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きだてのよい

魔王城というのはびっくりするほど美しい見た目をしているんだね。

黒い外壁はその古さと相まって重厚な趣を醸し出していた。

降りてきたバルコニーも見たことのない花が活けられていたし、そのまま投げ込まれた部屋も暗くなってきた外とは対照的に明々と明かりが灯されている。

蝋燭だって高価だし油はもっと高い。

でもここの明かりはそれらよりさらに明るい。

おそらく、魔源灯だ本物はじめてみた。


何がすごいって転がっている床が柔らかい。

たぶん私のベッドより柔らかいし良い布だ。


「………いつまでそこに転がっている?」


あぁ忘れていた。

私がポイされたのが牢とかじゃない以上ここには誰かがいるわな。

降ろされた時のまま地面に突っ伏している場合じゃなかったわ。

別に床が気持ちよかったとかそんなわけじゃない。

断じて違うぞ。


私が嫌なことは先延ばしにする派なだけだ。


声をかけられた以上死んだふりもばれてるみたいだし、さっさと起き上がりますかね。


のっそりと立ち上がり体についた埃を掃う。

落ち着いているように見える?

一周回って恐怖なんてものは吹っ飛んだよ。


「お前は随分と豪胆なのだな」


恐怖心は一回目の気絶で使い切ったからね。

あと気楽にいないと今すぐ足から力が抜けそうなんですよ。


「……お褒めに預かり光栄です魔の者よ」

スカートの裾をつまんで礼をする。


「頭を上げよ。我は第二百七十代魔王カイル・アドミス…お前の名は?」


しかもただの魔の者じゃなくて魔王様だった。この大陸の、いやこの世界の最高権力者だったよ。

礼の姿勢を解いて魔王様の顔を見ることになった私はあまりの美人具合に悲しくなりましたとも、格の違いを見せつけられたね!!心の声は表に出さないけど。魔の者は異形をしていると聞いていたのに魔王様の見目は人と変わらない。目が赤いのは人と違うところかな。あととがった耳と浅黒い肌も。で、名前を尋ねられたんだったか。



「はい私はライラと申します、庶民なので名乗る家名はありません」


魔の者も人と同じく家名があるなら貴族なのかね?まぁ魔の者のお家事情なんて人の貴族以上に知らないから魔王様の家名にもぴんと来ないのだけどね。

もう一つ言うなら、庶民だから多少の無礼は許してねっと言外に伝わればいいなーとか思ったり。


「ライラ…か。我の城へようこそ歓迎しよう」


終始難しい顔をしておいて歓迎する、ですか。貴方様の胃袋にってことですかね?美形の無表情が怖いっていうのは本当のことだったのね。とりあえず一礼を返し次の言葉を待つ。私の命運やいかに。


「……」


沈黙。

ゆっくり20数えても余裕があるくらいすぎたけど、その間魔王様と無言で見つめ合うことになってしまった。

美人光線で眼球溶けるかと思った。


無言の室内に居心地が悪くなることしばらく。

はじめと表情の変わらない魔王様がわずかに首を傾げた。


え、首を傾げたいのは私なのですけど。

なんですかその何か用かみたいな目は。

つられて私も同じ方向へ首を傾げてしまったじゃないですか。


「…なんだ?腹が空いたのか?」

「ぇ…いえ、特にはハイ大丈夫です」


お腹が空いたのは貴方様じゃないんですか?え、私食べられるんじゃないの?

無表情のまま傾げた首を元に戻した魔王様の目がじゃあ何だと言っているような気がするけど、何だは私の方であってですね?


「では何だ?好きに過ごせ」


好きに過ごせって何ですかね??!??

どうせ逃げられないし放し飼いにするってことかな。魔王様は書類仕事をし始めてしまったし。この部屋には大きな机と柔らかそうな布の長椅子(ソファーというらしい)本棚と装飾品が少しあるだけだ。本でも読んでろってこと?


「……部屋に案内させる」


私の家くらい大きな執務室?のようなこの部屋をきょろきょろと眺めていたら声をかけられた。立ち上がった場所から動かずにいたからかな。


魔王様が机に置かれた小さなガラスの鐘をふるとチリチリと綺麗な音が鳴った。それからすぐに部屋の扉が叩かれ、入ってきたのはこれまた美形な男の人だった。


「お呼びですか魔王様……?!この者は?」


礼の姿勢から顔を上げて視界に入った私に驚いているらしい。半歩片足を引いて凝視された。


「ライラだ対の間に案内しろ」

「つ、対の間!?かしこまりました」


この人について行けばいいのかな。もう一度頭を下げたその人から視線を魔王様に移せば頷かれた。ついて行けばいいらしい。


「ライラ殿ご案内いたします」

「はい」


後を追い部屋を出れば深紅のカーペットが敷かれた広い廊下が続いていた。廊下にまでふかふか絨毯があるなんてお城ってすごい。前を歩く男の人を追いつつはじめて見るお金持ちの家の中に圧倒されてしまった。貴族の家ってみんなこんな風なのかな。


「ライラ殿は人間の娘でよろしいですか?」

「は、はい」

「そう、ですか私はキース・ヴァインお見知りおきください」

「キース様ですねよろしくお願いいたします」


人属である私が魔王様と居たから驚いていたのか。それで対の間っていうのにも驚いていたようだったけどそれは何だったんだろう?


「ここが対の間です。隣が魔王様の私室になっておりまして部屋の中にある扉から行き来ができるようになっております。今の時間は執務室におられますので魔王様のお部屋には入られない方がよろしいかと。部屋の中にある鐘を鳴らして頂いたらメイドが参りますので御用の際にはそちらをお使いください。では失礼いたします」

「あ、ありがとうございます」


部屋に入るまで見送りの姿勢で待機するつもりらしいキース様に礼を返してから部屋に入った。この部屋も広い美しい豪華まぶしい。もともと女性用に整えられた部屋なのか淡い色合いでそろえられた装飾品は可愛らしいのだけど、見るからにお高い雰囲気だ。ここで過ごせってこと?それともこの部屋の主に食べられるのかな。対の間の対って魔王様の私室の対ってことかーとかメイドさんってなに気になる呼んでみたいとか思うところはいろいろあるのだけど、私はとりあえずここでどうすればいいのか。


魔王様でもキース様でもメイドさんでもいいから教えてほしい。







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