第31話 反撃の狼煙
護りたい者のために立ち上がれ!
――爆ぜた。
私の体に活力が戻ってくる。体中が悲鳴を上げている中、無理やりにでも力が増してくる。
もうその姿は"人間"のものではない。神に愚かにも近づけようとした結果の"姿"。それを魔物であり、悪鬼羅刹に近い。人間捨てた姿。
しかし、それはもう構わない。彼女を救えるのなら――
雄たけびを上げる。体中を蝕んでた糸を無理やり引きちぎる。
――真琴さんを助けるんだ!
その時、何処からか鈴の音が頭の端で響いた。
同時にすさまじい勢いで、何かがわたしの体を貫いた。
それは映像。
揺れ動く草。虫の光。二対の石像。荒々しい風。
それはどこか懐かしい寂寥を孕んでいた。ここはどこだろう。私は、ここを知っている?
<目覚めなさい>
声が聞こえた。聞いたことあるようで、どこかぼんやりとした印象を受ける、そんな声だ。
祠がある。
古い古い祠だ。
その扉がガタガタと猛獣が出るかのごとく蠢いている。
二対の石像の瞳が光る。私は悟った。
「獅子さん! 狛犬さん!」
無意識にその名を叫んだ。まるで内側から湧き上がる湧水のように、するりと言葉が溢れた。
「あいよ」
「承知」
その声とともに閃光が迸る。二対の閃光が、女のもとへ伸びていく。
「おのれ小癪な。虫ケラごときが」
閃光が女をはじき飛ばす。真琴さんと女との間に、二頭の巨躯の犬が立ちふさがった。
向かって右側が純白の毛並みを持つ獅子。
向かって左側が漆黒の毛並みと持つ狛犬。
狛犬さんの方には、雄々しい角が生えていた。
なぜ、私は二頭の名を知っていたのだろう。いや、今はそんな些細なことはどうでもいい。
「真琴さんを護ってください!」
二頭にあらん限りの声で叫ぶ。
ぶちぶちと音を立てて、糸から解放される。
そして一気に女の懐へ入り込む。こぶしの裏で思いっきり力任せに殴りつける。
「ぐっ!」
女の身体が吹っ飛ぶ。私はすぐさま追いかけるように足元で霊気を爆発させる。刹那、女から糸が飛び出す。それは私の左肩を抉った。しかし、こんな怪我、今はどうだっていい。
「こんのおおおおおおお!!」
女の顔面めがけて、右手を振り上げる。身体の内側から力が湧きあがっていく。こぶしが当たる。女は学校の壁を突き破り、吹っ飛んだ。
◆
「しっかりするんや、ねえちゃん」
わたしはその声ではっとした。白銀の毛並みを持つ巨大な犬がわたしに問いかけていた。
"これ"は、何?
「意識は正常のようやな」
「ああ、 主の命により、お前をまずは安全な場所に移動する」
何を言ってるの? わたしは混乱し、何も言葉を発せられない。
「あそこにいる霊共はどうしまひょ」
「あれらも主の守護範囲だ。一緒に連れていく」
「あいよ、了解」
そう言ってわたしの目の前を塞いでいた白い犬は、後ろにいるヒカリの お友達の方へ駆けて行った。直後、すさまじい爆音が響く。校舎を穿つように女が吹っ飛んでいたのだ。
ヒカリだった者は宙を軽やかに舞い、廊下にふわりと降り立った。
あれは本当にヒカリなの? わたしはただただ呆然とした。
「行くぞ」
そんなことを考えていると、後ろ襟を不意に何者かに掴まれた。え、ちょ、何、と思っている間にふわりと宙に身体が浮遊し、物凄い勢いで中庭へ連れ攫われていく。抵抗しようと思うよりも俊敏だった。
「あ、あなたたちは一体」
「悪いが、今はその問いに答えてやる暇はない」
狛犬、と言っただろか。
雄々しい角を持つ漆黒の犬が答えた。力強い女性の声だ。
ふと後ろを見ると、白い犬の背に、雪ちゃんと、ガイ子さんと、ジン太くんが乗っていた。
中庭を恐ろしい速度で進んでいく。抵抗もままならない。
しばらく中庭の中央にやって来て、二頭は動きを止めた。ここには一本の大きな桜の木が植えられている。
わたしは眼を疑った。季節外れなはずなのに、桜が爛爛と輝いていた。神秘的な光景に、わたしの思考は止まる。
あ、と思わず声を出してしまった。私の視線は木の根元へと注がれている。そこには一つの古びた祠があった。こんなもの、今までなかったはずだ。
ガタガタと祠の扉が揺れている。まるで、何かが溢れだしてきそうな感じだ。
そこでわたしははっとした。
「ヒ、ヒカリは!? ヒカリはどうなったのっ!?」
すがるように狛犬に問いかける。狛犬は鼻をふんと鳴らした。
「"神格化"してるだけさ」
「神格化って……」
「まあ、簡単に言やあ、神様の成り損ないや」
いつの間にか横にいた白銀の犬が言う。確かこっちは獅子だったはずだ。
「ヒカリは大丈夫なの!?」
わたしは二匹に詰め寄る。
「それは現在行われている戦闘か。それとも主の身のことか」
「両方よ!!」
噛みつくように二頭に問う。
はあ、とため息をつくと、狛犬は雄々しい角を振りかざし、
「戦闘はこのままいけば、主が負けることになるだろう。いくら"神格化"したとはいれ、人の身はもろい。長くはもつまい。それに、手傷が多すぎる。致命傷と言ってもいい。血が足りなくなった主は、時期倒れるだろう」
そのあからさまな問いにわたしは目の前が真っ白になった。
しかし、わたしはすぐさま頭を振る。
考えろ、整理するんだ。わたしは自分に言い聞かせる。この二頭が現れたおかげで状況はだいぶこちらに有利になったのだろう。ならばこの二頭がヒカリの助けに向かえば、勝機があるのではないか。
「女」
低い声で狛犬が私に問う。
「我らが向かったとて主の足手まといになるだけだ。我らはただの守護式神、敵を打ち倒す力はないに等しい」
また目の前が真っ暗になる。じゃあ、何なんだ、この二頭は。まるで役立たずではないか。
「だが、守護式神としてできることがある」
そこで狛犬は言葉を止める。
「お主は主を救いたいか?」
一陣の風が吹き抜けて行った。
というわけで、宣言通り予約投稿です。眠いデス(現在9月9日午前4:50分頃)
ようやく、この話からヒカリたちの最後の反撃が開始されました。
今後の攻防に乞うご期待!! とは言いません。
ここまでこれを読んで下さった方々、そして、数少ないであろう、この作品を連載当初から変わらず読んで下さってる方々が、ほんの少しでも「おもしろい」と思って下さるだけでいいんです。
もっと言えば「暇つぶしになった」と思ってもらえるだけで十分なんです。
よろしければ、残り数日、お付き合いください。
僕も他の創作活動にも色々追い立てられつつ、最終話に再び挑みたいと思います。
次の更新は、14時~18時の間くらいに予約投稿したいと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。
とかなんとか書いてる間に5時がきちゃいました。非常に眠いDETH。
前回のように睡死体にならないように気を付けますっ!(←うまいこと言ったつもり
ではでは~。
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超待ってます!!