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古木の下で  作者: ひろ
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STORY  TWO

家に帰りたくない。

なんとか今日一日を、彼に会わずに過ごしたけれど、今僕たちは同居しておりとどのつまり、家には彼が居るのだ。

逢いたくない。

自分の惨めな想いに左右されるのは悔しかった。

ので、家には向かわずに歩く。同級の人間に泊めて欲しいと頼んでみたけれどことごとく断られた。

―――――― みんな薄情だ!!

そんな自分勝手な事を思いながら、仕方なく羽瑠の家に向かう。

こんな事で、幼馴染の彼を煩わせたくないけれど、背に腹は換えられない。

深呼吸し、羽瑠のマンションのインターホンを押した。オートロック形式な為、ロビーでインターホンの返事を待つと、機械音と共にバリトンの声が聞こえた。

『はい』

短い返答に安堵の溜息が出る。

「羽瑠さん?秋葵だけど・・・」

僕の言葉に、羽瑠は驚きながらもオートロックの鍵を開けてくれた。

エレベーターで、彼の部屋まで向かう。部屋のインターホンを押すと直ぐに扉が開かれた。

「秋葵、どうした?珍しいな」

笑顔で出迎えてくれた幼馴染に、涙腺が緩む。ぽろりと零れた涙に、羽瑠が驚愕するのが伝わってきた。しかい1回緩んでしまった涙腺をそう簡単に引き締める事は出来ずに、僕は羽瑠の大きな胸に泣き崩れた。

どの位そうしていたか、ふと気付くと、僕達は玄関の中にいて羽瑠の大きな手が、僕をあやすように背中を摩ってくれる。

大きく深呼吸し羽瑠の腕の中から出た。

「落ち着いたか?」

全てを包み込むような優しい顔をして羽瑠が問いかける。

僕は頷き答えた。

「・・・ごめんね、羽瑠兄」

学校では使わない呼び名。羽瑠は、気にするなと言い僕を家の中に招き入れた。

ソファーに座った僕に温かいミルクを渡してくれる。羽瑠も向かいのソファーに腰を降ろした。

「で?・・・どうした、何があった?」

静かにそう問われ、固まる。何をどう話したら良いか解らずに僕は下を向いた。

「・・・雪都となんかあった?」

的を得た言葉にばっと顔を上げる。想いの丈をぶつけてしまいたい衝動に駆られるけれど、まさか男の雪都に恋をしていまいました、なんて言える訳もなくて、途方にくれる。

「・・・別に、ただ家に・・・そう!ゴキブリが出たから、帰りたくないんだよ」

我ながら、なんてちんけな嘘を、と思いながらも、悟ってくれるなと羽瑠を見た。そこには険しい顔の羽瑠がいる。

「・・・言いたくないら構わんが」

溜息と共に羽瑠はそう告げ、徐に携帯を取り出した。

「悪い、ちょっと良いか?」

携帯を軽く僕に見せながら席を立つ。僕はこくこくと頷き、ホットミルクに口をつけた。

我ながら恥ずかしい所を見せてしまったと後悔したけれど、羽瑠は特に何も言わず、勿論帰れとも言われていない為、今日は何がなんでもここにいるぞと決めた僕。物思いに耽っていると、羽瑠が帰ってきた。妙ににこにことしているなぁ、と思ったけれど突っ込まずにおく。

「今日これから四季が来るけど、構わないよな?」

徐にそう聞かれ、訝しげに首を傾げるも、駄目とは言えない。曖昧に頷き対応した。

「ゼミの課題があるんだ。悪いな」

その後は他愛も無い昔話をし、僕は徐々に寛ぎ始めていた。そんな時だった。羽瑠の部屋の中に呼び鈴が響く。

「お、早いな」

そう言い羽瑠はインターホンを上げる事無く鍵を開けた。

「確認しなくていいの?」

僕の疑問に、いいの、と短く告げ玄関に向かう。腕時計を確認しふと顔を上げた時、今度は違うチャイムの音が響いた。

「来た来た」

妙に嬉しそうな羽瑠。じらすように玄関を開けないでいると、今度はけたたましい音で玄関を叩く音がした。あの四季がこんな事をするかな、と疑問に思い玄関を覗き見る。

「はいはい」

くつくつと笑いながら羽瑠が玄関を開けた瞬間、大柄な男が飛び込んで来た。

「羽瑠、てめぇ~・・・」

ドスの効いたハスキーボイス。今にも羽瑠に殴りかかりそうな勢いの彼が、視線をずらしあっけにとられている僕を見つけた。

「秋葵!!」

ほっとしているような、怒っているような声音でそう呼ばれ、ビクリとする。初めて呼び捨てにされた。そんなどうでも良いような事を思いながらソファーから立ち上がった僕に雪都は駆け寄るように向かって来た。そのままの勢いで僕の両肩を掴む。

「無事か?!何もされてないか?!」

意味の解らない質問に首を傾げる。

「な、に言っての?雪都さん」

僕の言葉に、ほっと息を吐き僕の肩を抱くようにすると羽瑠に向けて

「連れて帰るぞ」

そう告げ、僕には有無も言わせずそのまま羽瑠の家を後にした。

玄関を出る瞬間羽瑠の顔を仰ぐと、くつくつとまだ笑っており、その手を軽く上げ、僕達を送り出した。



今日は絶対に帰るまい、と思っていた我が家のソファーに僕は座っている。

横には怖い顔をした雪都が座っていた。

何故だか居心地の悪い思いをしつつ雪都を見る。そんな僕の視線に気付いた彼は僕の方を向いた。絡み合う視線に顔が熱くなるのが解り、いたたまれなくなった僕は急いで立ち上がった。

「そ、そうだ、雪都さん、お腹空きませんか?夕食まだですよね、僕作ります」

早口にそう告げ歩きだそうとした僕の手首を何かが掴んだ。其れが雪都の手だと解ると、そこがまるで心臓のように波打つ。

「秋葵ちゃん、なんで今日俺の事起こしてくれなかったの?」

静かなハスキーボイスが、しかしまるで詰問しているかのように響いた。

何をどう答えれば良いのか解らずに、振り向く事も出来ずにその場に固まる。しばしの沈黙の後、僕の体が凄い勢いで引っ張られ、そのまま雪都の腕の中に包まれた。

「大学で秋葵ちゃん探しても見つかんなくて、羽瑠から電話があって心臓止まるかと思った」

苦しそうな雪都の声。羽瑠が電話したのは雪都だったのか、とぼんやり思う。

「羽瑠が秋葵ちゃん食っちまうぞ、なんて恐ろしい事言うから居ても経っても居られなくて・・・」

「え?」

聞こえてきた言葉に驚き、顔を上げると、いつもおちゃらけている雪都の顔が真顔にと変わっていた。

「秋葵ちゃん・・・俺、お前の事好きなんだ。誰にも触らせたくない」

とんでもない言葉に視界が歪む。

「秋葵ちゃん、聞いてる?」

返事も出来ないでいる僕に、心配そうな顔をし雪都が声を掛けた。

「え、あ?・・・僕の事、が好き??・・・嘘ばっかり!!」

信じられなくて声が上ずる。

「嘘じゃないよ」

優しい雪都の声。しかし、彼が女性にすごくもてる事を知っている。彼女も居たのを知っている僕にはやっぱり信じられなかった。ぐっと腕に力を込め、抱き締めて来る雪都から体を遠ざける。

「・・・からかわないで下さい。雪都さん彼女とか沢山いるじゃないですか!」

僕の放った言葉に雪都の整った顔が歪む。突っぱねていた僕の腕を掴むと自分の方に引っ張り、僕の唇を奪った。口腔内をまさぐるように舌が這い、呼吸が上がる。振り払おうとするけれど、強い力で抑えられできなかった。

いい加減息が出来なくなったころ、唇が離され新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。

肩で呼吸する僕に雪都は熱い視線を送る。僕の呼吸がようやく落ち着いた頃彼が口を開いた。

「からかってなんか、いない。確かに女には不自由してこなかったけど、お前と同居を始めてから全部切った」

ハスキーボイスが、何故だか少し震えている気がして、拒絶の言葉を飲み込む。

「・・・あの日が始めてじゃなかったんだよ。秋葵と逢うのは」

俯き加減で雪都は言う。

ん?今何か、とんでもない事を言った・・・?

今雪都は、僕に以前逢ったと言っただろうか?皆目見当がつかない。雪都に出会ったのは確かあの日が初めてだったはずで・・・。

「俺と羽瑠は小学校も、中学校も一緒なんだよ」

苦笑気味で雪都は言い、そっと僕の手を握る。びくりと体が反応するけれど、不思議と振り払うことはしなかった。

「まぁ、高校に入学する年に、俺の家は崩壊して母親と一緒に母親の実家に越したけどな」

そんな告白。

「え、じゃあもしかして一緒に遊んだ・・・?」

僕の問いかけに雪都は頷く事で肯定した。

遠い記憶を呼び覚ます。羽瑠と何時も一緒に居た、もう1人のお兄ちゃん。背が小さく、しかし切れ長の涼やかな目元をした、やっぱりちょっとハスキーな声のお兄ちゃんが、居た気がする。

「たしか・・・“ゆき”って呼ばれてた・・・?」

確認するように雪都を見ると、やっと思い出したかと言う様に頷き、握っていた僕の手の甲にその唇を落とした。

そんな行為にどきりとする。口付けたまま僕を上目遣いに見詰め、そうして、もう僕はだめだった。昨晩理解した、雪都を好き、と言う気持ちが堰を切ったように溢れ出してきて、涙に変わり飛び出してくる。

ぽろぽろと零れ出した涙を、雪都の長い指が掬い取っていく。

そんな動作を確認しながら、じゃあなんで昨晩僕の作った夕食に手を付けなかったのか、そんな疑問が浮んで来た。留める事が出来ずに言葉がするりと飛び出してくる。

「・・・じゃあなんで、僕の作ったご飯、食べてくれなかったんですか?昨日はなんで遅く帰ってきたんですか?」

涙でちゃんと発音できたかは疑問だったが、言いたい事は言った。

そんな僕を雪都の大きな体が抱き締める。腕の中にすっぽりと埋まりながらその安心感に、もう、どうでもいいやと思った。どんな理由でも、もういい。今、この瞬間が全てを物語っているように思った。

頭上で、ハスキーボイスがクスリと笑う。

「はいはい、泣かない」

ぽんぽんと背中を摩られ、うっとりと目を閉じた。

「・・・昨日の朝、気持ちを抑えられなくてついついお前にキスしちゃっただろ?」

苦笑まじりにそう聞かれ、頷く。

「あの後、お前大学でも俺のこと避けるし、そんなに嫌だったのか、と思ったら素面ではいられなくて羽瑠の家で自棄酒してたんだよ」

羽瑠の家・・・、と言う事は、羽瑠は雪都の気持ちを知っていたって事なのだろうか?

疑問符が頭を過ぎる。確か、羽瑠が雪都に電話をかけた時、『食っちまう』とかなんとか…。

因みに、もしかして僕の気持ちも気付いていた・・・とか?

ぞっとしない事を考えながら、雪都の顔を見た。

「で、べろんべろんになって帰って来たんだよ。めしには気付かなかったんだ。悲しい思いさせてごめん。でもちゃんと朝食べたから」

素直に謝られて、しかも朝ちゃんと食べていてくれたんだと思うと、心がふわりと温かくなる。だから、僕も素直にこくんと頷いた。

そんな僕に再度キスが降りてくる。気恥ずかしさに少し俯くけれど、素直に受け入れた。

「愛してる、秋葵・・・」

優しいキスの合間にハスキーボイスが囁く。

僕は其れを受け入れ小さな声で想いを打ち明けた―――――――。




けたたましいアラームの音が、直ぐ近くで聞こえる。

まどろみの中からゆっくりと覚醒し、アラームの元を手探りで手繰り寄せた。

それが何時もと違う手触りで、いっきに覚醒する。

目を開けると直ぐ横に、切れ長の目元が特徴的な整った顔があった。

驚いて体を動かすと、鈍い痛みが体中に走る。其れが何を意味するのか直ぐに悟り、1人で赤面し、再度布団をかぶった。

その振動で、何時もはとっても目覚めが悪い雪都が目を開ける。

とろんとした目を僕に向け、その顔を笑顔で崩した。

「おはよ、秋葵ちゃん」

ハスキーボイスが甘ったるく囁く。

少し掠れたその声が昨晩の情事を思い出させ、僕は1人で熱くなった。

「お、はようございます」

妙なところでかんでしまったけれど一応挨拶を済ませると、いたたまれなくなり布団を出ようとした僕を、雪都が止める。

強い力で雪都の腕の中に収まってしまうと、居心地の良さにうっとりしてしまう。

「今日は大学はお休みしよう」

そんな甘い誘いに、ぐらりと傾きそうになるけれど、そうは言っていられないのが現実で。

「駄目ですよ、雪都さん。単位まずいんでしょ?」

さぼり癖のある雪都。朝しっかり起こし、一緒に登校しても途中で消える事が多かった雪都は結構単位がやばいらしい。

「ん?・・・大丈夫、まだ平気だから」

そんな事を言いながら、雪都の手が妖しく蠢くのが解った。

手の動きがしっかりとした意思を持っているのがわかり僕はあわてる。

「ちょ、どこ触ってるんですかっ」

蠢く手を掴み抗議の声を上げるけれど、雪都は意に返さないようで、手は止まってくれない。下生えを擽られ僕の物が形を変え始めると、雪都は楽しそうに笑った。

「だ、めです!」

最後の気力を振り絞り、止めにかかった僕を、しかし雪都はやっぱり余裕の笑顔を向け、

「ちょっとだけだから・・・」

そんな甘い囁きをし、抗えなくなってしまった僕の唇にキスを落とした―――――――。




                     おまけに続く・・・

いかがでしたでしょうか?


雪都と秋葵のラブラブ恋物語でした。


羽瑠と四季の場合にもあった様に、最後は雪都目線の物語を収録しようかと思いま


す。


最後まで、楽しんで頂けたらと思います。



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