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ドラゴン登場

 ブライアンの登場に息を飲む。


 よくあの濁流の中から自力で脱出できたなってのが素直な感想で、そんなに執着することなのかなとも思えた。


 確かにシンシアはリタの庇護下でジェシカの部屋はもぬけの殻。

 ジェシカの刀身(とうしん)も部屋から消え、デビッドからダグラスに「北の神殿に向かうから僕たちを助けて、エイセルを殺して欲しい」と命乞いと殺人依頼の連絡なんかがくれば、怪しんでその場所で待ち構えるのも分からんでもないけど。そんなに血眼(ちまなこ)になるぐらいに王位継承の傀儡(かいらい)が必要なのかな?リタの水攻めが成功していたらジェシカは水死体になってたわけであって。


剥製(はくせい)の傀儡でも構わないって魂胆(こんたん)かしらね。アゼルギニアの海に眠る財宝は国王が鍵だし、カンザス団を掌握(しょうあく)しているのも表向きは国王。それになによりもドラゴンを操れるのは国王だけだしね。余所者(よそもの)には宝の持ち腐れなのよ、この国は」


 考えを読まれたようでオズが怖いことを言った。まさか剥製にするつもりなのか?ジェシカを?

 しかも後半はよく分からないことを言っていた。ドラゴンがなんとかって、いったいなんのことだ?


「オズ、よくも裏切りおって」憎々しげに吐き捨てるブライアンに、


「あら私はいつでもお金の味方よ。もっとお金を(はず)んでくれたら味方になってあげてよ」


 相変わらず飄々(ひょうひょう)と、どっちつかずの根無し草のようなことを言っている。


 その言葉に俺とジェシカは視線を()み交わして、クスリと笑い合う余裕が出来ていた。

 もう驚かないし、ジェシカのオズに対する気持ちも理解できたような気がする。


 たぶんオズはお金や権力に()びる人間ではない。王者の(うつわ)かどうか見定めながら自分の意志や感覚で従っていくのだろう。そして王者が道を誤ったり足を踏み外したときは、容赦なく切り捨てていく非情さを(あわ)せ持っている。オズという化け物を生かすも殺すもジェシカの王としての力量にかかっていて、ブライアンには到底ムリだろうと思えた。


「ではこの金でこいつらを殺してしまえ」


 ブライアンが懐から袋を取り出しオズの足元に向かって投げた。袋が丸みを帯びているので砂金だろう。

 ヤエル・マーズで俺が渡した砂金の袋よりも大きい。

 だが、オズは袋を冷たく一瞥(いちべつ)して、


「足りないわね、もっと積んでくれないと」


 金の亡者かと思う一言を吐き、“おや?”という顔をして上を睨んだ。

 聞き耳を立てているような顔がみるみると険しくなって、大きな舌打ちを漏らした。


 ギリギリと噛み締めた奥歯から「あのクソ女!!!」と忌々(いまいま)しげに漏れるのも聞こえて、俺もなんとなく今までの傾向からすごく嫌な胸騒ぎを覚えた。


「ならまとめて殺してやる」


 交渉決裂にブライアンはやれやれと肩をすくめて、割り切った表情で引き金を引いた。

 が、(たま)は見当違いの方向へと()れていき、一瞬後にはオズの(てのひら)に拳銃が収まっていた。


 “装填(そうてん)された(たま)が銃身から飛び出す直前に、鞭で奪い取ったんだ”と、後日オズが説明してくれたが、一連の動作が速すぎて動きを捕らえることが出来なかった。

 拳銃を奪い取られたブライアンは目を白黒させている。


「ジェシカ、儀式を続けて」

 オズの切迫した声のあとに遠くから聞こえてきた、もはや聞き間違えようのない音。

 ゴゴゴ・・・と地鳴りの音がする。


 リタが「この神殿、いろいろ細工(さいく)してんだ」と言っていたっけ。どんな仕掛けになってんだよと俺も舌打ちが漏れる。

 ジェシカも不吉な音の正体が分かったようだった。


 怯え(すく)みながらも祭壇に振りかけた水の上に手を(かざ)したとき。

 ブライアンが胸元からもう一丁(いっちょう)の拳銃を取り出し、その手がまっすぐジェシカを迷いなく撃とうとするのを見て。俺は矢も盾もたまらず抜刀し身体中の悲鳴を無視して、刀身をブライアン目掛(めが)けて投げつけた。

 だがそれよりも早くブライアンが、糸を見失った操り人形のような不自然な動きで膝からくず折れるのを認めて、オズを振り返る。


消音(サプレッサー)付きなの」


 と言って金色に黒い髑髏マークが光る悪趣味な拳銃を懐に収めながらにんまりと笑い、すぐにその顔が引き締まった。最初から拳銃持ってたんだ、と半ば脱力しかける。


 ジェシカはその間にようやく呪文を唱え終わったようだ。


 それと同時に祭壇に(まばゆ)い光の渦が立ち昇った。渦は巨大なドラゴンに変化し、光の炎を吐き出しながら(おごそ)かにジェシカに言った。


「おまえに俺様の加護を与えてやる」


 なんて尊大な言い草なんだ。

 オズの言っていたドラゴンはこれのことだったのか?と思う(そば)で、


「この国の守り神なのよ~。神秘の力はこのドラゴンの力なのよ。私もこの姿を見るのは初めてなのよね~」


 オズが感動の余韻(よいん)に浸りながら補足してくれた。


 ドラゴンなんて物語の中だけかと思っていたよ。本当にいたのか。

 とか思いつつもドラゴンの姿に腰が抜けてしまっていた俺は、続いて地鳴りと共に逆巻いた濁流を眼の端に捕らえて恐怖に引きつった。


 近い、近すぎる、すぐ目の前に濁流が押し迫ってきている。

 背後から迫る濁流に手に汗を握っていたオズは、


「ジェシカ、最初の仕事を頼んだわ」と頭を下げた。


 ジェシカは(うなづ)いてドラゴンに、

「あの水をなんとかしてくれ」と命令を下した。


「俺様からプレゼントしてやる、受け取れ」とドラゴンは光の炎を迫り来る濁流に向かって吐き出した。


 目の前に巨大な壁を作り(せま)り狂っていた濁流が不意に方向転換し、生き物のように入り口に向かう(さま)は圧巻の一言だった。


 ドラゴンは俺とジェシカ、オズを難なく両腕で抱え上げ、水を追いかけて外に飛び出した。

 濁流はドラゴンのひと吹きで大空を高く駆け上がり霧散(むさん)して、空に巨大な虹の架け橋を作ったのだった。


 金色の瞳が凛々しく輝いたドラゴンは、

「ハッピーエンドはキスするもんなんだろ?」と当然のように言い放ち、


「実は相思相愛なのよね、あなたたちって」

 とオズがにんまりと笑い、ジェシカの頬が真っ赤に染まった。

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