12-2:最大の信頼
「クレア、君も目を覚ましたみたいだね」
「あ、アウリー!!」
いつの間にか部屋のドアの前にアウリーが立っていた。
アウリーはライとメイに支えられて、ヨロヨロ歩く。まだ治療のダメージが残っているようだ。そりゃそうよね、サポートしていた私ですら未だに立ち上がれないくらいだし。クラウドがすぐさまベッドの傍にあった椅子にアウリーを座らせてくれた。
一息ついたアウリーは「お互いボロボロだね」と苦笑いをしたので、「本当にね」と返す。
「君が目を覚ましたと聞いていてもたってもいられなくってね。レインの今の状態をすぐにでも聞きたいだろうと思って」
「それはすっごく助かるわ。でもその前に……」
私はゆっくりとベッドから降りて、立ち上がる。クラウドが慌てて私を支えてくれた。
「無理しないで!」とアウリーは言うけれど、私は彼に絶対に伝えないといけないのだ。
「アウリー、本当にありがとう」
私はアウリーに深々と頭を下げた。無理やり立ってでも伝えたかった、彼への最大の感謝を。
アウリーがいなければ、私はこうしてレインを抱きしめられなかったのかもしれない。それを想像するだけで怖くなる。
ふと両隣を交互に見ると、クラウドとレインも私と一緒に頭を下げてアウリーへの感謝を示してくれていた。それがなんだかとても嬉しかった。
そんな私達三人を見て、アウリーは「頭を上げてくれ」と言った。顔を上げると彼は照れ臭そうに頬をかいている。
「僕は当たり前のことをしただけさ。レイン本人の頑張りと弟子達やクレア、クラウド殿のサポートがあったおかげ。皆でレインを治したんだ、お礼は僕だけにするものじゃない」
「でも、その感謝は受け取っておくよ」と彼はウインクする。
そして次にアウリーは真剣な表情を浮かべた。「レインの今後について話そう」と言う彼に私もクラウドも顔が引き締まる。アウリーの瞳がレインへ向けられた。
「さて、挨拶が遅れてしまって申し訳ない。はじめまして、レイン。僕はアウリー、クレアの親友さ」
「はい、アウリーさん。はじめまして。ぼくは……レイン・ブルースカイです」
レイン・ブルースカイ。そう名乗るレインにいちいち感動してしまう。母親になったばかりなのでこればかりは許してほしいわね。
アウリーに握手を求められ、レインは小さな両手でアウリーの手を握った。
「レイン、結論から言うけれど今の君の体の中では魔力回路が目覚めている状態だ。それも複数。その証として君の瞳と髪の色に変化があったんだと思われる。魔力開通による身体の変色なんて僕も初めて見たけれどね」
事前に聞いていたことではあるけれど、未だに実感がない。それはレイン本人もそうだろう。
まさかレインにクロンと同じ複数の魔力回路があるだなんて。
「次に魔法属性。おそらく一つは雨を降らせたということから、たぶん水魔法かな。天気を変えるなんて高度な魔法技術は見たことがないけど。あと一つは……これから色々試していかないと分からない。でも確かに二つの魔力回路はあるんだ。じゃないと魔力回路が絡まることがないだろうし。っていうかそれどころか……」
「それどころか?」
「いや、なんでもない。流石にあり得ないことだからね。ひとまずレインの魔力回路は二つで、一つはおそらく水属性、もう一つは不明。今わかっているのはこれだけだ。それで今後レインをどうするかだけど……ひとまずこれから本格的に魔法の勉強を始めてみたらどうかな」
「そうね。レインに魔力があるならそれを制御する必要があるもの。ブルースカイ領に帰ったら魔法の先生を探さないとね」
レインの頭を撫でながら私がそういうと、アウリーの目がキラリと輝く。
「それについてなんだけどね。どうかな? 僕がレインの魔法の先生になるっていうのは?」
「え!? そ、それはありがたいのだけど、あなたすごく忙しいじゃない? 大丈夫なの?」
「優秀な弟子が二人もいるから大丈夫だよ。それにレインの魔力はまだ未知数なんだ。また暴走しないとも限らない。研究者としてこの子の中に一体どんな力が眠っているのかすごく興味もある」
「それに」とアウリーは言葉を続けながら、私の手をそっと握った。
「こうすればブルースカイ領に行く口実ができるだろう?」
ちゅっとアウリーは私の手に口づける。
私はキザなアウリーがこんなことをするのは珍しくなかったからなんとも思わなかったのだけれど……途端に部屋の空気が変わった。クラウドが私の体を自分の逞しい胸の方へ寄せたではないか。不意打ちでクラウドに強く肩を引き寄せられたのでドキリと胸が鳴ってしまった。
「アウリー様。そんなに簡単に女性に口づけをしては相手を困らせてしまいますよ」
「ははは、大丈夫だよ。こういうことはクレアにしかしないから」
ピリッ。なんだか糸がピンと張っているかのような部屋の空気。互いを睨み付けあうクラウドとアウリー。
クラウドがここまで他人に対して明らかな敵意を向けるのは珍しいわね。しかも、そのきっかけがアウリーの口づけ……。
それって……ま、まさか、嫉妬、してくれたとか?
……いや、決めつけはよくないわよね。あのクラウドがアウリーに嫉妬なんてするわけないか。する理由もないし。
緊張した場を緩めたのはアウリーだった。彼は拗ねたように唇を尖がらせる。
「まぁいいさ。とにかく! 僕はこれから定期的にブルースカイ領を訪れるよ。もちろん訪問の前には必ず手紙を送るから確認してね。あとレインになにか異変があったらすぐに知らせること」
「分かったわ。本当にありがとう、アウリー。あなたがいて本当に助かったわ。……レインも苦しかったのによく頑張ったわね」
私は我慢できずにレインにもう一度頬ずりをする。
もう私を拒むのを諦めたレインはされるがままになりながら、
「ぼく、いっしょうけんめいまほうをべんきょうします! それでりっぱなまほうつかいになって、ぜったいにおかあさんたちをまもってみせます!」
──そう強く宣言した。
その言葉を聞いた私も、クラウドも、アウリーも自然に微笑んだ。一瞬で場を和ませてくれたレインの小さな体を私はまたまた抱きしめるのだった。
その後。丸二日ほど別邸で療養した私達は一旦アウリー達と別れ、ブルースカイ領へ帰ることに。
実はおじい様を驚かせようと思って、レインのことを知らせずに帰ったのだけれど……その際に全てをきいたおじい様が驚きのあまり腰を抜かしてしまい、ちょっとした騒ぎになったのはまた別の話である。
第3章終わりです!
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