮らす村ではもれなく全員文字の読み書きができるけど他の村だとそうでもないって街に出た時に聞いたっけ?
「私の村では皆出来るけど、たぶん他の村ではそうでもないみたい」
「そうなのですか、ご主人様のいらっしゃった所だけなのですね」
「えぇ、思わぬところで役に立ったわ」
まさか地図が読めること以外に役立つ日が来るとは思わなかったよね。
「ライラ殿の村には学校が?」
「いえ、街に出なければ学校はありません」
「では親御さんから教わるのですか?」
「両親もそうですが、教会でも教えてもらえます」
「そうでしたか」
教会には書庫もあって村の人や旅の人が自由に読めるようになっていた。行商の人達が言うにはそれも珍しいらしい。町では売れないような変な本もここでは買ってもらえるからありがたいとか言っていたっけ。
それからまた少し本を読み進め、今日はこのあたりでいいでしょう、とお開きになりまして。私とアリスは対の間にもどることとなりました。ドレス動きづらい。お腹苦しい。不便すぎぃ。と心の中で叫んでいるうちにお昼の時間となりまして、ギュウっと絞められているウエストに美味しいご飯を押し込めた。やっぱり魔王城のご飯美味しい。
「ご主人様、昼食も終わりましたし良ければこれから作法を学ばれますか?」
「おねがいします!」
お腹も満たされご機嫌な今なら行儀作法もマスターできそう。
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気のせいでした。
ふくらはぎと爪先が攣るぅ………。
「ご主人様!とってもお上手です!右手はもう少し抑えて足運びを滑らかに…素敵です!流石ですご主人様!!!」
飴と鞭が上手いというより、しょっぱなっから褒められっぱなしで進むこと数時間。
も、もう口角が引くついてきた……
キラキラとした笑顔で私の一挙手一動に反応を返してくれるものだから、私も調子づいて頑張っちゃいますよねー。だって良いとこ見せたいんだもの!!!アリスに!!!!
で、アリスの指導は対話の時の動作からはじまり、相手の身分と自分の立場で変わる所作について、その略式や一目置かれるしぐさまでやったところでダンスレッスンに移行した。ぐぅ頭がパンクしそう。むしろ初めの方の思い出せなくなってきた……
「ご主人様!美しいです!!今日はこの辺りで終わりにしてお茶にしましょう」
「え、えぇ。そうしようか」
ぜーぜーなりそうになる呼吸を意地で抑えつつ返事をする。
とりあえず、ドレス脱ぎたいっす。
「ご主人様は御聡明で呑み込みがとてもお早いですから、明日からも繰り返し行えばどんな場面でもご主人様の完璧で美しい所作がたくさんの人の知るところとなりますね!!」
「ありがとう、頑張るわ」
アリスさん、体育会系ですね。