表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/79

《王女、元聖女カテリーナの手記と王国史抜粋》②

 聖女に選出され1年が経った頃、侯爵家から大神殿に早馬が来た。姉の出産が難産であり母子共に命が危険であると。

 その知らせは深夜であったが私は神官達の反対を押し切り、数名の聖騎士と侍女を連れて姉の元に急いだ。


 姉の元に駆けつけた時、姉は赤ん坊は出産していたが出血も多く、虫の息だった。

 侯爵は私に縋った「どうか、どうか妻を助けてくれ!何でも差し出すからと」


 私は姉に直ぐに治癒魔法を施し何時間もかけて、やっと姉の命を繋ぎ止めた。

 しかし、この先はもう長くはないだろうと、私は非情にも侯爵に伝えた。

 侯爵は「それでも構わない。本当に本当にありがとう」と私に泣きながら伝えてきた。

 姉は侯爵に愛されとても大事にされているのだろうなと私も嬉しくなり、侯爵に感謝を伝えた。

 それ以来、筆頭侯爵家は多額の寄付を毎年神殿にしてくれるようになり、神殿もそのお陰でたくさんの人々を助けることができた。


 姉は息子が10歳になる前に息を引き取った。あの時の状況からしたら、かなり持った方だろう。

 きっと侯爵が優秀な医者を付け頑張ったに違いない。

 侯爵は覚悟をしていただろうが、ガックリと力を失ったように項垂れ、側近達に支えられていた。

 だが葬式の別れ際に「彼女をここまで生き長らえさせてくれて、ありがとう」と言われたのを覚えている。


 私は聖女を降りた後、神官となることも結婚もできたが、国王となった兄の好意で王城の離宮に静かに暮らしていた。

 兄は「苦労したのだから、この先はゆっくり過ごしても罰は当たらないよ」と言ってくれた。

 私も両親を見ていたせいで、新たに結婚という形で人と関係を築くことに不安を持っていたから兄の配慮はとても助かった。


 すでに母は亡くなっており、父は精神を患い王城の隅で隔離されていた。

 かつての美しさは一切面影はなく、ただ1日ボーッと過ごしているようだった。

 私が会いに行くと私の名ではなく母の名前を連呼した。私は母に似た容姿だったからだろう。

 父は母の名を呼び「済まなかった済まなかった」と私の手を握って謝るのだ。もっと早くその言葉を母に伝えてくれていたら。

 せめて母が生きているうちに。

 私は父を離宮に引き取り、父の相手を毎日した。

 父の精神状態はかなり回復したが、最後まで私の事は母だと思ったまま静かに亡くなった。


 あれから侯爵は妻を亡くした悲しみに暮れていたそうだが、若手の画家を保護し援助し、たくさんの妻の肖像画を残しているそうだ。

 そうして彼女を亡くした喪失感を埋めているらしい。

 私もかつて二人で手を取り合って生きてきた仲の良い姉の絵が欲しいと、侯爵に連絡を入れると、彼は喜んで自ら絵画を持って来てくれた。


 姉の肖像画は、まるで彼女が生きているかのような躍動感と瑞々しさを感じる素晴らしい作品だった。

 絵の中の少女はとても幸せそうに笑っていた。

 私は喜んで姉の肖像画を一枚貰い受けた。

 侯爵は何枚でもと言ってくれたが私には一枚で十分だった。

 私はこの絵を王家の戒めの為に譲り受けたのだ。

 この国の王女でありながら血を引かない娘、今後、王族のせいで二度とこのようなことが起こらないようにと。


 それから時間が流れ、兄の孫が王太子となった時に、また悲劇が起きた。

 王太子は北の隣国の王女に乞われ結婚の約束をしてしまったのだという。

 また北の隣国の王家か。あの国は余計な事しかしないのか?!しかも今回も爪の甘い王族の責任で起こったことだった。


 私の元に一人の令嬢が駆け込んできた。彼女は王太子の婚約者に決まりそうだった令嬢だった。

 親は信用ならないのだといい、私に助けて欲しいと縋りついた。

 私はこれまでも望まない結婚や家族や夫に不幸にされた女性を助けてきた。

 私の元に駆け込めば元王女で聖女であった私に文句を言える者は少ない。

 私の元で働く侍女やメイドはそういった女性ばかりだ。

 神殿の伝手を使って神官になる者もいる。

 彼女はもう貴族も社交界も懲り懲りだと神殿に入ることを望んだ。


 悲劇はそれだけでは収まらなかった。

 5年経っても王太子に子ができず、側妃を入れることになったのだ。

 しかも本人が希望してなった訳ではない。

 親に強引に入れられたのだ。

 側妃として入れられた彼女も泣きながら私のところに逃げて来た。


 しかし彼女の場合、私にはどうすることもできなかった。

 とりあえず彼女の役目である子供を成さねばならないだろう。

 私は聖女に伝えられる秘技を彼女に施した。

 一度で子供を授かる秘技だ。

 一度だけ耐えれば。

 彼女はそれで納得し子供を授かった。

 彼女のお陰でやっと王家に子供が授かったと国も王家も安心したのだが、彼女の出産は姉の時と同じように難産だった。


 私は必死で治癒魔法を施し産まれた子供は淡い金の髪をした王子だった。

 私は姉を思い出した。

 瞳は緑だったが私はその子に“ベルトラント”と名付けた。

 母親が私に名付けることを望んだからだ。


 父である王太子は出産に立ち会わなかった。

 妻であった王太子妃も妊娠し、つわりで苦しんでいたから、そちらに付き添っていたのだ。

 自分の為に迎えた側妃だというのに。

 全てを犠牲にして王家に入った女性だったのに。

 命を掛けて子を産んでくれた彼女に、お前は何を還してあげられるのか!?


 私は激しく憤り、数十年振りに王城に向かい、国王と宰相、この国の重鎮達に詰め寄った。

 今後一切のまつりごとは全て議会で承認し、国王に政治の決定権を与えるなと。

 王太子の能力では国を潰しかねないだろうと。

 そして王家の子女達には今後厳しい教育をと。


 私のバックにはこれまで王家に踏みにじられた家門がいた。

 そしてその中には筆頭侯爵家もいた。

 私の意見は受け入れられ、今代の王から政治の決定権を無くした。そして国王というただの国の飾りとなったのだった。


 ベルトラントは早くから真面目で聡明だったが、彼は王位に興味は無く私の影響を受け神殿の聖騎士になりたいと言い出した。

 そして王太子になった第二王子は厳しい教育を受け婚約者の令嬢を大切にしているという。

 私の仕事はもう終わっただろう。


 この後1年後、王女で聖女だったカテリーナは80代で生涯を閉じた。

 王家は彼女を元聖女、王女の地位はそのままに王族として手厚く葬った。


次回、筆頭侯爵ベルオット談で番外編ラストとさせて頂きます。

ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ