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そしてふたたび水攻め

注:北の神殿に濁流が押し寄せるシーンです。

  苦手な方は前半読み飛ばしてください。

 真上の天井に向かって引き金を引いたから、てっきり石の粉が降ってくるのかと思いきや。

 シュッポンって何かが弾けた音が聞こえた。それと共に不吉な音も遠くから聞こえて俺はとてつもなく嫌な予感を覚えた。

 地下迷宮で耳にした水が迫る音。あれが天井から聞こえてくる。

 ゴゴゴ・・・と地鳴りする音が天井から。


「・・・リタさん、あなた何したの?」

 (およ)び腰で問い掛けると、


「この神殿、いろいろ細工(さいく)してんだ。あそこを真っ()ぐ打ち抜くと(せん)が飛んで」


 栓?なんの栓なの?

 蒼褪(あおざ)める俺に、


「あたしからの(はなむけ)の水。受け取りな」と聞こえた気がした。


 最後の言葉のほうはピシピシピシッと天井に亀裂が走る効果音付きで。

 直後、真上(まうえ)の天井が真っ直ぐ俺目掛(めが)けて下に砕け落ちるのが見えて、さらにその上から逆巻(さかま)く濁流ももれなく付いてきている現状に。


 ギャーーーーーーーッ!今度こそ死ぬーーーーーーーッッ!!!!!


 全身鳥肌になった俺をリタは、

「おまえはそっち(がわ)だろ!!」

 容赦なく早業(はやわざ)で祭壇のある側へ蹴り飛ばしてくれた。


 飛距離(ひきょり)半端(はんぱ)ない。このまま普通に蹴り飛ばされていたら壁に頭を打ち付けて即死確実ぐらいの威力(いりょく)ある蹴りだった。おかげで天井から砕け落ちてくる大小の石からは逃れることが出来たし、押し寄せてきた濁流がクッションとなって即死は(まぬが)れたけどッ。

 いちおう、命の恩人なんだろうけどッ!なんて荒っぽい女なんだ!!!


「これでチャラにしてやる」のコレが、まさかの水攻めってどんだけ水大好きなんだよ~!


 憤慨(ふんがい)する俺は最後、正面玄関を押し流した濁流の先にいる人影がヒラヒラッと手を振ったのを見て、デビッドはたぶん無事だろうと頭を切り替えた。


 それよりも濁流に押し流されてる俺自身が本気でヤバイんじゃないかな。死を覚悟するくらいの濁流の渦に飲み込まれている現状ってどうなんだよ。

 と思ってたら逆巻いている渦が俺の両足を思い切り引っ張り、否応無しに水中に引きずりこんだ。

 空気を吸い込む余裕が無くて喉がひりつくほど痛い。


 く、苦し!!!これがまさか最期(さいご)?こんな死に方?


 嫌なほうに気持ちが流れかけて、それでもと水中で死に物狂いに足掻(あが)き続けていると、いきなり紐状のものが俺の胴体にぐるるんと巻きついた。その巻きつき方が力の限り目一杯(めいっぱい)って感じで、必死さが伝わってくる締め付けで痛いのを通り越してる。


 そして問答無用に水流に逆行して物凄い水圧で引っ張られた。


 痛い痛い痛い痛いって、おい~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!


 骨が(きし)むんじゃないかってほどの水圧を受けて、その後スッポンと水中から躍り出た俺は(くう)を華麗に舞った。綺麗な円を描くように飛んで、不機嫌な栗色の眼の主にようやく抱きとめられた。


「あのクソ女!!!ふざけやがって!!!」


 奥歯をギリギリ噛み締めながら呪い殺すような言葉を吐いたのはオズであって、クソ女はたぶんリタのことだろうと容易に想像がついた。オネエ言葉をかなぐり捨てている。


 その場に降ろされた俺は激しく咳き込み、背中を優しくさすってくれる存在に気付いたのは随分経(ずいぶんた)ってからだった。俺を助けてくれたのはオズの鞭で、危機一髪の状況で救い上げたから力の加減は一切出来なかったと言うとおり、身体の節々が悲鳴を上げるように痛い。

 背中を撫でる優しい手はジェシカで、頬には涙が伝っている。


「ああジェシカ良かった、無事で」声を掛けると、うるうるした瞳で抱きついてきて、

「良かった、良かった」と(むせ)び泣いている。


 その声を聞きながら、良かった、助かった、と俺は安堵の息を()いた。


 一息(ひといき)ついて辺りを見回すと今いる場所は窓際の石柱(せきちゅう)の上で、祭壇の場所より遥か高みにあった。そして轟々(ごうごう)と逆巻いていた濁流は見事)き消えて、礼拝所の中は水浸しに静まり返っている。


「ブライアンたちは?」

「水に流されていっちゃったわ」


 オネエ言葉が復活したようだ。


「この神殿ね、団長の仕掛(しか)けがいっぱいあってこの石柱も避難場所のために設置してんのよね」


 跳躍(ちょうやく)できるから避難場所なんであって、普通の身体能力ではまずここに辿りつけないよなと思ったけど()えて触れないでいた。


「ま、敵さんはまとめて流れちゃったから、この(すき)に王位継承の儀式をしちゃいましょうね」


 とオズに言われて、俺とジェシカはオズの跳躍力によって水浸しの礼拝所の地面に降り立った。

 祭壇の前に立ちジェシカが胸元から水の入った瓶を取り出す。

 ガラスの瓶の水を祭壇に振りかけていたとき、突然、銃声が礼拝所内に響き渡った。


「よくも虚仮(こけ)にしてくれたな」


 濁流に飲まれたはずのブライアンが全身水浸しの様相ようそう)でその場に現れた。

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