63
マリベル嬢が聖女に選ばれたと公式に神殿から発表され、聖女候補達はそれぞれ実家に戻ることになった。
公爵家ではソフィーナを抜きに結婚の準備が着々と進み、あとは花嫁衣装の準備とソフィーナ自身が戻ってくるばかりとなった。
ソフィーナの迎えはライオット卿が「ぜひ迎えに行きたい」と言ってくれたので任せることにした。
きっと私達よりも彼が行ったほうが喜んでくれるだろう。
ライオット卿は王城の住まいも緊急時の為に残しつつ、春から公爵邸で過ごすことになり、殿下の警護の後身も順調に育てているそうだ。公爵家のことはソフィーナが管理をし、私達は領地を管理して少しでも新婚の2人の負担を減らそうと妻と話し合った。
今更、良い父にはなれないだろうが、良い祖父にはなれるだろう。妻には気が早いと言われたが今からソフィーナが帰ってくるのが楽しみで仕方がない。
だが、戻って来たソフィーナはずっとずっと泣いていて会話すら出来なかった。決して聖女になれなかった事にショックを受けている訳ではないと言うが、妻でもなくライオット卿が寄り添っている。
妻には「今日は戻って来たばかりだし、ライオット卿に任せましょう」と言われて、私はしょんぼりしながらも部屋に戻った。
「信じられない!信じられない事が起こったの!まさか、まさか私がライオット卿と結婚できるなんて!」
ソフィーナはこれまで我慢、我慢の人生だった。公爵令嬢に恥じないよう、一生懸命、努力してきた。
それなのに殿下には選ばれず、聖女にもなれず、親には見放され、公爵家に都合の良い結婚しか道は残されていないのだろうと自分の人生を悲観していた。
女神様は贔屓をするのかもしれないと、聖女教育中に不敬にも女神様を疑って、浄化魔法の発動が思うようにできなかったぐらいだ。
マリベルを羨んだ事なんて数え切れない程ある。美しく賢く何よりライオットに大事にされていたからだ。
同じ王太子の婚約者候補だったアイリーンには、その度に幾度も慰められた。淡々としているようでアイリーンもマレシアナと従姉妹だったから苦労した。
公爵家の思惑のせいで当て馬のように王太子の婚約者候補にされ、周囲の候補者を蹴落とすために利用された。そして、常に優秀な従姉妹と比べられていた。だから2人で一緒に聖女候補に逃げたのだ。
そんな私達が聖女に選ばれるはずがないのは当然だ。でもマリベルを羨んだ事はあっても嫌いになることだけは出来なかった。
とても純粋な人で神殿内のあらゆる人を助けて動いているそんな子だったのだ。
アイリーンもマリベルの事が大好きだと言っていた。彼女の兄はもっと好物だとも。その事はよく分からないが、ビアンカ嬢もマリベルを侍女として側に置いておきながら、嫉妬することなく友情を築いていた。
ココット嬢は私達よりもはるかに自由なくせに、マリベルの侍女として残ることを決めたくらいだ。
私達は全員でマリベルに魅せられていたのだ。それが彼らの言う“水色のベル”なのだろうか?
そう言えば、ベルトラント殿下もマリベルに魅せられたうちの1人だろう。彼の恋路は女神様を味方につければ、きっと安泰だ。女神様は一途な男性を好むと言う。王弟殿下もそうだった。
ソフィーナは今、ライオットの腕の中だ。ずっと泣いている自分に黙って寄り添ってくれている。
これからはここは自分だけの場所になるのだ。彼が少しくらいマリベルの話をしたところで許せるくらい切望した場所だ。
女神様はちゃんと頑張る人を見てくれている。
頑張って良かった。自分の幸せを諦めないで良かった。これからもマリベルに負けないくらい女神様に感謝を捧げていこう。
きっともっと幸せになれる。




