表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/37

第18話 し、仕方ないじゃないですかっ!

 私はただただ、真琴さんの桜色の唇に吸い寄せられるように顔を下ろす。

 真琴さんの熱い息遣いを感じる。

 それを感じながら、私は更に顔を下ろした。




 しかし、私と真琴さんの唇が触れ合うことはなかった。

 それはなぜなら――


「カチカチカチッ!!」

「デスヨネ ワタクシモ アソコニ モモイロノオーラガ ミエマス」

「ヒュー、ヒュー♪ よっ、アッツアツゥ〜♪」


 ばっ! とさっきまで起き上がれなかったのが嘘みたいに凄まじい勢いで私は起き上がった。

 顔が物凄く熱い。ひょっとしたら蒸気が上がっているんじゃないかな?

 素早く声がした方へと振り返る。――この時、心の中で小さく舌打ちをしたのは、当然私だけの秘密です。

 そこには言わずもがな、学校のお化けトリオがこっちをニタニタといやらしい笑みを浮かべて、ガン見していた。

 切に勘弁して貰いたい。


「おや? おっしぃ〜、あとちょっとだったのにね、ひかりん♪」


 その内の、一番生身の人の姿をした、白銀の髪をした中学生くらいの女の子が、私に向けて相変わらずニタニタとした笑みで言う。


「あっ! それとも、あたしたちのせい? いっや〜、ごめんね〜、ひかりん。でも、あたしたちのことそっちのけで、目の前でいちゃつかれてたらつい言っちゃってさぁ〜♪」


 そう本気かどうか何とも微妙なことを言いながら、主に私に向かって笑いかけてくる女の子。

 そういえば、真琴さんと一緒で、女の人の糸で縛られていたんだっけ。すっかり忘れてました。

 けどそんなことは、とりあえずどうだっていい。それよりも問題なのはこの異常な暑さと汗。

 見なくても分かる。絶対、今私は耳までタコみたいに赤くなっていて、頭からは蒸気が立ち上っているに違いない。

 正直言って、穴があれば入りたい。穴がなければスコップを持ってくるなり、モグラになるなりしてなんとしてでも深い穴に入りたい。具体的には二十メートルくらいの穴に入りたい。そして、そのまま地震が起こって、出入り口が閉じちゃえばいいんです。


「な、なんのことでしょうか……?」


 く、苦しいよ、私。かなり、無理があるって。しかもこんなこと言ったら、まるでなにかヤマシイことをしていた人そのものじゃないですか!


「ほっほぉ〜。ひかりんは、自分がなにをしていたのか分からないんだぁ〜。そうかそうか、分かったよ――」


 そう言うと、雪ちゃんは糸で雁字搦がんじがらめにされているのにも構わず、身体を上下に動かして私のもとまでやって来ようとし始めた。

 ……一応ツッコミましょう。あなたは、イモムシですか。

 とにもかくにも、雪ちゃんはそのまま私の目の前まで這って来ると、邪悪な笑みを顔いっぱいに綻ばせて、さっき途中で切った話しの続きを言う。


「――つ・ま・り、ひかりんは無意識にあぁんなことをしていたんだね♪」


 ぐはっ! そ、そうきましたかっ。正直、予想外ですよっ! しかも『あぁんなこと』って言うとき、妙に力がこもっていませんでしたか?

 あぁ〜〜、そんな、そんな満面の笑みで私を見ないで! お願いしますから、見ないでぇ〜〜!!


「……ヒカリ……それホント? ホントに無意識に、この私にあんなことやこんなことをしたの?」

「ひやい!」


 その時、不意に私の、それも真横からおぞましいほど冷気が漂ってきた。

 な、なんですか、この横から来る冷気。いや、殺気。一気にマグマのように熱をもっていた、顔やら身体やらが急速冷凍されましたよ。この異常な量の汗たちも氷の結晶に早代わりですよ!

 さ、寒い。寒いよぉ、ブルブル。

 こ、殺される。間違いなく殺される。殺されちゃうよぉ!

 ていうか、え、なに? 膨張してる!? 膨張してるよ、真琴さん!

 なんですか、あんなことやこんなことって! なんか、私が卑猥な人間みたいに聴こえるじゃないですか!

 しかも、まだ何もしていませんから! 未遂です未遂! 私はまだやってない!


「や、やだなぁ〜、真琴さん。そ、そんなわけないじゃないですかぁ〜……」


 自分でももはや無茶苦茶なことを言っているのは理解している。けど、私にどうしろと? この状況下で私に何を言えと?

 もう、冷や汗だらだら。本音を言わせていただくなら、今すぐこの場から尻尾巻いてでも逃げ出したい。


「お? 認めた? 認めたね? ひかりん、今、認めたよね!?」


 ぐっ、今度はそっちが来たか! も、もう勘弁してください。ホント、土下座でも何でもしますから、これ以上なにも言わないでぇ〜。

 

「ねぇ、ねぇ、ひかりん。今、認めたよねぇ?」

「な、なんのことでしょう、メリーさん?」

「あれぇ〜、よくきこえなかったなぁ〜。ねぇ、まっこん?」


 ニタニタとした笑みを崩さず、雪ちゃんは隣の真琴さんに言う。


「……ヒカリ……やっぱり、そうだったのね?」


 それを真琴さんは、変なあだ名をつけられた事には反応すら示さずに私に問う。


「いいいえ、あの、その、なんていうか………気の迷い? そ、そうです、気の迷いですよ、真琴さん!」

「そっか……そうなのね。ヒカリは気の迷いで、私に……」

「ち、違います! 違いますからその振り上げた拳を下に降ろしてください! さっきのは、その〜、あれです、あれ」

「あれって、なぁ〜にかな、ひかりん♪」

「それは、だから、その……つまり私が言いたいのは……」


 二人の交互の質問に私はもうけちょんけちょん。なんか、自分で墓穴を掘っている気が、ものすっごくするんですが、たぶん間違いじゃないはず。


「……つまり……何?」


 真琴さんが顔を伏せながらも私に私に問いかけてくる。

 真琴さんの周りだけ、気温が氷点下にあるのはおそらく私の気のせいではあるまい。

 しかも、背後に目を血走らせたヒョウがこっちに牙を剥いているのも気のせいではあるまい。

 ぶっちゃけ、誰かたすけてぇ〜〜。


「ねぇ、ねぇ、ひかりん。つまり、なんなんだよぉ〜」


 真琴さんとは対照的にメリーさんこと雪ちゃんが、そりゃもう満面の笑みを浮かべながら私の更に近くにぐいぐいとイモムシのように近づいてきた。

 本当に実にこの状況を楽しんでいるように見える。てか、絶対にそうだ。

 真琴さんの背後が血に飢えた猛獣なら、この娘は目の前にあるネコじゃらしで遊ぶ、キラキラとした目を持つ子猫に違いないありません。絶対にそうです。そして、ネコじゃらしは確実に私です。

 もう一度言います。誰かたすけてぇ〜〜。


 ふと思ったのですが、今この状況って他に類を見ないものじゃありません?

 片や猛獣を従えた絶対零度を発している、地上最高の権力を持っているであろう生徒会長。片や子猫のように他人をネコじゃらしごとき扱いで遊ぶ、学校のお化けメリーさん。

 そんな二人が、巫女さん装束を着た男子生徒に交互に、さきほどその男子生徒が行っていた行動について詰め寄っている……というこの状況。

 ……果てしなくシュールですよ、これ……ありえません、本当に。泣いてもいいですか?

 しかも、もとを正せば全部私が悪いというね。…………ありえません。

 例えるなら今の私の状況は、私の後ろは切り立った崖で、目の前には牙を剥いた氷山を引き連れたヒョウと、悪魔のような愛らしい子猫がじりじりと詰め寄ってくる状況に違いないです。まさに逃げ場なし。絶対絶命。一貫の終わり。あるいは、THE END。

 冗談でもとてもじゃないですが笑えない状況です。

 ああ、神様。私は一体なにをしたの言うのでしょうか。何か悪いことをしてしまったのでしょうか。どなたか、どうか教えてください。

 あっ、そういえばしましたね、悪いこと。しかもほんの四、五分前に。それならそれで、罰を与えるまでの時間が幾らなんでも早すぎやしませんか? ちゃんと罰は受けるので、どうかこれ以外の罰にして下さい。……本当にお願いします、神様。


「「ねぇ、どうなの?」」


 二人の声が綺麗にシンクロする。また、それに合わせて、二人して一緒に顔をずいっと近づけてくる。

 あっ。これはまず間違いなく何を言おうと私に待つのは『死』ですね。

 短い人生でした。母上、どうか先立つ私をお許し下さい。

 まぶたを閉じると、冷たい何かがそっと出てきた気がした。


「……それは」

「「それは?」」


 またもや二人の見事なまでのシンクロ。けれど、それぞれの表情はまさに雲泥の差。冷たい猛獣と悪魔なお化け。

 私は息を吸い込む。


「それは…………だって、私は思春期の男の子なんだもん! ……って言ってみたりして。あ、あははは」



 …………。



 そういった瞬間、私たちの周りだけ時間が止まった気がしました。





「〜〜〜〜っんの――」


 真琴さんが俯いたままでゆっくりと立ち上がる。

 声色からも十二分に分かるほどの殺気が滲み出ています。

 さ、さあ、来いッ! どどどどど、どんな罰でも、あっ、甘んじてう、受けてたとう――じゃなくて、受けてたたせていただき…ま……す……よぉ…


「――ヒカリの……」


 そうボソッと言ったかと、キッと顔を上げて、どこかのマンガのヒロインみたいに足を天高く振り上げ、


「……バカーーーー!!」

「ぐほっ!!」


 そのまま白い霧を伴って私の脳天へ一直線。私は動けずクリティカルヒット。冷たく硬い渡り廊下にこんばんわ。


 ……ふっ、やりましたね、真琴さん。あなたのカカト落しは、きっと音速を超えましたよ――


 その後、しばらく真琴さんの荒い息と、雪ちゃんが釣り上げられた魚よろしくバタバタと悶えながら爆笑していた声と、


「カチカチチ」

「ゴシュウショウサマデス ライセデハ ドウカオシアワセニ」


 というなんとも失礼な声がどこか、遠いところから聞こえてきていました。




 …………最後に、私はこれだけ言っておきたい。

 真琴さん、お願いしますかカカト落しだけは勘弁してください。真面目に死にます。

 ほら、頭から白い湯気が出てますし、血も出ていますから…………

 ……あと、真琴さんは仮にも女の子で、それに今スカートを穿いているんだから、カカト落しはやめようよ、ねぇ?




 あれ? そういえば、何故私は自分自身を見下ろしているのでしょうか?


ここまで読んで下さり、有り難うございました!!


というわけで、久々のコメディーでした。

いかがでしたか? ちょっとは、笑えましたでしょうか……(冷や汗)


そんなことより、大ニュースです!!

なんと、一日に二話も更新する事ができました。

前々回ぐらい(曖昧)に次ぐ快挙です。やはり、コメディーだったからでしょうか。それとも、今までの鬱憤が堪っていたからでしょうか。


でも、たぶん、GWのお陰ではないかと思います。


GWバンザ〜イ!!←


この調子で、あと一話位GW中に更新できるかと思います、はい。


……たぶん、ですが。



次回からはまた戦闘に戻りますが、もう終わります。ていうか終わらせます。終わったらコメディーに戻れるかと思います。ええ、コメディーに戻して見せます。…………ひょっとしたらあまり長く続かないかもしれませんが(ボソッ)


こんな事書いていると、『なんでジャンルがコメディーなんじゃい!!』という怒声が聞こえてくるような気がしないではないのですが、頑張ってコメディーを主体にしていきたいと思います。


最後に一つだけ。

今回の話で前回の後書きの口直しはできたでしょうか? 出来ていたなら幸いです。実は、あれを書いた後、後悔していたり(ゴニョゴニョ)


そ、それでは、今回はこの辺で失礼します。

次回も是非読んでください。どうかお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

☆少しでもお気に召しましたら、ワンクリックをよろしくお願いいたします^^☆

★拍手を送ってみる★

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ