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4.ウサギはぴょんぴょん

 なっぱは小さな足で、ちょこちょこちょこちょこ歩きました。

 なっぱの後ろをしっぽくの字のくーたろうが、とことことことこ着いていきます。

 ふたりは、いるのにおらんが住む西のはずれにある一軒家から、さらに西へ西へと歩いて行きました。

 周りにはビルも家もなくなって、草がぼうぼう生えています。

「ずいぶん広ーいお庭だね」

 と、なっぱが言いました。

「いるのにおらんの家のお庭の、10倍はあるに違いないな」

 しっぽくの字のくーたろうが答えます。10倍といったら大変なものです。なにしろ10倍なのですから。

 なっぱもしっぽくの字のくーたろうも、そこが野原だとは気がつきませんでした。

 だって、ふたりとも生まれてから一度も町を出たことがなかったのです。野原が大きな庭だと思ったとしても、無理もありません。

 ふたりは自分たちが歩いているのが野原だとは知らずに、ちょこちょことことこ歩いて行きました。

 にぎやかだった町が、どんどん遠くなっていきます。

 ぽかぽかと暖かいお日様がふたりを照らして、気持ちのいい風がふわふわの毛を揺らします。

 三羽のすずめがちゅんちゅく鳴きながら、お空を飛んでいます。

 なっぱは気分が良くなって、歌を歌いました。

「ぼくはなっぱ、ウサギのなっぱ、ウサギの住み家はどこにある」

 これを聞いたしっぽくの字のくーたろうは、おかしくておかしくてたまりません。なっぱは、スッカリ自分がウサギだと思い込んでいます。

 しっぽくの字のくーたろうは、心の中でにゃひにゃひ笑いました。

 そのときです。

 お空を飛んでいた三羽のちゅんちゅくすずめが、歌い出しました。

「ちゅんちゅくちゅん。そんなウサギはいやしない。ウサギはぴょんぴょんウサギ跳び」

 なっぱとしっぽくの字のくーたろうは、顔を見合わせました。

「しっぽくの字のくーたろうさん、ちゅんちゅくすずめが歌っているのは本当ですか?」

 なっぱが聞きました。

「そう言えば、聞いたことがあるぞ。ウサギはぴょんぴょん跳ぶんだって」

「それじゃぁウサギは、野菜が大好きで、野原や山に穴をほって住んでいて、ぴょんぴょん跳ぶねこなんですね」

 なっぱがもう一度聞きました。

 本当はウサギはねこじゃないけれど、本当のことなど言うつもりはありません。しっぽくの字のくーたろうは、うんとうなずきました。

「じゃぁぼくもこれから、ぴょんぴょん跳びます」

 そう言うとなっぱは、後ろ足でぴょんと跳んで、それからまたぴょんと跳んで、それからそれからまたぴょんと跳びました。

 なっぱは、なんだか楽しくなりました。

 ちょこちょこ歩くよりも、ぴょんと跳んだ方がずっとおもしろかったのです。それに、ぴょんと跳んだ方が、ちょこちょこ歩くよりも、ずっと速かったのです。

 こんなにぴょんぴょん跳ぶのが楽しいのだから、やっぱり自分はウサギに違いないと、なっぱは思いました。

 ウサギみたいにぴょんぴょん跳ぶなっぱを見て、しっぽくの字のくーたろうは、おかしくておかしくてしかたがありません。

 今にも笑い出しそうなのをこらえて、心の中でにゃひにゃひ笑いました。

 なっぱは、ぴょんぴょん跳んで進みます。

 その後をしっぽくの字のくーたろうが、とことことことこ着いていきます。

 ふたりは、ぴょんぴょんとことこ野原の中を進んでいきました。

 ぴょんぴょん跳ぶなっぱに、一生懸命とことことことこ歩かないと、しっぽくの字のくーたろうは置いていかれそうでした。

 でも、それは最初のうちだけでした。

 ぴょんぴょんぴょんが、ぴょんぴょんになり、それからぴょんになって、しまいには休んではぴょん、休んではぴょんになってしまいました。

 なっぱは疲れてしまったのです。

「おい、なっぱ。ウサギが跳ぶのに疲れてたんじゃ、話にならないぞ」

 しっぽくの字のくーたろうが言いました。

「そうですよね。ぼく、がんばります」

 なっぱはくたくたでしたが、自分がウサギだと思い込んでいるので、一生懸命ぴょんと跳びました。

 やがてふたりは、ちょろちょろ小川が流れているところにやってきました。

 ふたりは小川をじっと見ました。ずっと町で暮らしていたふたりは、小川を見たことがなかったのです。

 おそるおそる小川に右の前足を入れてみると、足が水に濡れました。濡れた足をくんくんして、ようやくそれがただの水だとわかりました。

 なっぱも、しっぽくの字のくーたろうも、のどがからからだったので、小川の水をぴちゃぴちゃごきゅ、ぴちゃぴちゃごきゅと飲みました。

 好きなだけ水を飲むと、なっぱは疲れていたのをちょっとだけ忘れることが出来ました。

 こんなにあとからあとから水が流れているなんて、不思議です。水はずっとあっちの方から、ずっとこっちの方まで続いています。

 ふたりは水に濡れるのがイヤなので、これでは先に進めません。

「しっぽくの字のくーたろうさん、どうしてこの雨は横に降っているの?」

 なっぱは聞きました。

 こんなにたくさんの水が流れているのをなっぱは見たことがなかったので、これはきっと雨に違いないと思ったのです。

「横に降る雨なんてあるもんか、これは人間が水道を出しっぱなしにしているのさ」

 しっぽくの字のくーたろうが言いました。

 そう言えば、なっぱも、魚屋の大将が水道からお水をじゃーじゃー出して、お店のショーケースを洗っているのを見たことがあります。

 きっとずっとあっちの方で、魚屋の大将が水道を出しっぱなしにしているに違いありません。

 ふたりは、魚屋の大将がショーケースを洗い終わるのを待つことにしました。

 ぽかぽかのお日様の下、流れる水の音を聞いていると、とろとろ眠くなってきます。いつの間にかふたりはすやすやと眠ってしまいました。

 しばらく経って、ふたりがようやく目を覚ましても、水は眠る前と同じに流れていました。

 いったいいつまでショーケースを洗っているのでしょう? 見当もつきません。

「どうにかして、向こうに行けないものかな」

 しっぽくの字のくーたろうが言いました。

「しっぽくの字のくーたろうさん、水の中に大きな石がふたつ顔を出していますよ。石の上をぴょんぴょんぴょんってすれば、濡れずに済むんじゃないですか」

 しっぽくの字のくーたろうは、なっぱが言ったところを見ました。

 なるほど、大きな石がふたつ顔を出しています。その上をこっち側からぴょんぴょんぴょんと行けば、濡れずに向こう側にいけそうです。

「よし、じゃぁオイラが試しにやってみるよ」

 そう言うとしっぽくの字のくーたろうは、こっち側からぴょんぴょんぴょんと向こう側に行きました。

 最後だけはチョッピリ遠かったので、ぴょんではなくぴょーんでしたが、これぐらいなら小さいなっぱでも大丈夫そうです。

「ぼくも、ぴょんぴょんぴょんって行きますね」

 しっぽくの字のくーたろうが、無事向こう側にたどり着いたのを見て、なっぱが言いました。

「おい、なっぱ。気をつけろよ。ぴょんぴょんぴょんじゃなくて、ぴょんぴょんぴょーんだぞ」

「ぴょんぴょんぴょーんですね、わかりました」

 元気良く返事をすると、なっぱはこっち側から向こう側へ、ぴょんぴょんぴょーんとしました。

 けれども、最後のぴょーんが、どういうわけかぴょんになってしまいました。

 ここまでぴょんぴょんウサギ跳びで来たなっぱは、いつもならぴょーんと出来るところが、疲れてしまってぴょんとしか出来なかったのです。

 ぴょーんとしなければならないところを、ぴょんとしたのですからたまりません。

 なっぱは、ザブンと水の中に落ちてしまいました。

 水の中でばしゃばしゃ手をいっぱいに伸ばして、向こう側に生えている草を懸命につかみます。

 飲みたくないのに、お水が鼻と口の中に入って来ました。

 ずっとあっちの方からずっとこっちの方に流れる水に、流されそうです。

 つかんだ草が、今にも抜けそうです。

 しっぽくの字のくーたろうは、急いで『く』の字に曲がったしっぽをなっぱに差し出しました。

「おい、なっぱ。オイラのしっぽにつかまるんだ!」

 なっぱは、もうちょっとで抜けそうだった草から手を離すと、しっぽくの字のくーたろうのしっぽにつかまりました。

 丁度『く』の字に曲がったところになっぱをひっかけると、しっぽくの字のくーたろうは力いっぱい引っ張りました。

 大事な大事なしっぽがひっぱられて痛いのもガマンして、一生懸命に引っ張りました。その甲斐あって、ようやっとなっぱを引っ張り上げることができました。

 なっぱはぷるぷるっとびしょ濡れの身体を震わせて、毛についた水をはじくと、しっぽくの字のくーたろうにお礼を言いました。

「しっぽくの字のくーたろうさん、助けてくれてありがとう」

 しっぽくの字のくーたろうはくたくたで、びしょ濡れになったしっぽの手入れもせずにその場にへたりこんでいました。

「おい、なっぱ。そろそろのらねこ小路こみちに帰らないか?」

 しっぽくの字のくーたろうが言いました。でも、なっぱは首を横に振ります。

「ぼくは仲間のウサギに会うまでは、帰りません」

 しっぽくの字のくーたろうは、こう言うよりしかたがありませんでした。

「しょうがないなぁ、じゃぁオイラも行くよ」

「しっぽくの字のくーたろうさん、ありがとう」

 なっぱはお礼を言いました。

 しっぽくの字のくーたろうは、うそなんか言わなきゃよかったなと、ちょっぴり思いました。


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