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敵の思惑

「ちょっと待ってて」


 と言い置いて、本当に“ちょっと”で戻ってきたオズは、ワゴンに山盛りの料理を()せている。


 さらに、南の神殿のときと同じように、


「これに着替えてもらうわよ」


 どこで調達したのか黒い服を手渡され、着替えると皆一様に全身黒尽くめ、どこからどう見てもダグラス配下の姿に化けた。

 そして極めつけ、ブライアンお墨付きの許可証を見せると、なんの問題も無くジェシカの部屋まで辿り着くことが出来た。この許可証があったから城門も難なく通過出来たのかと、ようやく合点(がてん)がいった。


 デビッドも拍子抜けした顔をしている。


 ランチを持って現れた俺たち一行を出迎えたジェシカは、あ(ぜん)とした顔のあと表情を七変化させた。


 懐かしい顔にまず泣き笑いの表情を浮かべた彼女は、真っ先に俺を認めて抱きついてきた。彼女は感涙に(むせ)びながらも、“いたた・・・”と身をよじらせた俺に不安げな面持ちになり、ライアスが事の顛末(てんまつ)を話すと今度はデビッドの軽挙に悲しそうに顔を曇らせた。デビッドが謝罪すると安堵した表情で、デビッドとライアスの無事を喜んで笑顔になった。


 別れたときは男装だったが今は王女の姿に戻っている。髪と眉は栗色のままだった。

 そして案の定と言うべきか、オズはジェシカの問答無用の往復ビンタを食らった。


 王位継承の儀式の真実をライアスが説明するとジェシカは憤って、


「殴らせろ」

 と、さらにオズの頬を(こぶし)で殴りつけた。


 オズは抵抗も無く素直に殴られたが、さすがに痛かったのか顔をしかめている。


 まあ、当たり前の反応だと思う。俺も殴りたいが、たぶんオズは殴らせてくれないだろうからジェシカの行為を黙って見守った。


「で?私を次期女王として認めてくれたのか?」

 ジェシカの()めた問いかけ。


「もちろんよ~、大歓迎しちゃうわ~。生涯ついていくわよ」

 ウインク付きでウキウキと応えるオズ。


「残念だが王位継承権はシンシアに移った」

 そう言ってジェシカは左手を上げて見せた。左手全体に巻かれた包帯。


 デビッドとライアスが痛ましげに顔を背けた。


 この包帯はなんだろう、とまじまじと見つめる俺に、

「帰城したらブライアンが待ち構えていたんだ」

 ジェシカは帰城した後の出来事を話し始めた。


 ★☆★☆★


 帰城(きじょう)したジェシカは、真っ直ぐブライアンのもとに連れて行かれた。


 狡猾(こうかつ)そうな顔がジェシカをひと睨みして、


「男ではないか」

 不快気な反応を見せた。ダグラスは舌なめずりして応えた。


「オズが化けさせたようです。身体は女、声はまさしく王女ですぞ」

「男のナリでは興醒め(きょうざめ)だ。女にして連れて来い」


 ブライアンの鼻白(はなじろ)んだ声で、いったんジェシカは自分の部屋に戻された。

 その自分の部屋で、突然剣を突きつけられジェシカは驚いたという。


「デビッド、なぜここにいる?」


 鈴を転がした声がその名を呼んだ。紛れもないジェシカの声にデビッドは驚いて飛び退く。


 ジェシカは男装していたことを、デビッドはジェシカの部屋に隠れて機を(うかが)っていたことを、お互い明かし合った。

 男装の化粧を落としドレスに着替え、栗色に染められた髪のジェシカを認めて、


「栗色の髪のジェシカも悪くない」

 と、デビッドは褒めた。


 これからブライアンの部屋に行くのだと告げると、デビッドは目の色を変え一緒に付いて行くと言い張った。だが彼の身が危険に及ぶのを避けたかったジェシカは(なだ)め伏せ、単身ブライアンの元に戻ったのだった。


 王女の姿に戻ったジェシカを認めてブライアンは、

「ほう」

 と、感嘆の息を漏らした。


「見事な化けっぷりだったな。だがこの美貌を男装にするなど神に対する冒涜だよ。見事な金髪だったのに染めてしまうとは非常に残念だ」


 大袈裟(おおげさ)に首をすくめて、近付いてきた。


「金髪のほうが見栄えが良いからな。式までに髪の色は元に戻そう」

「何の話だ?」


 話が見えなくてジェシカは眉を(ひそ)めた。


「老いぼれに隠居してもらうのさ。そして新しい女王が即位される」

 声が道化がかっている。


 老いぼれは現国王、新しい女王は自分のことか、とジェシカは察した。


「おめでたい頭だが、私の即位はハタチになってからだ。父上の隠居はまだ早い」

 断言すると、


「ジェシカ、口の利き方には気をつけないと」

 と言った側から、ジェシカは髪を鷲掴(わしづか)みに凄い力で引っ張り上げられた。


 ブライアンが顔を寄せて、

「自慢の髪だろう?私も手荒なことはしたくないんだよ」


 ジェシカの髪を片手でギリギリと掴み上げたまま、猫なで声で(わら)う。


「時間が無いのだよ。この国は宝の山じゃないか。早く手に入れないと他の奴らが嗅ぎ付けてやってくる。そっくり丸ごと手に入れるためにはどんな手段だって選ばないよ?」


 そのまま荷物のようにジェシカの身体を床に放り投げた。

 床に突っ伏しながら、ジェシカは自分の立場をようやく理解した。


 “自分の意のままに従う傀儡(かいらい)を即位させようとしている”


 不敵に笑う眼を見て、この男は脅威だと察した。早めに芽を摘まないととんでもないことになる。

 ジェシカは腰の短剣に手を伸ばし刀身を引き抜いた。

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