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第29話 とある独白

《あいつ》との約束。

あの最後の願いを叶えてみせよう。

もうすぐ、″ソレ″が始まる。


『ようやく、の眠り姫が目覚めるんか……』

『……ああ』


 暗い昏い闇の中。ようやく、顔をあげた"モノタチ"がいた。

 開かれる瞳孔。それは、二対の閃光。のそりと立ち上がり、身体の凝りを取るかのように、ぶるりと震わせている。


『……長かったな』

『せやけど、刻は来たれりや。ようやく、わいらもこの"呪縛"から解放される。まあ、今更何百年、アイツの命令を聞いたか、ようわからんがな』

『……そうだな』


 固い女性の声に、あっけらかんとした男性の声が続く。

 古びてすすけた朱色の鳥居。その奥に、"それ"はまるで時間という概念から外れたかのようにたたずんでいた。

 無数に、幾重にも張り巡らせれている"封"のしるしが施された神殿の扉。それをまるで護るかのように佇む、一対の狛犬。

 そこには、確かに"神社"が存在していた。

 仄暗ほのぐらい闇の中で、ホタルが静かに舞い、古風な風がそよそよと心地よくあたりを満たしている。

 人影はない。そこは、あまりにも神秘的で、異質な空間だった。まるで、その時代から取り残されたような匂いがあたりに漂っていた。

 そう、そこは言うならばそこは在るべくして"在る"といった、不思議な空間。

 ……カタカタカタ。

 神殿の扉が、激しく震える。風が、ひゅうひゅうという音を響かせながら、その扉の奥、深い闇へと吸い込まれてゆく。

 声なき声。

 幾重にも張り巡らされた"封"が、かなりの昔、"彼"が言い放ったように、その役目を終えようとしていた。

 きらりと、狛犬の瞳に炎が宿る。


『時間がないな。アイツが言っていたとおりだな』

『いや、ぎりっぎり間に合いそうやで。ようやく、"あれ"が目覚めおったわ』

『……そうか。そうだな。だが――――』


 固い女性の声が言葉を切る。それを、含み笑いをしつつ、男性の朗らかな声が引き継ぐ。


『《これもアイツが言っていた通り》やと、そう言いたいんやろ?』

『……ああ』


 女性の声に、男性の声が忍び笑いを返す。

 それに、気を少し悪くしたのか女性の声がむっとした声を出そうとしたが、それは先にその男性の声に遮られてしまった。


『せやけど、これもアイツがゆうた通りや。それに、あそこの坊のことも、な』

『……確かにな』


 女性の声が、何かを諦めたように溜息をつく。


『にしても、あの小僧はアイツに良く似てるな。この数年、アイツの面影がちらついてうっとおしいったらないよ』

『なんや、寂しくなったんか?』


 くつくつくつと笑いながら男性の声がからかう。それに、女性の声が鼻で返す。


『まさか。こんな面倒な仕事を残して勝手に逝きやがったあの馬鹿野郎のそのツラ、今度あったそのときは思いっきりぶん殴ってやりたいよ』

『はは、違いないね。わいもアイツにゃ、文句の百でも言ってやらんことには、腹の虫が治まらへんよ。アイツのツラ殴るときゃ、わいもやらせてくれや』

『勝手にすればいいさ。その時は目にもの見せてやるよ』


 二つの声はそこで笑い飛ばす。かつて、遠き日に仕えたその主の面影を思い出して。

 再びの静寂。はあ、とため息が漏れる。


『……ほんとに、そんな日がくればいいのにな』

『せやな。そんな日が、いつかくりゃええのにな』


 遥か昔。亡くしてしまった大切な主が脳裏を過ぎる。

 どれを思い出してもただただ優しく自分たちを微笑んでくれたその穏やかな顔のみ。

 今はもう、決して見ることのない、思い出という名の記録に刻まれた映像。


『ふん。だいたいあの莫迦ばかは勝手なんだ。"あんなこと"をしよってからに。その後、自分はささっと地獄に堕ちよって。その尻拭いにいったい、いく度季節が廻ったことか』


 女性の声が非難の声を出す。


『仕方ないやろう。アイツが人間ヒトであった以上、望まずにはおれなかったんやろう。それは、自分達わいらにはできひんことやからな。わいらは、アイツに仕えることはできても、決して隣にはおれんかったんよ』

『……そんなこと、わかっているさ』


 これまでの朗らかな声とは裏腹に、静かな慈しむような男性の声。それに、女性の声はまた小さく『わかっている……』とまるで自身に言い聞かせるように呟いた。


『なんにせよ、わいはこの命令たのみを一度だって恨めしく思ったことはない。必ず、アイツとの最後の約束は果たして見せるつもりや。それは、お前かてそうやろ?』


 先ほどとはうって変り、またあっけらかんとした声で尋ねる。


『……ああ』


 それに女性の決意に満ちた声が返す。


『アイツとの、最初で最後の約束はきちっと果たしてやるさ』


 それに今度は男性の声が、おう、と元気よく答えた。

 がたがたと揺さぶられる神殿の扉。ごうごうと神殿の闇に吸い込まれてゆく風。今にも切れてしまいそうな"封"の標。

 その中で、来る時を静かに待ちつつ、"彼ら"は遠くを見据えた。


『そう言えば、アイツ――光明こうめいはよく言うとったな』


 不意に何かを思い出すかのように、男性の声が呟いた。


『《咲かない花はない》、とな』


 風が、静かにあたりの草を薙いだ。

本日も更新。

ここでまさかの新キャラ登場だとぅΣ(・□・;)


いや、苦しくなって出したんじゃなくて、書き始める前、最初の構想の段階からいたんです。

本当です……。

伏線がわからないのは、ひとえに僕の腕がさらに未熟だったが故です……。

申し訳ないorz


さて、最終話がなかなか進まぬ……。

さすが、約5年間僕を悩ませ続けただぜあるぜ……。


あ、それから『空想科学祭FINAL』という企画様に参加しており、SF短編を一つ投稿しております。

そちらは完全シリアスなのですが、もしよろしかったら覗いてやって下さると、飛びあがって喜びます。


では、また明日。

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