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ケージ:エスケープ  作者: 猫だるま
私立城南学園編
3/8

鳴り響く銃声、強者の影

元気ですか? 大丈夫ですか?


作者はかなり元気です。


日々の疲れを趣味で癒せるというのは、いいですよね。


最近、TRPGにハマっているのですが、なかなか奥が深いので飽きるのは十年後かもしれません。


個人的には、推理系がオススメです。


皆さんも興味があれば、調べてみては?

 現在の状況を一通り理解した五人は、紗千との会話を終えるとそれぞれ考え出す。

 また、坊主頭の男子生徒は川島李久(かわしまりく)といい、根暗そうな方は大田和一(おおたかずいち)という名前である。二人とも高等部二年である。

 女子生徒は、遊雨と同じクラスの安藤の他に二人おり、ボブヘアーの小柄な小谷真千(こたにまち)とずっと恐怖で体を震わせえている大人しそうな田中りえ(たなかりえ)がいる。

 この内会話に積極的に参加しているのは、安藤と川島のみである。

 そんな彼らの話を全く聞かず、遊雨は一人仮眠している。

 今までの戦闘で、精神的にも肉体的にも限界に近かった。

 紗千は五人への話を終えたので、遊雨の側に行く。そんな彼女は、彼が寝ていることに気がつくと、静かに隣へ腰を降ろした。

 そして、遊雨の寝顔を黙って見つめる。

「水戸野さん、一つ聞いていいか?」

「なに?」

「もしかして、谷原と付き合っていたりするのか?」

「ち、違うわよッ!!」

 川島の問いに声を荒らげることはなかったが、その声は震えていて頬も少し赤くなっていた。

 この反応で、川島は全てを察して内心がっかりした。

 また、二人を見ていた安藤は「嘘でしょ」と小声で驚いていた。

「………ん? 説明は終わったのか?」

 かなり絶妙なタイミングで遊雨が目を覚ました。

「え、えぇ、終わったわ」

 一瞬焦りを見せた紗千だが、なんとか平然を装った。

 彼女の反応に、寝起きの彼は特に感じることもなく言う。

「そうか。水戸野、俺はポイントを稼ぎたいんだがどうする?」

「教室を出るかってこと?」

「それもあるが、ココの連中と行動を共にするかってことだ」

 そのことを遊雨が告げると、紗千は驚きの表情を見せる。

「え?」

「え、じゃないだろ。コイツらが教室に残りたくて水戸野もそうしたいなら、俺とは別行動になる。一緒に行動することになったら、それはそれで問題がある」

 五人に説明はしたが、化け物を積極的に倒すか、自衛のみを考えて教室に残るかを紗千は確認していなかった。また、五人もそのことには触れていない。

 遊雨に言われて、始めて五人は今後について考えることになった。

 だが、当然意見は割る。

 そのことを遊雨も分かっている。

「私は、遊雨と行くけど………みんなはどうするの?」

「俺は一緒に行かせてもらいたい。倒さなきゃ出られないからな」

「そうね。静音も行く」

 川島と安藤が遊雨たちに同行すると言ったが、他の三人の表情は完全に下を向いていた。

 三人の意見を待っていると、大田が呟く。

「僕は、ココに残るよ」

「うん。残りたいかな」

「わ、私も」

 この時点で、二つにきっぱりと分かれた。

 一応全員の意見が出揃った。

 遊雨は立ち上がって金属バットと槍とバックのトンカチ四本を残ると言った三人の前に置いた。

 そして言う。

「この教室で休ませてもらった礼とでも思ってくれ。残るにしても、万が一に備えて武器がった方がいいだろ」

「あ、ありがとう」

 続いて遊雨は、現在所持している185ポイントから135ポイント使って、長剣三本と槍一本と短剣一本を交換した。

 そして、長剣を川島に渡して、槍を安藤に渡した。

 残りの二本は彼自身の装備であり、一緒についてきたベルトを腰に巻いて二つの鞘を左右に差す。

 全員が武器を所持すると、遊雨はドアへと向ってカギを開ける。

「行くぞ」

 そう言って、ドアを開けて廊下の敵を確認して外へ出る。

 三人がそれに続くと、遊雨はすでにムカデ二匹の胴体を長剣で刺して抑えていた。

 それを見た川島と安藤は顔を青ざめる。

 彼らは一年二組の教室にたどり着くまでに化け物は見たが、逃げることで手一杯だったこともありじっくりと見るのは初めてなのだ。

 遊雨は、そんな二人に告げる。

「早く、その武器でムカデの頭部を刺せ。ただし、噛まれると猛毒で酷い目にあうから気をつけろよ」

 嫌そうな表情をしながらも川島が先にムカデの頭部を長剣で刺して、安藤は迷いながらも槍で刺した。

 こうして、二人は職業選択可能な状態となった。

 遊雨と二人の行動を後ろから見ていた紗千は、自分と遊雨がもうこの世界に慣れつつあることを自覚した。それがいいことだと思えても、紗千は平和な日常を忘れそうで怖かった。

 彼女がそう思っている間に、川島と安藤は職業選択を終えていた。

 川島は騎士で、安藤は剣道部のみが選べる特殊職の侍である。

「侍は、刀がもらえるのか」

 侍という職業は、騎士のステータスに切れ味の高い刀がもらえるというものだった。

 刀は鞘に収められて、腰に帯刀するためのベルトがついている。

 安藤はベルトを腰に巻いて、帯刀した。

「刀は使わないのか?」

「まだ恐いから、リーチのある槍で慣らすことにしたの。それより、メガネってすごかったのね。見直した」

「はぁ? いきなりどうした?」

 急に褒めた安藤に、遊雨は怪訝(けげん)そうな表情で言った。

「だって、あんな巨大ムカデをさらっと刺しちゃうじゃない」

「化け物を三体くらい倒せば、こうなるさ」

 遊雨はそう言うと、先を進む。

 現在は自然と先頭が遊雨で後方を紗千が担当しており、二人に川島と安藤が挟まれている形となっている。

 一行は、四階へと向かう途中数体の化け物を倒すも、安藤は剣道部だからなのか化け物を見ることに慣れ始めると、倒すのにかかる時間も大幅に減っていた。また、川島も野球部に所属しているからか、度胸などがあるようで運動部らしく活躍していた。

 ただ、まだ二人とも紗千と遊雨のようにはいかない。

 多少の戸惑いや化け物対する怯えもある。

 それでも四階までは容易に突破した。

 階段を登って、四階の廊下にたどり着いた遊雨たちは、廊下にいた化け物をハイペースで倒して着実にポイントを稼いでいた。

「大分慣れてきたぜ」

 ブタを斬り殺した川島が愉悦感に浸っているのか、化け物の死体を見て笑みを浮かべて言った。

 それを見ていた遊雨は、一応忠告する。

「川島、油断するなよ」

「リーダー気取りか、谷原? まぁ、俺がすぐにブタとムカデを倒してやるよ」

 川島はそう言うと、ポイントを使って盾と交換した。

「(化け物を楽に倒して、天狗になってきているな。嫌な感じだ)」

 遊雨は、調子に乗っている川島を見て思った。

 同様のことを紗千も思うが、特に不安とは思わない。

「ねぇメガネ、あの〝ワニ〟ってなに?」

 美術室の方を見ていた安藤が、遊雨に尋ねた。

 それを聞いた遊雨は、彼女の発現から嫌な予感がして同じ方向を見た。

 すると、屈強な肉体の二メートルはある人型のワニが美術室の中にいた。

 だが、遊雨と紗千は今までワニに遭遇したことも見たこともない。

 当然だ。

 二人ともワニとの戦闘などしたこともないのだから。

「み、水戸野……見たことあるか?」

「ないわよ」

 遊雨と紗千は思わず後退りする。

「なにビビってんだよ。どうせ、雑魚だって」

 そう言って川島が、長剣と盾を持ってワニへと走り出した。

「おい、待てッ!!」

 遊雨が止めるが、ブタやムカデを倒して自分が強いと思っている川島が言うことを聞くわけもなく、長剣を振り上げてワニを斬ろうと剣を振り下ろす。

「え?」

 だが、その刃はワニの鱗を通ることはなかった。

 剣で切れないことが分かった途端に、川島の顔が青ざめていく。

「た ――――――― 」

 そして、後ろを振り向いて遊雨たちになにか言おうとするが、その前にワニが川島の頭からかぶりついた。

 ワニが噛みちぎると肩辺りまで食われており、残った体は床に倒れた。

 川島を食べたワニの視線は、自然と遊雨たち三人へ向けられる。

 動きや堅い鱗などから、今までのブタやムカデとはワニが別格であるいうのは明らかだった。

 もしも、川島が突っ込まずに四人で冷静に対応していたら状況は変わっていただろう。

 今更、手遅れだが。

「………水戸野と安藤は逃げろ」

 ワニの脅威の度合いを見極めて、遊雨はそう判断した。

 それには、紗千が反論する。

「ダメよ。あのワニは今までとは違うわ」

 彼女の言っていることは、正しい。

 剣を中々通さない堅い鱗だけでも厄介だが、ワニはブタのように動きが遅くはない。

 対策などがない現状では、とても単独で太刀打ちできる相手ではない。

「だからだ」

 バッグを近くにいた安藤に無理矢理渡して、遊雨は長剣二本を構えてワニへと走り出す。

 それを追いかけようとした紗千だが、安藤が手首を掴んで引き止めた。

「離してッ!!」

「メガネの言う通りにした方がいい。それに、アイツの覚悟を無駄にしちゃダメ」

 安藤はそう言って、揺れる瞳でワニと対峠する遊雨を見る。

 遊雨はワニに攻撃せず、ワニの噛み付きを避けて美術室へと入った。そして、部屋の奥へと向って振り返る。

 十分な間合いを取った遊雨は、ワニを再度観察する。

「(あの鱗は刃を全く通さない。比較的柔らかいはずの腹の部分か、喉に突き刺すしかない。でも、近づき過ぎると食われる可能性がある。どうするか)」

 必死に攻略法を頭の中で考えるが、ワニが攻撃を仕掛けてきたので思考を止めて、剣を構える。

 ワニは殴りかかってくると遊雨は判断したが、相手は彼の予想とは違い、途中で止まって体を急に半回転させた。

 尻尾での攻撃。

 それを見抜けずに呆気に取られた遊雨は、左腕で脇腹を守るも吹き飛ばされた。

 壁まで飛ばされて背中を強打した遊雨だが、ワニが追撃を食らう前に起き上がる。

「(左腕の骨折れたな。すっげぇ痛い。おまけに、背中も強打したし)」

 痛みを我慢しつつ、ろくに使えない左手の長剣を捨てて、右手の剣だけを構えた。

 ワニの尻尾に注意を払いながら攻撃を避け続け、チャンスがくるのを待つ。

 だが、痛みで普段より体の動きが悪くなっている遊雨はいつ攻撃を食らってもおかしくない。

「(まだだ。必ず、アイツは噛み付いてくる)」

 五度目の攻撃のときに、ワニが噛み付きをしようとして口を開けた。

 その瞬間を遊雨は逃さない。

「くらえッ!!!」

 相手が口を閉じる前に、そこに長剣を突き刺した。

 また、すぐに死体となった川島の持っていた長剣を盗賊の力で盗って、ワニが痛みで動きが鈍った隙に、全体重を乗せて胸部に長剣を刺して、そのまま倒した。

 さらに短剣を鞘から抜いて、ワニの喉にも刺して完全に絶命させた。

 死体となったワニの上に乗りながら、遊雨は肩で息をして全身から大量の汗を流す。

「はぁ……はぁ…はぁ」

 ゆっくりと立ち上がると、美術室の鏡に映る自分の顔が視界に入った。

 そこに映った谷原遊雨はメガネをかけておらず、笑っていた。

 今までの彼の人生で一番充実した表情をしていると、遊雨自身が思った。

「(なんだ、俺は楽しんでいたのか? 本当は生死をかけた戦いをして充実しているのか? それじゃあまるで、戦闘狂じゃないか)」

 なぜ笑っているのかを理解しつつも、遊雨はそれを認めたくはなかった。

 彼はメガネをかけるために、探す。

 すると、メガネは背中を強打した壁の辺りに落ちていて、ワニが踏んだのか潰れていた。

「遊雨ッ!!」

「メガネッ!!」

 美術室へと入ってきた紗千と安藤が、遊雨に駆け寄る。

 二人とも、部屋の惨状と彼の折れた左腕を目撃して、息を呑む。

 だが、すぐに紗千が遊雨に言う。

「万能薬持っていたわよね? 早く飲んで」

「そうだな」

 ポケットから万能薬を取り出して、ビンのフタを片手で開けて中身を飲んだ。

 すると、三十秒ほどで折れた左腕や切り傷などが治った。

「………すごいな。折れた腕も綺麗に元通りか」

 折れていたはずの左腕を見て、遊雨は驚いた。

「遊雨、メガネなくて平気なの?」

「あぁ、元々伊達メガネだったしな」

「そうだったのッ!!」

 安藤が心底以外そうな表情で、声を上げた。

 実際、彼のクラスメイトは伊達メガネだと思っていなかった。

「安藤、これからはメガネとは呼ぶなよ。もうかけてないからな」

「じゃあ、谷原?」

「それでいい。さて、五階に行くか」

 遊雨はそう返答すると、長剣二本と短剣を回収する。

「五階で最後ね。ワニがいないといいけど」

「同感。あんなの二度と会いたくない」

「確かに、もう一回ワニと戦闘することになったら命を落としそうだ」

 三人は話をしながら美術室を出ようとドアへと歩く。

 すると、そのドアの近くにあった川島の死体が自然と視界に入った。

 それを見た安藤は足を止めて、紗千も少し顔を伏せる。

 遊雨だけは表情にも動作にも反応がない。

「川島、死んじゃった。あんなあっさり」

「そうね。あっという間だったわ」

 二人が言うと、遊雨は川島の死体を見下ろしながら小声で告げる。

「みんな化け物相手じゃいつか死ぬ。コイツの場合は、冷静に判断できずに俺たちを危険にさらした。正直に言って、コイツは自殺したのも同然だ」

 一緒に戦った者へ冷たい言葉を残して、遊雨は先へ行く。

 未練や後悔など微塵もないかのような行動である。

「………冷たい」

 紗千はそんな遊雨の後を追いかけようとするが、安藤の言葉で立ち止まった。

 そして、紗千は振り返って一言だけ伝える。

「それでも、私は遊雨についていくわ」

「………そう」

 先に紗千が美術室を出て、安藤は絵を隠すための布を取って川島の死体にかけてから、二人の後を追った。

 三人は五階の階段を上がり、そこにいたブタ二匹を遊雨が素早く斬り殺す。

 また、紗千の魔術で五階には生存者がいないことが判明している。

 それでも化け物がいるはずなので、三人は進むのを止めない。

「意外だな」

「そうね。化け物はいないみたいね」

 五階にたどり着くと生徒の死体はあったが、肝心のブタやムカデの姿はなかった。

 一応全ての教室のドアを開けて確かめるが、遭遇したのはブタ一匹だけだった。

 他の階と比べたら、圧倒的に少ない。

 遭遇したブタも安藤が刀で斬って、倒した。

 初めて刀を使った安藤はしばらく鞘に収めることなく、じっとその刀身を見ていた。また、その口元は少し釣り上がっている。

「あ、安藤さん?」

「え? なに?」

「いや、ずっと刀の刃を見ているから大丈夫かなぁ、と」

「別に平気。ただ、竹刀や槍と違って豆腐みたいにブタが斬れたから」

 そう言うと、彼女は刀を鞘へと収める。

 遊雨は安藤に斬り殺されたブタを見て、彼もその綺麗な切断面を見て驚きはした。

 同時に、もしかしたらワニも斬れたかもしれない、とも思った。

「五階の化け物は、ブタ一匹だけみたいね」

「もっといるかと思ったけど」

「おそらく、五階の化け物は早々に人間を殺し終わって、下の階に下りたんだろうな。そう考えると、結構な数が向かい側の階段を下ったのかもしれない」

「確かに、化け物の目的って私たち殺すだけみたいだからね」

「そうね。ブタ以外は死体に興味もないようだし」

「ん?(これって、銃声?)」

 話ていると急に、遊雨が下を向いた。

 そして、二人に指を立てて静かにするように伝え、遊雨は耳を澄ました。

 安藤と紗千は、彼に従って話すのを止める。

 誰もいない五階は静かになり、よく音が聞こえるようになった。

 そこで初めて、紗千と安藤はソレを聞き、遊雨は自分の予想が合っていたことに気がつく。

 下から鳴り響いたのである。

 銃声が。

 微かにしか聞こえないが、その音は映画などで耳にした音に酷似していた。

「銃?」

「だろうな。誰かが、ハンドガンかショットガンを手に入れたのか?」

「もう、1000ポイント貯まったとは考えにくいけれど………それ以外ないわね」

「下りてみるか?」

 遊雨が二人を見て問うと、安藤が即答する。

「行ってみようよ。銃を持っている人がいるなら、心強いし」

「確かに、仲間にするには絶好の相手ね」

「なら、下の階へ行くので決まり?」

「そうなるな」

 遊雨たちは話合いの結果、銃声を出した人物へ会いに向かうことになった。

 だが、彼は少し不安だった。

「(保健室にいた奴らみたいなのだったら、最悪だけどな)」

 そうならないように願いつつ、遊雨は下へ下りる。


 

 /////


 

「な、なに……コレ?」

 遊雨たちは四階を確認して三階へと下りると、一年二組の教室のドアが開いているのを見つけて、中を確認した。

 すると、教室に残った大田と小谷と田中の三名がいた。

 だが、

「死んでいるな」

 その三人は、頭部などに銃弾を打ち込まれて死体となっていた。

 大田の場合は、片腕が切断されている。

 そして、この現場を生み出したのは人間であることが、遊雨たちには分かった。

 ドアのカギは銃で壊されており、血の足跡は学校指定の男子の靴だった。

「………どうやら、俺たちが協力しようとしていた相手は殺人鬼みたいだな」

 保健室で遭遇した雨海たちよりも凶悪な人物がいることに、三人は落ち込むどころか身の危険を感じている。

「やばいよ。校舎内にいたら、殺される」

「相手が銃を持っている時点で、私たちに勝ち目はないわ」

 紗千の言葉を聞いて、遊雨はあることに気がついた。

「いや、あるぞ」

「あるわけないでしょ、バカ谷原」

「俺の盗賊の力は後一回使える。それなら、その殺人鬼から銃を奪える」

 盗賊には一日三回だけ相手の物を奪うという力があり、それは銃であろうと例外ではない。それならば、銃を奪うことは可能である。

「遊雨、それは可能性としては低いわ」

「まぁ、遭遇しなければいいだけさ」


「なに言ってるんですか。僕は、いますよ」


 声のした方を見た遊雨は、目を見開く。

「なッ!!」

 遊雨が驚いたのは、殺人鬼に遭遇したことではなく、その正体が知人だったからである。

 五式刹(ごしきせつ)

 中等部三年で、遊雨の父親の道場の門下生でもあり、剣道や柔道などの様々な武術に才能がある遊雨のよく知る人物である。

 そんな刹は、血まみれになった制服を着ており、遊雨たちが入ってきたのとは別のドアに寄りかかっている。その手に銃はないが、刀を持っている。

 刹は遊雨を見ながら、普通に喋り出す。

「ビックリしました? でも、どうせ遊雨さんも誰か殺したでしょ?」

 実に楽しそうな表情で、刹は言った。

 だが、彼の笑みは殺人鬼のそれである。

「殺してないさ。それより、本当に刹が殺ったのか?」

「そうですよ。僕の職業は殺人鬼らしくて、人を殺すとポイントもらえるみたいなんですよ。だから、そこの三人も殺しました」

 大田と小谷と田中の死体を指差して、満面の笑みで当然のように言ってのけた。

 対する遊雨の表情からは、嫌悪感が滲み出ている。

「頭のネジが取れたか………兄弟子(あにでし)としては、ココで始末する義務があるよな」

「無理ですよ。だって、遊雨さんと僕じゃあ結果は目に見えてますよ」

 彼の言葉に嘘はない。

 遊雨と刹は道場で何度も手合わせしているが、全て刹が勝利している。

 決して遊雨が弱かったわけではない。

 ただ、五式刹が強すぎた。

 戦闘ということにおいて、刹はこの学園で間違いなく一番優れている。

「だろうな………だが、殺らないと殺られるだろ」

「さっき言っていた盗賊の力は、対象の武器を見ないと意味ないですよ? 僕は銃を見せびらかしていないから、その策は使えません。戦うだけ無駄ですって」

「どうして知っている?」

「ここにくるまでに、一回盗賊を職にしている人に会いまして、剣を取られたんですよ。そのときに僕が銃を持っていることを教えてあげたら、「クソ、奪えないッ!!」って言い残して逃げましたから」

「そうかよ」

「あぁ、それと僕は遊雨さんを殺すつもりありませんよ」

「どういうことだ?」

 突然、刹が殺さないと言ってきたので遊雨は、相手の思惑を探ろうとする。

 彼の顔を見ても笑っている仮面でもつけているようで、その真意が分からない。

「遊雨さんは僕にとって大切な存在ですし、もうポイントはかなり貯まったので」

「ポイントが貯まってなかったら、殺していたってことか?」

「なに言っているんですか。当然、殺してましたよ」

 純粋な笑顔とともに告げられた。

 この世界で五式刹は本来の自分をさらけ出し、殺人鬼として兄弟子の前に現れた。そんな刹を止めなければならないのに、遊雨は殺されないと分かると安心した。

「じゃあ、僕はもう行きますね。あと、カマキリは体育館にいますよ」

「どうして、教えた」

「遊雨さんには昔から期待していましたからね。必ず僕を楽しませてくれるってね。せいぜい、ポイント稼いで強くなってください………でないと、僕が困る」

 そう言い残して、刹は教室から出ていった。

 遊雨は軽く深呼吸して、心を落ち着かせる。

 道場で会っていた頃などとは比較にならないほどの強者としての威圧感に、ずっと笑みを浮かべている殺人鬼がいる恐怖。

 それらから開放された遊雨は、自然と手が小刻みに震えていた。

「た、谷原、アイツ知り合いだったの?」

「聞いていたと思うが、俺の道場の後輩だ。正直、敵に回らなくてよかった」

 震える手を握ることで止めようとする遊雨を見て、紗千が言う。

「そんなに強い子だったのね」

「強いなんて言葉じゃ足りないな。戦っていたら死んでいた。でも、カマキリの場所が分かったのは大きい」

「でも、信用できる相手?」

「アイツと話て、どうやら俺に強くなって欲しいのは本当だと分かった。でなければ、刹からしたら楽しめる相手の場所を教えないだろう」

「じゃあ、体育館に行くの?」

 安藤が尋ねると、遊雨は教室のカーテンを開けて外を見た。

 やはり二階で見たときと状況は変化せず、校舎内よりも外の方が危険なのは明らかだった。

 それでも目的の体育館に行くには、外の通路しかない。

 カマキリの元にいく時点で、かなりのリスクがある。

 遊雨は振り返って、二人に言う。

「俺は体育館に行こうと思う」

「そうね。脱出するには、ヤギとカメレオンとカマキリを倒さないといけないもの」

「同感。ここまできたら倒しにいく」

「まずは、一階に行こう。そこでまた考える」

 そう言って、遊雨は紗千と安藤を引き連れて教室を出て階段を下りる。

 だが、二階の廊下が見えたときに問題が起きた。

 まだ恐怖が残っている間に、二度目の遭遇となる。

 川島を殺し、遊雨を死ぬ寸前まで追い詰めた化け物と遊雨の視線が合った。

「ワニかよ」

 遊雨が出会った化け物の中で一番強いワニが、立ちふさがった。

 また単独で倒そうと両手の長剣を握り締めた遊雨だが、後方で鞘から刀を抜く音が聞こえた。

 振り返ると、安藤が刀を構えて紗千も槍を握ってワニを睨んでいた。

 二人の考えていることを察した遊雨は止めようとするも、視線を敵へと戻す。

「なにも言わないの?」

 紗千を見て遊雨は告げる。

「一人でやろうとするのは危険だと思ってな。頼む」

 このような状況になる以前から、遊雨が他人に頼ることはなかった。

 それが、化け物だらけの世界になって初めて頼った。

「任されましたっと!!」

 安藤は遊雨よりも先にワニへと向かい、尻尾の攻撃を見事なタイミングで飛んで回避し、後ろに回った。彼女を殴ろうとしたワニだったが、遊雨が強烈な跳び蹴りでバランスを崩す。

 その隙に、安藤は全身の力を一振りに注いで、ワニの尻尾へぶつけた。

 長剣では斬れなかった鱗だが、刀の美しいとさえ思わせる切れ味には負けたのか、切断された。

 厄介な尻尾の攻撃を封じた安藤は一旦離れて、遊雨が比較的固くない腹部を両手の剣で斬る。浅かったが、遊雨はワニが反撃する前に再度腹部を斬って、攻撃を受ける前にバックステップで距離を取る。

「ヴァアアアアアアアアッ!!!」

 散々やられた化け物は、叫び声とともに遊雨へと襲いかかった。

 だが、怒り狂うワニの左目の視界が急に赤く染まる。

 紗千が隙を狙って、左目を正確に槍で突いたことでワニの視界が半減した。

 また、背後から安藤が一気に接近して死角から首元を狙って下から刀を振り上げる。

「やった」

 安藤がそう言ったときには、ワニの首は床に転がっており、残された胴体も前へと倒れて動かなくなっていた。

 刀の切れ味があってこその勝利だったが、それだけではない。

 三人の実力と連携がなければ、短時間では無可能だっただろう。

「………これなら最初から頼っていればよかったな」

 あまりにも早くワニを倒せたことで、遊雨は後悔していた。

 そんな彼に紗千が自慢げに言う。

「そうよ。遊雨が格好つけるから余計な怪我を負ったのよ」

「まぁ、刀の切れ味が分かったからできた戦いだったね。普通に怖かったし」

 ワニを無傷で倒したことで、三人には確かな自信がついていた。

 そんな一行は笑いながら喜んでいたが、一階から複数の足音が近づいてくるのに気づくと、武器を構えて殺す準備を整える。

 足音は止まることなく三人のいる二階へと近づき、遊雨は階段の壁に隠れて息を潜めて、出てくるのを待つ。安藤は少し離れたところで別の敵がくるのを警戒して、紗千は遊雨と同じく階段から上がってくる敵との戦闘準備をする。

 そして、階段から敵の姿が見えた瞬間に、遊雨が長剣で突きを放つ。

「危なッ!!」

 だが、彼が攻撃したのは人間で、相手は体を反らして回避した。

 襲った側と襲われた側が互いの顔を見たことで、互いに呆気に取られた表情になる。

 なにせ、二人は旧知の仲だからだ。

「遊雨じゃないかッ!!」

「翔彩だったのか」

 茶髪の長めのストレートパーマで、優男という雰囲気を感じさせて女子にモテる、遊雨の校内唯一の友人である桜木翔彩(さくらぎしょうさい)とその仲間が、三人と出会った。

 翔彩の他に三人の生徒がいる。

 皆共通して、顔つきが数時間前までの日常生活のときとは明らかに変化している。

 男子三人と女子一人というメンバーで行動していた翔彩たちは、全員武装していた。女子生徒は短剣一本しか持っていないが、他三人は長剣や弓を所持している。

「しょ、翔彩くん」

「安藤さんも無事だったんだね。お互い無事でよかった」

「うん。無事でよかった」

 涙目になって頷く安藤は、やや上目遣いで頬を赤らめている。

 先程までワニと戦っていたときとは大違いだが、安藤は翔彩に本気で惚れているので仕方ないことではある。

 誰でも好きな人と会えたら嬉しいのだから当然だ。

 安藤と翔彩をピンク色のオーラが包む中、遊雨に短めのウルフヘアーで不良っぽいイメージを抱かせる男子生徒が話かける。

「オマエが、谷原遊雨か。どうやら、桜木に聞いた通りの奴っぽいな」

「翔彩からなにか聞いたんですか?」

「あぁ、オマエなら絶対に生きているって自信満々に言ってやがったぜ。現に生きているんだから、桜木の谷原への信頼は本当だったってことだな」

「俺、死にかけましたけどね」

 後頭部を片手で触りながら遊雨は、苦笑する。

 そんな彼を見て、ウルフヘアーの男子生徒は笑う。

「ハハハハ、そんなの俺もさ。おっと、自己紹介を忘れていたな。高等部三年の片桐慎也(かたぎりしんや)だ。先輩でも片桐でも好きなように呼んでくれ」

「じゃあ、片桐さんで」

「おう。俺は谷原でいいよな?」

「構いませんよ」

「なら、決まりだな」

 見た目から感じられる不良っぽさはなく、非常に親しみやすい話方で片桐は接してきた。また、長剣を帯剣して盾を装備しているので、戦闘ができることも分かる。

 これらから、遊雨は彼に〝頼れる先輩〟という印象を抱いた。

「谷原先輩、無事でよかったです」

 そう言ってきたのは、翔彩が部長を務める弓道部の部員で、中等部二年の小西綾太(こにしあやた)だった。弓道部だが、その装備は槍である。

 綾太と遊雨は、翔彩という共通の知人という点で互いに知っている程度である。

 だが、この状況では知人というだけでも互いに気持ちが楽になるものだ。

「綾太は、翔彩といたのか。でも、中等部にいたのによく合流できたな」

「自分たちは、一緒の場所に避難していたので会えました。二階堂さんもそうです」

「二階堂? 中等部の人か?」

「あぁ、二階堂萌は高等部の三年だ。俺とは違うクラスだが、色々あって一緒に行動している。谷原のところの女子と違って、戦闘ができるような奴じゃないから承知しておいてくれ」

「確かに、戦えそうな人ではないですね」

 片桐の紹介を聞いて、遊雨は二階堂を見ながら言った。

 短剣を両手で握り締めて少し震えており、姫カットでメガネをかけていて、見た目からして運動部ではなさそうである。また、着ている制服も清潔なので戦闘していないのが見て分かる。そして、疲れているのか息遣いが荒い。

 遊雨としては、女子が戦闘に参加するということ自体が珍しいと思っているので、二階堂に関しては戦って欲しいとは思わない。

「(別に戦わないのはいいが、役に立たないならお荷物だよな)」

 それでも、否定的ではある。

「遊雨、僕らは一緒に行動するのでいいのか?」

 弓を持った翔彩が遊雨へ尋ねた。

「俺はそのつもりだが」

「なら、そうしよう。ところで、高等部校舎の化け物は片づけたのか?」

「大体な。で、翔彩たちは脱出条件をどう見ているんだ?」

 その質問に、翔彩は窓の外を見ながら答える。

「門からの脱出はダメらしい。だから、ヤギとカメレオンとカマキリを倒そうとは思っていたよ。ただ………それは難しいと判断して逃げてきたんだけどね」

「どういうことだ?」

 まるで実際に戦闘して諦めたかの話方に、遊雨は真剣な眼差しで尋ねた。

 翔彩が答えるのにためらっていると、片桐がため息を吐いてから代わりに言う。

「体育館にいるカマキリから逃げてきたんだ、俺たちは」

「それって、私たちが行こうとしていた場所ね」

「数が足りなかったってこと?」

 安藤の疑問に、翔彩が「ある意味そうだね」と言い、自分たちのことについて話出す。

「僕ら四人は体育館に避難していた。授業をしていた先生からそう指示があったからね。その道中に、僕は職と弓を手に入れて、片桐先輩も職を持っていた。体育館につくと、高等部生徒や中等部生徒が400人くらいはいたかな」

 中高一貫で、生徒と教師合わせて本校は1574人おり、体育館は非常に大きいため五百人は入れる。

 そこに400人くらいが避難してきた。

「まぁ、僕と片桐先輩のように職を持っていた人も結構いてね。かなり安全な場所だと思っていたけど、急に体育館の天井を突き破って巨大なカマキリが落ちてきた」

「そうだな。アレで、半分以上は死んだ」

「生き残った者も、次々と鎌で切断されたり食べたりして、僕らは逃げるしかなかった。そうして、ココにきたって訳さ」

 巨大なカマキリ。

 最低でも200人は殺されている。

 そんな話を聞いて、安藤が言う。

「数ってそういうことか」

「違います。あのカマキリ子供を産んだんです」

 綾太が先程の翔彩の言葉の意味を教えた。

 カマキリは普通一度に大量の子供を産む。

 そして、体育館に出現した巨大カマキリも同様だった。

「確か、カマキリって大量に子供産むわよね?」

「そうだよ。アレも同じさ。僕たちより遥かに数が多い」

 紗千の言葉に翔彩が同意して、諦めが感じられる笑みを浮かべる。

 ワニなどとは規格外の化け物に、皆の表情は暗くなる。

 一人を除いて。

「数が多くても、どんなに強くても、カマキリ倒さないとココからは出られない。だから、俺は倒しにいく」

 相変わらず、遊雨は皆が分かって口にしないことを平然と言って、画面で自分のポイントを確認する。

 遊雨の現在のポイントは、530。

 それを確認した遊雨は、カマキリの倒し方について考え出す。

「私は、遊雨と行くわ。こんなところ早く出たいもの」

「そうだな。俺も早いとこ、脱出したいぜ」

 紗千と片桐が彼の意見に賛成する。

 すると、仕方ないとでも言いたそうな表情で翔彩が言う。

「僕も行くよ。数は多い方が成功率も上がるだろうしね」

「しょ、翔彩くんが行くなら……私も」

「自分も行きます。脱出したいですから」

 更に、翔彩と安藤と綾太もカマキリ討伐に参加する。

 残ったのは二階堂だが「みんなが行くなら私も」と、小声で言った。

 これで、全員がカマキリを倒しに行くことになった。

「作戦とかどうするの?」

「確かに、安藤さんの言う通りだね。僕は、無策で行くのは嫌だな」

「それの話は、一階の工具室でする。ブタが階段上がってきたからな」

 遊雨はそう言って、二階堂の背後に迫っていたブタに短剣を投げてから、階段を下り始める。

 皆はそれに続いて、七人となった一行は工具室へと向かった。









はい、三話目でした。


どうでしたか?


三話を見てくれたということは、少なからず私の作品に興味を持っていただいた方なのでしょうかね。


その思いに答えるべく、努力する所存であります。


やっとプロットを書き上げたので、最後までの道筋が見えました。


このまま完結まで行きます!!

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