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公演が終わり、ぼくは居心地の悪さからそそくさとその場所を離れ、まっすぐに自宅へと向かっていた。役者を目指す彼らとの関わりは、ぼくにも自分の立場というものを改めて考えるきっかけとなった。
ぼくからみたら、彼らはもう役者なのだが、本人達はそうは思ってはいなかった。帰りがけ、一人だけ場違いな客だったぼくに皆が感想を求めてきたとき、そういうことを彼らの口から聞いた。
もっと大きな場所で公演して、映画に出演できることを夢見ている彼らにしてみたら、今の活動はまだ下積みといったところなのだろう。
ぼくだって、アルバイトで生活している若者、フリーターという目で見られているのだろう。自分の社会的立場を決めるのはあくまで他人で、ぼくがどれだけ現状を変えようともがいているかなんて他人には分かりようがない。
帰属意識をもたなければいけないことは知っている。そうしないと社会では生きづらいから、どこかの会社の誰々です、と他人に自分を紹介出来るようなものがない今のぼくではどうしようもない。
彼らも、自分のことを正面切って役者です、といえるような代表作もない。ぼくと同じだ。ぼくはどこの誰になりたいのか、それを限定することが就職への近道のような気がしていた。
今までぼくはとりあえず就職さえ出来ればいいと考えていたけど、それではすぐに辞めてしまうことはうすうす気づいてはいた。
自分の人生に後悔の念が深い分、ぼくはそれを埋めるような、大きな成功を望んでいるんだ。誰もがその名を知っているような大企業の社員だとか、役者を目指す彼らのような、芸能関係での成功なんて空想もしたことがある。
でもそんなことはぼくに可能かどうかなんて、ぼく自身の武器を確認してみればすぐに分かる。手持ちの武器なんて何もない。誰かに誇れるような特技も才能もない。長年積み重ねた経験などは、すぐに仕事を辞めてしまっていた過去からは得られない。好きなことを仕事に出来たら長続きもするのだろうけど、ぼくにはこれといって夢中になれる趣味もなかった。
結局好きとか嫌いとか関係なく、仕事をするしかないという結論にしか辿り着かなかった。仕事は生きるためにするものときっぱり割り切れたら、ぼくも社会の一員として生活していけるのに、どうしても割り切れない感情が、決断を鈍らせてしまう。意志の弱さを克服したい、と渇望してやまなかった。
むしゃくしゃする思いから、自宅に帰りたくなくって、暗くなった道を目的もなくうつむき歩いていた。そのうちどこかに辿り着けたらいいのにと、ありえない期待をしながら。