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作業途中のフィードバックはなしで良いので、ほぼ確定版だけでお願いします。
上司のチャットはガタンガタンと電車に揺られている時にリフレインする。
今日は1番遅くに会社を出て鍵を閉めてきた。
地下に入ったりでたりするこの路線は電波が悪かったり良かったり。
会社で使っているチャットアプリを開いて、フィードバックお願いします、とメンションをつけて2日後に返信が来ていたスレッドを丸ごと削除する。
上司は忙しくて、私の教育は煩わしいらしい。
涙がポロポロ出てきたので、のろのろした動作でカバンを漁り、ハンカチを取り出す。
扉の横に持たれながらグズグズと鼻をすする。赤くなった鼻は驚く程ブサイクで、暗い窓に反射する自分の顔は化け物じみている。
新しい取り組み、新しい課題。
伸びない数字に吊し上げられる報告会。
地獄地獄。
グズグズと鼻をすすって、スレッドをまた削除する。こんなことしても、何も起こらない。無視されたまま、私は無駄な努力をする。
「ムカつく。」
腹が立つ。
上司が不幸になれば、スカッとするだろうか。いや、別にそんなこと関係ない。このチャットも在宅ワークする自宅から送ってきてるのだ。バカバカしい。
私は電車に揺られてる。
頭の良い上司。努力家で子供もいて、夫婦円満で。妬ましくてもう別世界だ。
いつの間にか駅についてプシュっと扉が開く。
もう半刻もただ携帯電話を眺めていたらしい。
作業途中のフィードバックはなしで良いので、ほぼ確定版だけでお願いします。
では誰が私の指導をしてくれるんだろう。この所、AIと壁打ちばかりしてる。孤独だな。
マンホールをぴょんと飛び越えてもういつもの曲がり角。マンホールに落ちたら、今日の気分では立ち直れないから、全部避ける。
公衆電話は、静かなままだ。
話を聞いて欲しいな。
私は吸い込まれるようにエメラルドグリーンの受話器を取った。
「もしもし」
なぁに。
「あのね、今ちょっといいかな。」
遠慮なくどうぞ。いつもここに居るから、なんでも話してよ。
「今日ね、上司からきたチャットがすごく嫌だったの。私がウザイって。」
そうね、あなたってウザイわ。
「そうだね………。でも、私とってもムカついちゃったのよ。この怒りをどうしたら良いかしら。」
そんなの知らないわよ。上司に文句言えば?
「なんて言えばいいかな。フィードバックないと作業進められません、とか?悔しいな。」
舐められてるのよ。あなた。
舐めた口、きかせていいの?
「私の事馬鹿にしてるのかな?」
そうよ、そんなこといちいち聞かないでって事。
見捨てられたんだよ。ゴミみたいに捨てられたの。
そういう扱いしても、今まで平気だったんじゃない?平気でポイ捨てする女だよ!
「許せない!!!」
許せないよねぇ、どうする?
プッ、ツーツーツーツー
「どうすればいい?あれっ?」
受話器から、機械音が流れてくる。
私はゆっくりと受話器を戻す。がちゃん。
話せてよかった。ちょっとスッキリしたかもしれない。いつでもいるらしいので、明日またかけてみよう。
アプリを開いて、削除された会話を眺める。
きっと反応なんて無い。
許せないな、どうすれば良いんだろ。
「ただいま」
自動的につく照明が仄暗く玄関を照らす。バラバラの靴。散らかった部屋。
「疲れたぁ」
毎日毎日、とっても疲れている。
明日は祝日。
仕事しなきゃ。
ワンルームの電気をつけると、孤独って感じがした。
「許せないなぁ」




