15-2:クラウドの故郷
アズールウッド。
それは領の最西端にある、森に囲まれた小さな村だ。自然が豊かであるが故に魔物はよく出るけれど、そこには神獣を祀る祭壇があるため村人達は移住しようとはしない。
過去におじい様が移住を提案した際は祭壇の守り人としての誇りを理由に断ったという。
神獣の祭壇を守ってくれるのは素晴らしいことだし、すごく有難い。
でも問題なのはそのアズールウッドがクラウドの故郷で、そこには幼いクラウドを「化け物」だと虐げていた村人達が住んでいるということ。
彼らはブルースカイ領の大切な民ではあるけれど、私はあまり好きにはなれない。幼い子供に食事を与えるどころかずっと放置していた人達を好きになれるはずがなかった。
「ようこそお越しくださいました、クレア様。あぁ、とてもご立派になられて!」
「お美しい。まさにブルースカイ領の女神ですわね! ごゆるりとおくつろぎください」
「ありがとう、シーラス。サリファ」
村長のシーラス、村長夫人のサリファを始めとする村人達はアズールウッドに到着したばかりの私を歓迎してくれる。でも彼らは私の横にいるクラウドを見ると、途端に顔が別人のように変わった。
悪魔を見るような目を向け、嫌悪感を示すように顔をしかめるのだ。その目はとても冷たい。
クラウドは幼い頃、ずっとこの氷の目で蔑まれていたのだろうか。……考えるだけで腹立たしい。
「……お前も来たのか」
「お久しぶりです、シーラスさん、サリファさん」
シーラスはクラウドの父の弟──つまりはクラウドの叔父にあたる。
なにか言いたそうに口を開く彼を見て、私が咳払いをすると途端に唇を結んだ。おそらくクラウドに対して罵倒を吐こうとしたのだろう。
「シーラス? 我がブルースカイ領の守護神であるクラウドになにか?」
「ッ! い、いえ……。と、ところでクレア様、今回の滞在でクレア様のお世話を担当する者をご用意しておりますので何なりとお申し付けください」
シーラスの後ろにいたのはくせっ毛茶髪の好青年だ。クラウドほどではないが筋肉質な体つきから彼が毎日鍛錬を欠かしていないことがうかがえる。その人当たりのいい笑顔で村の女性を虜にしていることが容易に想像できた。
それにしてもどこかで見たことがあるような顔だ。私は少し考えて思い出した。
「あなた! もしかしてゼファー!?」
「そ、そうです! お久しぶりです、クレア様!」
ゼファーは頬を染める。彼はシーラスの一人息子であり、クラウドの従兄弟だ。随分と体つきが逞しくなっていたのですぐに気づくことができなかった。
彼は優秀な風魔法の使い手で、平民でありながらも私と同じウィザリィード魔法学園に通っていた。もちろん彼が魔法学園に通うためには多額のお金が必要だ。だからおじい様が優秀な人材への投資という意味でも、アズールウッドの「祭壇の守り人」としての功績を称える意味でも、入学資金などを援助したと聞いている。
まぁ、学年も違ったので学園で私が彼と話す機会はあまりなかったけれど。
「あなた、卒業後は村に戻ってきたのね!」
「はい。今は村の自衛団の団長をしております。アズールウッドの民としてこの村と祭壇を守るために魔法を学びにいったので……」
「とっても素晴らしいと思うわ。滞在中、よろしくね」
「はい。ブルースカイ領の女神であるクレア様ならなんでもいたします。どうかこのゼファーを頼ってください!」
ゼファーはふとクラウドの方を見て、白い歯を見せて微笑んだ。
「クラウドもよく来たね。君のブルースカイの守護神としての活躍はよく聞いているよ。俺も負けてられないな。今回はよろしく」
「……あぁ、よろしく」
ゼファーは唯一クラウドと対等に話すアズールウッドの人間だ。だからこそこの村で唯一彼に対しては好印象をもっていた。同じ学園の後輩だしね。
さて。今日はひとまず体を休めて……明日からはさっそく現状と調査の流れを把握しないとね。
……そういえば、レインは大丈夫かしら。きっと寂しいわよね。後でお手紙を書きましょう。
──そんなことを考えていた私は気づかなかった。
私達が持ってきたブルースカイ家の馬車に積まれた荷物。そのうちの一つがごそごそ動いていたことに。




