たくさんの愛情を
おはようございます!
ふわっふわの布団に包まれ目を覚ましまして、一瞬自分は死んだのかと錯覚するほどの心地良いお布団でした。快眠!
いや一応ね、昨日の事が夢だったんじゃないかって考えはしたけどね。柔らかなベッドや香ってくるパンのいい匂いが覚醒する程感じられて目が覚めきるころにはそんな考えは消えたよね。現実だったわ。ここは魔王城でした。
「ご主人様おはようございます」
「おはようアリス、美味しそう」
体を起こせば朝食の準備を終え、挨拶と共に頭を下げるアリスがいた。今日も可愛いね。
ベッド脇まで駆け寄って来てくれたよ可愛い。よしよししておこう。
テーブルにつけば向かいの席にアリスが座って朝ごはんの時間。果物の種類も豊富だよ凄い。季節のものじゃない果物もあるところが贅沢。木苺をはじめとしたベリー類が特に多いのは旬だからなのかあの時食べていたから好物だと思われているのかどっちなんだろう。好きだけど。パン美味しいし朝からこんなにしっかりとしたものを食べたことは今まであったかな?とりあえず、魔王城の食事最高。
で、朝食を終えて膨れたお腹を気合で引っ込めつつアリスに着飾ってもらっています。
高そうなお洋服ですねーこれドレスって言うんじゃないですかー?着たことないよこんなキラキラした服。若草色が眩しい。アクセサリーなんて必要ないくらいいたるところに綺麗な石がついてるし。これ宝石だよね?このドレス一着でいくらぐらいするんだろう。少なくとも家の一軒は建ちそう。まじか、私いま家を着てるのね…?そして何でこんなにも私の体形にぴったりフィットなんだろう。え、いつ作ったの?袖の長さから丈もウエストもバストもぴったり。
「アリス、朝からお裁縫してくれたの?」
「いいえこのドレスはご主人様のために仕立てられたみたいですね」
「……そっか」
本当にいつ私のスリーサイズを測ったんですか魔王様???このドレスの他にもたくさんあった洋服たちはもしかしなくても全部私のサイズなんですか?どういうことですか???
動揺が伝わっていたのか着替え終わり鏡台の前に座った私の頭をアリスが軽く撫でてくれました。本当に良い子。
そのまま髪を綺麗に結い上げながら花飾りが刺されていくのを感心しつつ見ているうちにセットは終わったらしい。
「ご主人様、目を閉じていてください」
お化粧もしてくれるのね。おとなしくじっとしていることにする。
「もう目を開けて大丈夫です、綺麗ですご主人様」
随分と綺麗にしてもらった。鏡の中の自分の顔に驚く。それから鏡越しに見えたアリスの嬉しさが溢れたように微笑む顔が強く印象に残って、私まで嬉しくなった。
「ありがとう、アリス」
心を込めて微笑めば、アリスから伝わる‶嬉しい‶も増して二人で幸せな気持ちになった。
全身鏡の前まで背中を押されるまま進めば、鏡の中に村娘だった私はいない。この部屋やお城から浮いていた村娘が、お姫様のように変身していた。まぁ私はお姫様なんてガラじゃないけどね!くるくると回ってみればふわりと広がるスカートと縫い付けられた宝石が輝いて綺麗。村娘には勿体ない洋服だなぁ。
「ご主人様、魔王に見せに行かれますか?」
「魔王様に?うん、行こうか」
少々お待ちを、と言い置いて小さな鐘の音と共に空気に溶けるように消えたアリスに驚いている間に、元いた場所にふわりと鐘の音と共に降りてきた。早かったね。淡く光る姿はお伽噺の中の妖精さんみたいだ。アリスは妖精さんだから物語も嘘ばかりじゃないんだね。
「執務室で待っているとのことです」
「昨日の部屋ね。行こう?」
「はい、ご主人様。あの…魔王は少々言葉が足りない説明が多いですからわからない事があったら尋ねてみるといいかと思います」
「魔王様に?わかった。そうしてみるね」
「はい!」
二人で部屋を出て、執務室へと向かう。魔王様に質問ね、覚えておこうかな。
ところでこのお城は本当に静かだよね。魔王様とキース様以外に誰も見ていないのだけど。どこも綺麗だし、ご飯も手がかかっているし働いている方がいないわけないよね?まさか幽霊がやってるのかな?だから私にはその姿が見えていないとか?いや、今はまだ朝だし夜の間に掃除をしているのかも。……ってことは夜、部屋から出たら幽霊と遭遇する……?夜は早く寝よっと。
なんて考えている間に執務室についたみたいだわ、うっかり。扉を叩けばキース様が開けてくださった。
「おはようございますキース様」
「おはようございますライラ殿お美しいですね」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
挨拶を交わし、部屋へと入れば魔王様は仕事の手を止めて待ってくれていた。気持ち早足になりながら、魔王様の向かいまで進む。今日も眩しいくらいの美しい顔ですね!
「おはようございます魔王様、素敵なお洋服をありがとうございます」
「うむ………おはよう」
じっと私と目を合わせた後、ドレスに一瞬視線を向け、また私の目を見てから僅かに頷きました。良く分からないけどどうやら満足そうなのでお気に召して頂けたのだろう。
「魔王様、ライラ殿に伝えることがありますよね?」
「む……?…とても似合っている」
「あ、ありがとうございます」
褒めてもらいました。着飾らせてくれたアリスを振り返れば、なぜか彼女が胸を張っている。声には出ていないけど顔に当たり前だ!と書いてあるように見えたのは気のせいだよね。気にしないことにしよう。魔王様に向き直れば、なぜか魔王様もさっきまでよりも満足げだ。うーん?良く分からない方だ。
「正解ですが!!違います!要件!!!」
キース様も賑やかなことで。お二人は仲良しですね~
で、要件?着飾らせた理由かな。
「キースから学べ」
「………?はい」
良く分からないからキース様をみる。何か無音でじたばたとジェスチャーをしてらっしゃった。見なかったことにしよう。魔王様に視線を戻せば…キース様のジェスチャーが全く伝わってないみたいだねこれは。首を傾げているし。えーっと、ドレスに着替えさせて学ばせたい事でしょ?ってことはマナーとか?聞いてみようか。お二人は全く意思疎通ができてないみたいだし。アリスは頷いてるし。
「あの、魔王様?」
「なんだ」
「行儀作法を学べばいいのですか?」
「学びたいのか?」
おっと、これは違ったみたいだね。
「学ばせていただけるなら」
「ではそれはそこの精霊に学ぶと良い」
「ご主人様!おまかせください」
アリスの笑顔が輝いてるね。うん頑張ります。よろしくおねがいします。
「作法でないならキース様には何を学べば良いのですか?」
「国と文化についてだ」
「あ…了解しました」
昨日の食事に対する偏見が結構ショックだったっぽい。そうだよねー偏見良くないよねー。
キース様とのお勉強にも励むこととします。いや、まさかそんなに魔王様がショックを受けていたなんてね。