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碧眼児

甘寧と蘇飛

作者: ひろ

甘寧が黄祖のもとへ行った経緯の話。

過去に他で書いたお話の転載になります。

「君、甘興覇だよね」


 賊の船団を連ね、長江を江東の方へと下っている時だった。

 船団の先頭に立っていた甘寧が河の両岸にそびえたつ岸壁を見上げる。

 此処を無事に通れるとはもとより思っていなかった。


 此処には此奴がいるから。


「劉表様の所にいたはずだけど、お出かけかい?」


 声の主は崖の上の、更に岩の上に胡坐をかいて腰かけ、鷹揚と話しかけて来た。

 弓を射かけて届かない距離ではないが、だまし討ちならまだしも遠さ的に考えて放ったところで避けられるのがおちだろう。


「まぁな」


 相手の出方を見ながら甘寧が答える。

 何よりこの場所は地理的に良くない。

 両側が崖に挟まれ、上から矢や岩でも落されればこちらの被害は免れない。

 それでもこの場所を通らなければ……呉へはいけない。


「だから通してくれよ」


 気軽に言ってみたが帰ってきた返事は、


「やだ」

 

 こちらも気軽な返事。


「どうせ呉に行くんだろ?」

「だな」

「それは困るなぁ」


 言ってゴロンと岩の上に転がる。 


「だって君強いもん。あっち行かれたら僕の仕事大変になっちゃう」

「でも劉表は俺がいらないみたいだぜ」


 つい先ほどまで、甘寧は劉表の元に身を寄せていた。

 甘寧の秘かな悲願の為、その地に近い劉表で自分を使ってもらえれば、という期待はあったが、どうやら劉表にその気はないからしい。

 ならば最近勢いがあるという噂の孫策の元へ行ってみようと思っていたのだが、


「劉表様は人の好き嫌いが激しいからなぁ。君がもう少しお上品にしてれば」

「冗談じゃないな」

「だよねぇ。甘寧ってそんな感じ」


 いって「あはは」と岩の上で笑い転げる男。

 マジで射ってやろうか?って思ったが、この男の噂は聞いている。

 黄祖の軍の指揮を担っている凄腕の都督。 

 あの孫堅でさえ、舞台から消し去った男。


 しばらく男は岩の上で転がっていたが、直ぐにむくっと起きると、再び甘寧の方に向き直った。


「だったら僕の所に来ない?」

「蘇飛の所にか?」

「僕の名前知ってるんだ?」

「まぁな」

「甘寧に知っててもらえれるなんて光栄だな」


 ふふんと蘇飛が笑う。

 が、この辺で蘇飛のことを知らない方が珍しい。


「で、僕の所に来る?」


 気軽に尋ねているように見えて有無を言わせない圧を感じる。

 それをそ知らぬふりとして甘寧が尋ねた。


「嫌だと言ったら?」


 甘寧の声に反応するように蘇飛が片手をあげる。

 途端、崖の上に飛び出してきたのは大量の伏兵。

 それは崖の上だけでなく崖の下からも飛び出してきた。

 そして、


「くっ、伏せろ!」


 統率された兵がまるで機械仕掛けの様にそろって矢を番え、甘寧の船団に向かって放ってきた。

 降り注ぐ矢の雨に、甘寧の一群が思わず身を伏せる、が、


「大丈夫だよ『威嚇射撃は当てるな』って言ってあるから」


 矢は全て船ギリギリのところで河に落ちた。

 それを見て、身を起こした甘寧が言う。


「軍備品の無駄遣いじゃねぇか?あとで怒られるぞ?」

「だねぇ。だから戦果がないとまずいな」


 言って笑って、蘇飛が答え、そしてさらに口を開く。


「で、僕の所に来てくれるかな?」

「……俺を捕まえるにしちゃ随分大げさだな」


 見上げれば崖の上を取り巻く兵の数は数千。

 ちょっとした戦争並みだ。

 

「たかだか八百の賊を捕まえるのに随分大げさだな」

「君を捕まえるのには足りない位だよ。実際もっと先にも控えてる。見たいかい?」

「逃がす気はねぇようだな」

「僕は君が欲しいからね」


 胡坐を解いた蘇飛が岩の上に座って足をパタパタさせる。


「来てくれないなら今度はこの岩落しちゃおうかなぁ」

「そしてらお前も落ちてくるか?」

「そしたらすぐに甘寧の所まで行けそうだね。そしたら直接君を捕まえられそうだけど」


 言う顔は余裕の笑み。

 多少の犠牲は覚悟していたが、ここまで本気で捕まえようとしているとは思わなかった。

 今は他国との緊張で兵をそう簡単には動かせないはずなのに。

 ……その時期を狙ったのに。

 

「お前の所に行ったらどんな待遇を保証する?」


 一旦身を引いた方がよさそうだ。

 甘寧が判断して交渉に入る。

 

「厚遇を保証する。と言いたいところだけど、最終権限は黄祖様にあるからねぇ。僕にできることしかできないなぁ」


 いってため息をつく蘇飛。

 旨い餌でもぶら下げてくるかと思いきや、素直にそういった。

 もとより黄祖の元での厚遇は期待していなかった。


「じゃぁ俺がお前の所に行ってどんな得があるって……」

「その代わり」

 

 甘寧の言葉を遮るように蘇飛が続ける。


「君に水軍を教えてあげる」


 言って蘇飛が微笑む。


「君賊の規模でしか船を動かしたことないでしょう?僕、こう見えても軍の使い方巧いよ」


 言って不敵に笑う蘇飛。

 実際、荊州のような豊かな土地が平穏無事でいられたのは彼の功績もあった。


「教えてあげるよ、軍の使い方。それでどう?」

「覚えたらいなくなるかもしれねぇぞ」


 入って返す甘寧に蘇飛が「あはは」と笑う。


「逃亡を簡単に許すようなら僕もそれまでってことだね」

「俺を甘くみんなよ」

「甘く見てないから此処で君を待っていたんだよ」

 

 言って蘇飛が片手を払う。

 途端に弓を構えていた兵達が一斉に降ろし、その場に控えた。


「君を歓迎するよ甘寧。夏口へようこそ」

「まだお前の所に行くとは言ってねぇだろ」

「美女の出迎えも必要かい?ごめん。そこまでは用意できなかったな。後で用意するから取り合えず城までご同行願えるかな?」


 蘇飛の陽気な言葉に甘寧が天を仰ぎ、答える。


「飛び切りの用意しろよ」

「色々用意するから好きなの選んでよ。じゃぁ行こうか」


 言って蘇飛が岩からぴょんと飛び降りる。


「そこまでは登らねぇからな。降りて来いよ」


 言うと甘寧は船を岸につけ、一団は蘇飛の元へと投降した。

 その様子を崖の上から蘇飛は眺めると一言、


「これで黄祖様に怒られずに済みそうだ」


 といたずらっ子のように笑った。



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