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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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それ、僕のハサミだ。

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/08/10

『自分の記憶すら信じられない——。 密室の教室で繰り広げられる犯人探しの末に待つ、衝撃の結末をぜひお楽しみください

 午前中の授業が終わって、給食の時間が始まった頃のことだ。僕は、とにかくお腹が空いていて、一刻も早く給食を食べたくて急いで配膳をしていたんだ。シチューをよそおうと少しの間、自分の席を離れたの。

 そしてシチューの入ったアルマイト製の大皿を持って席に帰った時だった。

 僕はその異変に気がついた。

 「嘘だ……!」

僕の叫び声は、冷え切った教室の静寂に吸い込まれていった。

教壇では担任の先生が机に突っ伏したまま動かない。背中に深く突き刺さっているのは、間違いなく僕の青いグリップのハサミだ。だが、僕には一切の記憶がない。ほんの数十秒前まで、僕はただ給食のシチューをよそいに席を離れていただけなのだから。

クラスメイトたちの冷ややかな視線が、一斉に僕へと突き刺さる。誰一人として悲鳴を上げない。まるで、最初からこうなることを知っていたかのように。

「……違う! 僕じゃない! 僕はただシチューを——」

僕が弁明しようとしたその時、隣の席の女子生徒が、血の滲む指先をゆっくりと僕の机へ伸ばした。そして、錆びたハサミの横に置かれていた僕の給食袋を指さす。

「じゃあ、どうしてあなたの給食袋の中に、先生の財布が入っているの?」

ハッとして自分の給食袋を覗き込むと、そこには見覚えのある先生の革財布が収まっていた。指紋も、凶器も、動機となり得る状況証拠も、すべてが完璧に僕を犯人として指し示している。誰かが僕を陥れるために、僕が席を離れたわずか数分の間に仕組んだのだ。

「全員、動かないで」

不意に、学級委員の男子生徒が教室の前後にある扉を静かに施錠した。カチャリ、と重い金属音が響く。

「警察が来るまで、誰もこの部屋から出さない。犯人は……この中にいるんだから」

締め切られた教室。逃げ場のない密室。僕を濡れ衣に着せた「本物の犯人」は、いまもすまし顔でクラスメイトのフリをして、僕の狼狽える姿を嘲笑っているはずだ。

自分の無実を証明しなければ、僕は殺人犯にされてしまう。僕は震える手で血のついた錆びたハサミを見つめながら、教室内に潜む真犯人の影を探し始めた。

震える指先で錆びたハサミを見つめていた僕は、ふと違和感に襲われた。

なぜ、手に持ったハサミが「錆びている」と知っているのだろう。

なぜ、教壇の背中に刺さった「青いグリップ」が自分のだと分かったのだろう。

冷や汗が背筋を伝う。教壇に突っ伏す先生の背中。そこに刺さっているのは、ただの青いボールペンだった。

「……あ」

僕の口から、間抜けな声が漏れた。

記憶が、濁流のように脳内に流れ込んでくる。

シチューをよそいに席を離れたのではない。僕は数分前、担任に呼び出されて教壇へ行き、学級費の入った財布を盗もうとして咎められたのだ。パニックになった僕は、手元にあった錆びたハサミを、先生の首元へ何度も——。

給食袋に入っているのは、僕が隠した財布。

手の中にあるのは、僕が握りしめ続けている返り血を浴びたハサミ。

「思い出してくれた?」

指をさしていた隣の女子生徒が、歪んだ笑顔で僕の顔を覗き込む。

鍵をかけた学級委員も、冷ややかに見つめるクラスメイトたちも、全員が異様なほど静まり返っていた。

「ずっと見てたよ、あなたが先生を刺すところ」

「自分の犯行を隠したくて、必死に『無実の自分』の物語を作り上げてたでしょ?」

彼らの視線は、恐怖ではなく、哀れみと嘲笑だった。

逃げ場のない密室で、僕は自分が作り出した都合のいい幻妄から覚め、血の匂い充満する現実に取り残された。真犯人を探すまでもない。僕をハメた悪魔は、最初から僕自身の頭の中にいたのだから。

作品をお読みいただきありがとうございます。

今回は「記憶の捏造」と「自分こそが真犯人だった」というどんでん返しをテーマに執筆しました。

正義の被害者を気取っていた主人公が、自らの罪と向き合う瞬間の絶望感を楽しんでいただけていたら幸いです。

次回作もぜひお楽しみに!』

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