小さなおともだちと
魔王様が扉の前に立つと同時に扉が開き、聞こえていたざわめきがぴたりと収まる。
開け放たれたままの扉を、魔王様、キース様、私、アリスの順で入場。
他より高くなった舞台の、中央に置かれた大きくて豪華な椅子へ向かい魔王様の横のこれも豪華な椅子の前で立ち止まり正面を向く。
(こっわ……)
正面を向くと詰めかけた魔王様のお客様がぎっしりと並び立ち、魔王様をまっすぐに見ていた。
無言の圧力すごい。
キース様が魔王様の椅子の横に立ち、扉の横にいた兵士さんに合図を送ると静かに扉が閉められた。
そして魔王様が豪華椅子に座る。
魔王様が座ったら私も座って良いって教わったけど、座面が高くて両手で身体を持ち上げながら座ることになった。
豪華椅子は私には大きすぎるんだよ。
アリスは椅子の隣に立ってくれて、ドレスの裾をさっと魔法で整えてくれた。
魔王様が片手を挙げると一斉にお客様たちが座る。
なるほどこれが魔王軍か、と言う感じだ。
「第二百七十代魔王カイル・アドミス様の御前である。静粛に拝聴せよ」
「……ライラを我の半身とする。心得よ」
「魔王様の御用命により、ライラ様にアドミスの姓が授けられた。これはここに居る全ての魔人、魔族、より大陸全土へと周知するように。また……____」
魔王様の言葉の後、キース様の補足説明が続く。
と、言うわけで私ライラに家名がつくことになった。
ただのライラ改め、ライラ・アドミス。
魔王様の子に正式になりました!
キース様からは、私が魔王様の公式ペット兼家族だと大陸全土に知らせるようにという内容の他に、魔王城の立ち入りを段階的に通常形態に戻す旨が伝えられた。
人がいないとは思ってたけど、お城全体で入城制限をしていたんだね。
さて、お披露目会の流れ云々あったけれど主な出来事はこれでおしまい。
あとはキース様の進行に沿って魔王様の隣で静かに座っていればいい。
この後は魔王城の主なメンバーが順番に挨拶に来るらしいので、顔と名前を覚える時間だ。
魔人は大柄な人が多いのか、椅子に座っているのに立ち上がると見上げるほどに大きい人達が順にやってくる。
魔王様のような浅黒い肌の人もいれば、キース様のように真っ白な肌をした人もあるし、狼の耳があったり、半透明だったりと様々な特徴があって飽きない。
どの人も顔が良い。迫力系美人という感じだ。
なるほど?これに見慣れている魔王様は素朴な私の仕上がりに比護欲的なものが刺激されたのか。
なお、挨拶に名乗り返す必要はないらしいので私は頷き返すだけの首振り人形状態で観察を行なっている。
*******
「ご主人様〜お疲れ様でした!とっても美しくて威厳のあるお姿でした!」
「ありがとー、すごかったね」
控え室に戻ってすぐ、アリスがにっこにこで褒めてくれた。嬉しい可愛い。
次々やってくる魔王様のお客様にうなづき続けること暫く。
老若男女の美形たちを見送り、落ち着いたところで魔王様と退室してきた。
控え室にもあったふわふわソファーに座り込み、筋肉痛になりそうな首を回して力を抜く。
この後は晩餐会?みたいなものを魔王様達はするらしく次の準備に移動していったので、部屋にはアリスともう1人しかいない。
うん、気づいたら1人増えてた。
「えーっと、貴方は?」
「1番です」
????????
真っ黒な頭巾付きの服に黒い犬?のお面の多分男の人は静かに椅子の向かいにひざまづき、それ以上は何も言わない。
「……ご主人様、1番って名前みたいですよ」
えー……やっぱり?
困ってアリスを見るとそう返された。
「1番さん?」
「1番とお呼びください」
呼びづらいわ。
あれかな、村の本で見た影武者みたいな。
本物見たことないし現実の職業にあるのか知らないけど。
「じゃあワンさんって呼びますね」
「かしこまりました、では」
短く告げると、瞬きの間にワンさんは消えていた。
こういうのって影武者じゃなくて忍者?だったっけ?
「(……魔王につづいてアレもか。)ご主人様!たぶん魔王がつけた護衛じゃないですか?」
「あ、そうなんだ。じゃあワンさんはこっそり護衛をする仕事の人なのね」
「?たぶんそうですね」
忍者でもなかったか。
そろそろ移動しても大丈夫だというアリスに連れられてお城へ戻る。
今夜の晩餐会には私は出なくても良いらしい。
お言葉に甘えて部屋でアリスと過ごすことにしよう。




