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ケージ:エスケープ  作者: 猫だるま
私立城南学園編
6/8

殺意の応酬、彼の目的

もうすぐ終わるかも?と今回で思うかもしれませんね。


果たして、終わりは近いのでしょうかねぇ。


エンドは作者しか知りませんが、ご期待ください。

 遊雨は射撃音を控えるために、高等部校舎にたどり着くまでの化け物を全て長剣で斬り殺して、高等部校舎の体育館通路側の入口にやってきた。

 だが、そこはカギがかかっており中には入れない。

 そこで、別の進入口を探そうと立ち去ろうとする。

「保健室のドアが開いていますよ」

「どうして、キミが」

 遊雨にそう言ったのは、片桐たちと残ったはずのショートヘアーの女子生徒だった。

「キミじゃなくて、天上寺歌恋(てんじょうじかれん)です。先輩に、みんながいる場所を教えようと思って」

「そうか。ありがとう」

「みんながいるのは、四階の物理室です」

「物理室か。分かった」

 歌恋にみんなの居場所を教えてもらうと、「中等部校舎に戻るまで守ってやる」と遊雨は言って、歌恋が校舎内に戻るまで警護した。

 無事に送り届けると、彼は保健室へと向かった。

 行くと歌恋の言ったとおり、ドアが開いていた。

 中に入ると、紗千を助けるために気絶させた男子生徒と雨海の姿はなかった。

「まぁ、縛っていなかったし、当然か」

 嫌なことを思い出した遊雨だが、すぐに振り払って先を急ぐ。

 保健室を出てすぐに階段があったので、そのまま二階三階と上がっていく。

 だが、三階付近で話声が聞こえてきた。

 遊雨は隠れて耳を澄ます。

「ったく、化け物狩りも面倒だぜ」

「まぁいいじゃねぇか。アイツのおかげで女子と散々ヤれたんだから」

「確かにそうだな。武器も貰えたし、いい後輩だぜ。ただなぁ」

「なんだよ?」

「水戸野とヤれねぇのが最悪だぜ。あんな巨乳アイドルを見ているだけなんてもったいねぇ」

「しょうがねぇだろ。俺らは可愛い子で我慢すればいいさ」

 その会話を聞いた遊雨は、更なる情報を聞き出すために彼らの前に出た。

 一瞬で一人を一撃で戦闘不能にする。

「なんだッ!!」

「敵だよ」

 そう言って、手刀で相手の持っていた剣を叩き落として足払いで倒し、その上に乗ってサブマシンガンの銃口を頭部に向ける。

 完全に身動きが取れなくなった男子生徒の表情は、死に対する恐怖を表していた。

「オ、オマエ………あのときの」

「なんだ、水戸野を襲って逃げた人か。まぁ、今はどうでもいい」

 遊雨は銃口を強く突きつけてから、告げる。

「俺の質問に答えろ。でないと、殺す」

「わ、分かった………答える」

「(コイツ、他人を殺すは平気でも自分は死にたくないって奴か。どうして生き残っているのか不思議だな)」

 遊雨は冷えきった両目で男子生徒を見ながら、問う。

「オマエら、男子一人と女子二人の三人組を捕まえただろ?」

「水戸野たちのことだろ」

「そうだ。殺したのか?」

「い、いや、アイツが殺すなって言うから殺してない」

「アイツ?」

「もの凄く強い化け物みたいな奴だ」

「(もしかして、刹か? 別人の可能性も………いや、この状況で生き残っている奴で化け物みたいに強い奴なら、刹で決まりか)」

 十分な情報が手に入ると、遊雨は男子生徒の首根っこを掴んで持ち上げてその腹に強烈な一撃を叩き込む。

 男子生徒は気絶して、遊雨にゴミのように投げ捨てられた。

「………本当に、法も秩序もないな」

 誰に言ったわけでもなく呟くと、遊雨は四階へと向かう。

 階段を半分くらいまでくると、女子たちの悲鳴と男子たちの騒がしい声が聞こえてくる。

 法も秩序もない世界。

 物理室にいる者たちは、それ理由に欲を素直に貫いている。

 だが、それは彼らだけに限った話ではない。

 谷原遊雨も同様である。

 彼にも、この世界なら法が適用されない。

「……………」

 物理室のドアの前に立つと、ドアを蹴り破った。

 瞬時に中へと入り、女子生徒の服を脱がして己の欲を満たしている男子生徒の一人に向けて、発砲する。

 また、銃口を向けてきた相手よりも速く撃ち、次々と殺していく。

 相手の弾丸が腹部に当たっても構うこともなく、殺意を行動に移す。

 マガジンの弾が切れたときには、物理室いた男子生徒八人の内六人が死亡し、一人が重症で、残りは無傷となっていた。

 遊雨は腹部から出血しながらも、冷静にマガジンを交換してリロードする。

 そして、壁に寄りかかって震えている男へと銃口を向ける。

「……あ……ああ」

 男子生徒の目に映っている遊雨からは、想像を絶する殺意が感じられる。

「案外、人を殺しても悪人ならなにも思わないな。どうですか、殺される側に立った気分は? まぁ、女子たちへの行いとかを考えたら当然ですよね。雨海先輩はどう思いますか?」

 目の前で震えている雨海は、恐怖で震えてなにも言えない。

 保健室とか状況が違う。

 遊雨がトリガーを引けば、その時点で彼は確実に死ぬ。

「答えてくださいよ。あぁ、罪のない人を殺す気分ってどうでしたか? 爽快でしたか? 俺はアナタ方を殺しても全く気分が晴れませんけど」

 そう言うと、銃口を彼の太ももへと向けて容赦なく撃つ。

「がぁッ!!! 痛ってえええええええぇぇぇぇぇッ!!!!!」

 痛みでのたうち回る雨海の右肩を足で抑えて、動きを止める。

 武人で元々高かった身体能力が強化された遊雨は、その力をフルに使って相手の肩を抑える力を強くしていく。

「あまり動かないでくださいよ………ズレたら楽に死ねませんよ?」

「クソがッ!!! なんでオマエなんかにッ!! がぁぁぁぁああああああああッ!!!」

 遊雨が反対側の太ももに再度撃ち込んだ。

 そして、言う。

「なんで? アンタが俺をこうさせているんだよ」

 純粋な怒りと殺意。

 今の遊雨をこうさせているのはこの二つの感情であり、それを呼び起こしたのは他ならぬ雨海たちである。

 自らが呼び寄せた悪魔。

 それが、今目の前に立っているだけのことである。

「その辺にしてあげてくださいよ、先輩」

「………刹か?」

 声の聞こえた方を遊雨が見ると、縄で縛られて刹にショットガンを背後から向けられている翔彩たちが入ってきた。

「ようやく、人を殺しましたね。まぁ、遅かったですけど僕は嬉しいですよ。これで、僕と先輩は同じ土俵に立ったわけです」

「黙れよ。紗千たちになにかしたか?」

「いえ、なにも。僕は雨海先輩たちと協力関係にあっただけで、女子生徒を襲うなんて卑劣なことはしていませんよ」

 刹はそう言うと、短剣を引き抜いて三人の縄を切った。

 だが、すぐに言う。

「あぁ、まだ喋らずにいてください。それと動いたら殺しますから」

「「「………」」」

 三人は素直に従うしかない。

「遊雨さん、マガジン外して床に投げてください」

「………そうすれば、開放して逃がしてやるってことか?」

「えぇ、残念ながら僕は遊雨さんより面白い相手を見つけましてね。その相手の実力を試すためにも、遊雨さんにはココでリタイアして欲しくないので」

「よく分からないが、今はオマエに乗せられてやる」

 そう言って、遊雨はサブマシンガンのマガジンを外して床へと投げた。

 すると刹は、「大人しくココから出て階段を下りてカメレオン探しでもしていてください」と言い遊雨たちを殺すこともなく、中にいた女子生徒たちも逃がした。

 遊雨は、彼の言動に思惑を感じるも素直に従った。

 こうして、物理室での騒動は終幕を迎えた。

 隠していた万能薬を飲んだ雨海は、起き上がると怒りの言葉をぶちまける。

「ふざけやがって、あの野郎ッ!! 絶対に殺してやるッ!!!」

「無理ですよ。雨海先輩ごときが敵う相手じゃありません」

「なんだと、テ ―――――――― 」

 雨海が最後まで言うことはなく、その胴体は抜刀された刀によって斬られた。

 付着した血を振り払って鞘に収めると、刹は時計を見る。

「まぁ、雨海先輩たちは囮としてはよくやってくれましたよ。おかげで、カメレオンも楽に見つけられましたし。まぁ、拘束しましたけど」

 刹は、遊雨たちがヤギと戦闘する前に大量の人間のいた部室棟のドアを開けておくことで、カメレオンが寄ってくるのを待っていた。自分の近くにさえくれば、誰が殺された瞬間にハンドガンで下半身を狙って撃ち、出血させることで透明でも場所が分かるようにして、自慢の武術を駆使して捕獲した。

 捕獲されたカメレオンは高等部校舎の屋上に鉄線とガムテープで何重にも巻いて、放置してある。

 刹は、物理室を出ると屋上へと向かった。

 屋上にはカギがあるが、そんなものは刹が破壊しており、誰でも入れるようになっている。

「来たか」

「約束通り、キミを戦わせてあげるよ。だけど、先に谷原遊雨と戦ってくれよ? でないと、キミの実力を確かめられない」

「無論だ。(われ)は貴様との取引を受け入れた。それは、守ろう」

 刹が会話ている相手は、檻の中にいる二メートルの全身の皮膚が赤く二本の角が生えており、背中からは黒い骨が幾つも突き出ている。

 戦闘をするためだけに鍛え抜かれた肉体。


 それは、鬼である。


 刹の言った面白い相手とは、本来ならこの戦いに出てくることはない化け物である鬼のことだったのである。

 彼は最初から、鬼と戦うことを望んでいた。

 クリア条件を見たそのときから、この瞬間まで。

「そこのカメレオンなら好きにしていいよ。キミが出たら、殺すなり放置するなりしてくれ。僕はただ、キミの実力を見てから戦いたい」

「全く、貴様は本当に人間か? 我の知る人間なら戦うことを避けるはずだが?」

「僕はね。本気って奴を出してみたいのさ」

「つくづく分からない人間だ。まぁいい。早く攻撃しろ」

「もちろんするさ。でないと、鬼が出られない」

 刹は、鞘から短剣を抜いて軽く鬼に向けて投げた。


 こうして、脱出条件は一つだけとなった。


 


 /////


 

 十人の捕まっていた女子生徒と翔彩たちを助けた遊雨は、皆と一階まで下りてきていた。

 高等部校舎内の化け物はゼロに近く、彼らは敵と遭遇することもなくスムーズに進んでいる。

「遊雨、ありがとう」

「当然のことをしたのに、礼なんて言うな。それより、本当にケガはないか?」

「えぇ、大丈夫よ」

 遊雨と紗千が話ていると、翔彩が申し訳ない表情で口を挟む。

「あのちょっといいかな?」

「どうした」

「いや、あの刹って子の言葉が気になって」

「遊雨にリタイアして欲しくないって言っていたこと?」

「それもそうだけど、カメレオンでも探せって言っていたのが気になってね。ヤギとカメレオンとかなら分かるけど、カメレオンって断言していたってことは僕らがカマキリとヤギを倒したのを知っているってことじゃないかな?」

 翔彩にそう言われた遊雨と紗千だが、そのことについて大してなにも感じなかった。

 知っていても別におかしくはない、と二人は思い、例え知っていたとしても問題はないと考えたのだ。

 だからこそ、翔彩の言いたいことが伝わらない。

「あぁ、それっておかしいよね」

 安藤が頷きながら言った。

 彼女は理解したが、遊雨と紗千は分からないままなので、安藤が教える。

「だって、あの戦い大好き男が早くカメレオン倒して脱出させてくださいなんて言う?」

「そういうことね。確かに、あの刹って人がこの世界から脱出したいと思っているとは考えにくいわね」

 紗千もようやく翔彩と安藤が感じた疑問に気がついて、同意した。

 また、遊雨もそのことを分かった。

 そのことで、彼はなにか大事なことを忘れていることに気がついた。

「………なにか、忘れている?」

 そう思い画面から脱出条件を確かめると、あることを思い出した。

 本来なら彼らには必要のない項目。

 それは、刹の言った「面白い相手」というのにも当てはまり、遊雨たちが例えカメレオンを見つけたとしても彼にとってなんの害もない。


 『三、鬼の討伐(生き残っている全員が脱出。ただし、鬼へ攻撃した場合には三以外の脱出は不可能となる)』


 ココに表示されている鬼こそが、五式刹の言っていた面白い相手である。

 このことを察した遊雨は、この答えから彼の言動の意味を理解した。

「(あのときの、相手の実力を試すためって言っていたのは、俺と鬼をぶつけるためってことかッ!! 普通に考えて刹はヤギやカマキリじゃ満足できないから鬼を選んだってことになる。だとしたら、俺たちを逃がした後にアイツがする行動は一つしかない)」

 あのとき分からなかった五式刹の言動で、遊雨は彼の目的を全て理解できた。

 また、それと同時に巨大な危険が迫っていることを知る。

「逃げろッ!! 今すぐ、ココから逃げろッ!!!」

 遊雨は紗千たちと後方にいる女性生徒全員に聞こえるように、大きな声で叫ぶ。

 急な遊雨の異変に、紗千たちは戸惑いを隠せない。

「ど、どうしたの?」

 心配そうに見つめる紗千を遊雨は強い意思の込められた眼差しで見つめて、告げようとするが、上の階で窓ガラスが一気に割れたような音がして遮られた。

 直感で鬼がきたと判断した遊雨は、大声で言う。

「敵がきたッ!! 今すぐ、中等部校舎に逃げろッ!!!」

 遊雨の言葉を受けて女子生徒たちが一斉に走り出し、翔彩と安藤と紗千は武器を構える。

 だが、そんな三人に彼は低い声で思いを伝える。

「オマエらも逃げろ」

「なにを言っているのよ。私たちも戦うわよ」

「そうよ、谷原。なに格好つけているの」

 紗千と安藤がそう言うも、翔彩だけは遊雨の思いを言葉と表情から読み取った。

 付き合いが長いからこそ分かったこと。

 だが、なにも言わない翔彩の表情からは苦しさと悔しさが滲み出ている。

「頼む、翔彩」

「………分かった」

 言葉を搾り出した翔彩は、安藤と紗千の手首を強く掴んで走り出す。

 紗千は戻ろうとするが、男子である翔彩の力に叶うはずもなく引きずられる。

「遊雨ッ!! 遊雨ッ!!!」

 何度も彼の名前を叫び、涙を流しながら戻ろうとする。

 そんな紗千の姿をひどく悲しそうな目で遊雨は見ながら、言う。


「俺は、紗千が好きだ」


 ドアから彼女が出る寸前で、遊雨は思いを伝えた。

 それが届いたかは、彼には問題ではない。

 心残りをなくすことが、遊雨がしたかったことであり、答えが返ってくることは最初から期待していない。むしろ、それをさせないように言ったのだ。

 逃がし終えた遊雨の表情は、妙な清々しさをしている。

「(最初は万能薬が手に入るから助けて、その後なんとなく一緒にいた。でも、紗千に何度も救われて今の俺がいる。あのとき助けたのは、やっぱり正解だった。少し前の俺は知らなかったが、好きになる人だったんだからな)」

 そんなことを思いながら、遊雨は広い一階の廊下でサブマシンガンを片手に持ち、画面から万能薬一個をポイントで交換する。

 万能薬の入ったビンをズボンのポケットに入れて、サブマシンガンを構える。

 十秒もしないうちに、階段から化け物が現れた。

 全身が赤く角があり、背中から幾つもの黒い骨が突き出て、ヤギなどを遥かに越える威圧感を放つ鬼が、彼の前に立った。

 恐怖。

 この世界で何度か遊雨が感じてきたソレを上回る恐怖が、全身を震え上がらせる。

 間違いなく、化け物中の化け物であり、その頂点。

「貴様が、谷原遊雨だな?」

「名前を知っているとは、オマエを出した狂った人間が教えたのか?」

「ハッハッハッ!! なかなか吹くなぁ貴様。確かに、あの男が我とぶつけたがるのも頷ける」

 鬼はそう言って、一歩踏み出す。

 すると、床に亀裂が入って凹んだ。

「………冗談にして欲しいな」

「現実だ、人間。我と貴様らでは天地の差があり、本来ならば我が出ることはなかった。あの三体で終わっていたのだ。まぁ、恨むなら貴様の言う狂った人間を恨め」

 言い終わると同時に、鬼が床を蹴り上げて遊雨へと迫る。

 だが、その常識離れした速さに遊雨は対応が遅れる。

「ッ!!(武人になって身体強化されて、コレかッ!!!)」

 繰り出された鬼の拳を左腕で防御するが、尋常ではない力に耐え切れず後方に吹き飛ばされる。

 確実に左腕の骨が砕けたが、なんとか体勢を立て直して、床に足を着く。

 鬼の追撃を避けるべく、サブマシンガンのトリガーを引いて迎撃する。

 もの凄い勢いで弾丸を連射するサブマシンガンだが、鬼は初弾が直撃する前に全身から放電した。

「なにッ!!」

 その電撃で弾丸を全て床に落とし、マガジンの弾丸が切れると接近してきた。

 相手の速さからマガジンを変える余裕もなく、無駄だと判断した銃を即座に捨てて長剣の柄を手で掴む。

 鬼がくるタイミングに合わせて、抜剣して斬る。

 だが、強靭な筋肉の前に入った刃は浅く、致命傷にはほど遠い。

「おしい」

 笑みを浮かべた鬼は、遊雨の脇腹に強烈な蹴りを入れる。

「がッ!!!」

 今まで受けた化け物からの攻撃の中で一番の威力を受けた遊雨は、壁まで飛ばされてそこにめり込んだ。

 胴体が蹴られた方向に曲がり、肋骨が飛び出ている。

 大量の血液が流れ出し、遊雨はピクリとも動かない。

 しばらくすると、遊雨は壁から離れて床へと落ちるが、立ち上がる気配はない。

「死んだか」

 鬼が静かに遊雨の死体を見ながら呟いた。

 谷原遊雨が初めて化け物に敗北して、初めて死んだ。

 ワニにも、ヤギにも、同じ人間相手にも、勝って殺してきた生存者の中で希望となっていた遊雨でさえ、殺された。

 相手に、浅い切り傷しかつけられずに死んだ。

「正直に言えば、我に傷をつけて一撃で死ななかっただけで貴様は十分に強かった。だがなぁ、人間」

 遊雨の死体から目を離して振り返って、鬼は続ける。

「所詮、人は人だ」

 それを別れの言葉として残すと、鬼はゆっくりと刹の待つ屋上へと向かった。


 

 谷原遊雨は、死んだ。


 


 /////


 

「やぁ、キミが戻ってきたってことは勝ったのかな?」

 屋上に戻ってきた鬼を見て刹がそう言った。

 両手にはショットガンを持って、腰には刀と短剣二本がある。

 また、先程までは制服だった彼の姿は剣道着に変わっていた。

 そんな刹に、鬼は頬を釣り上げると放置していたカメレオンを足で踏み潰した。

「あの谷原という人間なら、殺した。我に切り傷を残して、な」

「遊雨さんが相手で、切り傷ねぇ………やっぱりキミを檻から出したのは正解だったみたいだ。鬼君は、ココでいいのかな?」

「場所のことか。まぁ、少し狭いが関係ないだろう」

 鬼はそう言って笑う。

 だが、対する刹が微笑すらしない。

 五式刹は誰と勝負するときでも必ず笑い、それは相手に本気を出さないときと決まっている。その彼が、笑わない。

 つまり、本気ということだ。

 誰がなんのために学園を丸ごと化け物の巣に変えて、外から隔離したのかは定かではない。

 この学園でただ一人、そんな元凶に感謝している者がいる。

 五式刹だ。

 彼だけは、化け物の頂点と遭遇することでやっと武術で本気が出せると、この状況に心から歓喜している。

「始めよう」

 刹がそう言うと、鬼は高く跳躍して上から刹に襲いかかる。

 即座に二丁のショットガンの銃口を向けてトリガーを同時に引くが、鬼は遊雨のときと同様に放電して散弾を弾いて防いだ。

 それを目にしても驚くことなく、前方に飛んで前転して鬼の攻撃を回避する。

 鬼は着地と同時に殴りかかろうとするが、二発装填できるショットガンにはもう一発残されており、刹は再度撃つ。

 放電が遅れたのか、鬼の足などに弾丸が直撃するが、強靭な肉体ということもあり貫通はしない。また、無傷かのように平然と速度も落ちることなく、走ってきた。

 刹は、空になったショットガンを躊躇(ちゅうちょ)ぜずに、鬼へと放り投げた。

 それを叩き飛ばそうとした鬼だが、ショットガンはその寸前で爆発した。

 ちなみに、刹は爆発することは知っていたので十分に距離を取っていたので、被害はない。

「(ショットガンにガムテープで手榴弾を両方に固定して、投げるときにピンを抜く。鬼君に見せないようにするのは面倒だったけど、成功したからいいか)」

 遊雨は鬼が死ぬはずがないと思っているので、短剣を両手に装備して待ち構える。

 彼の予想通り、鬼は負傷してはいるものの健在だった。

「痛い。久しぶりに、ここまでの痛みを味わったぞ。面白い、面白いぞッ!!」

「喜んで貰えてなりよりですよ。ただ、僕の本気はここからですよ?」

 不気味な笑みを浮かべると、刹は鬼に向って走り出す。

 鬼の右ストレートにしっかりと対応してすり抜けると、両手の短剣を鬼の頭部に向けて投剣する。

 だが、そんな攻撃を相手が避けられないわけがなく、当たらない。

 ビチャ。

「貴様ッ!! 小癪(こしゃく)なことをッ!!!」

 刹の本命は短剣ではなく、それを回避した鬼に当てたペイントボールである。

 これで鬼の視界は一時的に、遮られた。

 そんな相手に、刹は居合いを繰り出す。

 遊雨の長剣では浅くしか斬れなかったが、刀は深くはないが十分な傷を与えた。

「(勝てる)」

 そう確信して、背中、腕、腹、頭部、と次々と斬撃を放っていく。

 振り回される拳を見切りながら着実に、出血させて死へと近づけていった。

 だが、彼は油断した。

 今まで真剣に勝負したことがなく、初めて本気を出した相手に勝てるという喜びからミスをした。

「ッ!!!!」

 放電。

 速さと打撃の他に持っている攻撃方法。

 それを見落としていた。

 近距離から放電を浴びた刹は、全身が麻痺して硬直してしまう。

 その状態で、彼は心臓部に拳を叩き込まれてから頭部を掴まれて、コンクリートに叩きつけられた。

 即死だ。

 生命活動において最も重要な心臓を破壊された刹は、命を落とした。

 顔に付着したペイントがかなり落ちた鬼は、この学園に残っている人間の中で一番強い少年を殺したことをしっかりと見ることで自覚する。

 遊雨のように希望ではなかったが、それでも鬼を殺せる手前まで追い込んだ五式刹の死亡は、生存している人間にとっては大きな損害であることに変わりない。唯一倒せたかもしれない者が死んだことで、人間側の敗北は決定したようなものである。

「おしいな………我に傷をつけた者とここまで追い込んだ者。どちらもよい戦いだった」

 勝利の余韻に浸る鬼は、一人で呟いた。

 また、その言葉は続く。

「これで残っているのは、つまらない雑魚のみ。あの二人を越える者など存在しないだろう。さて、どうするか」

 思考しながら鬼は、高等部校舎屋上から中等部校舎屋上へと助走をつけて飛び移る。

 着地点にはクレーターが出来たが、鬼は構うことなく今後について考える。

「よし、適当に数を減らしたら残りには時間をやろう。最後のチャンスと与えなくては、つまらんからな」

 自分の行動を決めた鬼は、重みのある足音とともに歩き出す。

 そして、ドアを殴り飛ばしてから校舎内へと入る。

「我は楽しめないだろうが、せいぜい残りの時間を楽しめよ………人間共」

 残りの時間。

 それがどのくらいであるかは、鬼を含めて誰にも分からない。








前書きで書いたことについては、読者の方々は色々なご意見をお持ちでしょうかね。


まぁ、終わりは近いです。


ただ、私は色々と考えている最中ですので、最終話辺りで報告します。

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