始まりの恐怖
六年前――俺達5人は小さな禁忌を犯した。
1
0時00分。
一通のメールが届いた。
寝る前にメールを確認するのが俺の日課ではあったが、今までこんな遅くに連絡が来た事は無い。
不審に思いながらもメールを開いた。
タイトルは
『コックリさん狩りしませんか?』
コックリさん?
確かに小学校の時に、流行りはしたけれど、今はもう18歳。
あんな子供騙しに興奮する年でもない。ましてやコックリさんを狩るとか――ふざけ過ぎだ。
肝心の本文は何も書かれていなかった。
迷惑メールか、そう思って俺はそのメールを削除して、眠りについた。
翌日、いつもの様に学校に行こうとすると、家の前には俊介がいた。
「あ、おはよう丈ちゃん!」
「遂に高校卒業するまで治らなかったな、その呼び方」
「へへへ、丈ちゃんは丈ちゃんだもん」
ヘラヘラと緩い雰囲気の俊介。
人を癒すその気勢で、いつも俺を応援してくれていた。
「珍しいな……、お前が家の前で待ってるなんて」
「だって、丈ちゃん。今日は修了式で明日から夏休みだよ! 一か月も学校に行かなくなるんだから、一緒に行こうよ」
小さい頃からの幼馴染で俺を丈ちゃんと呼ぶ俊介。
俺の横に並んで歩いていく。背の低い俊介は、こうして横に並んでも、俺の肩までしかない。
昔は俺も、俊ちゃんと呼んでいたが、いつからか呼ばなくなった。
「そう言えばさ。昨日、『コックリさん狩りしませんか?』とか、訳分かんないメール来てたけど、昔やったよな~、コックリさん」
俺たちの通う高校は二つ先の駅まで行かねばならない。
この距離なら自転車で通う事も可能ではあるが、俺は朝から汗を掻きたくない。俊介は自転車で通学していたから、家の前で待っている事に驚いた。
全く、俺の日常を壊してくれる。
「ねえ、聞いてるの?」
不満そうな俺を気にする事なく俊介は話しかける。
「勿論だ」
今日は修了式――明日から夏休みだろうと、何も感じない俺は異常なのだろうか。楽しみでもないし、嫌でもない。
「こっくりさん。僕たちもやったよね」
「やったか?」
「やったよ。確かあの日も――修了式だった気がする」
「……」
「本当に覚えてないんだ……。ほら、小学校の時っ!」
そんな事を言われても俺はいちいち過去を覚えたりはしない。必要なのは知識であって、経験であって思い出ではない。
無駄をなくして生きてきたからこそ、俺は国立大学への推薦を手に入れた。
だから、俺の生き方は間違っていない。
「俊介はいちいち過去を気にし過ぎだ」
「もう。昔からそんな性格だから、あの時も手を放したんだよ!」
「手を離した……?」
「そう、コックリさん中にいきなり手を放して、どこかに行っちゃてさ。親も出てきて、皆大変だったんだから」
コックリさんは知っている。
五十音。
鳥居。
男女。
そして――はい。か、いいえ。
それらを書いた紙にコインを置いて、コックリさんを呼び寄せる。
呼び出しに成功すれば、全員が指を置いたコインが、勝手に動き出すという物ではあるが――あんな小さいコインに全員が指を置けば、力は入ってしまう。
そう考えていた俺は、コックリさんなど信じていなかった。それは今も変わらない。
「思い出した……」
その日――確かに俺はコックリさんをやった。
いやいやながらも、俊介、雪、賢人、拓海。
5人で終了が終わった後、夜の学校に集まった。
「いざやってみると、何も起きないから、俺は怒って散歩に出かけたんだ」
「マイペースなのは昔からだけど、中々戻ってこないから心配したんだよ!」
「ふむ。俺にもそんな浅い時代があったのか」
教室でこじんまりとコックリさんをやるよりは、夜の学校を探検した方がいいと判断したんだっけかな。
「人ごとみたいに言わないの。あ……、噂をすれば。雪!」
駅に着いた俺たちはホームへ降りていくと、ちょうど電車を待っている雪がいた。
丸顔。
童顔。
愛らしいそのルックスは、現役の中学生と言っても通りそうだ。
「俊ちゃん!? それに丈流も!」
「やっほー、元気だった~」
「うん、俊ちゃんが電車で通学なんて珍しいね」
「なんたって明日から夏休みだからね」
「へー、って、それ理由になってないって。でも、私の高校も今日修了式だよ?」
ヘイ!
二人はハイタッチをした。
朝からテンション高い人間は俺は嫌いだ。そして、人目を気にしない、馬鹿な人間も嫌いだ。俺は別に顔に出したつもりは無いが、昔からの付き合いである二人には分かるようで、
「怒らないの、丈ちゃん」
「スマイル、スマイル!」
と、笑顔を作って近づいてくる二人。
「ここは公共の場。静かにするのが常識だ」
「はーい」
雪は元気に手を上げて返事をする。
「今ちょうど、小学校の修了式の話しててさ」
「あれね、コックリさんに丈流が怒った時ね」
「そうそう、しかもそれ丈ちゃん忘れてたんだよ?」
昔話に花が咲くのはいいが、声がでかい。
通勤するであろう、大人たちが不満そうに俺たちを見ていた。
「俊介、雪。少し黙れ」
「ああ、分かったよ丈ちゃん。だから落ち着いて」
「高校生だて言うのに――『冷暴』は健在なんだ」
冷たい暴君。
小学生の時の俺に付いたあだ名だった。
最初はそう呼ばれていたのに、徐々に略されて『冷暴』と呼ばれた。
「懐かしいなぁ、コックリさん。あ、そう言えば――私、昨日の夜、変なメール来てたんだけど……」
「変なメール?」
俺と俊介は顔を見合わせる。
小学校の話になったのも、別に今日が修了式だからでは無かった。
軽く聞き流してはいたけど、俊介も確か変なメールが来ていたと――そう言った。
その内容は――。
「うん。『こっくりさん狩りしませんか?』ってメールでさ」
「…………俊介」
俊介は俺の言いたい事を理解したのか、
「賢ちゃんと拓ちゃんに連絡してみる!」
と、ポケットから急いでスマホを取り出し、電話を掛け始めた俊介。最初に二人の内どちらに電話を掛けたのかは分からないが、爪先で苛立だしそうに地面を蹴る。
喜と楽の感情しか普段は持っていない俊介にしては――珍しい行動だ。
「ねえ、なんで俊ちゃんあんな焦ってるの?」
雪は不思議そうに俊介を見ていた。
「俺と俊介も――その『こっくりさん狩りしませんか?』って、メールが来ていたんだ」
「え……、だ、誰かの悪戯じゃない?」
「だといいんだが。そんな事をして何の意味がある? 一応、雪の友人達にもそんなメールが来たか、確認してくれ。どの程度の確率で送られているのか知りたい」
怪訝そうな表情を浮かべる雪。
だが、3人が同じ時間帯に同じメールの内容が送られてきたんだ。それを俺は不振に思った。
6年前――コックリさんをした、確かにあの時は何も起こりはしなかった。コインが動く事もなく、只々時間が過ぎていただけ。
それが今さら? だからこれは迷惑メールだ。
他の人間も受け取っている筈だ。
「コックリさんと言う言葉から、俺たちに共通しているのは、あの日だけ」
「うん。私もあれが最初で最後のコックリさんだったよ?」
携帯をいじりながら俺と会話を続ける雪。
「今日は修了式――偶然か?」
「そうだねぇ――あ、皆から返信来た!」
「どうだ?」
「うーん、まだ全員ではないけど、クラスの半分はそんなメール来てないってさ」
「…………」
コックリさん・終了式。
俺・俊介・雪。
こうもあの日に関連するのは果たして偶然なのか?
その時、電話がつながったのか、俊介が話し始める。
「あ、拓ちゃん? 久しぶりだね。元気してた? 僕は元気だよって、そんな話がしたいんじゃなくて――昨日の夜、変なメール来た? うん、そう……なんだ」
最初に電話を掛けたのは拓海か。
顔はいいのに性格が残念な拓海はいつも皆にいじられていた。流石にもう、いじりはしない。
俊介は電話でも分かりやすいな。
後半に連れて声のトーンが低くなり、最後、変なメールを聞いたところからは、ほとんど声が聞き取れなくなった。
「やっぱ、拓ちゃんにも来てたって……」
俯いた俊介の手は震えていた。
「あの時――やっぱあれが不味かったのかな?」
「あれ?」
俊介には思い当たる節があるようだが、俺と雪には全くない。
「ほら、何も言わないで手を放しちゃったじゃん」
俺は思い出そうとするがそんな小さな行動までは覚えていない。
雪も思い出せないらしく、腕を組んで首を傾げていた。
「俊ちゃんはよくそんな小さい事、覚えてるね。あ、電車来たかよ!」
雪はメールの事はそんなに気にしていないのか、元気に電車に乗り込んだ。だが、俊介は心配性だから、
「本当に大丈夫だよね、偶然だよね」
電車の中でしきりに俺に確認してくる。
「当たり前だろ。何で今さらコックリさんが関係するんだよ」
「そうだよね、あ……メールだ」
「あ、あたしも」
「…………俺もだ」
一斉に自分の携帯に届いたメールを開く。
タイトルは昨夜と同じで、
『コックリさん狩りしませんか?』
そう記載されていた。
ただ、昨日とは違った。
そのメールには――本文があった。
『0時集合
集合場所 ××小学校』
短い文だったが俺たちには十分だ。
本文に書かれた時間と集合場所。
その場所は俺たちの母校であり――その時間は俺たちが六年前、学校に忍び込んだ時間だった。
02
「おせーよ。お前ら、10分前行動は基本だろうが」
小学校の校門に一人の男が立っていた。
「悪いな」
その男を俺たちは良く知っている――賢人だ。
一緒にコックリさんをやった5人の内の一人。
俺は俊介、雪と待ち合わせて母校であるこの場所へと向かったのだが、賢人は現地集合するから別にいいと、来なかった。
それでいて文句を言うなんて――ナンセンスだ。
現在の時刻は23時55分。
まだ、時間にはなっていない。
一人で待つのが嫌なら一緒に行動すればよかったんだ。
「まあ、こうして会うのは久しぶりか」
賢人は俺たちを見回した。
夜になっても蒸し暑いこの時期だ。賢人は灰色のタンクトップにジーンズ。露わになる腕は、彫刻の様な濃淡が刻まれていた。
「明日からよーやく、夏休みだってのによ。ま、肝試しにはなるか」
「おお、頼りになるよ賢ちゃん……」
俊介は太い賢人の腕に縋りつく。
「いや、っていうか、また筋肉増えたんじゃない、賢人?」
雪がその太い腕を自身の細い腕と比べる。
丸太と小枝くらいの差がある。
女子ではあるが雪は全体的に細い。
「うるせぇ。ボート部はこうなっちまうんだよ」
賢人は俺達3人とは違う高校に行った。
俺、雪、俊介は普通科の学校。
賢人と拓海は工業の高校へと進んだ。
「それで、拓海はどうした。一緒じゃないのか?」
俺はてっきり拓海は賢人と一緒に来ると思っていたが、どうやら一緒ではないらしい。
「ああ。あいつは来ないってよ。なんでも彼女と過ごすとか」
「拓ちゃんは、相変わらずの軟派だね……」
「ま、あんなメール普通は信じないわな。俺もたまには、お前らに会うのも悪くないって思っただけだしよ」
「それは光栄だな」
そう言いながら俺は時計を見る。時計の針は丁度、12を指したところだった。
「? 何も起きないわね」
「なーんだ。やっぱ悪戯だと思ったんだよね、僕は。丈ちゃんが深刻そうな顔するから」
俊介がさりげなく俺に罪を擦り付けようとしていた。
都合のいいその性格は羨ましい。
「どうする。折角だし中に入ってみるか?」
賢人がそう提案するが、
「いや、やめておこう」
俺は却下する。
十分嫌な思いはした、これ以上余計な真似はしない方がいい。
「そう言わずに入ろうよ。あれ? もしかして、丈ちゃんビビってる?」
「俊ちゃん。丈流をからかわない」
雪が俊介の頭を叩いき、フォローをしていたが――無駄だったな。
ほう、俊介の癖に俺をからかう等なめた真似をしてくれるじゃないか。
「いいだろう。無駄な時間は過ごさない主義だが――幼馴染の為に俺の貴重な時間を割いてやろう」
「ほら……。冷静な癖に俊介にからかわれると、すぐに剥きになるんだから……」
「よっし、決まりね!」
こうして小学生の時は大きく感じた校門。
小学生の時は侵入するのに苦労したが、高校生になった俺は楽に飛び越えらる。胸あたりまでしかない柵を飛び越え、俺たちは中に入っていった。
03
校庭。最大400mで出来たトラックの中心に、大きな白い紙の様な物が置かれていた。
「これ、何だろうね……」
雪が恐る恐る手を出して触れるが、気味悪そうに首を傾げて、砂を払う。
「これ、見た目は大きな紙みたいだけど、触った感じは普通の校庭と一緒だ……」
「そんな訳ないだろう。目に写る物が信じるだ……何っ?」
俺も雪を真似て白い部分に触れるが、その感触は普通の校庭と同じで砂の様ではあった。
ただ、掴もうとしても、一枚の紙でできているのか、地面からは掴めない。
「おい、そんな感触なんてどうでもいいだろ」
「そうだよ、丈ちゃん。あれ……」
俊介と賢人が見ていたのは――白い紙に書かれた鳥居の様な模様だった。
「これは?」
俺達がその上に立つと――ぼやぁ、と、蜃気楼の如く文字たちが、白い紙に浮かび上がる。
お こ そ と の ほ も ゆ ろ ん 5 0
え け せ て ね へ め れ 4 9
う く す つ ぬ ふ む ゆ る を 3 8
い き し ち に ひ み り 2 7
あ か さ た な は ま や ら わ 1 6
いいえ はい
鳥 居
「コックリさんよね……」
コックリさん確かにこれはそれに使用する紙に似てはいるが、大きさが違いすぎる。これだけ大きい物を――誰が用意したのだろう。
〈こほ、マイ、マイ、マ、マ、マイクのテストちゅうです!〉
俺達が地面に描かれた文字に集中していたから、気付けなかったのか――運動会で校長や、お偉いさんがスピーチしていたお立ち台に――少女が立っていた。
左手に狐の面。
右手に狸の面。
そして顔には――狗の面を付けていた。
古典芸能に使われそうな由緒正しそうな面を付けた少女。
長い艶やかな黒髪と声、小学生の体型。
〈えー、みなさま、よくきてくださいました〉
マイク越しにも分かる舌っ足らずな声から判断するに、小学生でも下の学年なのだろうな。
「何だぁ、あのガキは?」
メンチを斬り、賢人が一歩前に出ようとするが――鳥居のマークから足を踏み出せない。一流のスポーツ選手でも出来ないだろう停止の仕方で固まっている賢人。
「か、体が……動かねぇ」
〈かってにうごかないでください!〉
子供が授業で発表するお面の少女。
俺と俊介が賢人の腕を掴んで鳥居の中に引っ張り込む。
「がぁっ……、はぁ、はぁ」
何とか引き戻した俺はお面の少女を睨んだ。
あいつは一体何をしたんだ?
中学、高校と様々なジャンルを学んできた俺ではあるが――理解できない。理解でいない事。
それが俺にとっては一番恐ろしい。
「あの子の仕業……じゃあ、無いよね?」
「さあな。ただ、下手に動かない事がいいのは確かだ」
〈えー、みなさん。、いまから、こっくりさんがりしませんか?〉
コックリさん狩り?
それはやはりあのメールのタイトルにも乗っていた言葉。
「やらないよ、そんなの。とりあえず、ここから出してくれないかな?」
俊介が子供を相手にする時と同じく、歌のお兄さんみたいに話しかける。たしか、俊介の夢は子供を相手にした仕事。
保育士か小学生の先生に成りたいと言っていたしな。
〈ルールはかんたんです――こっくりさんがりしませんか?〉
少女のお面が変わった。面を付け替える仕草をしていなかったのに、狐の面が顔に、狗の面とすり替わっていた。
〈そのこたえをみつけてください。おねがいします!〉
そう言うと、鳥居の入り口に――ルールが浮かび上がった。
コックリさん狩りルール
・ルール1
『コックリさん狩りしませんか?』
その答えを見つけろ。答えだと思う文字に10秒間手を置くと、その文字を認識します。
ただし決められた順番で置かない、と無効になります。
・ルール2
ステージ上には一匹ずつ、狐・狗・狸を放します。
殺されないよう気を付けろ。
間違った文字を認識させると、その文字に向かって向かっていきます。
・ルール3
鳥居爆弾はその狐・狗・狸にぶつける事で、一定時間動きを静止させます。
一人5個しかないので大事に使ってください。
・ルール4
はい。と、いいえ。
そのエリアに獣は入れません。
『はい』は、20分に一度、10分間使えます。
『いいえ』は、一度だけしか入れません。ただし入れる時間は30分。二人以上同時に入室はできません。
・ルール5
数字にはヒントが隠されているので活用しよう。
ただし、『クイズ』に答えられなければ手に入りません。
数字が高いほど『クイズレベル』が上がります。
1~9の順で難しくなります。0が最高難易度です。
「なるほどな……」
俺はその説明文である程度は、把握したが他の3人はよく分かっていないようで首を傾げていた。
〈あれ、ひとりいがいは、みなさんばかなんですか?〉
「うるせえぇ。鳥居爆弾とか、知らなねぇよ!」
〈ああ、わたすのわすれてました〉
お面の少女が両腕を俺たちに向けると――各、お面の口から10個ずつ、小さな鳥居が吐き出された。
良く見ると5個で分けられ、ベルト付けられるようになっていた。
〈それがとりいぼむです〉
「おい、どうせなら、ルール1から説明してくれないか?」
俺はルール1から説明するよう求めた。
大体は把握していると言ったが――大体にしか理解できていない。
ルール2に書いてある、殺されないよう気を付けろ。
つまり、それは――命を賭けたゲームだと言う事だ。
賢人もそこだけは分かっているのだろう。
だから、最初に武器になるであろう鳥居爆弾に付いて聞いたのだ。
だが、雪と俊介は違う。
〈わかりました。ルール1ですか、そうですね〉
少女はお面を次々に変えながら考える。
〈いま、このばしょにいないひとがいます〉
「拓ちゃんのこと?」
〈はい。そのばあいは――やってもらったほうがいいですね。『た』『く』『み』と、そのかみから、えらんでください〉
選べと言われてもな……。
鳥居から出たら動けなくなる。
しかし、少女は何も言わずに俺達を見ている。
ずっとこのままでいても、らちが明かない。
「俺が行こう」
鳥居からゆっくり手を出すと――さっきの賢人が嘘の様に普通に出れた。
「まずは、『た』か」
俺は『た』と、かかれた文字まで歩く。
その文字に手を付け、十秒間その姿勢のままでいると――きっかり、十秒後、『た』の文字が消えた。
〈そのとおりです。ただ、『た』『く』『み』のじゅんばんでないと、いみないです〉
試しに俺は『く』を抜かして『み』を認識させるのだが――文字が赤くなって、サイレンが響いた。
「おい! 夜中にこんな音出したら迷惑だろ!」
「え、丈ちゃん、そこ!?」
人の睡眠を邪魔するわけには行かない。
〈だいじょうぶ、こっくりのけっかいがあるので、このばしょでのおとも、しかくも、なにもみえません〉
「ならいい」
「良くないでしょ。丈流、それはつまり、誰も助けてくれないって事よ?」
「端から期待していないさ」
鳥居の場所へと戻る前に、『た』の位置を確認してが、消えたはずの文字は、再び浮かんでいた。
俺が、鳥居に戻ると、
〈ルール2に行きます〉
お面の少女がそう言った。
少女は右手に付いていた狐面のお面を撫でる。
その動作が関係しているのか――お面から一匹の狐が現れた。
「おい、あのお面は魔法のランプか何かか?」
「それより、で、でかいって!」
俊介が大げさに驚くのも無理はない。
その狐は――人間二人分の身長は優に超えていた。俺の知っている狐はそんなでかくないのだが……。
「おい……あれ!?」
賢人が指差したのは狐の口。
その鋭い、鋸の歯よりも長く鋭い牙に挟まれていたのは――。
「拓海!」
噛まれた胴体を、その歯から抜け出そうと両腕で必死に持ち上げようとするが――びくともしない。
噛まれている胴体から、じわじわと、赤黒い液体が流れていく。
「いてぇ……、いてぇよ。なんで、なにが、どう……なってんだよ?」
本人も何で、狐に喰われているのか、分かっていない。
「ああ、お前ら、た、……助けて。たす、け……くれよ。なあ――けん」
拓海は賢人に助けを求めたのだろう。
しかし、差し出したその手は永遠に届く事は――なかった。
クッキーとトマトをミキサーにかけたような、そんな手軽さで――狐は拓海を喰らい尽くした。
ぼたぼたと落ちた肉片。
どろりと地面にを綺麗になめとりながら、俺たちに向かって唇を舐めて見せる狐。その表情は、「まだまだ、喰いたらねぇ」。狐はそう言いいたいのか。
「きゃあああぁっ!」
「た、拓ちゃん……」
雪が悲鳴を上げて――俊介は泣いていた。
当然だ。
俺でも目を反らしたくなる光景だった。
〈ルール2はりかいしましたね。ルール3はつかってからのおたのしみで〉
お面の少女は楽しそうに話しているが、頭の中に入ってこない。
〈ルール4は、かいてあるとおりです。もしもルールをやぶると、さっきみたいにうごけなくなるので、たべられてしまいます〉
つまり、休憩できるのは10分に一度の5分間。
そう言えば聞こえは良いかもしれないが――あんな化け物と一緒にいなければならない。その恐怖と戦いながらの10分は――長すぎるだろう。
〈ルール5ですが、いちどひんとをつかうと、それをとくまでほんだいのこたえはとけません。それだけちゅういしてください〉
いやなシステムだ。
素直に俺はそう思った。
高い数字だとより良いヒントが得られるが――難易度が上がる。それがクリアできなければ
『コックリさん狩りしませんか?』
その問いに答えられなくなるのか……。
〈いじょうでルールかくにんおしまいです! みさなま、がんばりましょう!〉
その言葉と共に――文字を囲むように壁が現れた。金をかけて作られた迷路のようだ。
迷宮。
俺の頭の中にはその言葉が浮かんだ。
確かその話はミノタウロスを閉じ込めた迷路に、子供たちが生贄として送り込まれたが――俺は違う、生贄なんかじゃない。
なってたまるかよ。
『コックリさん狩りしませんか?』
それが問ではあるが――今の状況、どう考えても狩られるのは俺達の様だ。
こうして俺達とコックリさんのゲームが――
〈それでは、かいしです〉
――始まった。




