お付き合いにいたるまで4
…結局、あのまま櫂のテンションにひきずられる形で、お付き合いすることになったのだろうか。
響子は家に帰り、部屋のベットに寝転がりながら、今日の出来事を反芻する。
「お付き合いしよう」に「はい」とは答えてないよね?
でも、彼の両想いの認識は、結局訂正できなかったし…。
いや、軽い気持ちとはいえ、ちょっとは彼に対して恋心めいた部分があるのは確かなのかな?
見てるだけで嬉しい気持ちになるし、かっこいい表情などみると、ドキっとすることもある。
でもやっぱり、なんか、こう、現実味のある感情ではないんだよなぁ。
響子にとって、恋とはいまだ謎の感情である。
玲香のいろいろな恋バナを聞いて、ますますわからなくなっている。
なぜなら彼女は玲香のような強い情熱にとらわれることもなかったし、好意と恋の区別が自分でつくのか、全く自信がない。
さすがに高校3年生にもなって、恋も実感できないような女はどうなのかと思うが、いろいろな人にリサーチしても、彼女のなかで確信めいたものが得られることはなかった。
友達いわく、恋って
「見てるだけで心があったかくなって満たされるの」…うん、櫂くん見たときの幸せに似てる。でも子犬とか子猫とか見てても同じ感じよね?
「手とか偶然触れちゃったりすると、ドキっとするのよね」…あんまり男に免疫のない私には、クラスメートの男子でもドキっとしますが…。
「なんか意味もなく彼に触れたくなったり」…うーん、確かにきれいな筋肉とか触りたいけど。男子の筋肉ステキよね。…弟の腹筋でも感じたな、それ。(そして触らせてもらった、もちろんドキドキなんてしなかったけど)
「キスとか好きじゃないとできなくない?」…今現在誰ともキスしたい衝動はないなぁ。なんか自分以外の人の唾液とかって気持ち悪くない?たとえそれが家族でも小さな子供でも、駄目かもしれない。
いやいや、本当に皆さん、すごいわぁ。
響子は素直に関心してしまう。
自分が果たして「恋」という感情を確信をもって実感することができる日がくるのかどうか、正直いって不安なのだ。
櫂くんへの感情も正直、ミーハーな域を出ていない気がする。
彼をかっこいいと思うのも、ただの客観的な事実なだけで、正直100人いたら100人が彼をかっこいいと認めるだろうし。
そのかっこよさが特別自分にアピールしているのか、というのもよくわからない。
彼がある意味普通の容姿をしている男子であったなら、特別に「かっこいい」と思ったことが「恋」なのかな、と思えるのだが。
その点、彼の感情は確かなようである。
勘違いやうわべ部分のイメージだけを見ていたとしても、間違っても特別かわいいわけでもない自分のことを、「かわいい」と言って頬を染めることができるのである。
たぶん同じ教室にいてさえ、ぱっと名前が出てこない男子のほうが多いようなそのた大勢の自分を、あんなにも「特別」な部分の多い彼がよく好きになんてなれたものだ。
…あれ?
私、もしかして「その他大勢」じゃなくなるんじゃ…?
今まで櫂の彼女として噂されてきた女性たちは皆美人だったり、かわいかったり、なにか「特別」なものを持っている人たちばかりだった。
噂は信憑性の高いものから低いものまでたくさんあったので、響子の耳に入ってきた人たち全員と恋人関係にあったわけではないだろうが、それでも皆ある意味「納得」できるような人だった。
なにせ、あまり生徒の名前など知らない響子でも思い当たる人ばかりである。
冗談じゃなかったとしても、私「身の程知らず」の称号をいただいてしまうのでは…?
今までは櫂の気持ちに対して、自分のあまりに不釣合いな不確かさに気持ちが集中していたが、この現状が他の人からどう見えるのか、思い当たった瞬間、響子の顔から血の気が引いた。