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「マリベル、君が聖女を引退したら私と結婚して欲しい。私はもう王族でも無いし、母が陞爵された伯爵位は異父弟が継ぐ予定だ。だから、ただの聖騎士でしかないけど、君だけしか見ないし幸せにすると誓うよ。君が好きなんだ。ずっと前から」マリベルは再停止する。情報が多くない?処理が追い付かない。
なんせ恋愛処理機能はポンコツなのだ。
ラント様はマリベルが停止中なのをいいことに、また唇を重ねてくる。ポンコツだが、なぜか客観的に自分の状況が見えている。
マリベルはつい反射的にボディブローをラント様にかましてしまった。爺が去る前に教えてくれたやつ。
あ、なんか良いところにハマったみたい。鍛えてらっしゃるけれど、想定外の攻撃にラント様はグハッと前のめりになる。マリベルは逆に冷静に戻れたが、呼吸を止めていたみたいで肩で息をしている。爺、なかなか拳が痛いじゃないか、聞いてないよ。効いてはいるけど。
「ごめっゴホゴホッ、ごめん。調子に乗った。もうしない」ラント様が謝って下さるけど、いや謝るのはこっちの方だ。殴るつもりはなかったのよ。
とっさの条件反射っていうやつだ。
その後、ラント様とマリベルの婚約が発表された。マリベルの引退まであと1年半だ。
久しぶりに王都には“聖騎士婚約”の号外が出た。えっ?“聖女婚約”の方じゃないんだ…。
ラント様は聖騎士名鑑と神殿公認ファンクラブで人気ランキング7年連続トップだった。私、来月の広場のバルコニーで石投げられたらどうしよう。
マリベルの心配の裏で、大神殿では大神官様方と聖騎士様方、侍女達が安堵の息を漏らしていた。ずっと2人を見守ってきたからだ。
翌月のバルコニーでの聖女の顔見せは、再び、聖騎士総動員で厳重注意の中、行われた。
マリベルの心配をよそに、国民が大勢集まりお祝い一色のお祭り騒ぎになったからだ。王国騎士まで動員された。
お騒がせして申し訳ない。
聖女候補と候補の侍女達には落胆の色が見える。聖女候補の皆さんは「これからそんな暇は無いですよ」
侍女さん達には「他の独身聖騎士が投入されますのでご安心ください」だ。
ココットさんは引退後、神殿に大口寄附した大商人の御曹司と結婚が決まっている。
アンナさん達3人の平民の侍女達は無事に聖騎士様を捕まえた。
男爵令嬢のお二人もソフィーナ様方の口利きで王太子殿下の側近の貴族と婚約された。
皆ハッピーエンドになるはずだ。
そしてまた、しばらく経って間もなく2年目を迎える。やっと新しい聖女が決まった。
次代の聖女候補達は、身分も実力も皆どんぐりの背比べだった。まあ、ある意味誰がなってもいいということ。
マリベルはお告げって「次の聖女は誰々です」って女神様から指名されるのだと思っていた。
でも、まさか「誰がいいと思う?」って相談されるとは思わなかった。朝起きて「ええぇ!?」ってなったもん。
マリベルが動揺してたら3日後に大神官様達も同じ夢を見た。
結局、皆の多数決で次の聖女は決まった。またまた前代未聞だよ。
1ヶ月後、10年振りの聖女の継承式とお披露目が無事に終わり、その半年後の秋の半ば、私とラント様は子爵領の神殿で結婚式を挙げた。
お祖母様、お祖父様もちゃんと出席できるように。
ルト兄様が伯爵位を陞爵されたはずなのに、なぜか実家は、まだ子爵家のままだ。伯父が何かしたんだろうな。
そうそう!結婚の署名をする時に気が付いた。婚約の時の署名は私が先にしたから気付かなかったけど、
ラント様、本名は“ベルトラント様”と仰るのね。今頃、知るなんて、どうかしてるって自分でも思ったけど…。
「緑色のベルだけどいいかな?」
「何それ?よく分かんないんだけど。水色とか緑とか」
「そうだね。私達には関係ないね」
私達は満開のコスモスの咲き乱れる中で笑い合った。
〈END〉
拙い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。
とりあえず一旦、完結させて頂きましたがベルトラント殿下と、ベルオット伯父、
リリベルちゃんの結婚話など、続きもしくは新しいお話で投稿する予定です。
また機会がありましたら読んで頂けると幸いです。




