その1
恋愛ものですが、BL、いわゆるボーイズラブですので、ご理解いただけない方はご遠慮ください。
僕、姫野 四季が地元を離れて2年がたっていた。
いつもの様に大学までの道を急いで歩く。
朝の喧騒に押し出されながら、ただ前を向いて歩き何時もの繰り返しに溜息が出た。
そうして校門に近い場所に堂々とその姿を孤立させ、まるで人々に己を認識させるかのように立っている銀杏の古木の前に差し掛かった時、やっぱり何時もの声がした。
「おはよ~、四季」
声を掛けられ振り向くと、同級の 各務 羽瑠が自転車に跨り行き交う人の視線を独り占めしていた。
「・・・おはよ」
僕の億劫そうな声に気付きもせず、そのまま自転車をおり横を歩く。
「今日も良い天気で良かった」
にこにこと笑いながら横を歩く羽瑠に
「そうだね」
と短く答え歩みを速めた。
同じ性別とは思えないほどに整った顔立ちの、カリスマ性を持った羽瑠は学生の憧れの的だった。
そんな彼を初めて目にしたのは大学の入学式の日、沢山の人が行き交う中すっと僕の瞳の中に入った彼はあまりにも目立ち、眩しくさえあった。
目で追う事で自分の気持ちに確信めいた物を覚え苦笑を零す。
よもや自分が同姓の、まして大学一の男を好きになるなんて思ってもいなかった。
友人も沢山いて、いつもゼミの中心的存在の羽瑠が、いつも1人で、浮いてしまう僕と接点を持ったのは偶然だったはずだ。
その偶然が早くも2年を迎える。たまたま取ったゼミに彼を見つけた時、思わず喜んでいた。そしてそんな自分の気持ちに名前を付けられずにいた。
大学に入り初めてのゼミ。
僕は少なからず緊張し広い講堂に入った。
ぐるりと周りを見渡すと、入学から2カ月の間に友人関係を築いた同級生が、そこここでスラムを組み嬉々たる声を上げている。
しかし、僕の周りにはぽっかりと穴が開いた様に空席がめだった。
昔から、そうだ。
中学の時も、高校の時も、大概1人、というのが多い。決して、1人が良かった訳ではなく頑張って友人関係を築こうとした時期もあった。
しかし、何故か上手くいかず、今に至る。
溜息を吐きながら教材を開いていると、ふと影が僕を覆った。
不思議に思い頭を上げた時、声が降ってくる。
「ここ、開いてる?」
良く通るバリトンの声がし、横の席に誰かが腰を降ろした。
驚いてその人物の顔を見、息が止まる。
それが羽瑠だった。
僕の視線に気が付いた彼が振り返る。
「誰か来る予定だった?」
徐にそう聞かれ、反射的に首を振っていた。
「そう、良かった。あ、俺、各務 羽瑠。あんたは?」
整った顔を笑顔で崩し、そう言った羽瑠から僕は視線を外せないでいた。
あれから約2年。
羽瑠は何かにつけ、僕の前に現れていた。
それは、とっても些細な事から、大きなことまであって僕の戸惑いは大きい。
近くのアパートに住んでいるらしい彼は、毎朝僕の姿を見つけると、挨拶をし中までの数分を一緒に歩いた。
今日も勿論そうで、足早に歩く僕の隣をゆっくりと歩いていた。そうして、いつのも様に彼のシンパが僕達の周りを囲む。
「今日もお2人で登校か?」
とからかう声は、必然的に僕に向けられ、いたたまれなくなる。何時もはそれだけで済んでいたのに今日は違っていた。
シンパの輪の中から鋭い声が上がる。
「あんた、何なんだよ!」
そこに居た全員が声の主を探す。
シンパの中央ほどにその人は居た。小柄な彼は確か須藤、とかいったか。
鋭い眼差しが僕を射抜く。
「どうしたの、秋葵ちゃん怖い顔して」
シンパの1人の声に彼が更に怒るのがわかった。
秋葵と呼ばれた彼は一歩前に出ると、僕を見据え
「羽瑠さんに近づかないでよ!あんたが居ると迷惑なんだよ!!」
明らかな敵意。戸惑いがその場を包んだ。
「・・・え、と、須藤くん・・・だったかな?」
「そうです」
彼は僕の声掛けに瞬時に答える。
「言っている意味が解らないんだけど?」
小柄な彼のかわいい顔が歪んだ。
「はぁ?!あんた馬鹿じゃないの?!今この学校の中に広まってる噂しらないの?!」
――――――――うわさ??何の???
クエスチョンマークが頭の中を踊る。噂、とは何なのか、僕には皆目見当も付かなかった。
「あんたが羽瑠さんの周りに居ると、迷惑なんだよ!」
必死に訴える彼の顔は、最早涙に溢れていた。
泣くなんて・・・卑怯だよ。
僕にはできない芸当だ。そうして其れが示すものが何なのかわかった。
どうやら彼は、羽瑠の事が好きらしい。シンパの中で、どれだけの人が彼の様に羽瑠に本気なのか、解らない。でもけっして少なくはない筈だ。
そんな事をつらつらと思っていた僕に業を煮やしたのか、彼が僕の目の前に来る。そうして小さな腕を振り上げた。
――――――――殴られる?!
まぁ、それも悪くはないのかもしれない。何故に彼がここまで怒っているのかは分からないけれど、それで気が済むのならばとそう判断し、ぎゅっと目を閉じた。
しかし、しばらく待ってもなんの衝撃もない為、そろりと目を開けると目の前に壁があった。
良く見ると、其れは壁ではなく羽瑠の背部だった。
「秋葵」
静かな、しかし芯から冷え込むような、そんな声がする。須藤の体がビクリと揺れた。
その異様な雰囲気にまわりのシンパがどよめき、空気を一笑するような笑い声があがった。
「秋葵ちゃん、冗談だよね?羽瑠もまじになるなよ~・・・」
シンパの声に羽瑠は秋を掴んでいた手を放す。そして、自転車を置き僕の腕を掴み歩き出した。驚きのあまり、声も出せない。そのまま強引に僕は歩かされていた。
強引に連れられ、到着したのは何棟かある講堂の1つだった。
そこは普段あまり使わない講堂。ほぼ全ての教室が資料室となっている。
しかし、お金がある学校な為、必要ない所までベンチがあり、飲み物の自動販売機が設置されていた。
窓辺の日当たりが良いベンチに座らせられる。
迫力に負け、大人しく腰をおろした。
「何飲む?」
徐にそう聞かれ
「えっと・・・じゃあカフェオレで・・・」
戸惑いながら答えた僕の手に、カフェオレの缶が落ちてきた。
羽瑠は当然のように横に腰を降ろす。ドキドキしながらも、気付かれないように少し距離をとった。
「・・・悪かったな」
突然そういうと、自分の持っていたコーヒーの缶を開ける。
「何が?」
本当に意味がわからなくて聞き返すと、羽瑠は苦笑を浮かべた。
「いや、秋葵がなんか可笑しな事言って」
ようやくさっきの出来事のことを言っているのだとわかった。
「あぁ、さっきの・・・。全然気にしてないよ、絡まれる事なんてしょっちゅうだし」
実際に街を歩いていると、見知らぬ人に声を掛けられたり腕を掴まれたりと絡まれる事は多々あり、秋葵との出来事は些細な事だったのだ。
妙な沈黙が流れる。
沈黙が続いた為見ると、眉間に皺を寄せ、複雑そうな顔をした羽瑠がいた。
「・・・お前・・・良く絡まれるのか?」
低い声が聞いてくる。
僕は戸惑いながらも頷いた。
「なんでもっと早く言わないんだよ!」
急に声を荒げた羽瑠は僕の肩を掴んだ。
「なんでって・・・あなたには関係ないでしょう?!」
負けじと僕も声を荒げる。ぴたっと、羽瑠の動きが止まった。
「関係・・ない?」
傷ついたような顔をし僕を見詰める。
あぁ、やっぱり僕は駄目なんだ・・・。
こんな顔をさせたかったわけじゃ、ない。
友人関係を築く事ができなかった僕に久しぶりにできた友人だったのに・・・。
これで、明日から又1人になると思うと涙が浮んだ。
しかし、その時だった。
ふと、日差しが陰り・・・何かが僕を覆う。
そうして唇に何かが触れた。
目の前に羽瑠のドアップの顔がある。自分の唇に触れたのが羽瑠の其れだと気付いた時には、唇が離れていた。
呆然と、何もない壁を見詰める。
「・・・四季?」
遠慮がちな羽瑠の声が聞こえた。
ゆっくりと頭を動かし羽瑠を見る。
「・・・え、・・何?」
当然のように答えたけれど、頭の中はパニックだった。
何が起きたのか理解できなくて戸惑う。
―――――――今、キスされた??
―――――――なんで??
―――――――からかわれた・・・のか?
いや、そんな筈はなく、僕の中でなかった事にしてしまえば良いと思った。
そうして羽瑠を見る。其処には、真剣な眼差しの彼がいた。
「四季、なかった事にするなよ」
心を読まれたかのような言葉。
戸惑いが顔に浮んだ。
「お前は何時もそうだよな」
彼の言葉に反発心が頭をもたげる。
「何時もって・・・なに?」
ちょっときつい言葉になってしまったけれど、抑えられなかった。
「そうじゃないのか?俺にはそう見える」
迂回したような言い方。イラっとした。
「言っている意味が解らない。はっきり言ったらどう?」
ついつい、喧嘩腰になってしまう。そんな自分に嫌気を感じながら羽瑠を見た。
「何かあっても直ぐになかった事にしてしまう。秋葵の事だってそうだ」
苦い顔で羽瑠は一気に言った。
「秋葵が言ってた噂の事、四季は気にならなかったのか?俺は凄く気になった」
そういえば、さっき須藤がそんな事言っていたような・・・。
「あの噂っていうのはな、俺と四季が付き合っているっていう物なんだよ」
静かな羽瑠の言葉が浸透して来る。言葉が自然に零れた。
「なに、それ」
酷く驚いて、どのように出てきたのか解らない噂に振り回される。
「何、それ、だよな。でも俺は満更でもなかったよ。噂でも良いから、其れをきっかけに四季と付き合えたら、と思った」
耳を疑う、とんでもない告白を今受けている?
自嘲気味に笑う羽瑠を、凝視した。
「それって・・・?」
何かを追うように言葉が出てくる。
「わかんない?・・・俺は四季の事が好きなんだよ」
まるで、何かを確認するように羽瑠は言った。
―――――― すき?
「あ、りがとう。・・・僕も羽瑠の事、友達として好きだよ」
履き違えるなと自分に言い聞かせ、嬉しい誤解をしない様に、探る様に言葉を紡ぐ。
「そ、か・・・。だよな。普通、そうだよな。ごめん、なかった事にして・・・」
悲しそうな顔をしそう告げると、羽瑠は立ち上がりその場を後にした。
稚拙な文でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございます<m(__)m>
なにぶん趣味で執筆していますので、ご容赦いただけたらと思います。
次回も読んで下さると幸いです・・・。




