表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

第24話 鈴の音が伝える鼓動

――ちりーん……


  ◇


 シャリーン、といういくつもの鈴が同時に鳴り響く音。

 まるで自分を責めるかのような、それでいて清冽せいれつで、美しく、背中を後押ししてくれるような力強い鈴の音。

 鳴りやまない鈴の重奏。音により、周りが、耳が、そして自分が満たされていく感覚に捕らわれて行く――



    ◇



 私は、放課後を告げる学校のチャイムが聞こえて初めてはっとする。

 思わず首をひねる。私は、いったい何をしていたのだろう?

 まるで、夢を視ていた気分だった。それも、何かしら最悪な夢。今でも目を閉じれば、暗闇と、背筋も凍るほどの冷笑と、心を抉りとられてしまうよな悲鳴が聞こえてくる気がする。

 担任の先生が、荷物をまとめて教室を出る。それに合わせるかのようにクラスに喧噪が次から次へと生まれ、椅子が教室の床を擦る音がそこかしらに発生する。それが少しうるさい。

 みんな、口ぐ口に楽しそうな談笑をしつつ、鞄を手に教室を出て行く。今日も学校が終わった。

 私は頭をぶるぶると振ると、自分も荷物の準備を始める。当然、私の周りには誰もいない。ともに帰る友達も、ましてや話しかけてくれる友達すらまともにいない。話しかけてくるのは、せいぜい事務的な内容で、それもほとんどが女子生徒だった。女物の制服を着て、認めたくはないけれど、女の子みたいなこの顔や、この小さな身長では、今のところどこからどう見ても白羽学園の女子生徒にしか見えないのだ。だから、女子生徒との会話が多くなるのは必然的とも言えた。

 ……昔みたいに簡単にばれてはいない。それなりに、仲が険悪なわけでもなく、話しかければちゃんと笑顔で答えてくれる。昔よりは、今のところはちゃんとした学校生活が送れていた。少なくとも、今のところは。

 男子生徒が何故話しかけてこないのか。それは、いくらそう言うのに疎い私でも耳にはさむ『高嶺の花』という言葉。女子生徒の羨望や嫉妬の混じった視線と一緒の、好奇心旺盛で健全な男子生徒たちの好奇の視線。これらが意味するところは、まあ、いつものことで、お生憎様としか言いようがない。

 だって、あなた達が追ってるのは女性の尻ではなく、男の尻なのだから!

 そっと心の中で誰にも聞こえない絶叫をひとつ。まあ、つまりはそう言うこと。それを知ってもな追いかけてくる、いわゆる"そちらのお方"であれば背筋が凍るものがあるのだけれども。

 ともかく。

 これは、今までと対して変わらない事柄だった。

 ――そう、正体がばれる、その時までは。

 もっとも、男女ともに話しかけてこないその原因の一端は、主にこれが原因だとは思うのだけど、要するに私自身に『話しかけるな』『近づくな』という無言の壁を作っているからだと思う。すごく寂しいのだけれども、でも、小中と浴びせられてきた誹謗中傷罵詈雑言、その他様々な異物を見るかのような奇異な視線に比べれば、よほどマシだった。誰とも関わらなければそんな秘密は漏れようがない、というのが高校を機に私がした、いわばいまさらともいえる愚策だったのだ。

 家路に嬉々とした声と足取りで教室を出て行くクラスメイトたちを横耳に入れつつ、私は窓から外を眺める。


「ほう」


 ため息ではない、しかしそれに近い息だけの声。眺めた空は、寒々とした私とは裏腹に、春の陽気に満ちていた。

 ふと、昨日のことを思い出す。

 数人の暴漢に襲われそうになったところを救ってくれた、あの少女の姿がまぶたに浮かぶ。

 第一印象としては、まさに嵐――いや、さっそうと草原を駆け抜ける一陣の風のようだと思った。

 そう思うのも、我ながら仕方ないんじゃないかな?

 何せ、気がついたら、私を襲っていた暴漢の一人が忽然と視界から消え失せ、変わりにその場所にすらりとした綺麗な足が空中にあったのだ。現れたその足が、暴漢を蹴り飛ばしたと理解するまでに少々時間がかかるほど、それは見事な蹴りだった。

 その蹴りととともに、不意になびく突風のように現れた彼女。それから彼女はさらに、そして実にあっけなく二人いた他の暴漢に、その竜巻のような蹴り技を浴びせ、あっという間に彼らを地にへと伏せてしまったのだ。

 そして、彼女はまだ七人ほどいた、大学生ほどの歳だと思われる男どもに、何も臆することなく立ち向かった。途中、そういった下劣な奴らの上等手段の代表例ともいえる、ナイフを持ち出した輩もいたが、彼女はそれに全く怯むことは、一瞬たりともなかった。

 それを眺め、私はただただ呆然としていた。生身の人に術をかけることも、不用意に反撃をして、誤って"殺してしまわないよう"力をセーブするよう母上にきつく言われていた私。普通の人には何も手を出せない私は、そんな彼女に手を貸したくてもただ呆然と見るしかなかった。

 もちろん、そんな彼女は私の助けなど微塵も必要としておらず、そして実にあっけなく私を助け出してくれたのだ。……途中、思わず力を出してしまうという失態を私は犯してしまうのだけれども。あのあと、母上にこっぴどく説教を受け、それから訓練という名の、明らかにそれにとどまらない地獄が待っていたのは言うまでもありませんでした。あの酷さといったら、もう――――コホン。

 昨晩の悪夢を振り払うかのように首を一度振り、もう一度彼女の姿を悪夢の上に塗りつぶすかのように思いだす。

 彼女は、とても綺麗だった。セミロングの、茶と黒の中間色みたいな色のさらりと流れる髪。筋の通った鼻。薄く、花弁のような桜色の唇。意志の強さが滲み出ているような瞳。彼女の顔の造作には、ゆがみや不備などのうなものがまったく見られなかった。そして、全身からあふれ出ている、背筋が伸びるような凛とした雰囲気。何から何まで完璧と幻想させるその姿に、私は息が詰まる思いがしたものだ。

 素直に、綺麗だと思った。ただ、そのあまりにも完璧なその美しい顔立ちは、完璧すぎであるが故に中性の顔だちをしており、さらにその身に纏う空気が凛々しく、そのせいで彼女は好青年のように私には見えたのだ。もっとも、後に"男性"とみ間違った私は彼女に叱られるのだけれども。

 彼女は自らを真琴まことと名乗った。残念ながら、焦りのあまり名字の部分は聞き逃してしまったのだけど、そんな彼女の名は私の心に深く刻み込まれたのは言うまでもない。

 …………が、彼女は私のことを覚えてはいない。それは何故なら、『私がそこにいた』という記憶を彼女の中に封印したから。


「……はあ」


 今度こそ溜息をついてしまった。

 仕方がなかったのだ。たとえ、こちらの失態とはいえ、彼女に"力"を見せてしまったのだから。

 "こちら"と彼女の住む"世界"は別のもの。

 気がついてしまったら、知ってしまったら、それは"こちら"の扉を開きかねないのだ。それはあまりにも危険すぎる。稀に、無意識に自ら扉を叩いてしまう者もいないこともないのだけれど、そういった者は大抵の場合、ただ酷いことになってしまう。だから、彼女がそんなことになってしまわないよう"私という存在"の記憶を封印した。個人的にはすごく悲しく、またさみしくもあるのだけれど、やはりこれはそのままにしておけなかったのだ。

 外は、春の陽気でとてもぽかぽかとしているようだ。気がつけば教室も少数のグループしかいなかった。

 ……帰ろう。

 そう思い、私は鞄を片手に立ちあがった。



 突然の訪問者に、教室にいた全員の息が止まった。



 私が立ちあがったのとほぼ同時に、教室の前の扉が勢いよく開かれた。思わず固まる。その訪問者を確認した、他のクラスメイトも同様に固まり、教室があたかも水で打ったかのような沈黙に包まれる。心なしか、なんとも言い難い緊張感があたりを満たしているようだった。

 その乱暴な訪問者は、昨日出会い、そして"私という存在"を忘れているはずの彼女――真琴さんだった。


どうもです。

嘘吐き不誠実「有言無実行」な作者こと灯月公夜です。

毎度のこといつもながら、すでに恒例となってしまった感がびしびしと感じるのですが、本当に毎回毎回毎回毎回お待たせばかりしてしまい、心よりお詫び申し上げます。

とりあえず、生きてます。高校3年生にも無事進級でき、晴れて華の受験生です(涙

そして現在中間テストまっただ中。今日も昨日もテストでした。明日も明後日もテストです。現在世間は何かと大混乱ですが、しかしそんな影響を受けてもなおうちの学校は健在であり、テストが激しく恨めしいこの頃です。テストなんて滅んでしまえ(心の叫び


さて。

そんなことはともかく、久々の更新ですね。本当に申し訳ないです;

しかもこの度の内容は、大半の方がおそらく「はあ?」と思われたのではないかと。こうしてあとがきを書きつつも、内心びくびくぶるぶるです。毎度のことですが、このような場に、そして読んでくださっていただけてる読者の皆様に満足の頂けるものをかけているのかという不安もあり、また「読んでいただけている」このことだけでも幸せを感じております。

むっちゃくちゃ遅いですけれども、それでも今回も読んでくださって、本当にありがとうございます。いつもいつも申し訳ないと感じつつも、この作品へと訪れてくださっている方を確認するたびに、どうしても頬が緩んでしまいます。本当に感謝してしたりないくらい感謝してます。こんな青臭い約束も守れないようなダメ野郎ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


最近は、また何度目かの執筆の計画を立て始めました。またまた途中で放棄しかねませんが、とりあえず頑張って参ります。


『この作品を完結させる』


これだけは、本当にこれだけは、僕自身に何かが起きない限り、絶対に守り抜きます。この約束さえ守れなければ作者を辞めると思っていただいても構いません。それぐらい、これだけはどんなにも遅くなろうとも誓って守り通します。

よろしければ、僕のこの何度目かもしれぬ計画が破たんしないよう、後ろからひっぱたいてやってくださいませ。一言で構いません。メッセージをいただければ飛び上がって喜びます。


ではでは。今回も今回とて、むちゃくちゃに長い後書きを失礼いたしました。

テストが終わってもなお、「受験」というエベレスト並みに果てしなく高い壁が立ちふさがっており、またブログにて触れましたが、リアルの仲間間でちょっとした企画があるので、これからも遅くなること予想されます。

この作品は、数あるなろうの素晴らしい作品の中、ふとした拍子に思い出していただければ、僕はもうそれ以上言うことは何もございません。


なんか全体を通して湿っぽい感じになりましたね^^

なにはともあれ、改めまして、どうぞこれかも末長くよろしくお願いたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

☆少しでもお気に召しましたら、ワンクリックをよろしくお願いいたします^^☆

★拍手を送ってみる★

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ