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団長登場

 天を仰いだ俺は落下してくる眼とガッチリぶつかった。


 え?眼?そのままフリーズする。


 脳裏に焼きつくくらい強烈な、圧倒的な存在感を放つ眼の輝き。

 紫水晶(アメジスト)の瞳に眼を奪われかけて、あ、やばい衝突するかもと思った瞬間。羽根が()えているかのように空中で華麗にその身が反転した。すらりと伸びた華奢な(あし)が空中で回し蹴りを決め、敵方の男が呆気(あっけ)なくその場に昏倒(こんとう)する。


 あんぐりと口を開く俺の前に身軽に着地した女は、ジェシカよりも背が低く小柄だった。


 紫水晶(アメジスト)色の意志の強い眼差しが印象的で思わず()き込まれる。スッと通った鼻筋。小さな形良い唇は自信に満ち満ちている。頬は上気しているのかほんのり赤い。すべてのパーツが綺麗に小さな顔に形良く収まり、右耳にはオズと同じカンザス団の(あかし)の透かし彫りがピアスとしてゆらゆらと揺れている。花飾りのついた(かんざし)で綺麗に結い上げられた小さな(まげ)が頭のてっぺんにひとつ、そのまま無造作に腰まで垂れ流したストレートの金髪はさらさらと(つや)めいている。


 三階の手すりから吹き抜けのホールの玄関口まで高速落下し、超速攻の回し蹴りを決めたのに髪一筋、服の(しわ)ひとつ、息ひとつ乱れていない。

 前かがみになった女の服からチラリと胸元が覗き、カンザス団の(あかし)が彫り込まれているのが見えた。


 いくつくらいだろう。オズよりも少し上の年齢に見える。カンザス団の模様をその身に刻んでいるということは、やはりオズの先輩だろうか。

 女はその場に転がっていた黒い塊を慣れた様子で拾い上げ、


「これは拳銃ってんだよ。人を簡単に殺せちゃう。便利な世の中になったもんだね」


 しっとりと落ち着いて少し(なまめ)かしい響きが混じった、大人の色っぽさを(たた)えた声は続けた。


「たとえばこんな感じに」

 小さな口元から(つむ)がれ俺の耳朶(じだ)に優しく響く。


 だが美しい顔と優しい口を裏切り、転がって呻いているデビッドの負傷した腕を、女の華奢に見える脚が容赦なく踏みつけた。


「ぐあああああああああああ!!!!!」

 辺りに響き渡る絶叫と悶絶(もんぜつ)の表情。


 デビッドが必死に女を払い()けようとするが、ビクともせず踏みつけた靴が血に染まるのも構わず馬乗りになった。

 俺は女の予想外の行動に度肝(どぎも)を抜いた。


 紫水晶(アメジスト)の瞳は慈愛に満ちた微笑みを(たた)えたまま、至近距離でデビッドに向かって銃口を向けた。


「この距離で打ち抜いたらカンペキ即死、少し()らしたら助かるけど鼓膜(こまく)が敗れて右腕は一生使い物にならない、どっちのコースがいい?坊や」


 ひりついた空気の中、最後に坊やと呼びかけた声があまりにも残忍(ざんにん)で、俺はまさかと目を(みは)る。

 オズの言っていた言葉を思い出す。上で団長がデビッドを待ち構えていると言っていた。


「・・・まさかカンザス団の団長?」

 恐る恐る半信半疑で尋ねてみた。


「ええ、リタって呼んで」

 女はあっさりと認めた。


 自分で尋ねておきながらすごく意外だった。

 地下迷宮で水攻めを仕掛けたあの噂のSっ気団長がこの華奢な女?

 現国王に仕えているとか言っていたが、どう見ても国王夫妻よりも若い。

 もっと壮年(そうねん)の大男を想像していたから一瞬拍子(ひょうし)抜けしたが、次第(しだい)に怒りが込み上げてきた。


「よくも水攻めを仕掛けてくれたな。死にかけたんだぞ」

「そりゃあね、殺すつもりだったから当たり前でしょうが。なに寝ぼけたこと言ってやがんの」


 俺に向かって()き捨てるように言い放ち、続けてデビッドに、


「てめえが生きて無様(ぶざま)にジェシカの保身を(はか)ることに虫唾(むしず)が走るんだっての。ナニサマだよ、身の程を知りやがれ!存在を抹消してやるからイチから出直して来い。そしてアイツに土下座して謝れ!!」


 (つや)っぽくて優しい口調で虫も殺しませんって顔なのに、口が悪い、足癖も悪い、なんだこの女は。

 そういえばオズが不純な動機とかなんとか言ってたっけ。


 アイツに土下座して謝れ!!ってアイツって誰??

 ゆるゆると記憶をまさぐってみた。いやそんな悠長なことしている暇は無い。


 リタは殺意満々で銃口をデビッドの顔真正面に向けていて、その気迫力に負けて手出しできないでいる俺は自分自身情けないとか思いつつも。


「ちょ、ちょっと待て、落ち着け!」とオロオロと声を()ける。


 その時、デビッドが口をモゴモゴと動かした。

 え?何?と思う俺の側を音速の声が、声の持ち主のリタが、


「ちっちぇえ声で聞こえねえよ!腹の底から声を出せ!!」


 喧嘩を吹っ掛けるように速攻でデビッドに怒鳴った。

 華奢な身体なのにどこから出るのか辺りを震撼(しんかん)させる怒声だった。

 その声に弾かれたように涙声で、


「すみませんでした!!ごめんなさい!!僕が悪かったよう!!反省します!!ごめんなさい!!ごめんなさいいいいいい・・・・・・」


 と、泣きながらおいおい謝っている。

 正直何がどうなっているのかよく分からなかったけど。


「分かりゃあいいんだよ、手間かけさせやがって」

 リタがぶっきらぼうに言い、


「これでチャラにしてやる」

 と握っていた銃口を天井に向かって一発、引き金を引いた。

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