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第2話 我等が生徒会長参上!!

 夜の学校という場所は、一つの異界だと思う。

 辺りはしんと静まり返り、それが少し耳が痛い。一日の半分以上を大小さまざまな喧騒を立てている学校は見る影もなく、そのせいか背中が寒く感じる。音が聞こえるのが当たり前と思える空間に、自分が立てる尾と以外聞こえないというのは、不気味で、寂しい。世界から音が消え去り、この世界にひとり残されたような錯覚を覚えずにはいられない。そして、それと同時にダレカに自分の事を見られている気がしてならない。少し先の目の前の暗闇からはダレカが手招きして舞っているような気がしますし、寒い背中からは一心に視線を感じる気がする。

 まっ、現に私を見ている輩もいますしね。

 ただ、普段通っていて見慣れている風景が少しだけ違うというのは、それだけギャップが激しく、自分の知らない世界に取り残されたような気がして、まったく『違う』のだと思う。

 それはつまり『知っている』のと『知らない』との差のような気がしてならない。

 そんな事を考えている間に夜の学校に入ってから早、十分が経過していた。一つ一つ教室を開けて中を確認していく。でも、未だに何かが襲って来る気配すらなく、全くと言っていいほど異常は無かった。

 ガラガラガラガラ、と普段なら気にかけるまでもない教室の扉の音が、妙に膨張して聞こえる。

 中を覗き込んで確認する。

 よし。ここも異常無し。

 ふぅ、と少しだけ緊張を和らげ胸を撫で下ろす 。何も起きないに越したことは無いけど、これほどまでに何もないのはちょっと拍子抜けに思う。


「ウゴクナ」


 その時、背後からのドスのきいた声と共に私の肩になにやら生暖かいモノが触れた。


「――ッ!」


 突然の背後からの声に息が詰まった。後ろは振り返れない。心臓は喧しいほど鳴り響き、収拾がつかない。

 静かに冷や汗が流れる。まったくと言っていいほど気がつかなかった。

 こんなに近づかれるまで霊気を感じ取れなかったなんて……!

 前を向いたまま、後ろの気配を探る。それでも霊気は、まったくと言って感じ取れない。それが内心の焦りを加速させる。

 けど、ここでようやく私は気がついた。

 私は、急いで後ろを振り返った。


「ふふふ。こんばんわ、ヒカリ」


 そこには、誰が見ても間違いなく見惚れてしまうほどの美人さんがいた。

 最も『美人』よりは『美少年』のほうが容姿としてはしっくりと当てはまるような女の子だけど。

 失念してた……!

 暴れていた心臓を落ち着かせながら、私は頭を抱えたかった。正直、私は自身に呆れてしまった。

 彼女の存在に気がつかなかった理由が今になって分かった。

 要は先入観だ。敵は霊的な存在という、予測。この場には人が誰もいないという、思い込み。これが彼女をすぐに知ることが出来なかった原因だ。

 ……まったく。情けありません。

 これが戦場だったら、私はまず生きていませんね。まだまだ修行が足りないという事ですか。

 しかし、それもそこまでで、それらの思考を一旦頭の隅へ押しやり、認めた『彼女』を見て声を荒げる。


「か、会長!! い、いきなり何するんですか!? と言うより、どうして会長がこんな時間にここに居るんですか!?」

「ああ、それ? 別に大した理由もないけど、ただたんに生徒会の仕事が思いのほか時間がかかっちゃった、ってだけの話よ。まー、遅くなったんで、本当は帰ろうかと思ったんだけど、せっかく夜の学校にいるんだから、探検でもしようかなっておもってね。その最中でヒカリを見つけて声をかけたってことよ。――――そんなことより」


 そう言うと、会長は私をジロリと見てきた。


「―――何かしら? その格好は。仮装か何か? と言うより、犯罪の匂いががプンプンするわよ。それに『こんな時間に』と言うならお互い様ね。貴方こそどうしてこんな夜中に巫女さんが着るような赤い袴なんか着て、学校なんかに居るのよ?」


 し、しまった!!

 私は顔が、カァー、と熱くなっていくのを感じた。

 はっ、恥ずかし〜〜い!! しかも、よりにもよって(他の人よりはましだけど)この学校の裏のボスと言ってもいい会長に見つかるなんてぇぇぇええ!!

 しかし、ここで素直に理由を説明するわけにもいかないし………ここは何とかして誤魔化さなければ………


「へぇ、い、いや〜、これは、その〜……」

「どうしたの? 何だかスッゴい汗よ? ひょっとして、会長である私に言えないことかしら?」


 私が視線をあらぬ方向に向け、大量の冷や汗をかきながら必死で言い訳を考えていると、会長はこれでもかと言わんばかりにスッと目を細め口元に笑みを称えながら、私に顔を近ずけて来た。



「やっ、こっ、これは、だからその〜………」


「『だから』、何?」



 さらに、会長の顔が顔に会長の吐息がかかるほど近ずいて来た。




 顔に彼女の吐息がかかり、さっきとはまた違った意味で顔が真っ赤になってしまう。



「だっ、だから、その〜………そっ、そんな事より今の夜の学校はとっても危険なんだから!!いくら会長でもこんな遅くまで学校なんかに居ないで、早く帰った方がいいよっ!!」


 私が少し強引に話を逸らそうとしたら、会長は顔を離し『ハァー』と深くため息をついた。


「ヒカリ……何度も言っているだろ、私のことは真琴まことと呼べと。なのに貴方は『会長、会長』ばっかり………」

「えっ………ですが、真琴さんは会長なのでそうお呼びするのが道理かと思いまして……」

「なら、私が許可します。ヒカリ、これからは私のことは『会長』ではなく『真琴』と呼ぶように………」

「えっ、え〜〜と………で、でも、会長? 流石にそ―――」

「『会長』じゃないって言っているでしょ!! 真琴よ、真琴!!」


「い、いや………でも………」

「ま・こ・と・よ」


 そんなまたもや鼻先が当たりそうな超至近距離に顔を近ずけて来て、有無も言わせないような笑顔で、しかも一字一字区切りながら言わなくったって………



 説明が遅れましたが、この人の名前は白羽しらばね 真琴まことさんと言います。

 苗字からわかるように彼女は彩花さんの実の娘で、三人姉妹の長女だそうです。

 聞いた話によりますと、他のお二人も真琴さんに負けず劣らずの美少女だとか……

 ともかく、真琴さんの凄いところは、もちろん天下の白羽グループの血を受け継いでいるのもそうですが、それだけでなく、勉強をやらせれば常にトップ。知識量はハンパなくあって、彼女に尋ねればほぼ100パーセントの確率で答えが返って来ます。更に、スポーツをやらせれば球技は勿論のこと、その他もアスリート顔負けの実力の持ち主。特に格闘技系が得意で、日本の全国大会で優勝経験があるのは空手をはじめ、合気道、柔道、剣道。

 外国の武術では、ボクシングにキックボクシング、ムエタイ、テコンドー、カポエイラ、更にはフェンシング、etc.………

 その他にも、杖道、居合道、古武術、手裏剣、ヌンチャク、人身投げ、馬術に致までほぼ完璧に身に付けています。

 加えて趣味も多才で、炊事、洗濯、裁縫、料理はもちろん出来て、特に料理何て趣味の域を軽く越える腕前だし、音楽や美術などの芸術関係も一級品。そして、華道や茶道もこなせるそうです。

 まぁ、他にも挙げたらキリが無いのでこのくらいにしておきます。

 こんな凄い特技を沢山持ってる真琴さんですが、人としても素晴らしい人で、人に対して常に自分の立場なんて気にせず接することが出来る人なんです。そのため、あらゆる年齢の人々に好かれ、絶対の信頼が置かれています。

 だから、今年入学したばかりの真琴さんが、前代未聞の高校一年生で『白羽学院生徒会長』という学院トップの座に着いているのもしっかりと肯けます。

 そういえば、私は何故か真琴さんにとても気に入られています。だから、顔を合わす度に今みたいに『真琴』と呼ぶようにと言われています。

 私としては、自分の立場と彼女の立場を考えて『会長』と呼びたいのだけれども………

 あれ? そういえば、いつから私は真琴さんに名前で呼ぶように言われているんだっけ………………

あぁ! そうか!! そういえば、入学して間もない頃、他校の不良に不本意ながら“女”として絡まれて貞操の危機に陥った時に、偶然通りかかった真琴さんに助けてもらったことが有ったんだっけ!!その時、思わず術を使っちゃって焦ったのなんのて………そうそう、あの時は焦りの余り不覚にも真琴さんが『白羽』だと気付かなくって図々しくも『真琴』と呼んでしまったんだ!!

そうだ!! それからだ!! 彼女が私に名前で呼ぶように頼んだ(強制している)のは………


「……リ………いて………、ねぇ、ちょっと聞いてる!!」

「へぇ? ……あっ、ああ勿論聞いてますよ、会長!」


 イケナイ、イケナイ。全く聞いてなかった。


「だから、会長じゃなくて真琴と呼びなさいと言っているでしょ!!」

「はっ、はひぃ!! ままままままま真琴さん!!」


 私が真琴さんの凄まじい剣幕に驚いて、思わず名前を呼んでしまうと、『よし!!』と嬉しそうに頷き、ようやく顔を元の位置に戻してくれた。

 こっ、怖かった〜……………………………………………………………………あっ…………


 その時、私は今までに感じたこと無い気配を感じた。


 悪霊や妖怪の類とは明らかに異なり、まるで、冷たい触手のようなもので、体の内側からじわりじわり浸食されていく………そういった感覚………

 何処までも冷たく、深く、そして残虐。

 耐えきれず、私はその場に片膝を着いてしまった。

 私の手足は自然に震え、額には汗が浮かび、次第に息も荒くなってきた。

 あるのは、恐怖、憎しみ、そして絶望だけだ。


「えっ!! ちょっ、ちょっと!! ヒカリ一体どうしたの?! しっかりしなさい!! ヒカリ!? ヒカリ!?」


 私がいきなりこんな状態になってしまったからなのか、目の前であたふたしながら、真琴さんは心配そうな声を出した。


「………だ、い……じょうぶ………ですよ………真琴さん………」


 私が何とか絞り出した声は、途切れ途切れで大丈夫とは到底思えないほど、弱々しかった。


「そんなわけ無いじゃないの!! ちっとも大丈夫そうじゃないわよ!!」


 それは案の定、彼女を安心させるどころか、更に不安を煽っただけだった。


《……タ……ス……ケテ……》


 突然、脳内に助けを求める声が響いた。

 誰かが襲われている!!

 その声を聞いた瞬間、恐怖は殆ど消え去り、逆に私自らに怒りを覚えてきた。

 私は一体何をしにここに来たんだ!! 助けないと!!

 私は未だ震える、自分の手足をしっかりと叱りつけ、立ち上がった。

 そして、すぐさま声のした方へ向かって駆け出した。


「! ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! どこに行くの!? ねぇ、ヒカリーーー!!」


 後ろから真琴さんの慌てたような声が聞こえてきたが、理由を話す暇なく、一刻を争うので、心の中で謝りながら、後ろも振り向かず走っていった。



◆◆◆◆◆



「ハァ、ハァ、ハァ、―――」


 確か……この辺りから聞こえてきた気がするんだけと……

 真琴さんと居たあそこから、ここまでほぼ全速力で駆けてきた。

 ここは、校舎の裏。

 辺り一面にうっそうと生い茂る木々で覆い尽くされている。

 しかし、辺りを注意深く見回しても助けを求めていた声の主は見当たらなかった。

 ここへ来る途中、あの冷たい感覚は跡形もなく消え去っていた。

 私の脳裏に嫌な予感がよぎる………

 私は、その嫌な予感を振り払うため頭を左右に振った。


「?!」



 その時、目の端に何かが映った。

 すぐさま駆け寄ると、それは白いネバネバとした糸のようなモノだった。

 そして、それは私の前方………つまり、校舎の裏のうっそうと生い茂った木々の方へ、奥深くに入って行く形で点々と付いていた。

 まるで、狩人が獲物を蛇のごとく追いかけているかのように………

 私はその方向へ、辺りに注意を払いながら慎重に進んでいく………


 そして、見つけた………


 そこは、他と比べて明らかに白い糸の量が多く、そして、そのほぼ中心には無惨にもバラバラにされた二宮金次郎の像があった。

 この像は本来なら、白羽学院のだだっ広いグラウンドの前に在るはずで、こんな所に在るべき物じゃない。

 それがここにあるということは、答えは一つしかない。

 それは、この像自らここまで歩いてきた、と考えるに他なりません――いや、この状況を観るにここまで逃げて来たのか……

 別に私はふざけている訳ではありません。

 皆さんは、人形や人の形をした物に魂が宿ることがあると知っていますか?

 人形や人の形をした物は時に、人と同じような魂を持つことがあります。それも、長い年月の間、人間と共にしてきた物は特にその傾向が強く観られます。

 よく、学校の怪談なんかで出てくる、生きている人体模型、笑う理科室のガイコツの模型、校庭を走る二宮金次郎像もそういった関係のものです。

 そして、私の目の前で無惨にもバラバラになっているこの二宮金次郎の象もそんな魂を持ってしまったモノの一体でした。


 私はその場にしゃがんでバラバラになってしまった二宮金次郎の像の頭部を両手で持ち上げ抱え込む。


「ごめんなさい………」


 私はその二宮金次郎の像に心から謝った。

 例え人間でなくても、その魂や心は人間と大差ありません。むしろ、彼らは人間よりもより人間らしい純粋な心を持っています。


「……ごめんなさい……」


 私はもう一度、目の前の像に心から謝った。

 自然に私の頬に涙が伝ってくる。

 彼を助けられなかった事と、あの時、怖じ気付いて全く動くことの出来なかった私自身が悔しくて悔しくて、憎らしくって私は思わず涙を流してしまった。

 しばらくして、私は彼の頭部を抱えたまま、彼を捕まえていた白いネバネバとした糸を調べ始めました。


「……これは何だろう? ……パッと見は蜘蛛の糸のようだけど………こんなに強い妖力で作られているのは初めて見た………一体、どんな奴なんだろう………この糸といい、さっきの感覚といい、今まで私が退治してきた妖怪とは訳が違う………」

 

「キャァァァァァァアアアア!!!」


 その時、突如、真琴さんと思われる悲鳴が校舎の方向から聞こえ、夜の白羽学院を切り裂いた。

 私としたことが、迂闊だった!!

 彼を襲った“ナニカ”が、まだこの辺りに居てもおかしくない。すると、この悲鳴は真琴さんが彼を襲った奴に襲われている合図かも知れない!!


「……クソッ!! ………」


 私はすぐさま、真琴さんの悲鳴が聞こえた校舎の方へ全速力で駆け出した。



 真琴さん、無事でいてくれ!!


ここまで読んでいただきありがとうございます!!



前回が余りにも説明分ばかりだったので、今回は出来るだけ減らして少しは小説らしくしたつもりです。



評価や感想、メッセージ、誤字脱字等がありましたらお願いします。どんな些細な事でも構いません。よろしくお願いします!!



それでは改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございます!!



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