あるところに
しがない村娘である私は、生活を支えるための薬草摘みを終え小腹がすいたと訴えるお腹の虫を鎮めるために、1人森の中で摘みたて木苺をほおばっていた。
ガサガサと揺れる背後の木の音に嫌な予感がしたのもつかの間。
気付いた時にはナニかの小脇に抱えられ遥か上空を移動中だった。
眼下に広がる森や小さく見える自分の家を認識するのと同時に意識が飛んだ。
まさか村や森を上から見おろす時が来るなんて、思いもしなかったよ。
なぜ魔物が出る森の中に1人でいたのかって?
村から近い場所で短時間なら何とかなると思ったんだもの。
実際今まではなんともなかったしね!!!
次に目を覚ました時にもまだ空の上だった。
もう一度眠ってしまいたかったけど二回目の衝撃はそこまでだったらしく、気絶するまでには至らなかった。
眼下には真っ青な水面が広がっている。
これはアレだろう?海という奴だ。
ほら、遠くに海竜がうねっているのが見える。
村から海までは森を抜け大きな町を1つ挟んでさらにその向こうの山をこえた先にある。
ずいぶん遠くまで運ばれているな。
こんなに長時間重りを抱えて飛行できる生き物がドラゴン以外にいたんだな。
どんな魔物かはわからないけど、それと同じくらい強い魔物であることは間違いない。
もしかしたら魔物の上位種である魔の者かもしれない。
実際に見たことはないからそれがどんな感じかは知らないけど。
私を運ぶナニかを確認しようにも身動きして落ちようものなら即死のこの状況ではわざわざ振り仰ぐ気にもならない。
なんにせよ、私のような非力な娘が敵うような相手でないことは確かだ。
わざわざあんな田舎の娘ひとりを攫うなんてよっぽど腹が減ったか退屈しのぎか。
通りすがりに調度いい食料を見つけたのが私だったか。
とにかく、食べられるにしろ何にしろお先真っ暗だ。
ほら、私の将来のように眼下の森も空気もなんか黒い。
全体的にどんよりしてきた。
海を越えた先にある陸地……
私の知っている限りそれは魔の者の住まう大陸しかない。
あぁ、ほんとにこれは詰みだ。
ここまで来てしまった段階で私が家に帰るという可能性は僅かにも残らない。
そもそも手段がない。
私を運ぶナニかから逃げて海岸まで行けたところで、海竜や大型の魔物がひしめく海を渡ることさえできないのだから。
空から見下ろす景色にもいい加減慣れてきた頃。
私ごとナニかは高度を下げ始めた。
まっすぐ向かっていく先には、大きな建物がある。
真っ黒な外壁とボコボコと紫色の液体が満ちたお堀。
バルコニーのついた部屋たちと広い中庭。
これ、田舎者の私でもしってる。
この建物の名前は、お城だ。
ここに来るまでの間にもいくつか建造物は目にしたけど、それの比ではない大きさ。
そしてこれも知ってるぞ。
お城に住んでいるのは王様だって。
そしてこの大陸に王様は一人しかいない。
なるほど。
どうやら私は魔王のごはんになるらしい。