むすめには秘密の
さてさて、それから飛ぶように4日が過ぎていきまして。
魔王様のペットこと私のお披露目の日。
朝からアリスにお風呂で磨かれ、襟元とウエストがキュッと締まった白いドレスを着る。
薄いレースで首や背中が透けて見えるようになっていてそのところどころに銀色の糸で薔薇の刺繍がされている。
くるっと回るとドレスの白がキラキラと虹色に波打って溶けた真珠みたいだ。
よく見るとほんのり薄桃色を帯びていてアリスのピンクの髪とお揃いコーデになっている。
なんでこんなに細かく説明するかって?
アリスがドレス選びに頑張ったからに決まっている。3日前には珍しく部屋の中まで入ってきたキース様も時折ドレスの様子を確認して、アクセサリーを入れ替えたり、あーでもないこーでもないと大変な騒ぎで、次の日には倍量のドレスやアクセサリーが運び込まれ……とにかく大変な騒ぎだったのだ。
今日は朝食をアリスと2人で部屋で済ませた後は、いつもの執務室への挨拶はなし。お披露目の会場に向かうまで2人で過ごす。
「ご主人様がとっても美しくてアリスは幸せです〜」
「ありがとう。アリスも今日の姿も可愛いね」
普段は水色のワンピースに白いエプロンドレス姿のアリスも、今日はおめかしをしての参加になる。
普段よりふわふわと腰まで長くなったピンクの髪にはアリスの鐘と同じ透明感のある桃色の石が散りばめられてキラキラと光を反射している。たぶんきっとこれはアリスの魔石の小さいやつだ。それから煙るような淡いピンクと淡い灰色のグラデーションのドレス。淡い桃色の彼女の魔石を薄く削って作ったかの様な羽は背中に折りたたまれている。
アリスが可愛い過ぎて妖精さんみたいだと常日頃から思っていたけれど、本当に妖精さんだった件について。いや、魔石の妖精とは聞いてたけど。
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城の西庭園にある大聖堂で行うという私のお披露目。
この部屋と魔王様の執務室、円卓の部屋以外に用事のなかった私がはじめて違う階、外へと出て歩き移動する。
西庭園ってことは庭はいくつもあるのかな?と思ってたけど歩いてみて実感する。
このお城広すぎる。
ここに連れてこられた日に、大きな中庭を空から見た様な記憶はあるのだけども。
アリスに案内されるまま、無人のお城を進んでいくこと暫く、庭を2つ超えた回廊の外側に、お城と同じ光を吸い込むような黒い石で作られた立派な聖堂についた。
裏口らしい脇の扉から中へと進み控え室のような場所へ。
おそらくメインの部屋への扉だと思われる扉の向こうからはたくさんの人が集まり囁き合う気配とざわめきが聞こえてくる。
ここには今日まで会ったことのないお城で働く魔人や魔の者が集まり、魔王様がペットを見せびらかすのを待っているということか。
ーーコンコンコン
「ライラ殿、いらっしゃいますか?」
キース様の声だ。
アリスが扉を開けにいくと、どうやら正装らしい煌びやかな軍服?のような姿のキース様と、魔王様が入ってきた。
「魔王様、キース様、おはようございます」
「……うむ」
「おはようございます」
魔王様の王様感がマシマシだ。
キース様はなんかこう…悪巧みしてそ…知的な感じだ。
「魔王様もキース様もいつにも増して素敵ですね」
「……」
ぽすぽすと、魔王様の手が頭に落とされる。……もしかして撫でられた??つ、ついにペット公認ということ????
「これを着けておけ」
そして流れる様にネックレスを着けられた。(素早く寄ってきたアリスが掲げた鏡で見ると、真紅の薔薇の飾りがついている)
「ありがとうございます……?百合か薔薇かってこれのために?」
「そうだ」
「綺麗ですね、ありがとうございます」
これは確実に……首輪だ。
魔王様の目と同じ真紅の薔薇の魔石が付いたネックレス。
白いドレスに映えることだろう。
もしかして薔薇の裏側には私の名前が彫ってあったりするんだろうか?迷子防止???もしくは魔王様の連絡先とか?保護したらここまで的な。
「魔王様……もう少しこう……はぁ」
「魔王はダメだな。全然ダメだ」
キース様とアリスが同じ表情で首を振っているけれど、どうしたのだろう?あ!めちゃくちゃ高価なやつだから失くすなよってことね!
「いくぞ」
「はい、ライラ殿打ち合わせの通りにお願いします」
待機時間は終わりらしい。
4日で詰め込まれたお披露目の流れの記憶に自信はないけどアリスが後ろに着いてくれているし大丈夫でしょう。
ファサッとマントを翻した魔王様の後に続き騒めく大聖堂への扉に向かう。
ともかく、
転ばなければオッケーだ。




