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ケージ:エスケープ  作者: 猫だるま
私立城南学園編
7/8

頂点に立つ存在、終わりへのカウントダウン

もうタイトルで、気づいてますよね?


気づいているよね?


そうだよね?


え、そうですよね?

 彼は、どこかの教室で目覚めた。

 よく知っている建物の天井が男の視界に映っており、左右に視線を向けると机やイスなどがあった。

 教室。

 だが、その教室の壁や机などには乾いた血液が付着していた。

 日本の学園を舞台にしたパニックホラー映画のセットのような場所に、彼はどうしているのか一瞬分からなかった。

 男は、最初は死後の世界かと思った。

 しかし、徐々に思い出していく。

「(………そうだ……鬼に殺された)」

 化け物の頂点に立つ鬼に殺されたはずの彼は、なぜかあの地獄と呼ぶに相応しい場所に戻ってきている。多くの化け物を殺して、多くの人たちの死体や死ぬ瞬間を見て精神的にも肉体的にも疲れきった彼は、死ぬことで開放されたはずなのだ。

 自分で体を起こすと、折れ曲がって肋骨が飛び出していた上半身は綺麗に元通りなっており、目立った外傷もない。

「生き返った?」

 実感の湧かない男だが、自分の姿は死んだ当時の姿とは少し変わっている。

 まず、上半身は裸で下は当時の制服を着ている。

 そして、サブマシンガンと鞘に収められた長剣二本などが教室の端に置いてあった。

「アレは俺の武器だ。ということは、本当に死んでいないのか」

 死ぬ直前に見た武器と現在の状況を考えれば、彼は生き返ったと考える他ない。

 生き返った。

 それが可能なことを彼は覚えている。

「………蘇生薬か」

 男は見たことがないビンに入っている赤い液体。

 それ以外に、自分が生き返った理由を彼は思いつかない。

 とりあえず彼は起き上がって、閉まっているカーテンを少し開けて外を見る。

「化け物がいない」

 死体はあるが、生きている人面犬などは彼の視界には映っていない。

 一体も見つからないことに少し違和感を覚えていると、教室のドアが開き人が入ってきた。

 咄嗟にドアの方に振り返ると、そこには目元を赤くした天上寺歌恋がいた。

 彼女の手には、水の入ったペットボトルが握られている。

「起きたんですね、先輩」

 嬉しそうだが、それでもどこか悲しさを感じさせる笑みを歌恋は浮かべた。

 そんな彼女に彼は問う。

「俺は、生き返ったのか?」

「はい。水戸野先輩や片桐先輩のポイントを合わせて交換した蘇生薬で」

 谷原遊雨は、生き返った。

 歌恋からその事実を直接聞くことで、遊雨はようやく自分が生きていることを本当の意味で知ることができた。

 ひとまず死んでいないことに安堵した彼は、歌恋に尋ねる。

「ところで、紗千たちはどこだ?」

「………桜木先輩と片桐先輩と二階堂先輩は、生存者を探しています」

 遊雨は、歌恋の表情と上げた名前にとてつもない嫌な予感がした。

 なぜ彼女が目元を赤くしているのかも、その予感通りなら説明がつく。

 しかし、遊雨はそれを認めない。

 いや、認められない。

「じゃ、じゃあ………紗千はどこに行っているんだ?」

 聞くことに一瞬恐怖しながらも、歌恋に答えを求める。

「……………」

 彼女は、なにも答えない。

 代わりに、目から大粒の涙を流しながら小さく首を横に振った。

 誰でもこの対応で水戸野紗千がいったいどうなったのかは察することができる。当然、遊雨も告白した相手がどうなったのか気づいてはいる。

 だが、彼は壊れたように笑いながら言う。

「ハハハ……ハハハハハ………なぁ? 冗談だろ? そうだよなぁ? さ、紗千が死ぬわけがないだろう?」

「……………」

 やはり、歌恋は涙を流し遊雨を見るだけで答えない。

 遊雨は「水戸野先輩は生きていますよ」と言って欲しいのに、彼の目の前にいる女子生徒は黙っている。

「頼むから………紗千は生きているって、言ってくれ」

 泣きながら懇願する遊雨に、歌恋は涙を拭ってから告げる。

「水戸野紗千は、死にました」

 しっかりと一字一句聞き漏らすことなく、歌恋の言葉は遊雨に届いた。

 彼はその場に崩れ落ちると、頭を抱えて声にならない叫びを上げる。

「ああああ………ああああああああああああああああああああああッ!!!」

 憎しみ。

 恨み。

 怒り。

 悲しみ。

 悔しさ。

 殺意。

 それらが遊雨の心の中を渦のように回り、心を黒く染めていく。

 自分が鬼を殺していれば、もっと早くカメレオンを倒していれば、などと頭で考えながら遊雨は叫ぶ。

 渦巻く感情を外へと吐き出すように声を発して、この世界へと訴える。

 そんな彼を歌恋は泣きながら強く抱きしめる。

 やがて涙も出なくなった遊雨の代わりに、歌恋は涙を流し続ける。

 何分。

 何時間。

 もはや大まかな時間の経過すら分からない二人だが、徐々に落ち着いきた。

「先輩、落ち着きましたか?」

「………あぁ」

 まだ疲労を感じさせる声だが、時間が彼に落ち着きを取り戻させた。

 遊雨はポイントで上着を手に入れようとしたが、現在のポイントは『0ポイント』と表示された。自身の職業は変化していない。

 死亡すると、ポイントが消えることを彼は知った。

「どうぞ」

 事情を察した歌恋は自身のポイントと交換して、遊雨のための上着を渡した。

「すまない」

 そう言って上着を着ると、長剣とともに置かれていたベルトを腰につけて、鞘を差す。鞘から二本の長剣を抜いて刃を確認してから収めて、今度はサブマシンガンを手に取る。

 一度マガジンを外して残弾数を確かめてからセットし、ドアへと歩き出す。

 しかし、歌恋に手首を掴まれて止められる。

「離してくれないか?」

「ダメです」

 断られたので少し力を込めて振り解こうするも、離れない。

「離せ」

「ダメですッ!! 先輩が行っても殺されますッ!!!」

 涙目になりながら止める歌恋を遊雨は睨む。

 彼も殺されることは分かっている。

 それでも、遊雨は紗千の仇を取らなければならない。

 無理矢理行こうとする遊雨に、歌恋が伝える。

「水戸野先輩は、生きて欲しいって言っていました………いいんですか? 一人で行っても殺されますッ!! そんなの………ダメですよッ!!!」

 歌恋と紗千の思いが込められた言葉に、遊雨は進もうとした足を止める。

 遊雨は拳を血がでるほど握り締めて、強く歯を食いしばる。

 だが、少しして全身から力を抜き、彼は歌恋へと視線を向けた。

「………ずるいだろ……そう言われたら、行けないだろ」

「大丈夫です。片桐先輩たちが戻ってきたら、皆で策を考えましょう」

 彼女はそう言うと、イスに腰を下ろす。

 遊雨も同様に、イスに腰を下ろした。

 まだ戻ってこない片桐たちを待つ間に、歌恋は隣に座っている遊雨に現在の状況を伝えることにした。

「先輩、今の状況を聞きますか?」

「………頼む」

「生存者は、私たちを含めると三十人くらいです。片桐さんたちと見回ったところ、校庭にある大きな用具倉庫の中に二十名ほどを見つけて、あとは少数で隠れていた生徒が十人ほど見つけました。彼らは、部室棟に避難しています」

 生存者のうち、戦闘可能(職を持っている者)は遊雨と行動していた者たちだけで、隠れていた生徒は自分の身を守ることしかできない。

 また、その生存者探しの際に遊雨の死体も発見された。

「鬼は幾人かの生徒を殺したあと、私たちに六時間の猶予を与えてからは校庭に立っています。片桐先輩たちは、役に立ちそうなものを探しています。こんなところです」

「残りの時間は?」

「三時間くらいです」

「そうか」

 遊雨は歌恋から現在の状況を教えてもらうと、自分が戦闘した記憶を思い出す。

「(アイツの皮膚はワニと同じくらい固い。それに、射撃は全て放電で弾かれてしまい、あの驚異的な速さと打撃力で殺される)」

 当時の体験から敵の特徴をまとめるが、遊雨としては実際に戦った者にしか伝わらない部分が多いことを分かっている。

 あの化け物の頂点に立つ鬼の脅威を言葉で伝えるのは、彼が思うに不可能。

 相手の速さに自分が対応できるか、放電で弾丸を防がれてからの対応などは戦闘しないと理解できない。

 だが、問題はそこではない。

「鬼は普通の攻撃では倒せないだろうな」

「それって」

「アイツは言うなら化け物の中でも完全に別格だ。当然剣もそこまで効かないし、弾丸もあまり通じない。おそらく手榴弾も避けられる」

「先輩、それはさすがに」

「おかしいことではない。それに、戦って殺された奴の言うことは信じた方がいいぞ」

 それだけ言うと、遊雨は鬼を殺すための策を一人で思考する。

 今までの敵とは明らかに違う。

 生存者たちは、そんな相手へ勝利しなければならない。

 その道を切り開くために、集中して考える遊雨の横顔を歌恋は見ている。

「(やっぱり、先輩はすごい。それに………)」

 歌恋は無意識に頬を朱色に染らながら、遊雨から視線が離せなくなっていた。

 そのまま二分ほど経過して、ドアが開かれる。

 遊雨たちのいる教室へと入ってきたのは、片桐と翔彩と安藤と二階堂だった。

 四人は遊雨を見ると目を見開き、片桐が真っ先に走り出した。

「谷原ッ!!!」

 片桐は遊雨に駆け寄ると、強く抱擁して涙を流しながら言う。

「心配したんだぞ………なに一人で死んでやがる……バカやろう」

 男泣きという言葉が相応しい片桐の顔を見ながら、遊雨は「すみません」と戸惑いが混じった笑みを浮かべる。

「た、谷原くうううぅぅぅぅんッ!!!」

「うおッ!!」

 今まで見た中で一番酷い泣き顔のまま二階堂が彼に抱きついてきた。

 イスごと倒れた遊雨だが、「も、もう会えないんじゃないかって」と嗚咽混じりに彼の胸に顔を押しつけながら言う二階堂を見て、心が温かくなる。

「おかえり、遊雨」

 涙を流し微笑みながら翔彩が友人に言う。

「心配かけたな………悪い」

「本当よ。一人で残って、一人で死んじゃって………それで生き返ってきて」

「安藤にも心配かけたな。本当にすまない」

「あ、謝るな、バカッ!!!」

 四人とも泣きながら遊雨が生き返ったことを喜ぶ。

 そんな光景を彼は、自分は本当にいい人を出会えた、と思いながら見ている。

 やがて皆も落ち着いて、議題は鬼へと移り変わる。

 鬼が現れた以上、彼らが生き残るためには鬼を倒す他にない。

 六人ともそのことは承知しており、自然と対策を考えることになった。

「遊雨、早速で悪いけど鬼との戦闘した感想を聞かせてくれないか?」

「歌恋にはもう言ったが、鬼には剣と銃はあまり効果がない。厄介なのは、銃弾を弾く全身からの放電と、アイツの肉体だ」

「放電? それって、電気出すってこと?」

「まぁ、安藤が想像できなくても無理はない。俺も初めて見て、驚いた」

「つまり、強力な爆弾とかで吹き飛ばすしかないってことだね」

「二階堂先輩の言う通りですかね。現状の武装で倒すのは、確率として低いです」

 二階堂らしい発現を聞いた遊雨たちだが、彼女の言っていることは全く間違っていない。

 過去のケースから取り上げるなら、カマキリとの戦闘がそうである。

 あのときのようなポイントで交換できる武器ではないものを使用して、確実に仕留める必要がある。

「ところで、生存者が結構いるみたいですね」

「あぁ、三十人はいないが、俺たちが思っていたよりはいたな。今は部室棟で隠れている。戦力としては期待できないぜ?」

「大丈夫です。それより、よく見つけられましたね」

「安藤のおかげだ」

「私、生き残っている人を探せる魔法手に入れたの。それで、楽に見つかった」

 その魔法は紗千も使っており、範囲は限られているが生存者を探すには最適な魔法と言える。

 なぜ、短時間で生存者を見つけられたのかを知った遊雨は、話を戻す。

「片桐さんたちは、鬼に対してなにか策はありますか?」

「ねぇな。使えそうなものを探しに行ったがガソリンとかしか手に入らなかったぜ」

「………そうだったんですか」

 片桐からの報告を聞いた歌恋が、落胆する。

 しかし、彼女の隣にいる遊雨はなにやら考え込む。

「遊雨、どうかしたのかい?」

「いや………二階堂先輩、ガソリンってどのくらいありますか?」

「え? ちょ、ちょっと待ってね」

 尋ねられた二階堂は、背負っている大きめなリュックを開けて中から八本のペットボトルに入ったガソリンを取り出す。また中からは、マッチと水酸化バリウムの入った大きいビンも出てきた。

 それを見た遊雨は、告げる。

「劇物と火で倒すか」

「あ、あの、劇物って?」

「歌恋はまだ知らないか。水酸化バリウムは猛毒で、目に入れば失明を起こす」

「確かに、薬品で倒すのもありかもしれねぇ。あとは焼くってことか」

「そうなります。いくら鬼でも焼いてしまえば死ぬはずです」

 遊雨がそう言うと、二階堂が不敵な笑みを浮かべながら歌恋が持ってきた水の入ったペットボトルのフタを開ける。

 すると、そこに手をかざして離すと、水が生き物のように宙に浮いていた。

「も、もしかして………魔法ですか?」

「そうだよ。私が手に入れた魔法。これならガソリンを鬼に当てることもできるよ。あとは、マッチに火をつけて………ボンッ!!」

 相変わらず、火などが関わると豹変する二階堂だが、これで作戦は決まった。

 具体的な戦闘場所や配置を決めようとしたときに、ドアが開いた。

 もうこれ以上、ココにやってくる者はいないはずである。

 だが、外から一人の人間が入ってきた。

「ど、どうしてテメェがここにいやがるッ!! 死んだはずだろうがッ!!!」

 片桐は長剣を鞘から引き抜くと、刃先を向けて怒鳴る。

 また、翔彩は黙って銃口を向けて、安藤も刀の柄に手をかけて臨戦態勢を取る。

 ドアを開けて一歩だけ入ってきたのは、五式刹だった。

 鬼が紗千を殺したあとに片桐たちへ「谷原という人間も、五式とかいう人間も我が殺した」と教え、死んでいるはずの男がそこに立っている。

 遊雨を含める全員が、刹が原因でこのような事態になったことを承知している。

「えぇ、死にましたよ。遊雨さんみたいに、生き返りましたけどね」

「嘘よッ!! アナタがどうやって生き返るのッ!!!」

「安藤先輩、なにも誰かに蘇生薬をかけてもらわなくても、あらかじめ懐に入れておけばいいんですよ。運のいいことに、鬼君は僕をコンクリートに叩きつけたので割れたみたいです」

 もし、鬼が頭部だけを握りつぶしていれば、刹が蘇ることはなかった。

 あくまで、運がよかったのだ。

「刹、なにしにココへきた。オマエでも銃弾は避けられないはずだ」

「別に遊雨さんたちと殺し合いにきたわけじゃないですよ。むしろ、助けにきたんですから物騒なものはしまってくださいよ」

 意味ありげな笑みとともに、刹はこの場の全員に言った。

 片桐が反射的に否定しようとするが、遊雨がそれを手で制した。

「おい、谷原ッ!! コイツのせいで水戸野もオマエも死んだのにいいのかッ!!!」

「殺したいですよ………でも、刹の戦闘力は鬼との勝率を上げるには必須です。ガソリンで焼くにしても、水酸化バリウムで目を潰すにしても、奴の注意と引いて隙を作る必要がある」

 殺人鬼で今の状況を引き起こした張本人が自分たちに必要な理由を遊雨が言うと、刹はわざとらしい拍手をする。

 全員から睨まれながらも、刹は平然としていた。

「いいんですか、先輩?」

「勝つためだ。紗千との約束を守るためにも、敵討ちのためにも、絶対に勝つ」

 そう言うと、遊雨は刹に視線で訴える。

 すると、刹は微笑してから「分かっていますよ」と言った。

 チーム内の雰囲気などは置いて、これで鬼を討伐するメンバーが揃った。

 この世界での最終戦の火蓋(ひぶた)が切られるのも目前である。


 

 /////


 

 遊雨たち七人は武装して高等部校舎の三階にきていた。

 三階にくる途中に作戦に必要なものは全て用意し、今は準備を行なっている。

 作戦としては、鬼を二階で遊雨と刹が待ち構えて三階まで注意を引きながら誘導し、三階階段前に片桐が待機する。三階まで鬼を誘導することに成功すると、隙を見て水酸化バリウムの入った霧吹きで吹きかける。そこで視界を奪い、二階堂がガソリンを液体操作の魔法で操って鬼の体にかけて、マッチで発火させて燃やす。鬼を発火させると同時に、翔彩がサブマシンガンで、歌恋と二階堂がハンドガンで射撃し十分に撃ち込む。安藤は、遊雨たちが全滅したときに備えて待機。

 これが、今回の作戦の全てである。

 全員が配置についた時点で、作戦は開始される。

「リーダー、全員配置についたぞッ!!」

 片桐から合図を聞くと、歌恋からもらった呼び笛(吹くと化け物が寄ってくる)を口につけて勢いよく吹いた。

 すると、綺麗な音が鳴った。

「きますかねぇ」

「願うだけだ」

「………どうやら、願いが叶ったみたいですよ」

 刹はそう言うと、一階から上がってくる者が出てくるのを二丁のショットガンの銃口を向けながら、待つ。

 ダアアァァァァァンッ!!!

 寸分のズレもなく、対象が現れると同時に撃たれた二発の散弾を敵が回避するのは不可能であり、当たった。

 しかし、鬼は腕で顔を防ぎ両足を閉じて曲げることで当たる面積を少なくしていた。

 多少の傷を負ったが、ラスボスは遊雨と刹のいる二階へとたどり着いた。

 だが、鬼が射撃した相手を殺そうと動こうとする前に、肩に一本の槍が刺さる。

 それは、遊雨が渾身の力を込めて肩に鬼の頭上から降下して刺した槍であり、その直後片手にハンドガンが握られて鬼の耳へと向けられた。

「チッ!!」

 耳の穴から脳にダメージを与えようとした遊雨だが、鬼が放電したために宙返りしてギリギリで避けた。

「貴様は、あのとき死んだ人間かッ!!」

「で、ついでに僕もね」

 鬼が遊雨を向いている隙に、刹がショットガンの銃口を頭部に向けて近距離まで接近していた。刹がトリガーを引こうとするが、鬼は二丁のショットガンを蹴り壊した。

 蹴ったときにはすでに刹の手元から離れており、代わりに抜刀して鬼の足に斬り傷を与える。

「両方生きていたか」

「まぁ、僕は神様に愛されているみたいだかたね」

「俺もそうみたいだ」

 鬼は、楽しそうに笑みを浮かべ刀を構える刹と、右手に長剣を持ち左手にハンドガンを握り強い殺意の込めて睨む遊雨に挟まれている。どちらも、鬼に傷を負わせた人間であり、その強さは化け物の頂点を十分に殺せる。

 さらに、両者は一度戦闘している。

 放電されるまでの時間や範囲、鬼の速さと肉体、どのような攻撃をすればよいか。

 それらを知っている。

 最初の戦闘とは、状況はまるで違う。

「死なないでよ?」「絶対に殺す」

 対照的な言葉を発してから、遊雨と刹はラスボスに接近する。

 鬼は放電して二人を一旦離そうとするが、両者電気と電気の間をすり抜けて懐へと入ってきた。

「なにッ!!」

 これには驚くしかない鬼だが、その間に刹は刀で左腕を狙い振り上げ、遊雨は長剣で左脇に突きを放ち、左手のハンドガンで頭部を狙う。

 鬼は刹の攻撃は回避できたが、遊雨の突きと射撃は当たってしまった。

 弾丸は頬をかすり、長剣は比較的柔らかい脇に刺さった。

 遊雨は剣を引き抜いてから後転飛びで鬼から離れて、刹はそのまま追撃する。

「一対一とは、死ぬ気か」

「いや、遊雨さんにお願いしたのさ。少しは、一人で戦わせてくださいってね」

 話ながら、刹は避ける鬼に斬撃を連続して繰り出す。

 回数が増えるごとに鬼へ刃が当たる回数が増えていた。

「(どうなっている。なぜ、速くなっている)」

「速くなっていないよ。慣れてきたんだ。よっとッ!!」

 後ろに飛んで急にきた放電を回避するが、宙に浮いたままの刹に鬼の拳が迫る。

 だが、瞬時に鬼と刹の間に片桐が入る。

「ッ!!!」

 盾で防いだ片桐だが、あまりに強い衝撃で倒れる。

 だが、隠し持っていたショットガンを鬼へと向けてトリガーを引く。

 速さで勝った鬼は後方に下がって回避したが、その隙に遊雨と片桐と刹は三階へと駆け上がる。

「逃げるか、人間ッ!!!」

 逃げたことへの怒りからか、苦戦させられていることからか、頭に血が上っている鬼は三人の後を追う。

 三階まで一気に駆け上がった鬼は、目の前にいた遊雨に怒りの込められた拳を放つ。

 拳は遊雨の左腕に直撃した。

 だが、鬼の顔には霧吹きで水酸化バリウムが吹きかけられた。

 殴られた遊雨は窓ガラスを突き破って落ちた。

「ガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 水酸化バリウムが目に入り顔全体にもかかった鬼は、激痛に叫び声を上げる。

 また、両目を失明し、痛みで開けることすらできない。

 その場で暴れる鬼に二階堂が操るガソリンが直撃し、刹がマッチに火をつけて濡れた化け物へと投げる。

 すると、火が鬼を包む込み徐々に皮膚が焼けていく。

 火の熱さと水酸化バリウムによう激痛を味わう鬼に、翔彩がサブマシンガンで弾丸を撃ち込み、歌恋と二階堂がハンドガンで射撃する。

 弾丸と火と薬品の三つを受ける鬼は、火によって言葉を発することもできない。

 そこに、片桐が手榴弾を投げる。

 視界が奪われている鬼に手榴弾を回避することも防ぐこともできず、爆発した。


 

 /////


 

 安藤は生存者を探すことができる魔法を使い、煙で視界が遮られた校舎内で皆を探していた。

 反応は、五人。

 三階から地面へと落ちた遊雨は範囲外のため生死が分からないが、五人は生存している。

 少しずつ視界が回復していくと、安藤は鬼のいた場所に大きな穴が空いているのを発見する。その穴は、手榴弾によって廊下が破壊されてできたもので、威力の大きさを物語っている。

「あ、安藤………無事だったか」

 彼女の背後から腕などにかるい火傷を負った片桐が話かける。

「片桐先輩ッ!!」

 安藤はすぐに駆け寄ると、フラフラと立ち上がった片桐に肩を貸す。

「全く、とんでもない威力だぜ」

「大丈夫ですか?」

「なんとかってところだ。桜木とかはどうした?」

「まだ見つかっていません。生存しているのは確かですけど」

 見渡した限り、歌恋と翔彩の姿は確認できない。

 また、片桐の側にいた刹も見当たらない。

 片桐はそれを聞くと、安藤の肩から手を離して座り込む。

「片桐先輩?」

「俺のことはいい。どうせ一人じゃ動けない。二人を探しに行け」

「でも、その傷じゃ」

「俺たちがココにいるってことは、もう外に出られるか、鬼がまだ生きている二択だ。俺が思うに、後者だろうよ」

 片桐にそう言われた安藤は、自分たちが脱出できたかどうか分からないことに気がついた。

 安藤も片桐も鬼を倒したと思いたい。

 しかし、相手は化け物の頂点。

 まだ生存している可能性は少なからずある。

「分かりました。でも、死なないでください」

 それだけ言い残して、安藤は階段を下りて二階へと向かった。

 安藤が二階に下りると、そこでは翔彩と歌恋が戦闘していた。

 相手は、焦げて皮膚が焼けて黒くなって両目を失明し、立つことができない鬼である。

「あああッ!! 腕がッ!!」

 翔彩の左腕は鬼に噛み切られ、左手に持っていたサブマシンガンは床に腕と一緒に転がっていた。

 彼の後ろにいる歌恋は、片足のない二階堂を背負って泣きながら鬼から逃げている。だが、背負っている彼女にあまり力はなく、必死だが走れない。

 そんな状況の仲間を助けるために、安藤は抜刀して走り出す。

「天上寺ッ!! 僕が抑えているうちにッ!!!」

 右手に短剣を持ち激痛に耐えながら鬼と対峠する翔彩は、歌恋に叫ぶ。

 だが、焼け焦げて立てない鬼は四足歩行で獣のように大きな口を開けて、翔彩に襲いかかる。

「翔彩くんッ!!!」

 かなり傷を負っている鬼だがその速さは落ちてはいるが、人間を狩るには十分である。

 襲ってきた鬼に短剣を刺すが、翔彩は右腕も噛みちぎられた。

「………」

 大量の血を流しながら翔彩は倒れた。

「オ………オマエェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 好きな人を傷つけられた安藤は、人生で最大の殺意と怒りを声にして解き放って、化け物へと斬りかかった。

 聴覚のみで判断して行動する鬼は安藤の叫び声から場所を特定して、回避する。

 振り下ろした刀は空を斬ったが、彼女は横を通る鬼へ即座に刀を振り上げることで、右足を切断した。

 片足を失った鬼だが、三本となった足で一階へと逃げた。

 それを追いかけようとした安藤だが、殺意を無理矢理抑え込んで翔彩の元へと向かった。

 すぐさま彼を抱え上げて、メニュー画面から残っている『1530ポイント』から1000ポイント払って、万能薬と交換してビンのフタを開けて、翔彩の口に流し込む。

 しかし、彼の閉じられた目は開かない。

「お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願いッ!!」

「………あ……安藤…さん」

 目をつぶり翔彩を抱えたまま神に願う安藤の頬を温かい手を触り、その直後翔彩が声を発した。

 彼女が目を開くと、両腕が元通りになった翔彩が映った。

 安堵して両目から大粒の嬉しさのこもった涙を流しながら安藤は、翔彩を抱き寄せた。

「ありがとう」

 色々な感謝の込められた彼からの一言に、安藤は小さく首を縦に振る。

 歌恋も翔彩が生きていたことに安堵したが、二階堂の半分ほどない足の出血を止めるために、自分のスカートを切って太ももに巻いてきつく縛る。

「ご、ごめんね」

「なに言っているんですか。しっかりしてください」

 そう言われた二階堂は痛みに耐えながらも笑う。

 彼女なりに歌恋を少しでも安心させようとしたが、それは逆に彼女へある決意をさせる。

 歌恋は一丁のハンドガンを持つと、鬼を追って走り出した。


 

 /////


 

 黒い血液を斬られた足から流しながら階段を転がって、鬼は一階まで下りてきた。

「ハァ………ハァ……ハァ」

 呼吸する音以外出すことができない鬼は、もう勝てないと分かっていても、外への出口へと向かう。

 化け物の頂点としてのプライドなどない。

 今の鬼は、生への渇望で動いている。

 醜い化け物は必死になって歩く。

「おいおい、どうした鬼」

「ッ!!」

 声のした方へ鬼は向くが、見えてはない。

 そこにいるのは壁に寄りかかって座っている遊雨だった。

 左腕はありえない方向に折れ曲がっていて、背中にはガラスの破片が刺さっている。また。落ちた際に、足をくじいている。

「どうしてオマエがって思っているのか? 今のオマエみたいに移動してきたのさ。こうして見ると、結構醜いな」

 そんな遊雨の言葉など聞こえないように、鬼は口を開けて襲いかかる。

 遊雨は逃げもせず、ただ待つ。

 鬼は彼の足へと噛み付いたが、同時に頭部に銃口が突きつけられた。

「いいさ。食えよ。足くらいどうでもいい」

 トリガーに指をかけて遊雨は続ける。


「紗千の(かたき)を取れるなら」


 そう言って、トリガーを引く。

 フルオートのハンドガンはマガジンがなくなるまで、鬼の頭部に銃弾を撃ち込む。

 全弾を鬼へ撃つと、視界の端のメニュー画面に『脱出条件クリア。残り一分で脱出します』と表示された。

 勝ったというより、遊雨は殺せたという思いの方が強かった。

 遊雨は自分の足に噛み付いたままの鬼を引き剥がすと、下から上へと視線を向ける。

 そこには、歌恋の姿があった。

「やりましたね」

「あぁ………死にかけたけどな」

 メニュー画面の表示は『50』『49』『48』とカウントダウンされていく。

 あと一分もしないうちに、生存者はこの世界から脱出できる。

「あの先輩、私………」

 歌恋はそこで言うか迷った。

 結果が分かっているのに今告げる必要があるのか、と彼女は思う。

 だが、なぜか口に出す。

「先輩のことが好きです」

 人生で初めての天上寺歌恋の告白。

 場所は最悪。

 状況もいいとは言えない。

 それでも歌恋は、今伝えないといけない気がした。

 彼女は、この世界から脱出できるなら、この世界で芽生えた恋にも決着をつけたい、そう思ってしまった。

 告白された遊雨は、驚いた表情はしなかった。

 うすうす感じてはいたのだ。

 そして、もしそうなった場合の返答は決まっていた。

 遊雨は歌恋の目を見て言う。

「俺には好きな人がいるから、つき合えない」

「知っていました」

 歌恋は、微笑みながら言った。

 悲しそうな笑顔を見せた歌恋に遊雨は告げる。

「言い忘れていたことがある」

「なんですか?」

 カウントダウンが迫る中、精一杯の気持ちを込めて彼は言う。


「あの時、止めてくれてありがとう」


 そう言うと同時に、表示されていた数字が『0』になった。











前書きでイライラした方、すみませんでしたorz


二度とやりません。


やってほしい方がいましたら、感想で送ってください。


一人でもいましたら、実行しますので。


では、次は最終話です。

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