7-1:王都へ
「ついに着いたわよ! 王都サンダトム!」
私は今、馬車でブルースカイ領を出て、王都に来ている。目的はもちろん王都にある中央神殿にレインとの養子縁組届を提出するためだ。
これでレインとは正式に親子として国に認めてもらえる。それが嬉しくて、つい浮かれてしまった。
一方のレインは馬車の窓にかじりついている。サンダトムはかなりの大都会だから興味津々のようだ。
レインによると今までずっとスカー公爵家の離れ小屋に監禁されていたみたいだし、無理もないわ。
馬車の中にはもう一人連れがいた。それはクラウドだ。
護衛として一緒に王都へついてきてくれたのだ。そのおかげで道中、何度か魔物の襲撃にあったがクラウドが一人で瞬殺してくれた。
ようやく馬車が停まる。王都に到着したのだ。クラウドのエスコートによって私は馬車を降りる。もうお尻の激痛とはおさらばね!
私達は今から中央神殿へ歩いて行って書類を提出する。神殿前で馬車を停めてもよかったのだけれど、じっとしているのは苦手だから少し歩ける場所に場所を停めてもらった。ちなみに荷物は王都のブルースカイ家別宅に運んでもらうように手配済だ。
それにしても王都はやっぱり人が多いわね。気を抜くと迷子になってしまいそう。レインも初めての人混みに戸惑っているみたい。
「レイン」
私はレインに手を差し伸べた。レインはキョトンとして私を見上げている。
「手を繋ぎましょう。迷子になったら大変だわ」
「はい」
恐る恐る私の手を握る小さな手。恥ずかしいのかしら、顔を真っ赤にして俯くレインが可愛くてたまらない。
……って、なんだか周囲から視線を向けられているような?
私はそこで違和感を覚え、ようやく気が付いた。周囲の視線が私の隣にいるクラウドに集中していることに。
無理もないだろう。クラウドは二メートルを超える高身長かつ筋肉質な身体をもつ。彼の夜空を切り取ったような黒髪もこの国ではかなり珍しいし、その表情も豊かな方ではない。しかもクラウドには幼い頃に故郷で虐げられた跡──鼻と左頬に目立つ傷があるのだ。
王都の人達からしたらそれらの要素が揃ったクラウドは少し近寄りがたいかもしれない。
「おい、あの男……」
「あぁ。まるで怪物じゃないか。あんなのを王都に入れて大丈夫なのか?」
聞こえてくるのはそんな会話。怪物。その言葉に私は眉を吊り上げた。
会話の主である男二人に撤回を求めようとしたが、その前にクラウドが私の肩を掴む。
「クラウド?」
「クレア。俺は大丈夫だ。慣れているから」
故郷でもクラウドは「怪物」と罵られて育ってきたのだった。
私は唇を噛み締め、クラウドを見上げる。
「でも、クラウド。悔しいわ! 本当のあなたは世界で一番心優しい人間なのに! あの人達、あなたのことを何も知らないであんなこと言っているのよ!」
私がそう言うと、クラウドは何故か笑った。その頬がほんのりと桃色に色づいている。
「ちょっと、何がおかしいの? 私は真剣に怒っているのに!」
「いや、すまない。君の言葉が嬉しくてな。それよりも早く中央神殿にいこう。君の時間を無駄に使う必要はない」
「クラウドは本当にそれでいいの?」
「あぁ。むしろ嬉しいくらいだ。俺のために君が怒ってくれているのを見れたから」
普段無表情のクラウドの笑顔ってどうしてこんなに輝いて見えるのだろう。私の顔も一気に熱がこもった。
まぁ、クラウドがそう言うならいいのだけれど。でも悔しいからクラウドを怪物と呼んだ男達をひと睨みする。
するとここでレインが突然動き出した。背伸びをして、私の手を握る反対の手でクラウドの大きな手を握ったのだ。
これには私もクラウドも目を丸くする。
「レイン? 急にどうしたんだ?」
「かよわいこどものぼくとてをつないでいれば、きっとまわりのひともクラウドさんがわるいひとだっておもわないとおもって……」
「!」
クラウドは背が高いからレインと手を繋ぐには屈まないといけないけれど、すごく嬉しそうに微笑んだ。
「レイン、ありがとう。助かるよ」
「はい。クラウドさんがやさしいことはぼくもしっていますから。とってもつよくて、カッコイイです」
「ッ! ……そうか。本当にありがとう」
レインはそう言って、胸を張って歩き出す。そんな後ろ姿がとても可愛らしかった。レインのおかげで周囲からのクラウドへの恐怖の目は緩和されたように思える。
初めてレインの涙を見た時からこの子は変わった。こうして自分の意思を素直に見せてくれるようになった。
子供の成長ってこんなに胸が満たされるものなのね。それになんだか誇らしいわ。まだレインと過ごした日は短いし、正式に母親になっていないのにね。
それにしても今の私達は周囲の人達からどう思われているのかしら?
レインを真ん中に私とクラウドが手を繋いでいるけれど、これってもしかしなくても親子に見えるのでは!?!?
私はクラウドをチラリと盗み見る。
クラウドと家族になる。私は彼に振られた身だからそんな夢みたいなことあるわけないのに……。
「クレア? どうしたんだ? 俺の顔になにかついているか?」
「え? あ、いえ。なんでもないわ、ごめんなさい。じゃあこのまま三人で中央神殿までのんびり歩いていきましょうか」
「はい!」
初めての王都で興奮しているのか、元気なレインの返事に頬が綻ぶ。
そうよ。何度も言っているけれど初恋なんて忘れなくては。今はレインを一番に考えなくちゃ。
……でないと、クラウドにも迷惑をかけてしまうしね。




