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1/5

始まりの恐怖


 

 六年前――俺達5人は小さな禁忌を犯した。


1 

 

 0時00分。

 一通のメールが届いた。

 寝る前にメールを確認するのが俺の日課ではあったが、今までこんな遅くに連絡が来た事は無い。

 不審に思いながらもメールを開いた。

 タイトルは


『コックリさん狩りしませんか?』


 コックリさん?

 確かに小学校の時に、流行りはしたけれど、今はもう18歳。

 あんな子供騙しに興奮する年でもない。ましてやコックリさんを狩るとか――ふざけ過ぎだ。

 肝心の本文は何も書かれていなかった。

 迷惑メールか、そう思って俺はそのメールを削除して、眠りについた。

 翌日、いつもの様に学校に行こうとすると、家の前には俊介がいた。


「あ、おはよう丈ちゃん!」

「遂に高校卒業するまで治らなかったな、その呼び方」

「へへへ、丈ちゃんは丈ちゃんだもん」


 ヘラヘラと緩い雰囲気の俊介。

 人を癒すその気勢で、いつも俺を応援してくれていた。


「珍しいな……、お前が家の前で待ってるなんて」

「だって、丈ちゃん。今日は修了式で明日から夏休みだよ! 一か月も学校に行かなくなるんだから、一緒に行こうよ」


 小さい頃からの幼馴染で俺を丈ちゃんと呼ぶ俊介。

 俺の横に並んで歩いていく。背の低い俊介は、こうして横に並んでも、俺の肩までしかない。

 昔は俺も、俊ちゃんと呼んでいたが、いつからか呼ばなくなった。


「そう言えばさ。昨日、『コックリさん狩りしませんか?』とか、訳分かんないメール来てたけど、昔やったよな~、コックリさん」


 俺たちの通う高校は二つ先の駅まで行かねばならない。

 この距離なら自転車で通う事も可能ではあるが、俺は朝から汗を掻きたくない。俊介は自転車で通学していたから、家の前で待っている事に驚いた。

 全く、俺の日常ルーティンを壊してくれる。


「ねえ、聞いてるの?」


 不満そうな俺を気にする事なく俊介は話しかける。


「勿論だ」


 今日は修了式――明日から夏休みだろうと、何も感じない俺は異常なのだろうか。楽しみでもないし、嫌でもない。


「こっくりさん。僕たちもやったよね」

「やったか?」

「やったよ。確かあの日も――修了式だった気がする」

「……」

「本当に覚えてないんだ……。ほら、小学校の時っ!」


 そんな事を言われても俺はいちいち過去を覚えたりはしない。必要なのは知識であって、経験であって思い出ではない。

 無駄をなくして生きてきたからこそ、俺は国立大学への推薦を手に入れた。

 だから、俺の生き方は間違っていない。


「俊介はいちいち過去を気にし過ぎだ」

「もう。昔からそんな性格だから、あの時も手を放したんだよ!」

「手を離した……?」

「そう、コックリさん中にいきなり手を放して、どこかに行っちゃてさ。親も出てきて、皆大変だったんだから」


 コックリさんは知っている。

 五十音。

 鳥居。

 男女。

 そして――はい。か、いいえ。 

 それらを書いた紙にコインを置いて、コックリさんを呼び寄せる。

 呼び出しに成功すれば、全員が指を置いたコインが、勝手に動き出すという物ではあるが――あんな小さいコインに全員が指を置けば、力は入ってしまう。

 そう考えていた俺は、コックリさんなど信じていなかった。それは今も変わらない。

 

「思い出した……」


 その日――確かに俺はコックリさんをやった。

 いやいやながらも、俊介、雪、賢人、拓海。

 5人で終了が終わった後、夜の学校に集まった。


「いざやってみると、何も起きないから、俺は怒って散歩に出かけたんだ」

「マイペースなのは昔からだけど、中々戻ってこないから心配したんだよ!」

「ふむ。俺にもそんな浅い時代があったのか」


 教室でこじんまりとコックリさんをやるよりは、夜の学校を探検した方がいいと判断したんだっけかな。


「人ごとみたいに言わないの。あ……、噂をすれば。雪!」


 駅に着いた俺たちはホームへ降りていくと、ちょうど電車を待っている雪がいた。

 丸顔。

 童顔。

 愛らしいそのルックスは、現役の中学生と言っても通りそうだ。


「俊ちゃん!? それに丈流も!」

「やっほー、元気だった~」

「うん、俊ちゃんが電車で通学なんて珍しいね」

「なんたって明日から夏休みだからね」

「へー、って、それ理由になってないって。でも、私の高校も今日修了式だよ?」


 ヘイ!

 二人はハイタッチをした。

 朝からテンション高い人間は俺は嫌いだ。そして、人目を気にしない、馬鹿な人間も嫌いだ。俺は別に顔に出したつもりは無いが、昔からの付き合いである二人には分かるようで、


「怒らないの、丈ちゃん」

「スマイル、スマイル!」


 と、笑顔を作って近づいてくる二人。


「ここは公共の場。静かにするのが常識だ」

「はーい」


 雪は元気に手を上げて返事をする。

 

「今ちょうど、小学校の修了式の話しててさ」

「あれね、コックリさんに丈流が怒った時ね」

「そうそう、しかもそれ丈ちゃん忘れてたんだよ?」


 昔話に花が咲くのはいいが、声がでかい。

 通勤するであろう、大人たちが不満そうに俺たちを見ていた。

 

「俊介、雪。少し黙れ」

「ああ、分かったよ丈ちゃん。だから落ち着いて」

「高校生だて言うのに――『冷暴れいぼう』は健在なんだ」


 冷たい暴君。 

 小学生の時の俺に付いたあだ名だった。

 最初はそう呼ばれていたのに、徐々に略されて『冷暴』と呼ばれた。


「懐かしいなぁ、コックリさん。あ、そう言えば――私、昨日の夜、変なメール来てたんだけど……」

「変なメール?」


 俺と俊介は顔を見合わせる。

 小学校の話になったのも、別に今日が修了式だからでは無かった。

 軽く聞き流してはいたけど、俊介も確か変なメールが来ていたと――そう言った。

 その内容は――。


「うん。『こっくりさん狩りしませんか?』ってメールでさ」

「…………俊介」


 俊介は俺の言いたい事を理解したのか、


「賢ちゃんと拓ちゃんに連絡してみる!」


 と、ポケットから急いでスマホを取り出し、電話を掛け始めた俊介。最初に二人の内どちらに電話を掛けたのかは分からないが、爪先で苛立だしそうに地面を蹴る。

 喜と楽の感情しか普段は持っていない俊介にしては――珍しい行動だ。


「ねえ、なんで俊ちゃんあんな焦ってるの?」


 雪は不思議そうに俊介を見ていた。


「俺と俊介も――その『こっくりさん狩りしませんか?』って、メールが来ていたんだ」

「え……、だ、誰かの悪戯じゃない?」

「だといいんだが。そんな事をして何の意味がある? 一応、雪の友人達にもそんなメールが来たか、確認してくれ。どの程度の確率で送られているのか知りたい」


 怪訝そうな表情を浮かべる雪。

 だが、3人が同じ時間帯に同じメールの内容が送られてきたんだ。それを俺は不振に思った。

 6年前――コックリさんをした、確かにあの時は何も起こりはしなかった。コインが動く事もなく、只々時間が過ぎていただけ。

 それが今さら? だからこれは迷惑メールだ。

 他の人間も受け取っている筈だ。

 

「コックリさんと言う言葉ワードから、俺たちに共通しているのは、あの日だけ」

「うん。私もあれが最初で最後のコックリさんだったよ?」


 携帯をいじりながら俺と会話を続ける雪。


「今日は修了式――偶然か?」

「そうだねぇ――あ、皆から返信来た!」

「どうだ?」

「うーん、まだ全員ではないけど、クラスの半分はそんなメール来てないってさ」

「…………」


 コックリさん・終了式。

 俺・俊介・雪。

 こうもあの日に関連するのは果たして偶然なのか?

 その時、電話がつながったのか、俊介が話し始める。


「あ、拓ちゃん? 久しぶりだね。元気してた? 僕は元気だよって、そんな話がしたいんじゃなくて――昨日の夜、変なメール来た? うん、そう……なんだ」


 最初に電話を掛けたのは拓海か。

 顔はいいのに性格が残念な拓海はいつも皆にいじられていた。流石にもう、いじりはしない。

 俊介は電話でも分かりやすいな。

 後半に連れて声のトーンが低くなり、最後、変なメールを聞いたところからは、ほとんど声が聞き取れなくなった。


「やっぱ、拓ちゃんにも来てたって……」


 俯いた俊介の手は震えていた。


「あの時――やっぱあれが不味かったのかな?」

「あれ?」


 俊介には思い当たる節があるようだが、俺と雪には全くない。


「ほら、何も言わないで手を放しちゃったじゃん」


 俺は思い出そうとするがそんな小さな行動までは覚えていない。

 雪も思い出せないらしく、腕を組んで首を傾げていた。


「俊ちゃんはよくそんな小さい事、覚えてるね。あ、電車来たかよ!」


 雪はメールの事はそんなに気にしていないのか、元気に電車に乗り込んだ。だが、俊介は心配性だから、


「本当に大丈夫だよね、偶然だよね」


 電車の中でしきりに俺に確認してくる。


「当たり前だろ。何で今さらコックリさんが関係するんだよ」

「そうだよね、あ……メールだ」

「あ、あたしも」

「…………俺もだ」


 一斉に自分の携帯に届いたメールを開く。

 タイトルは昨夜と同じで、


『コックリさん狩りしませんか?』


 そう記載されていた。

 ただ、昨日とは違った。

 そのメールには――本文があった。


『0時集合

 集合場所  ××小学校』


 短い文だったが俺たちには十分だ。

 本文に書かれた時間と集合場所。

 その場所は俺たちの母校であり――その時間は俺たちが六年前、学校に忍び込んだ時間だった。 

 


02


「おせーよ。お前ら、10分前行動は基本だろうが」


 小学校の校門に一人の男が立っていた。


「悪いな」


 その男を俺たちは良く知っている――賢人だ。

 一緒にコックリさんをやった5人の内の一人。

 俺は俊介、雪と待ち合わせて母校であるこの場所へと向かったのだが、賢人は現地集合するから別にいいと、来なかった。

 それでいて文句を言うなんて――ナンセンスだ。

 現在の時刻は23時55分。

 まだ、時間にはなっていない。

 一人で待つのが嫌なら一緒に行動すればよかったんだ。


「まあ、こうして会うのは久しぶりか」


 賢人は俺たちを見回した。

 夜になっても蒸し暑いこの時期だ。賢人は灰色のタンクトップにジーンズ。露わになる腕は、彫刻の様な濃淡が刻まれていた。


「明日からよーやく、夏休みだってのによ。ま、肝試しにはなるか」

「おお、頼りになるよ賢ちゃん……」


 俊介は太い賢人の腕に縋りつく。


「いや、っていうか、また筋肉増えたんじゃない、賢人?」


 雪がその太い腕を自身の細い腕と比べる。

 丸太と小枝くらいの差がある。

 女子ではあるが雪は全体的に細い。


「うるせぇ。ボート部はこうなっちまうんだよ」


 賢人は俺達3人とは違う高校に行った。

 俺、雪、俊介は普通科の学校。

 賢人と拓海は工業の高校へと進んだ。


「それで、拓海はどうした。一緒じゃないのか?」


 俺はてっきり拓海は賢人と一緒に来ると思っていたが、どうやら一緒ではないらしい。


「ああ。あいつは来ないってよ。なんでも彼女と過ごすとか」

「拓ちゃんは、相変わらずの軟派だね……」

「ま、あんなメール普通は信じないわな。俺もたまには、お前らに会うのも悪くないって思っただけだしよ」

「それは光栄だな」


 そう言いながら俺は時計を見る。時計の針は丁度、12を指したところだった。


「? 何も起きないわね」

「なーんだ。やっぱ悪戯だと思ったんだよね、僕は。丈ちゃんが深刻そうな顔するから」


 俊介がさりげなく俺に罪を擦り付けようとしていた。

 都合のいいその性格は羨ましい。


「どうする。折角だし中に入ってみるか?」


 賢人がそう提案するが、


「いや、やめておこう」


 俺は却下する。

 十分嫌な思いはした、これ以上余計な真似はしない方がいい。


「そう言わずに入ろうよ。あれ? もしかして、丈ちゃんビビってる?」

「俊ちゃん。丈流をからかわない」


 雪が俊介の頭を叩いき、フォローをしていたが――無駄だったな。

 ほう、俊介の癖に俺をからかう等なめた真似をしてくれるじゃないか。


「いいだろう。無駄な時間は過ごさない主義だが――幼馴染の為に俺の貴重な時間を割いてやろう」

「ほら……。冷静な癖に俊介にからかわれると、すぐに剥きになるんだから……」

「よっし、決まりね!」


 こうして小学生の時は大きく感じた校門。

 小学生の時は侵入するのに苦労したが、高校生になった俺は楽に飛び越えらる。胸あたりまでしかない柵を飛び越え、俺たちは中に入っていった。



03

 

 校庭。最大400mで出来たトラックの中心に、大きな白い紙の様な物が置かれていた。

 

「これ、何だろうね……」


 雪が恐る恐る手を出して触れるが、気味悪そうに首を傾げて、砂を払う。


「これ、見た目は大きな紙みたいだけど、触った感じは普通の校庭と一緒だ……」

「そんな訳ないだろう。目に写る物が信じるだ……何っ?」


 俺も雪を真似て白い部分に触れるが、その感触は普通の校庭と同じで砂の様ではあった。

 ただ、掴もうとしても、一枚の紙でできているのか、地面からは掴めない。


「おい、そんな感触なんてどうでもいいだろ」

「そうだよ、丈ちゃん。あれ……」


 俊介と賢人が見ていたのは――白い紙に書かれた鳥居の様な模様だった。


「これは?」


 俺達がその上に立つと――ぼやぁ、と、蜃気楼の如く文字たちが、白い紙に浮かび上がる。

  


お こ そ と の ほ も ゆ ろ ん 5 0  

え け せ て ね へ め   れ   4 9  

う く す つ ぬ ふ む ゆ る を 3 8  

い き し ち に ひ み   り   2 7  

あ か さ た な は ま や ら わ 1 6  

                         

   いいえ            はい     

          鳥 居            



「コックリさんよね……」


 コックリさん確かにこれはそれに使用する紙に似てはいるが、大きさが違いすぎる。これだけ大きい物を――誰が用意したのだろう。


〈こほ、マイ、マイ、マ、マ、マイクのテストちゅうです!〉


 俺達が地面に描かれた文字に集中していたから、気付けなかったのか――運動会で校長や、お偉いさんがスピーチしていたお立ち台に――少女が立っていた。

 左手に狐の面。

 右手に狸の面。

 そして顔には――狗の面を付けていた。

 古典芸能に使われそうな由緒正しそうな面を付けた少女。

 長い艶やかな黒髪と声、小学生の体型。


〈えー、みなさま、よくきてくださいました〉


 マイク越しにも分かる舌っ足らずな声から判断するに、小学生でも下の学年なのだろうな。


「何だぁ、あのガキは?」


 メンチを斬り、賢人が一歩前に出ようとするが――鳥居のマークから足を踏み出せない。一流のスポーツ選手でも出来ないだろう停止の仕方で固まっている賢人。


「か、体が……動かねぇ」


〈かってにうごかないでください!〉


 子供が授業で発表するお面の少女。

 俺と俊介が賢人の腕を掴んで鳥居の中に引っ張り込む。


「がぁっ……、はぁ、はぁ」


 何とか引き戻した俺はお面の少女を睨んだ。

 あいつは一体何をしたんだ?

 中学、高校と様々なジャンルを学んできた俺ではあるが――理解できない。理解でいない事。

 それが俺にとっては一番恐ろしい。


「あの子の仕業……じゃあ、無いよね?」

「さあな。ただ、下手に動かない事がいいのは確かだ」


〈えー、みなさん。、いまから、こっくりさんがりしませんか?〉


 コックリさん狩り?

 それはやはりあのメールのタイトルにも乗っていた言葉。


「やらないよ、そんなの。とりあえず、ここから出してくれないかな?」


 俊介が子供を相手にする時と同じく、歌のお兄さんみたいに話しかける。たしか、俊介の夢は子供を相手にした仕事。

 保育士か小学生の先生に成りたいと言っていたしな。


〈ルールはかんたんです――こっくりさんがりしませんか?〉


 少女のお面が変わった。面を付け替える仕草をしていなかったのに、狐の面が顔に、狗の面とすり替わっていた。


〈そのこたえをみつけてください。おねがいします!〉


 そう言うと、鳥居の入り口に――ルールが浮かび上がった。


 コックリさん狩りルール

 ・ルール1

  『コックリさん狩りしませんか?』

 その答えを見つけろ。答えだと思う文字に10秒間手を置くと、その文字を認識します。

 ただし決められた順番で置かない、と無効になります。  


 ・ルール2

  ステージ上には一匹ずつ、狐・狗・狸を放します。

  殺されないよう気を付けろ。

  間違った文字を認識させると、その文字に向かって向かっていきます。


 ・ルール3

  鳥居爆弾とりいボムはその狐・狗・狸にぶつける事で、一定時間動きを静止させます。 

  一人5個しかないので大事に使ってください。


 ・ルール4

  はい。と、いいえ。

  そのエリアに獣は入れません。

 『はい』は、20分に一度、10分間使えます。

 『いいえ』は、一度だけしか入れません。ただし入れる時間は30分。二人以上同時に入室はできません。

 

 ・ルール5

  数字にはヒントが隠されているので活用しよう。

  ただし、『クイズ』に答えられなければ手に入りません。

  数字が高いほど『クイズレベル』が上がります。

  1~9の順で難しくなります。0が最高難易度です。

     


「なるほどな……」


 俺はその説明文である程度は、把握したが他の3人はよく分かっていないようで首を傾げていた。

 

〈あれ、ひとりいがいは、みなさんばかなんですか?〉


「うるせえぇ。鳥居爆弾とりいボムとか、知らなねぇよ!」


〈ああ、わたすのわすれてました〉


 お面の少女が両腕を俺たちに向けると――各、お面の口から10個ずつ、小さな鳥居が吐き出された。

 良く見ると5個で分けられ、ベルト付けられるようになっていた。


〈それがとりいぼむです〉


「おい、どうせなら、ルール1から説明してくれないか?」


 俺はルール1から説明するよう求めた。

 大体は把握していると言ったが――大体にしか理解できていない。

 ルール2に書いてある、殺されないよう気を付けろ。

 つまり、それは――命を賭けたゲームだと言う事だ。

 賢人もそこだけは分かっているのだろう。

 だから、最初に武器になるであろう鳥居爆弾に付いて聞いたのだ。

 だが、雪と俊介は違う。

 

〈わかりました。ルール1ですか、そうですね〉


 少女はお面を次々に変えながら考える。


〈いま、このばしょにいないひとがいます〉


「拓ちゃんのこと?」


〈はい。そのばあいは――やってもらったほうがいいですね。『た』『く』『み』と、そのかみから、えらんでください〉


 選べと言われてもな……。

 鳥居から出たら動けなくなる。

 しかし、少女は何も言わずに俺達を見ている。

 ずっとこのままでいても、らちが明かない。


「俺が行こう」


 鳥居からゆっくり手を出すと――さっきの賢人が嘘の様に普通に出れた。


「まずは、『た』か」


 俺は『た』と、かかれた文字まで歩く。

 その文字に手を付け、十秒間その姿勢のままでいると――きっかり、十秒後、『た』の文字が消えた。


〈そのとおりです。ただ、『た』『く』『み』のじゅんばんでないと、いみないです〉


 試しに俺は『く』を抜かして『み』を認識させるのだが――文字が赤くなって、サイレンが響いた。


「おい! 夜中にこんな音出したら迷惑だろ!」

「え、丈ちゃん、そこ!?」


 人の睡眠を邪魔するわけには行かない。


〈だいじょうぶ、こっくりのけっかいがあるので、このばしょでのおとも、しかくも、なにもみえません〉


「ならいい」

「良くないでしょ。丈流、それはつまり、誰も助けてくれないって事よ?」

「端から期待していないさ」


 鳥居の場所へと戻る前に、『た』の位置を確認してが、消えたはずの文字は、再び浮かんでいた。

 俺が、鳥居に戻ると、


〈ルール2に行きます〉


 お面の少女がそう言った。

 少女は右手に付いていた狐面のお面を撫でる。

 その動作が関係しているのか――お面から一匹の狐が現れた。


「おい、あのお面は魔法のランプか何かか?」

「それより、で、でかいって!」


 俊介が大げさに驚くのも無理はない。

 その狐は――人間二人分の身長は優に超えていた。俺の知っている狐はそんなでかくないのだが……。


「おい……あれ!?」


 賢人が指差したのは狐の口。

 その鋭い、鋸の歯よりも長く鋭い牙に挟まれていたのは――。


「拓海!」


 噛まれた胴体を、その歯から抜け出そうと両腕で必死に持ち上げようとするが――びくともしない。

 噛まれている胴体から、じわじわと、赤黒い液体が流れていく。


「いてぇ……、いてぇよ。なんで、なにが、どう……なってんだよ?」


 本人も何で、狐に喰われているのか、分かっていない。


「ああ、お前ら、た、……助けて。たす、け……くれよ。なあ――けん」


 拓海は賢人に助けを求めたのだろう。

 しかし、差し出したその手は永遠に届く事は――なかった。

 クッキーとトマトをミキサーにかけたような、そんな手軽さで――狐は拓海を喰らい尽くした。

 ぼたぼたと落ちた肉片。

 どろりと地面にを綺麗になめとりながら、俺たちに向かって唇を舐めて見せる狐。その表情は、「まだまだ、喰いたらねぇ」。狐はそう言いいたいのか。


「きゃあああぁっ!」

「た、拓ちゃん……」


 雪が悲鳴を上げて――俊介は泣いていた。

 当然だ。

 俺でも目を反らしたくなる光景だった。


〈ルール2はりかいしましたね。ルール3はつかってからのおたのしみで〉


 お面の少女は楽しそうに話しているが、頭の中に入ってこない。

 

〈ルール4は、かいてあるとおりです。もしもルールをやぶると、さっきみたいにうごけなくなるので、たべられてしまいます〉


 つまり、休憩できるのは10分に一度の5分間。

 そう言えば聞こえは良いかもしれないが――あんな化け物と一緒にいなければならない。その恐怖と戦いながらの10分は――長すぎるだろう。


〈ルール5ですが、いちどひんとをつかうと、それをとくまでほんだいのこたえはとけません。それだけちゅういしてください〉


 いやなシステムだ。

 素直に俺はそう思った。

 高い数字だとより良いヒントが得られるが――難易度が上がる。それがクリアできなければ

『コックリさん狩りしませんか?』

 その問いに答えられなくなるのか……。


〈いじょうでルールかくにんおしまいです! みさなま、がんばりましょう!〉


 その言葉と共に――文字を囲むように壁が現れた。金をかけて作られた迷路のようだ。

 迷宮ラビリンス

 俺の頭の中にはその言葉が浮かんだ。

 確かその話はミノタウロスを閉じ込めた迷路に、子供たちが生贄として送り込まれたが――俺は違う、生贄なんかじゃない。

 なってたまるかよ。


『コックリさん狩りしませんか?』


 それが問ではあるが――今の状況、どう考えても狩られるのは俺達の様だ。

 こうして俺達とコックリさんのゲームが――


〈それでは、かいしです〉


 ――始まった。


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