表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/37

第23話 紅き舞台の開幕

踊る踊る、壊れし人形

舞う舞う、白銀の雨雫


ひらりひらり、風は流れ

  操られし人形は、術者の手のうちで踊り狂う


踊り、踊らされ

  みなすべては、糸の導くがまま


――ああ、鮮血舞う、月夜よ

   誰が、それをっていた……

 何が起こったのか、どうなってしまったのか、よくわからなかった。今目の前の出来事が、まるで陳腐な三流映画を流し観しているみたいに流れてゆく。理解できない。何が起こり、どうなってしまったのか、全然頭に入ってこない。

 けれど、目からは淡々と涙が溢れ出てきて、止まらない。

 鈍い音。狂色な嘲笑。宙をまるで白鳥のように舞い踊り、紅い花が咲き誇る。その光景すべてが、月光にきらめき、病的なまでに美しく栄える。

 そして、優雅に刹那宙を舞っていた白鳥は、羽根を無くし、地面へと帰る。鈍い落下音。

 もう声が出なかった。何も考えられなかった。ただ、唖然と、そして呆然と、私はとめどなく、しかしあまりに淡々と流れ出る頬を伝わる涙しか流せなかった。

 力を亡くした、人形が踊る。

 月光をスポットライトに、私以外の観客のない、さびしく、そしてどこまでも残酷な人形劇。

 人形が、また人形遣いの手により、紅い汗をほとばしりながら宙を舞う。

 目を背けたくなるような光景。残虐極まりない、卑劣な舞台。

 こんなの――もうこんなの見てられない。見たくない。だからもう、お願い。こんなの――


「……や……めて……」


 もうこんなのやめて。見たくない。お願いだから、これ以上彼を痛めつけるのはやめてよ!

 意志とは関係なく、はらはらと涙が頬を伝う。無力な私には、それしか――たったそれだけしかできない。

 本当は叫びたいのに――――声は枯れ果て出てはこない。泣き叫びたいのに――――のどが詰まり、まともに声さえ発せられない。

 女は、にやりといやらしく、背筋が凍るような笑みを私に向ける。――気持ち悪い。

 女が、その手で人形を掴み、私の足元へ蹴り転がす。


「――――ッ!」


 ズタズタに切り裂かれた衣服。ぼろぼろの、ところどころ鮮血で紅く染まっている身体。

 彼は、もはやこと切れた人形のように、微動だにしなかった。今の今まで、つい数分前まであんなにも元気だった、彼はもう――動かず、ただそこに“あった”。


「――安心せよ。こやつはまだ死んではおらぬ」


 何時来たのだろうか。女はヒカリの髪を無造作につかむと、持ちあげた。

 ヒカリの、陰になった顔が私の目の前に、まるで見せつけられるかのように掲げられる。

 痣だらけで、唇は切れ、血が滲んでいる。

 手足を剥製のように縛られた私は、そんな彼から目を逸らしたくなった。

 ――――これがあなたの選んだ道……

 誰でもない、私の中の私が、私に語りかけてくる。

 こんなはずじゃなかった。こんなことになるなんて、まったく思っていなかった。


「顔をそむけるでない」


 女の冷たい手が顎にあてがわれ、無理やりヒカリと視線を合わせられる。その目の端に、実に嬉々とそした女の嘲笑が見えた。


「まだだ。もっともっと、我を感じさせてくれ、虫ケラ」


 女は囁くように、そう私に耳打ちした。



 始まりは、もう覚えてない。女が、私を見てわらったまでは覚えている。私を「壊したい」と囁く声も。

 それから、何が起こったのだというのだろう。

 女は不意に手をヒカリのいる方へと振りかざすと、突如女の掌から無数の糸の束が生まれ、ヒカリを拘束し、たちまち自らの足元まで無造作に、“まるで物を投げるかのように”引っ張り、頭を踏みつけたのだ。

 そして、女は再び私に囁いたのだ。

 ――――これよりそちに最高の宴を見せてやろう……

 にやりとほほ笑むその顔に、私は震え、戦慄した。

 そして、女はヒカリを無造作に持ち上げると――――あの、残虐で一方的な舞台が始まったのだ。

 はじめ、女は気を失い動かないヒカリを、女の後方、私の前方へ向かい、殴り飛ばした。

 人形のように吹き飛ばされるヒカリ。なんの抵抗もなく、地面にたたきつけられる。と、次の瞬間、女の手が閃き、無数のおびただしい量の糸がヒカリを捕らえ、再び女の手のもとへ引き戻される。そして、女の手元に届くか否やというところで、今度は天井へと蹴りあげら、天井にぶつかり、再び地面へ引き戻され、勢いよく地面に叩きつけられた。――――そして、残虐な鮮血舞う舞台は続く。

 何が起こっているのか全く分からなかった。ただ、自然、私は声を上げ、悲鳴を上げ、動けにないもどかしい身体を自ら引きちぎらんばかりの力で、糸から抜け出そうと暴れ、泣き叫んだ。

 そんな私を見て、女はただ嗤った。とてもとてもうれしそうに。まるで無邪気な子供のように。

 もちろん、私が悲鳴をあげたからといって、舞台は幕を閉じない。私がいくら泣き叫んだからといって、より舞台は激しくなっていった。

 女は舞台の上映中の最中、私に微笑みかけた。


 ――――まだ壊れてくれるな、虫ケラ。我をもっと感じさえてくれ……


 ああ、もう何がなんだか分からなくなってきた。次第には、どうして私は気が狂わないのかと、自身に問いかけていた。いっそ気がくるってしまえば、こんなに苦しまずに済むというのに。

 けれど、“所詮はその程度で”人は壊れてはくれない。私は、壊れてはくれない。

 ましてや、私とヒカリは恋人同士でもなければ、ただの私を唯一私として見てくれた友人だ。そう、所詮は人一倍大切だと感じる友人。そんな人物に、映画やドラマや小説の登場人物のように、私の心は壊れてくれない。――壊れることを許してはくれない。

 ああ、なんて、私はバカで愚かなんだろう。

 あんなにも必死に私を守ろうとしてくれたヒカリが、これ以上痛めつけられるのを見たくないからといって、一瞬でも『彼と出会わなければ』なんて最低なことを思ってしまった。

 糸の切れた人形が、私の目の前で、まるで私を蔑むかのように、責めるように激しく紅い汗をかきながら踊っている。

 もう見ていられない。見たくない。涙が止まらない。どんなに叫んでも、泣き叫んでも、誰にも届かない。女の声。嘲笑。狂喜に染まった嗤い声。どうして? どうしてこんなことになったの? どうして、私の心は壊れてくれないの? あのヒカリがこんなにも酷い目にあっているというのに。私の心は、痛みでもう耐えられないというのに。どうして? お願い、早く壊れるなら壊れてよ。もうヤダ。見たくない。見ていられない。どうして、こんなことになってしまったの? どれもこれも私のせい? そうよ、ぜんぶぜんぶ私のせい。どうにもならない。どうしようもない。ごめん。ごめんね、ヒカリ。私のせいで、女にこんな目に合わせられて。ごめん。――ごめんなさい。

 涙がとめどなくあふれ出てくる。

 もうやめて。お願い、もうこれ以上ヒカリを傷つけないで。お願い、もうやめてよ!


「もう、これ以上ヒカリを傷つけないで!」


 叫んだ。泣き喚いた。そして、女は心底うれしそうに笑った。



 ヒカリの力無い、陰った顔が面前で揺れる。


「言ったであろう。『強さ』と『弱さ』は表裏一体。両儀であると。観よ」


 女はヒカリの顔を私の前にかざし嗤う。


「互いに互いが大事だと、戯言をほざいておった貴様らは、こんなにも弱く脆い。どうだ。こやつが観えるか? そちらは、他方が倒れればこんなにも容易く弱い。ろくに何もできずに、ただ我を見るしかないのだ」


 そして、女はそっとぞっとするような笑みでほほ笑む。


「しかし、安心せよ。まだこやつは死んではおらぬ。神寺は非常に頑丈な奴らの集合体であるからな。だが、良く知っておくが良い。『殺す』と『壊す』では根本的に異なるということを」


 そう言うと、女はあいている方の手で、ヒカリの右腕を持ちあげた。先ほど、この女の手により砕かれたヒカリの右腕は、肘から手首にかけて、変な方向に曲がっていた。その掌は、何故か非常にきれいな青い光を帯びていた。

 しかし、女はそのヒカリの青い炎を鼻で嗤った。


「ふん。こやつは、それほど己に力がないことを悟ったのか、せめてそちだけでも助けようとしておったようだな」

「……どういう……こと……?」

「観よ」


 言うや否や、女がその青い炎へ、ヒカリの右腕を持ち上げた手を滑らせ触れた。

 次の瞬間、「バチッ!」という激しい音と、火花が散った。女の右の掌から、はじめて紅い血が滴った。その光景に思わず目を見開く。


「どうだ。これは『守護』の術。これには我や、その他の雑魚どもがそちにそう簡単に触れられぬよう、術が成されておるのだ。こやつが、せめてそちだけでも助けようとしたのであろうな」


 それを聞いて胸が苦しくなった。目からはさらに涙が溢れ、今は俯き、陰っているためよく見えないヒカリの顔を見る。

 言葉にならない想いが、胸の中で溢れる。


「無駄なことを」


 ――――鈍い、“何かを握りつぶすような音”。

 音のなる方を慌てて見やると、なんと女が自分の手が大変傷つけられ、血が噴き出しているのにも関わらず、“ヒカリの右の掌を握りつぶしていた”のだ。

 その光景に恐れおののく、私を尻目に、女は口の端を釣り上げた。


「少し話が脇に逸れてしまったが、『壊す』とはすなわちこういうことであるのだ、虫ケラ」


 そして、微笑みながら女は私を見つめた。その表情は、まさに自身の欲求と快楽を本能のままに貪る獣のようなかおだった。

 私は、もう、何も考えられなかった。先ほどまで胸に溢れていた想いも遠く彼方へ消えた。

 女が、青い炎に焼かれ、傷つき鮮血を噴き出すのも気にせず、ヒカリの手の骨をさらに砕く。

 ごり、じょり、という、あまり聞く機会のないニンゲンの骨と骨が擦れる音。

 そして、目を大きく見開く私を尻目に、次の瞬間、女は無造作に後方にヒカリを放る。

 四方八方、さまざまな方向から、細く艶やかな銀色の糸がヒカリめがけ飛んで行き――――ズブッ、ブチャッ、というこれまた聞きなれない音が鳴り響く。

 結構に大量な朱く紅い緋色の液体が、上空から滴り落ちてくる。

 思わず目を覆いたくなるような光景。

 “無数のおびただしい量の糸が、まるで重体患者に繋がれた無機質なチューブのように、ヒカリの身体の至るところを、決して致命傷にならないように貫いていたのだ”。

 本当の操り人形のように、全身を糸で貫かれ、固定されたヒカリ。

 張り巡らされる、主に手足に繋がる無数の糸から、きれいな緋色の絵具が、渡り廊下の上に滴り落ちる。

 ぴちゃりという水滴音。悦に浸った嗤い声。早鐘のように打ち鳴らされる鼓動。体中の血液が沸騰せんばかりに駆けずり回る音。――頭の中で、何かが弾ける爆裂音。

 私は――――もう、何も考えられなかった。

 その代り、ただただ私は、このどうにもならない感情を乗せ――


「いやああああああああああ!」


 叫んだ。




なんだこれ……


もう一度言います。


なんだこれっ!!?


前書きも合わせて、


なんだこれぇぇぇええええっ!!!!(←うるさい。


なんかもー、どんどん血生臭くなってますねぇ……。ああ、コメディーは何処へ行ってしまわれたのか。書いてるの僕なんですけどorz


つい二日ほど前、ようやく期末テストの野郎をぶちのめして参りました!

これで僕が一教科もぶちのめされてなければ、晴れてザ☆受験生こと高校三年生に進級できます。ええ、ぶちのめされてなければ。

しかし、あえて僕は宣言しよう。


僕は赤点なんてものを一つもとってはいないっ!!


10日に学校なんで、そんときに赤点の有無が判明します。

ちなみに、赤点を危惧して今回のタイトルを付けたわけではないのであしからず(誰もそんなこと思わねーよ。


という訳で、宣言通り更新できました!

今日(6日)は3の倍数なんで、誰が何と言おうと宣言通りっ!

あ、いや、やっぱり3日に更新できなくてすみませんでした><


とりあえず、次は9日ということで。たぶん更新できるので、どうぞ次もよろしくお願いいたします。


ではでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

☆少しでもお気に召しましたら、ワンクリックをよろしくお願いいたします^^☆

★拍手を送ってみる★

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ