第11話: 決死の3分間、紅蓮の誓い!
――アークフォース都市軍事基地、作戦司令室。
移動要塞母艦の撃破によって大半の敵性勢力は沈黙したはずだった。だが、レーダーの中央モニターには、撃破されたはずの母艦の最深部から緊急射出された「最後の例外個体」の反応が不気味に点滅していた。
「――ルカ参謀、状況を報告してください」
直立不動の姿勢で司令室に現れたカイト・充・ガードナー少尉は、青い顔をしたルカを見据えた。
ルカは震える手でキーボードを叩き、メインモニターに一つの映像を映し出した。
「……信じられない。移動要塞母艦のメインコアの裏に、さらに隠しドックがあったんだ。そこから射出されたのは……以前の『JOKER』の完全上位機――『JOKER・ジ・エンド』だ!」
モニターに映し出されたその機体は、純白と真紅の複合装甲に身を包み、全高こそ標準サイズだが、機体全体のジェネレーター出力が通常の機甲兵器の数倍に達している怪物であった。
「奴の狙いは……アークフォース都市の中枢ジェネレーターの自爆起爆コードの奪取だ。もし奴が中枢に到達すれば、都市ごとすべてが消え去る……!」
「……防衛不能の致命的脅威ですね」
カイトの瞳に、強い光が宿った。
「私が迎撃します。ブラックナイトの最終調整を急いでください」
「待ってカイト!」
通信回線が繋がり、シーナとフェザーの切迫した声が同時に響いた。
『私たちも行くわ! 最後の敵なんだから、一人になんてさせない!』
『はい、ウィング・ガーディアンのエネルギー充填完了しています。一緒に行きましょう、カイトさん!』
カイトは首を横に振った。
「いいえ。あの機体の出力と機動性は、これまでの敵とは次元が違います。随伴機では追いつけない。……ここは、私の単独突撃による短期決戦とします」
カイトは二人の引き止めを振り払って格納庫へと走り出し、誰にも止められない決意を胸に、ブラックナイトのコクピットへと飛び込んだのだ。
アークフォース都市地下、第1中枢ジェネレーター区画。
巨大な青い光を放つエネルギー炉の周囲に、その白い悪魔――『JOKER・ジ・エンド』が静かに佇んでいた。
機体の周囲には、凄まじい高熱のプラズマ粒子が立ち込め、周囲の壁面を溶かし始めている。
「――そこまでです、JOKER!」
轟音とともに、地下ドックの天井を突き破って降下してきた漆黒の機体――『Black Knight-X』。
カイトは機体を着地させ、ビームマグナムを構えた。
『……待っていたぞ、黒い騎士よ』
JOKERのパイロットの声が、冷徹に響く。
『お前のその力、そして無駄な生への執着……すべてここで終わらせてやる』
「……そうはさせない。私の執着こそが、貴方を打ち倒す唯一の推進力です」
カイトは一瞬の迷いもなく、操作パネルのマスターレバーを引き抜いた。
ボカァァァンッ!!!!
すべての外部装甲、ブーストユニット、武装ポッドを完全パージ!
重厚な黒い騎士の装甲がすべて剥ぎ取られ、その下から露出したのは――過剰なエネルギー熱によって真っ赤に熱せられた内部骨格であった。
『警告。全外部アーマー排除。「レッド・フレーム」モード起動。機体融解まで……残り時間、3分』
メインAIの警告音が、コクピット内にけたたましく鳴り響く。
機体全体が真紅の光を放ち、周囲の空気を歪ませるほどの超高熱を纏う。これこそが、Black Knight-Xの隠された最強にして最後の形態――オーバードライブ『レッド・フレーム』であった。
「リミッター全解除……安全装置など飾りだ!。すべて焼き切る!」
ドオォォォォンッ!!!!!
物理法則を完全に超越した超音速機動。
真紅の光条となったBlack Knight-Xは、人間の動体視力では到底追いつけないほどの加速でJOKER・ジ・エンドへ肉薄した。
『な……なんだあの速さは!? 機体が溶けるぞ!?』
動揺するJOKERが全火力を解放して迎撃ビームを乱射するが、真紅の残像はすべての弾丸を紙一重ですり抜けていく。
「3分あれば十分……! 私には、帰るべき日常がある!」
カイトの叫びとともに、レッド・フレーム状態の機体が両手にエネルギーブレードを展開。
音速の十字斬撃が、JOKERのメインスラスターと自爆回路を完全に両断した。
キィィィンッ……!! ズババババァァァンッ!!!
凄まじい閃光の直後、JOKER・ジ・エンドの機体機能が完全に停止。
大地に崩れ落ちる敵機を背に、Black Knight-Xの赤熱したフレームから激しい冷却蒸気が噴き出した。
『残り時間0.1秒。システム、シャットダウンします』
真紅の光がスッと消え、漆黒の骨格だけを残して機体は静かに沈黙した。
過酷な3分間の死闘を制し、カイトは完全なる勝利を掴み取ったのだった。
戦闘終了から数日後。
すべてが平和を取り戻したアークフォース都市。
青空の下、高等部の校庭には再び桜の花びらが優しく舞い散っていた。
大破したBlack Knight-Xの修理は続いていたが、基地の特別許可を得て、カイトは久しぶりに制服姿で教室の席についていた。
「――以上で、本日の授業を終わります」
チャイムが鳴り響き、教室がざわめく。
カイトがノートを閉じると、隣の席からシーナが少し呆れたような、けれどとても優しい笑顔で声をかけてきた。
「ねえ、カイト。また難しい顔してノートに何書いてるの?」
「……本日の『放課後のクレープ屋ミッション』における効率的な糖分摂取経路の策定だよ。」
カイトが大真面目に答えると、シーナや、近くにいたクラスメイトを含めて、みんなが一斉に吹き出した。
「もう……ほんとにカイトはどこまでいってもカイトね」
シーナは笑いながらも、ふっと柔らかくカイトの手を握った。その手の温かさが、心地よく胸に染み入る。
「……行こ、カイト。一緒に、街へ」
「了解。……出発しましょうか、シーナ」
戦場しか知らなかった少年兵は、仲間と共に笑顔で校門をくぐり、穏やかな日常の光の中へと歩き出した。
すべての戦いを越えて、彼の本当の「日常」が、今ここから始まっていく――。




