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水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


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筆頭侯爵ベルオット談 ②

 いつしか子爵家の子供達も大きくなり長男が学院に入学する年齢になった。あれだけ自分達は子爵領から出ない様子だったのに子供達は領から出すのか?と思ったが、

 「自分の可能性は自分で広げないとだろ?」とベルは言った。


 誰が嗅ぎつけたのか、いつの間にか妖精が王都に来ると評判になっていた。きっと穏やかに済みそうにないが、俺と違って、ちょっと放任過ぎないか?とも思ったが、何かあれば侯爵家が助けてやればいいか。

 それぐらいの権力は持っている。



 そして2人目が学院に上がり、3番目の子が聖女の侍女になる為に侯爵家に来たいと言ってきた。もちろんウエルカムだ。

 それにしても聖女の侍女ではなく聖女候補になれば良いのに。

 候補に入れ込む力が侯爵家にはある。

 しかしマリベルは子爵家出身だからと弁えた少女であった。その真面目な考えも清廉な振舞いも優れた容姿もよっぽど聖女だろと思ったが本人が望むのだからいいかと思った。

 聖女でも侍女でも10年は神殿だと私はホクホクだった。


 そして学院では王太子が2人の“緑色のベル”の虜になっていると報告を受けた。

 あの王家はちょっと頭がぬるい。

 カテリーナ様が頑張って制度を変え教育を行ったとしても血筋はそう変わらないだろう。

 公爵家の令嬢が一人頑張っているらしい。あの公爵家は実力主義だ。令嬢がどのようにベル達に立ち向かうのか見ものだなと思った。


 一年経って、公爵令嬢が面会を申し込んできた。どうやら本格的に動くようだな。さてどうやって動くのだろうか?令嬢次第では今後、侯爵家が王家にどのように関わっていくのか決める判断材料になるだろう。彼女は将来の王妃なのだから。

 王族を変えることができるのか。彼女に可能性があるなら手伝ってやっても良いな。私は楽しみに面会の承諾をした。


 やって来た令嬢は銀の髪に紫の瞳、そう言えば公爵家は紫の瞳が特徴だったか。令嬢は賢そうで意志の強そうな瞳の娘だった。

 さすがに私を前に緊張しているのかお茶を出されたのも気付かない程だった。

 だがしっかりと自分の計画を述べていく度胸のある娘だ。


 彼女の計画は息子達の将来まで決める内容であった。だが私もそれを予想しなかった訳でもない。

 だからその計画に乗ってみることにしたのだ。息子たちが乗らなきゃそれまでだ。

 令嬢はなかなか私好みの計画を立ててきた。だが少し侯爵家に都合が良過ぎではないだろうか?

 その気になれば王家に反逆だって可能な勢力になる。


 しかし令嬢は「権力があっても表立って使うことは好きではないだろう?」と言ってきた。

 しかも息子達も同様だと言う。

 すっかり令嬢には我々の本性を見透かされている訳だ。しかも早くからマリベルが聖女になることも見通している。これは見所のある令嬢だろう。

 ぜひ王妃となっても応援してやりたいものだ。私は令嬢に協力と今後の支援も約束してやった。

 私が生きている限りだが。


 令嬢はとびっきりの笑顔を見せ、見事な礼をして見せた。

 私もご機嫌になってオリベル王女の肖像画まで見せてしまった。

 そして後でアイオットに驚かれた。



 いやいや公爵令嬢の計画通り、こんなに上手く事が運ぶとは思わなかった。

 息子達がそれぞれ結婚したのを見届けて、私は引退を決意した。

 アイオットには侯爵家は好きにするように伝えてある。

 もうこれ以上の権力も要らないだろう。他の貴族に警戒されるばかりだ。


 アイオットは自分の補佐に息子の侍従にするはずだったベルナルドを置いた。ベルナルドはとても優秀だったからだ。

 早くから高い教育を施してきたが、これが水をグングン吸収する若木のように伸びた。

 子爵家の子供達はどこか非凡なところがあった。それは自分が送り込んだ教師からも聞いていた。そもそも一度教えた事は忘れないのだそうだ。それに好奇心もあってどんどん知識を吸収していくのだそうだ。

 ただ好奇心にはそれぞれ違いがあって2番目のララベルは何が好きなのか難しいと言っていたが、今なら解る。男絡みだ。好きな男の為なら努力できる娘だったのだ。


 一番面白いのは末っ子のリリベルだろう。

 あの子は聡い上に賢い。そして行動力もある。何より彼女の祖父と同じ“緑の癒し手”だ。

 あの子にはオリベル王女の肖像画を見せた時、逆に諭されてしまったのだ。

 オリベル王女は私にとって特別ではあっても、存在自体は“特別”ではないと。

 それは妙な説得力があった。


 私は子爵家を訪問し、弟に「子爵家の先祖の肖像画を見せて欲しい」と頼んだ。

 弟は「え?あんなの見たいの?」と、いともあっさり言って案内してくれた。

 それは子爵邸を少し進んだ先にある、畑の農具置き場とした建物の一部屋にあった。


 案外古くから続く子爵家の歴史と共に膨大に並ぶ肖像画。

 どれもプラチナや黄金の髪をした美男美女がズラリだった。水色の瞳、エメラルドグリーンの瞳。そうだ子爵家の者は色素が薄いから緑色というよりエメラルドグリーンの瞳だし青より水色の瞳なのだ。


 「子爵領は北の隣国の国境にあるだろ?だからそっちの人の色に近いんだ」とベルが言った。

 「それにしても先祖の肖像画が納屋にあるのはどうかと思うぞ?」と私が言ったら、

 「爺様に言ってくれよ。爺様がここを農具置き場にしたんだから」とベルが言った。

 私はここを侯爵家の金で建て替えることに決めた。


 新しく建った建物の肖像画のスペースに、ベルはマティアス氏が描いた肖像画を掛けていた。私は作品の趣味が違うことから、すっかり彼のことは忘れていたのだが、そういえば最近はリリベルが小説の売り上げで支援していると妻が言っていた。

 私はベルに「よりによって何でこれを?」と聞いたら、この肖像画が一番気に入っているのだと言う。

 マジか。「リリベルのセンスはお前譲りか」と呟いたら、

 「ここに僕達の普通の肖像画を入れたら先祖の中に埋もれるだろ?大量生産扱いは死んだ後でもゴメンだな」とそう言った。

 確かに彼らからしたら自分達も大量生産のうちの一人だろう。

 だがその発想と自分達の容姿への価値観が世間とそもそも違う。

 彼らの審美眼もおかしい。

 

 だが、もうどうでもいいか。


 私の今の楽しみはリリベルとベルナルドだ。

 楽しみが自分の孫では無いのが意外だなぁと自分でも思う。

 ベルナルドは今は侯爵家の補佐官に収まっているが、本来はそんなちっぽけな能力ではないだろう。

 何かきっかけがあれば、いずれ侯爵家を飛び出すのではないかと思っている。

 アイオットにはいつでも手放してやれと言ってある。

 リリベルも予測不能だ。

 だがあの子が願うなら何でも叶えてしまうだろう。そんな力を持った子だ。

 

 さて子爵家を継ぐのは誰になるのか?

 5人いても誰も残らないか?

 私の老後に楽しみを与えてくれてベルには本当に感謝だな。

 できれば兄妹中、最後に結婚するであろうマリベルの子供を抱いてからあの世に逝きたいものだ。と考えていると、

 「兄さん、長生きしろよ」

 一瞬耳を疑った。ベルに言われるなんて。


 私が驚いていると、

 「まあ大嫌いだったけどな。随分助けてもらったし、子供達は皆、あんたが好きだろ?だからもう許してやっていいかなって」

 ベルが照れている。二度目の「ご馳走様」だ。

 「お前もリリベルの事言えないぞ。その言葉遣い、子爵家当主が剥がれてるぞ」

 「だな」と言ってベルが笑う。

 「もう、オッサンだし、オリベル王女には見えないだろ?」

 そんなことは無い。まだまだ彼は美しい。

 

 それよりも、

 「なあ、もしリリが第三王子を連れて帰って来たらどうする?」

 「おぉ。やっと肖像画がカラフルになるな」と言ってベルは笑った。

 ベルにとってはその程度のことなのだな。

 まあ、まだリリベルが誰と結ばれるかなんて分からないがな。


 「なあ、子爵領に侯爵家の別荘建ててもいいか?」

 「調子に乗んな!」


 あとは兄弟5人で、また会える日が来れば最高だ。


  TRUE END.


本編含め番外編までお付き合い頂き、ありがとうございました。

“水色のベルと緑色のベル”完結とさせて頂きます。

この先はリリベルちゃんの恋愛話の方でお楽しみ頂ければと思います。

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