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拷問

注:R15指定。残酷な描写が出てきます。

 ドレスの中に短剣を隠し持ちジェシカは神妙な面持ちで、


「私が浅はかだった。考えを改めるから、ブライアン殿。この身を起こしてくださらないか?」


 床に座ったまま足をかばうような素振りで、上目遣いにジェシカは助けを求めた。

 優雅に左手を差し伸べて見せる。

 その姿を満足そうに眺めて、先程まで鷲掴みにしていた髪をブライアンは優しく撫でた。


「そうだ、大人しくしていたほうが身のためだよ」


 そのままジェシカの身体を助け起こそうと身を屈める。目の前に迫った胸元は隙だらけだった。

 その胸元めがけてジェシカは力を込めて短剣を突き立てた。だが、ガツッと硬い何かに阻まれて短剣はジェシカの手から床にコロコロと転がり落ちる。


 不気味な静寂がその場を支配した。


 短剣と自分の胸元を見比べて何が起こったのか理解したブライアンは、ゾッとするような冷笑を浮かべた。


「このスーツ高かったのに、台無しじゃないか」


 呟いた次の瞬間、ジェシカの腹を勢いよく二度、三度、蹴りつけた。

 身体をくの字にして痛みに呻くジェシカに、


小娘(こむすめ)、楯突くからにはそれ相応の扱いをしてやる」

 そう言って、その場に妹のシンシアを連れてこさせた。


 ジェシカのひとつ下の妹だ。


 やはり姉妹だ、ジェシカによく似た美貌の顔。だが紺碧(こんぺき)の瞳に金髪の癖っ毛のジェシカとは違い、こちらは(とび)色の瞳に漆黒(しっこく)の艶やかなさらさらのストレート。どちらも腰まで伸ばしているので、ふたりが並ぶと対照的な美しさがある。ジェシカは父親の、シンシアは母親の特徴を色濃く受け継いでいた。


 シンシアは呻いているジェシカの姿を見て、駆け寄ろうとするもブライアンに(はば)まれる。


「ジェシカに何をした?」

 ジェシカの鈴を転がしたような声音よりも幾分か低い、艶めいた声が剣呑(けんのん)な怒気を含んで鋭く尋ねた。

 鳶色の瞳が怒りに燃えている。


「どちらも山猫の気性だな」

 ブライアンはやれやれと首を振り、


「今から美しい姉妹愛をゆっくり鑑賞しようじゃないか」

 と、床に転がっていたジェシカの短剣をダグラスに向かって蹴り飛ばした。


「ジェシカが即位を嫌がるのだよ。シンシアは聞き分けが良い子だよね?」

「何を言っている?ジェシカの即位はまだ先だ」

「老いぼれはもう必要ないさ。必要なのは従順な王だよ、私の意のままに動いてくれる人形が欲しいのだよ。シンシア、君は姉思いだ。ジェシカの代わりに私の人形になってくれるね?」


 シンシアはおぞましげにブライアンを見つめて、

「寝ぼけるなよ」

 と、吐き捨てた。


「姉妹揃って愉快だ。口の利き方に気をつけないと、ジェシカの綺麗な爪が()がれてしまうじゃないか」


 その言葉を合図にジェシカはダグラスの配下に身体を押さえつけられる。華奢(きゃしゃ)な身体はいとも簡単に床に縫い止められた。

 ダグラスがジェシカの左手を床に押さえつける。その手には刀身が握られていて、ジェシカは両親から贈られた守り刀が自分を傷つけようとしていることに恐れおののいた。


 だがダグラスは容赦なく、ジェシカの親指の爪と皮膚の間に剣を突き立てた。


「やめろーーーーー!!!!!」シンシアの怒鳴り声と、


「ああああああああああああああああ!!!!!」室内に響き渡る甲高(かんだか)い悲鳴。


 赤い血がどろりとその場を濡らした。梃子(てこ)の原理で刀身を回転させると爪がありえない形にめくれ、血がどろどろと床を()いずっていく。


 脳天を突き抜ける鋭い痛みにジェシカは悶絶(もんぜつ)しそうになったが、ダグラスがそれを許さない。なにやら短剣の代わりに道具を持つと、今度は手にした物で爪を引き千切った。


 ジェシカは絶叫した。

 あたり一面に火花のように血飛沫(ちしぶき)が飛ぶ。


 額には大粒の冷や汗が滝のように流れ、眼からも大粒の涙が(あふ)れている。

 噛み締めた唇に血を滴らせたジェシカの、苦悶に満ちた表情を、


「良い眺めじゃないか」

 と、ブライアンは満足そうに眺めている。


 余りにも凄惨な光景にシンシアはぶるぶると(こぶし)を、全身を震わせた。


「どうするんだい?シンシア。大好きな姉を苦しませるのかい?ありがたいことに両手両足を合わせると爪は20もある。ゆっくり()いでいくのも一興だな」

「やめろ!!!」

「口の利き方に気をつけろと言っているんだが?」


 そんなやり取りの中でもかまわず、ダグラスは気を失いかけるジェシカの人差し指に剣を突き立てた。

 鋭い痛みにジェシカは悲鳴を上げる。

 手はぬらぬらと血の海に()かり、ジェシカはいつまでこの地獄が続くのかと痛みの中で嘆いた。


 そんなジェシカの様子に観念してシンシアは涙ながらに、ブライアンに(すがった。


「従う・・・、従いますからやめて、やめてください。ジェシカをこれ以上傷つけないでください」

「物分りの良い女は好きだよ」


 そう言ってブライアンはシンシアの黒髪に接吻(くちづけ)を落とした。


 気を失ったジェシカは部屋に戻され、その様子を目の当たりにしたデビッドは蒼褪(あおざ)めて言葉を失ったと言う。


 シンシアの頼みでジェシカの左手は治療されたが、デビッドは部屋から(つま)み出されたらしい。


 ★☆★☆★


「だから私は次期女王ではないんだ。今の立場はシンシアの人質なんだよ」

 と続けたジェシカの細い肩を俺は無言で抱きしめた。

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