第13話 妖しきオンナ
思ったより早く更新できて、ちょっぴり安心しています。
そして、戦闘シーンだと(上手い下手はとりあえず置いといて)スイスイと書けてしまう自分が、なんとなく憎い……
では、どうぞ!
間違いない! 全身から溢れ出ている禍々しい妖気。こんなに遠くからでもわかるナイフのように鋭く、今にも凍えてしまいそうなほどに冷たいオーラ。先ほど放たれたあの糸のこの感じ。間違いない。目の前にいるあの女性こそが今回の事件の犯人。
迂闊だった。これほどの妖気を持っているのに、何故最初の攻撃が来るまで全然気がづかなかったのだろう。手が震えているのがわかる。怖い。今まで感じたことのない恐怖が私を襲う。今にも逃げ出したい衝動に駆られる。だが――
今逃げれば次はない。それに、ここで逃げてしまったら、真琴さんたちが危険な目にあってしまう。
瞼を閉じて大きく息を吸い込む。そして、ゆっくりと吐き出して気持ちを落ち着ける。
よし、いける!
私は勢いよく目を開けると、掛け声とともにあの女の人に向かって駆け出した。
距離は大して離れていない。この距離ならばものの数秒で女の人の下へたどり着く事が出来るだろう。
けれども、今のまま何も考えずに飛び込んでいったら返り討ちにされるのは目に見えている。
ならどうする?
今、お互いにお互いを真正面から見据えている。今更隠れて不意打ちを食らわす事は出来ない。第一、私はもう走り出している。
ならどうする?
私は走りながら高速で頭を働かせる。
戦いの基本はいかに相手の裏をかくかにある。相手の予想外の攻撃、予測不可能な手段。それらを使い相手に戸惑いやら焦りを生ませる。そうして生まれた戸惑いや焦りは相手の動きを一瞬ではあるが動きを止める事が出来る。
ほんの一瞬でも構わない。戦いの中ではその僅かな時間が勝敗を大きく分けるのである。
ならどうやってその隙を作る?
私はさらに頭を捻る。
そうこうしている間にどんどんと彼女に近づいていく。
「我もしばし眠っておったからの。加減の仕方には少し自信がなくなってももうたな。とは言え、そう簡単にやられてくれるなよ、弱き人の子よ」
紫色の見たこともないような服をした彼女がそう言って嘲笑う。
だが、そんなの構っている暇はない。
私は両足に霊力を送る。もうこれしか彼女の裏をかき、尚且つ攻撃を与える機会を作る方法は残されていない。
踏み出した足の膝を深く曲げ、力を溜める。
一瞬、私の体が止まった後、両足に溜めていた霊力を爆発させる。
その勢いを使い、残りの距離を一気に縮める。
そして、左手で右手を支えつつ彼女の腹部に押し当てる。
この技は我が家に伝わる技の一つで、縮地法を改良したものだ。
両足に霊力を集中させ、それを一気に爆発させる事により目にも留まらぬ速さで移動する事が出来る。
この技はこのよう不意をつかった攻撃は勿論の事、素早いあやかしに難なく追いつくことも出来、さらには咄嗟にその場から逃げる事も出来る。
だが、どんな優秀な技にも欠点はある。この技の場合、足にそれなりの負荷がかかり、あまり多用しすぎると足がダメになる場合がある。幾ら、霊力を使っているからと言ってもとの足が生の人の足なのだから仕方がない。
また極めれば、全十六方位に移動する事が出来、一歩で数十メートルを一気に移動できるのだが、生憎私にはまだ、十六方位はおろか八方位にも及ばない四方位しか体得していない。
正直言って今の私には勝ち目がない、と言わざるを得ないかもしれない。けれども、そうやすやすとやられる訳にはいかない。
「ハッ!!」
詠唱なんて唱えている暇はない。全身の霊力を右の手のひらに集中させて、一気に放出させる。
手から青白い光が当たり一面にまるで稲妻のように走り出す。
しかし、手のひらに手応えを感じる事はなかった。
「ぐっ!!」
右のわき腹に強い衝撃が走り、私はそのまま横に吹き飛ばされる。
「ごほっ、ごほっ――」
うつ伏せに倒れたまま、何度か咳き込み、痛みに顔をしかめながら顔を上げると、先ほど私がいたちょうど横辺りにあの女の人は余裕の表情で立っていた。
「ふむ。なかなか、と言いたいところではあるが、所詮はその程度か」
そう言うと、その女の人はまた嘲笑う。
私は手のひらをぐっと握り締めると、素早く体を起こし肩膝を突くと、手のひらを前にクロスさせ腕を前に目一杯伸ばす。
『我が目の前にいるは 邪悪なるモノ その光の矢をもって彼のものを貫き 正しき罰を与えよ』
詠唱とともにクロスに合わせた両手から光り輝く矢が現れ、彼女のもとへ一直線に伸びていく。
「ふん」
しかし、その矢も片手で易々と払われてしまった。
払われた矢の破片が光り輝く雪のように、その女の人を中心に舞う。
「ほれ、我を退屈させてくれるな、弱き人の子よ」
「くっ」
よろよろと蹴られたわき腹を押さえ、私は立ち上がる。
そして、力一杯女の人を睨む。
「まだです」
言うが早いかまた両足に霊力を込め、爆発させる。
すぐに女の人との差は縮まり、お互いにお互いの顔が目と鼻先まで近づく。
そして、再び両手を重ね合わすと詠唱を唱える。
『罪と言う罪は在らじと――』
「遅い」
「ぐっ」
今度は詠唱を唱える暇もなく横へ吹き飛ばされる。
冷たく硬い廊下の床に激しく叩きつけられ、何度か飛び跳ねた後、横に倒れこむ形でようやく止まった。
「う……うぅ……」
「ヒカリ!」
「ひかりん!!」
今までショックのためか、身動き一つしなかった真琴さんたちが駆け寄ってくるのがわかる。
「ヒカリサン ダイジョウブデスカ?」
「カチカチカチカチ、カチカチ!」
ジンタ君とガイ子さんも来てくれたみたいだ。
「ヒカリ、しっかりしなさい!」
そう言いながら、私を抱きかかえる真琴さん。
その目には、驚愕と焦りと不安と、そして何より恐怖がありありと映し出されている。
「弱い、弱すぎるぞ。弱き人の子――いや、虫けらよ。そなたの力はその程度か? 実につまらん」
体を起こし、あの女人を見れば、見るからに呆れたといった感じで、髪を横に払う。
唇を強く噛む。
悔しい……どうして、かすり傷をつけることはおろか、まともに触れる事すらできないんだ……
ふと、女の人から視線を外すと、抱きかかえてくれている真琴さんと視線が合う。
そうだ……今私は一人で戦っているんじゃないんだ。後ろには雪ちゃんにジンタ君にガイ子さん、それに真琴さんだっている。それに――
「くっ」
「ちょっ、ちょっと!」
私が無理やり起き上がろうとすると、上から心配そうな真琴さんの声が聞こえてきた。
しかし、私はその声を無視して、両手を床に着く。
腕が震えて力が上手く入らない。
それでも、私はそんな自分を叱りつけながら立ち上がる。
だが、体はふらふらとゆれ、上手く立ち上がってもなお、体のあちらこちらに力が入らず、今にも倒れてしまいそうになる。
「真琴さん、有り難うございます。けど、今はまだ危ないですから、少し下がっていてください」
「ちょっ、何言っているのよ! そんな体しているくせにまだやるっていうの!」
「えぇ、もちろんです」
そう言うと、後ろで叫んだ真琴さんに笑顔を見せる。
――それに、私は誓いましたから。真琴さん。あなたを護るって。
「冗談じゃないわ! そんな体をしているってわかってるのに行かせる訳ないじゃない!」
そう叫ぶ真琴さんに、私は困ったような笑顔を向ける。
「そんな事言われましても、状況が状況ですし……」
それに実際のところは、今こうやって悠長に話している暇なんてないんですよ?
「わかっているわよ! だからここは一時退却して、体を休めるべきだって言っているのよ!」
さて、困りましたね。言っていることはもっともなんですが――
私はちらっとあの女の人を見る。
見ると、彼女は腕を組んだまま、まるで目の前で愉快なサーカスでも見ているような表情で立っていた。
――あの人が相手では、逃げるなんて不可能でしょうね……
私は、はぁ、と一人ため息をつくと、真琴さんの後ろにいる彼らの方を見る。
「ちょっとの間、真琴さんをよろしくお願いしますね」
私がそう言うと、ジンタ君とガイ子さんがかくんと頷き、その皮膚のない筋肉がむき出しの腕と、文字通りの骨の腕で真琴さんの両腕を掴む。
「ひゃっ! ちょっと、なに! キャァァァアア!」
私は二人に腕を掴まれ、顔面蒼白になって悲鳴を上げている真琴さんを見て、なんとなく申し訳ない気持ちになった。
彼女のためと思って頼んだけど、と一人苦笑を浮かべる。
全部が片付いた後、仕返しに何かされそうで怖いなぁ……
その時、袖をくいくいと引っ張られる感触があり、そちらの方を見ると、真っ白な髪に大きな碧の瞳を持つ少女が私を見ていた。
「ひかりん、大丈夫なの?」
その顔からは普段のふざけた感じはなく、緊張を浮かべていた。
私はそれをにっこりとした笑みで、えぇ、大丈夫ですよ、と言うと、納得したように頷き、未だ悲鳴をあげて後ろに引きずられている真琴さんたちのほうへ駆けていった。
「さて、もう終わったか?」
振り返ると、さっき見た腕を組んだ格好のまま、あの女の人は立っていた。
「えぇ、お待たせしました」
私はそう言いつつ、女の人と正面から対峙する。
「なかなか、良い余興だったぞ」
「それはそれは、お褒めの言葉、ありがたく頂戴します」
「ふん、我が言葉は重いぞ、虫けら」
お互いに軽口を叩きあいながら、お互いに動きを静止する。
しばらく、お互いに口を閉ざすと相手の様子を伺う。
だが、それもどうやら私だけのようだ。
なぜなら、彼女は動いたかと思えば、組んでいた腕を下に下ろし、片手を腰に当てただけだったのだ。その顔には余裕の笑みさえ見受けられる。
「ほれ、どうした? かかってこないのか、虫けらめ」
ニヤリと女の人は笑い、相変わらずその場から動かない。
疑うまでもない。あの女の人は私を見て、楽しんでいるんだ。わかってはいても、見下されれば腹が立ってくる。
しかし、私もさっきとは違う。
さっきは早く倒さなければという、焦りがあり、不要に攻めてしまった。
けど、もう大丈夫。
私は目を瞑り、再び息を深く吸いゆっくりと息を吐き出す。
そして、目を瞑ったまま右腕を横へ肩の高まで水平に持ち上げる。
意識を辺りに集中させ、呼びかける。
「ほう。次は何をするつもりか」
どんな表情をしているのかはわからないけど、きっと今の私を見て嘲笑っているのだろう。
私はその声を無視し、さらに呼びかける。
どうか、そのお力を私に貸してください……
しばしの間の後、私は右手に風を感じた。
答えてくれた……
右腕を中心に風がゆっくりと渦巻いているのがわかる。
私は、私の呼びかけに彼らが答えてくれたのが嬉しくて、少しだけ笑みを口元に浮かべる。
ありがとう……
それに答えてくれたのか、腕にさらに強く巻きつくように風が回る。
私はそれを確認すると、瞑っていた目をゆっくりと開き、目の前で嘲笑う女の人を見る。
そして、先ほどの問いに答えるべく、口を開く。
「名もなき、風の神様に力を貸していただくんですよ」
それを聞くと、女の人はさも愉快そうな笑い声を上げる。
「なんと、そなたのような虫けら風情がそのような事まで出来るのか。だが、所詮は名もなき低俗な神よ。我の取るに足らん」
今度はそれを聞いて、私が笑う。とは言っても、声には出さず、口元をそっと歪めるだけだけど。
「さぁ、それはどうでしょう? やってみなければわかりませんよ?」
「なめた口を。よかろう。相手をしてやる。さっきみたいにそう簡単に倒れてくれるなよ」
「えぇ、それはもちろん」
未だ水平に上げている腕を中心に風が渦巻き、私の服はパタパタと仰がれている。
さぁて。これからが本番ですよ!
私は口元を歪めたまま、今度は掛け声もなく、あの女の人のもとへ向かって駆け出した。
続くなぁぁぁあああ!!
はい。いきなり申し訳ありません。ここまで読んで下さり有り難うございます。
いやぁ、ちょっぴり困りました。
実はこの回と次回で戦闘を終わらせようと考えていたのですが、どうも後、1話増えてしまいそうです。
はぁ、困りました。どれもこれも、全部ヒカリがコテンパンにされたせいです←
しかも、次回神様使うのかよっ!
これは僕自身もまったくの予想外で、真面目にどうしようかと思っております。が、きっと大丈夫でしょう(苦しい笑顔)
とまぁ、そんな事はとりあえず宇宙の端までぶっ飛ばしておくとして、前回の後書きで書いた『遅れるかも宣言』について、少しだけ書かせていただこうかと思います。
ちなみに、↑の変な宣言は軽くスルーしてください。
いえ、別に大した事ではないのですが……
実は僕、他に短編を幾つか書いていまして(それも全部書きかけ)、そろそろ完成させないとな、と激遅なのに思い、今そちらの方も本格的に書いている途中なんです。
ちなみに書きかけの短編は、だいたい五作くらいあります。まさに、どんだけだよ!、と自分自身にツッコミを入れております。軽く泣きそうです。
はっ! 気が付けば、こんなに長々と……
申し訳ありません(汗)
いつも自重しているのですが、どうも自分は長々と書きたい性分なようです。
はぁ、本当は前回やった真琴の説明みたいに、ヒカリの事も軽くここで書こうと思っていましたのに……
まぁ、誰も期待なんかしていないと、開き直りつつ、次回の後書きに書こうかとたくらんでおります←
やばいです。また長くなってしまいました(汗)
いい加減切り上げないと、永遠に書いてしまいかねませんので、今回はこの辺で失礼します。
それでは、改めましてここまで読んで下さり有り難うございます。
どうか、あと2話ほど戦闘にお付き合いください。
それでは失礼します。