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音精の加護  作者: こう
2/2

迷い込んだのは別の世界でした

ぼちぼち続きます。

 柔らかく頭を撫でられ、雪人は目を覚ました。見上げれば青い瞳の女性が自分を撫でている。目を開けた事に気付き女性が声を掛ける。

「御寝坊な主殿じゃのう。わらわの膝はよく眠れたかの?」

「うん…気持ちええからもうちょっと寝てても、ええエエエ!?」

 雪人は膝枕されていることに気付き、倒れる前の事を思い出し、飛び起きる。

「お姉さんは」

「なぜ名を呼ばぬ?」

「えっと…ハーモニアさん?」

「そうじゃ、良き名を賜れた。有難う、主殿。」

「何で僕が主なん?というか、ハーモニアさんはどういう人なん?」

「わらわは契約の時に申した通り、音の最上位の精霊じゃ。主殿程の力有らば、今までにも何らかの精霊に出会うたことじゃろう?力に見合い、波長の合うた精霊はその人間に見える。その人間に惹かれるものが有れば精霊は名を貰い、そのものと契約するのじゃ。」

「いやいや、精霊さんに会うんは初めてやで?まず精霊さんていう存在がほんまに居はることにビックリしてるんやし。」

「主殿、ちと問うがの、今はそなたらの暦で何年かの?」

「西暦2012年、平成なら24年、仏暦2555年やな。」

「色々有るようじゃが、どれも聞き覚えが無いのぅ。なれば国の名は?」

「日本。余所の国からはジャパンとも言われてる。」

「全く知らんのぅ。格好や纏う雰囲気からも類推するに、おそらくじゃがの…主殿は全く違う世界から迷い込んだようだの。」

「…ほんまに?うちの山の洞窟辿って来たんやけど。神隠しってこういう感じなんか?」

「ちなみにどちらから入って来たのかの?」

「え?普通に入口から…?」

「ここに入口は有りゃせんぞ?」

 雪人が見渡すが何処も同じ岩肌だけしかない。

「つまり帰れへんと…?」

「いうことだのう。何の因果か世界が繋がることは稀有だが無いことでは無い。しかし人や動物がこの境を越えることは、まぁ、中々有り得ぬ。」

「…しもたなぁ…。皆心配さしてまうなぁ。仕事も無断欠勤になるし…。ああ、培養中の菌の同定出来んままやぁ…。」

「先ずはこの世界、そしてわらわの事を知るのが先ではないかの?」

「まぁ確かに言わはる通りやけど…。」

 ふと携帯を取り出してみるとアンテナは1本立ったり消えたりしている。

「えぇ?電波通じとる?ちょっと待ってなぁ。」

 とりあえずリダイヤルの一番上、家に電話を発信した雪人の耳にはプッ、プッ、プッ、プッ、と接続先を探す電子音が響く。やがてコール音に切り替わり6回目のコールで受話器が取られた。

「はい、田坂です。」

「もしもし、じーちゃん?雪人やけど。」

「おう、どうしたんや?今夜はちょっとええ鯖寿司貰うたし、ちゃんと帰って来ぃや?」

「それがなぁ、電話が繋がる状態でこない言うんも変なんやけど、いま山で神隠しに遭うてしもてな、多分直ぐには帰れん。帰れるんかも怪しいけど、一応色々持ってるし、生きる分にはそれなりに何とかなると思うし、心配せんと気長に待っててんか。悪いんやけど職場にも言うてんか。…あれやったら退職せなんかも知れんし、急に欠員出してしまう分申し訳ないて所長に伝えてんか。」

「…お前が突拍子も無いこと言うんには慣れとったつもりやけどなぁ。…まぁ、ほんまなんやろう。任しとき。おれが蓮台に乗る前に帰って来いよ?」

「うん、堪忍な、自分でもこないなるてちょっと思わんかっ「プッ、プーー、プーー」…たわ。」

 ふぅと溜め息をつくと、お祭りの出し物を見る子供の様に、輝く瞳で雪人を見る者が居る。

「主殿!今のは何じゃ?遠くに居る御祖父殿のようじゃが!音の術かの!?」

「あぅ、急に電話しててごめんな。今のは音を電波ていうのに換えて信号にして遠いとこに居る人と言葉を交わす道具でな、なんか見えへんけどまだちょっと世界同士が繋がってたんやろうなぁ。」

「複合属性の術をそう易々と…?流石は我が主殿じゃの!しかし本当に人間かの?」

「うん、一般的な人間や…と思う。おおかたの人間が一人一台持ってたわ。多分随分うちらの世界には隔たりがあるんやろな…。うん、そうやな、悩んでもしゃあないわなぁ…。さて何から教えて貰うたもんやろか…。順を追うていこか、何で口づけしたん?」

「ほぅ、ようやくわらわに興味が湧いたかの?精気を分けて貰うためじゃの、本来は契約後にすべきじゃが、特に拒絶もされなんだで有り難く頂戴した。実を申さば、わらわが見える人間は初めてでの、居てもたっても居られなんだ。」

「なぁ、ほな服が透けてへんのも判ってたんやね?」

「…いや、勘違いするほどの視線を感じておっての。なんというかこう…。」

「人を稀代の変態さんみたいに言わんといてくれる?」

「昔見た演劇に、そういう場面が有っての。ちょっと真似たかったのも事実じゃ。何か理由が無いと、…ちと恥ずかしかったからの。」

「まぁええわ、精気を分けてもらうとどうなるん?」

「心地好かったのぅ…。」

「ほんまに恥ずかしがってたん?他には?」

「む、つれないの。力を使おうとするときの労力が少なくて済んだり、効果が広く強くなったりするのぅ。実体化は、その余波というか…。ああ、そうじゃ、主殿にこの世界を見せねばのぅ。これが我が力の一片じゃ。」

 にわかに風が吹き込んで来たかと思えば、雪人の足元に集まり、体ごと徐々に吹き上げる。

 ついには光が差し込んでいた深い竪穴の外側にふわりと降ろされた。

「うっわぁ…すごいなぁ。」

 雪人の目に飛び込んで来たのは岩山の上から見晴らす樹海。他にも岩山が点在している。はるか北には頂きを白く化粧した山脈が連なる。そちらから川が見え、東には1番広い川がその身を横たえる。南の方が土地が段々低くなり、大小の湖が有る。

「どうじゃの、この世界は?」

「いゃあ…、言葉にならん。ほんまにちゃうとこに来たんやなぁと思うけど、同時に何と美しい処かとも思う。…後はハーモニアさんがほんまに精霊さんやと実感した。あれ?音の精霊さんは風も操れるん?」

「わらわは風、水、土の要素を内包する精霊じゃ。先程まで居た場所も自ら造ったのじゃぞ?」

「そうなん?色々出来るんやなぁ。」

「いやいや、説明が遅うなって済まぬがの、主殿にもわらわの力の一部が使えるようになっておる。相性にも依るが普通なら半分位じゃな。」

「ほんまに?何か随分優遇されてへん?」

「主殿からわらわには精気を頂いたの?そのお蔭で今の風を起こすにも、普段の5分の1程の力で済んだからのぅ。気をつけぬと、力に溺れそうになる精霊が居るのがよう判った。」

「成る程、共生みたいな関係なんやな。ちなみにな、あっこの岩山からこっち向いて飛んで来よるんは何?」

 雪人の指さす2km程先のの岩山より、何か大きな生き物が羽ばたいて来る。

「ああ、火竜じゃの。…ここらに人が来ぬ理由の一つじゃ。」

「…つまり?」

「主殿は美味しそうに見えるんじゃろうの…。」

「さっき、じーちゃんに何とかなるて言うたんが虚しゅうなる…、どうにかならんなら逃げんなあかん?」

「落ち着いておられるのか、おられぬのか、変わった方だの?主殿は。まぁ、わらわにお任せあれ?」

 火竜は見る見る間に距離を縮め、その距離は約400m。

 ハーモニアが人差し指を立てると、ヴォオキュィィンとでも表現するような低音から高音まで全て使った短い音が響く。

 火竜が近づくにつれ、その姿は脅威を増す。

 象2頭分程の堂々たる暗赤色の体躯、大きな翼膜。鋭い鈎爪を備えたやや小さな前肢と、大きく太い後肢。立派な双角と、牙を剥く口。燃えるような真紅の目。

 雪人は死の象徴たりえる存在に畏れと美しさを感じたが、恐怖にうち震える事はなかった。

 50mに迫った時。

「主殿、これが音精たる、わらわの技じゃ!」

 すっと火竜に向け伸ばした手からポオゥゥゥゥゥンと大きな音が響く。

「グガァァァアアアッ!!」

 尚も近づく火竜が不意に叫ぶと双角が中程から砕け、意識を失ったように墜ちる。

 雪人達が居る岩山の中腹に口から煙を曳き、激突する。足元までその地響きは伝わり雪人は、傍に居る存在が与える安心感が恐怖を感じさせなかった事に気付いた。

「今のは共鳴なん?」

 ハーモニアは驚き、そして嬉しそうに笑う。

「そうじゃ!何と嬉しい事か!わらわの主殿は音が何たるか良くご存知じゃのぅ!奴の角に合わせた共鳴で角を砕き、頭を揺らしてやったのじゃ。まだ奴は若いからの、わらわの強さがこれで身にしみたじゃろうの。」

「文字通り音速の攻撃やもんねぇ…、ハーモニアさんが凄い精霊さんやと実感したわ。」

「ふふふ…、末永くよろしくの、主殿。」




〈つづく〉

読んで頂き有難うございます。駄文ですみません。またぼちぼち続きます…。

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