6-1:家族になろう
ブルースカイ家にさっそく帰ると、玄関先におじい様が立っていた。
どうやら私達の帰りを待ってくれていたようだ。
「帰ってきたか、クレア」
「ただいま戻りました、おじい様! 無事にリリーベ草を採取できたわ。これでとびきり美味しいスープを作るの」
「……そうか。ならばこれを参考にしなさい」
おじい様が渡してきたのは古い手帳。なにやら細かく文字が書いてある。これは……レシピ?
その中にはリリーベ草スープのレシピもあった。
もしかしてと思い表紙を見てみると、綺麗に整った「サニア・ブルースカイのレシピ本」の文字が。
「おじい様、これ、お母様の!」
「サニアは料理が得意でな。お前の父さんや儂のために毎日様々な料理を編み出してはそこにメモを残していた。……本当はお前が嫁ぐ直前に渡すつもりだったのだが、儂がなにかを言う前にお前はさっさと出て行ったから渡せなかったのだ」
「あ、あの時はおじい様と言葉を交わしたら絶対に寂しくて家を出れなくなっていたから仕方なくよ!」
おじい様は「ではたしかに渡したぞ」と満足そうに頷き、さっさと自分の書斎へ戻っていった。もう、素直じゃない人なんだから。
「スープが美味しくできたらおじい様にも食べてもらわないとね。もちろんあなたもよクラウド」
「あぁ。楽しみにしているぞ。俺はこのまま訓練にいってくる」
「分かったわ。じゃあ、夕食で会いましょう」
クラウドと別れた後、私はさっそく厨房に入り、リリーベ草スープの調理にとりかかる。お母様のレシピをさっそく使う時だ。
……あった、リリーベ草スープはこのページね。どれどれ……。
【リリーベ草スープ。これは私の大好物。もちろん、ウィンドも。ただしウィンドはこのスープにミルクを入れたがる。とっても悪趣味!!】
ウィンドっていうのはお父様の名前だ。調理手順だけじゃなくて、どうやらお母様のメモもいっぱい書かれているみたい。
クスリと微笑んでしまったけれど、その下の文章を見て、その笑みが固まる。
【私達の可愛い天使もこのスープを気に入ってくれるかしら?←きっと気に入るさ。勿論、ミルクたっぷりのスープを!】
息が止まる。お母様の綺麗な字の横にミミズみたいな文字も添えられていた。きっとこれはお父様の落書きね。
病弱だったお母様は私を産むと同時に亡くなった。お父様もお母様の出産に立ち会うために馬車を走らせたが──その途中で襲撃され亡くなってしまった。
故に私はお母様もお父様も似顔絵でしか見たことがなかった。
でも、これは……。
レシピをさらにめくってみると、「私達の天使に絶対食べさせたい絶品料理ランキング」や「赤ん坊が食べてはいけない食材」などのページもでてくる。
ところどころ、お父様の落書きやお母様の日記メモなども添えられていて、次第に涙がこぼれた。おじい様がこれを私に渡してくれたのはこれを読んでほしかったからだろうか。
「私って、ちゃんと愛されていたのね……」
レシピ本を胸に抱いてそう呟く。幸せを噛み締めた。そして私は涙を拭い、さっそく料理を始めた。
リリーベ草をレシピ通りに丁寧にみじん切りにしながら、私は心の中でお母様に語り掛ける。
ねえ、お母様。私は今、あなたのレシピを見て料理をしているわ。
私もお母様みたいな母親になれるかしら。レインを今の私みたいに幸せにできるかしら。
……分からない。でもやるだけやってみるわ。
レインが美味しいと思える料理が作ることができるまで、何度も何度も挑戦してみる! あの子をいつかぷくぷくに太らせてみせるから! このお母様が残してくれたレシピを使ってね。
私は黙々と料理をする。今夜の夕食に向けて。




