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格差恋情  作者: 桜華
3/16

お付き合いにいたるまで3

響子が全く予想もしていない現状に衝撃を受けている間に、生徒会長は彼の心の内をとうとうと語る。

照れている割に、全く臆することのない感情の発露は、やはり自分を振るものなどいないという自信の表れなのか。まあ、彼は自分に対する響子の想いを昨日聞いているわけで、彼のような王子様じゃなくてもおのずと自信は持つのであろうが。


「響子さんてあんまり僕に話しかけてくれなかったじゃない?あ、玲香と一緒の時は違ったけどさ、あれは玲香がなんか響子さんに無理強いしているような雰囲気とかあった気がしたし。…今はもう照れてただけだってわかるけど。本気で僕気にしてたんだよね。玲香いないときは全く話しかけてくれないし。僕から声かけてもそっけないし…。

まさか両想いだなんて思わなくて、本当に昨日寝れなかったよ。

あ、勝手に、響子さん、なんて呼んでるけどいいよね。彼氏彼女で苗字で呼び合うなんて、他人行儀すぎるし。僕のことも、櫂って呼んでね。特別な人から名前で呼びかけられると嬉しいよね。どうでもいい人からの呼びかけは対して気にも留めないのにさ…」


響子の反応が無くても発展していく会話に、やっと彼女は気づき、ストップをかける。


「あ、あの、生徒会長…」


「櫂って呼んでっていったじゃん」


「あ…じゃ、じゃあ…か、櫂くん…あのね」


この事態を止めるには呼び方なんてたいしたことではない、と思いつつも彼のテンションに乗せられて、響子の頬を染め上がるのがわかる。なんだか本当に恋する乙女のような反応である。


「ああ、かわいいなぁ。頬を染めて名前を呼ばれると、本当に照れちゃうね」


櫂が言わなくてもいいコメントをいれるので、響子の頬は赤くなるばかりである。


「あ、あの、だから……櫂くんて、そんなに饒舌だったっけ?」


始めに言おうとしていた内容を忘れて、響子は思わず聞いてしまった。

なぜなら、櫂はどちらかというと愛想はいいものの、そんなに女性に対してしゃべるようなタイプではなく、ファンの女性たちへの対応は丁寧だが必要最小限で、笑顔でごまかしてしまうような所がある。

響子は「いち櫂ファン」として求められる期待値に多少沿うように対応するために、消極的ではあったが観察の機会は逃さなかったので、今の櫂の対応は違和感を感じてしまう。


男同士でのやり取りは、快活であったが、こんなに軟派な感じでもない。


すると櫂は多少きまり悪げな表情と、先ほどからの照れを混ぜ合わせて視線をそらしながら言った。


「いや、ちょっと舞い上がってるよね、僕。昨日からテンションが異様に高くてさ、顔も緩みっぱなしだし…。イメージ崩れちゃうよね。…失望した?」


口元を手で覆っているのは、緩んだ口元を隠すためらしい。

最後に眉間にしわを寄せて情けない表情を見せると、響子に視線を合わせて問いかけてきた。


なんか、今の質問は墓穴を掘ったような…。

嬉しさ全開の一連の動作に罪悪感が膨れ上がっていた響子は、自分で自分を壁際に追い詰めたのを感じた。


「い、いや…そんなことないよ…」


自分より数倍もスペックの高い彼に対して、駄目だしするような度胸は響子にはない。

正直なところ、2年間も続けてきた櫂ファンの部分が、彼の今の表情に対して「いいモノ見た~!」と喜んでいる状態である。


「ほ、本当に?…いや、僕も響子さんのどんな部分を見てもかわいいって思える自信があるんだけど、男と女じゃ違うかなと、ちょっと心配で…いや、付き合ってからもこのテンション治まるか、正直わからないんだよね。本当に失望してない?なんかスマートとか余裕とかいつも言われてるから、そのイメージを響子さんが好きだったらどうしようかと…。本当に?」


なんだか、みんなの憧れの王子様が、響子の評価をこれほどまでに気にしている現状が、彼女にとってはとても心苦しい限りである。失望もなにも、彼の人間性の細やかな部分まで思いいれを特に持っているわけでもない響子は、今の彼を見て思うことは「人って本当に多面性があるんだな」といった一般論の域を出ていない。


しかし、櫂は自分の問いかけに対する響子の返事を息を詰めて待っているようであるので、このままなにも言わないわけにはいかないようである。

そこで、響子はとりあえず彼を傷つけないために、自分に出来ると思われる精一杯のことをした。

つまり、彼女のなかの「櫂ファン」を前面に押し出して、彼の心を守ったのである。


「うん、大丈夫。櫂くんはどんな櫂くんでもかっこいいよ。むしろ、いつもの余裕さが無くて、かわいいというか、身近に感じるというか…。櫂くんもやっぱり、私たちと同じ高校生だったんだね」


この響子の言葉は、ライトな「櫂ファン」として客観的な観察から出たフォローであったのだが、身の程を知っていた常識人の部分が今このときが「告白の現場」であることを失念させていた為に、この言葉によって、ますます進退窮まる立場に追い込んでいったことを、後ほど冷静になってから反省することになるのである。

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