3.いるのにおらん
しっぽくの字のくーたろうとなっぱは、自動車がびゅんびゅん通る大きな道を三つも渡って、やっとこすっとこ町の西のはずれまでやってきました。
そこには小さな庭のある小さな家が、ぽつんと一軒建っていました。
この小さな一軒家が、いるのにおらんがいる家に違いありません。
しっぽくの字のくーたろうとなっぱは、人間のおばあさんに見つからないように、ぬきあしさしあしで小さな庭に入って行きました。
人間になんか見つかったら、どんなことになるかわからないからです。
ふたりが小さな庭に入って行くと、ぽかぽかお日様が当たる暖かい縁側で、年老いたおばあさんのミケネコが一匹日向ぼっこをしていました。
おばあさんのミケネコは、ごろごろとのどを鳴らしてうつらうつらしています。
きっと、あのおばあさんねこがいるのにおらんに違いないと、ふたりは思いました。
「いるのにおらんというねこは、おばあさんのことですか?」
なっぱは、今度は最初からけろけろカエルが鳴くような声で聞きました。
すると、おばあさんのミケネコは目やにのついた左目を開けてチロっとふたりを見てから、ふにゃーっと大きなあくびをしました。
「そうさね、アタシがいるのにおらんさね、お若いの」
おばあさんのミケネコが言いました。
「それで、お前さんたちは誰だい? お若いの」
「オイラはしっぽくの字のくーたろうで、こっちがなっぱです」
しっぽくの字のくーたろうが言いました。
なっぱはスイカの親分の10倍と聞いていたのでチョッピリ怖かったのですが、会って見ればただのおばあさんのミケネコです。
ふたりはペコリと頭を下げました。
「それで、この老いぼれねこになんの用だい? お若いの」
「実は、なんでも知ってる、いるのにおらんさんに教えて欲しいことがあるんです」
しっぽくの字のくーたろうが言いました。
「ウサギの住み家を、教えて欲しいんです」
「そんなことなら簡単だよ、お若いの」
いるのにおらんがそう言ったのを聞いて、ふたりは喜びました。
「ただし、ただじゃ教えられないよ、お若いの」
しっぽくの字のくーたろうとなっぱは、びっくりしました。
ただじゃないってことは、お金が要るに違いありません。でも、ふたりはお金なんて持っていません。こんなことなら道に落ちていたピカピカ光る丸いお金を、拾ってとっておけばよかったと思いました。
「いるのにおらんさん、ごめんなさい。ぼくたちお金を持っていません」
すると、いるのにおらんがふにゃふにゃ笑いました。
「お金なんていらないさ。そんなものもらったって、なんの足しにもなりゃしないよ、お若いの」
お金がいらないと聞いて、ふたりはほっとしました。
「お金はいらないけれど、教える代わりにやって欲しいことがあるのさ、お若いの」
「ぼくに出来ることなら、なんでも言ってください」
なっぱが元気に言いました。
「アタシゃ昔、自動車にひかれて左の前足が無くなっちまったのさ、お若いの。そのときこの家のおばあさんに助けられて、それから何の不自由もなくこんなに長生きしてるのさね」
今まで前足を隠して座っているんだとばかり思っていたのですが、よく見ると、いるのにおらんの左の前足は、肩からすっかりありませんでした。
「何の不自由もないと言ったけど、ひとつ不自由なことがあってね、お若いの。左の前足が無いせいで、顔の左側がうまく洗えなんだよ」
なるほど、いるのにおらんが言うように、顔の左側がなんとなく薄汚れていて、左の目には目やにがたまっています。
「そんなことならお安いご用です、いるのにおらんさん。ぼくがなめてキレイにします」
そう言うと、なっぱはピョンと縁側に跳び乗って、おばあさんねこの顔の左側をザリザリとなめました。
「ありがとうよ、お若いの」
いるのにおらんは、本当に気持ちよさそうに目を細めました。
それを見ていたしっぽくの字のくーたろうも、なんだか居ても立ってもいられなくなってきました。
ピョンと縁側に跳び乗ると、頼まれてもいない顔の右側をザリザリとなめました。
「お前さんもキレイにしてくれるのかい。ありがとうよ、お若いの」
お礼を言われると、ふたりはくすぐったいようなてれくさいような、なんだかいい気持ちになりました。
それで、顔どころか体も全部なめてキレイにしました。
「こんなにキレイにしてもらったのは、本当に久しぶりだよ。ありがとうよ、お若いの」
全身がすっかりキレイになると、いるのにおらんはふたりにもう一度お礼を言いました。
ふたりともとってもいい気持ちになって、何をしに来たのかなんて、スッカリ忘れていました。
「それじゃ、お礼にウサギの住み家を教えようかね、お若いの」
そう言われて、やっとふたりは自分たちが何をしに来たのかを思い出しました。
「そうだそうだ、そうだった。ウサギの住み家を教えてもらいに来たんだった」
「よーくお聞きよ、お若いの。ウサギは町にはいやしないよ。町から離れたずっと先の野原や山に、穴をほって住んでいるのさ」
それを聞いてふたりはビックリしました。
町のずっと向こうに野原や山があるらしいと聞いたことはありましたが、そこはレストランのゴミ箱も魚屋さんのゴミ箱もなんにもない、恐ろしいところなのです。
そのとき、家の奥から人間のおばあさんの声がしました。
「らんや、らん。おらんはどこにいる」
しっぽくの字のくーたろうとなっぱは、あわてて縁側から跳び降りると、小さな庭の草むらに隠れました。
いるのにおらんは、にゃおんと返事すると、三本の足でひょこひょこ家の奥に行ってしまいました。
しっぽくの字のくーたろうは言いました。
「おい、なっぱ。町を出て、ウサギを探しにいくのか?」
するとなっぱが言いました。
「もちろん行きます。だって、ウサギはぼくの仲間だもん」
またまたおもしろいことになってきました。
しっぽくの字のくーたろうは、楽しくて楽しくてしかたがありません。
「じゃぁ、なっぱひとりじゃ心配だから、オイラがいっしょに着いて行ってやるよ」
「しっぽくの字のくーたろうさん、ありがとう」
なっぱはお礼を言いました。
しっぽくの字のくーたろうは、心の中でにゃひにゃひ笑いました。




