白い部屋、帰還
最終話です。
完結ってことですね。
後書きで報告がありますので、見ていただけるとうれしい限りです。
では、どうぞ。
遊雨が目覚めたのは、なにもない白い部屋だった。
不思議と心地よい部屋。
『おめでとうございます』
その部屋に男か女か分からない中性的な声が鳴り響く。
彼以外誰もいない場所で、誰かの声がしたのだ。
「誰だ?」
『谷原遊雨が、先程脱出した場所を生み出した者でございます』
「あの地獄みたいな場所のか? 悪趣味な奴だな」
そうは言ったが、遊雨に怒りや殺意はなぜか湧かない。
自分でも不思議に思っていると、謎の声が返答する。
『悪趣味ですか。ですが、なんと言われようが構いません。私は、谷原遊雨に鬼を倒した報酬を授けるために、ココへ呼んだだけですから』
「報酬だと?」
『そうです。谷原遊雨には、死者を一人復活させる権利が与えられます』
「アレで一人か」
鬼との死闘を思い出して、遊雨は小声で言った。
それに、謎の存在はこう返す。
『死者を誰でも生き返らせることができるのです。十分でしょう。すでに他界している者ならば、誰でも蘇らせることができます』
つまり、学園で死んだ者以外でもいいということである。
そう考えれば、かなりいい報酬ではある。
だが、学園の人間以外だろうと遊雨の答えは一つしかない。
「なら、水戸野紗千を生き返らせてくれ」
遊雨に迷う時間などなかった。
今の彼が最も叶えたい願いが、それだ。
『いいのですか? 本当に水戸野紗千で?』
「構わない。紗千には命を救われた恩もあるし、まだ答えを聞いていないからな」
『そうですか。では、水戸野紗千を蘇らせましょう』
「なぁ、もうこれで戻れるのか?」
『はい。谷原遊雨は、元の世界の日常へと戻ります』
遊雨の問いに謎の声が答えた。
このやり取りを終えたら元の世界に帰ることができる遊雨だが、彼は最後に謎の声に問いをぶつけることにした。
「ところで、なんのために俺たちを化け物と戦わせた?」
『なんのため、ですか』
少し間を置いてから、謎の存在は答える。
『あの戦いに意味などありません。起こるべくして起こった自然現象のようなものです。地震などと同じですよ。そこに意味などありません』
「自然現象、か」
自分たちが命をかけて戦った時間を〝自然現象〟で片づけられた遊雨だが、なぜか納得できた。
『神が与えた試練ということです』
「傑作だな。そうだ」
『なんでしょう』
「死んだ奴はどうなった?」
紗千が生き返ることになった彼にとって、その質問はどうでもいい内容ではあった。
だが、こうして元凶と話ている自分にはそれを尋ねる責任があると、遊雨は思った。
『アレはゲームなどではありません。死んだものは、生き返る資格がないのなら死んだままです』
「そうか。もういい」
『では、谷原遊雨。脱出おめでとうございます』
謎の声が言うと、遊雨の視界は黒く染まって意識を失った。
/////
遊雨は、病院の一室で眠っている。
同じ病院内には、片桐や翔彩たちも搬送されている。
世間では、謎の集団心臓麻痺としてかなり話題になっており、世界的にものすごい注目を集めている。国が現在詳しい原因などを調べている。
結局のところ、遊雨たち以外の生徒は死亡した。
生き残った者の大半は眠っているが、命に別状はない。
地獄のような世界から帰還するために一番の功労者である遊雨も、傷一つなくベッド上で横になっている。
そんな彼を、隣のベッドから涙を流しながら見ている病衣に身を包んだ女子生徒がいる。
彼女は、普段より重い体を動かしてベッドから立つ。
「………遊雨」
愛しい人の名前を呼び、彼女は彼の元まで行く。
涙を拭って、遊雨の頬に触れて伝える。
「私も……私も遊雨のことが好きよ」
愛のこもった言葉を眠る遊雨に告げてから、彼女は彼の唇に自分の唇を重ねた。
このたびケージ:エスケープが完結しました。
そこで、報告があります。
現在、番外編と続編を投稿することが決定しました!!!
拍手)
さて、番外編に関しては九月から日向という作者と共に製作にあたっております。
日向は知人で、二人で別々の主人公の目線から脱出劇を描いていけると思いますので、猫だるまと日向をよろしくお願いいたします。
orz
続編に関しては、完結を連載に変更して投稿しますので、こまめにチェックしていただけると、ありがたいです。
では、近いうちにお会いしましょう。
さらばっす。