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新聖女の登場に会場中が息を飲む。「マリベルだ!あ、うん僕そっくりだな」どれだけ成長しているのか楽しみにしていたが、最初の感想がそれだった。成長して益々僕に似てきていた。
周りの「おお!」という歓声が申し訳ない。うちの家族は感動が薄い。「姉ちゃん、父そっくり」とリリが言う。
お前、公の場で貴族令嬢の言葉遣い取れてるぞ。婆ちゃん聞いたら怒るからな。
「そうねぇ」とクララベル。「だな」とベルナルドも。
まあでも「綺麗だな」と俺が言う。自分を褒めているような気分だが。
「うん綺麗だ」「姉ちゃんキレイ」「そうねぇ」って口々にマリベルを誉めた。
式も無事に終わり新聖女が誕生した。ホール内は祝福の熱気に包まれる。
マリベルがホールから広場のテラスに移動する。手を引いている聖騎士に見覚えがあるような、誰だ?
プラチナの金髪に瞳は?緑か。俺が移動して行く2人を見ていると、横の兄が言う。
「王家のベルだよ、緑色だが」と。
外から大歓声が聞こえる。「父さん!マリィ姉ちゃん見に行ってくるね」リリベル達は広場に向かっていたが、俺は一人残り、首を傾げる。王家?元聖女のところの第一王子か?
ああ、もう王子ではなくなったんだっけ。彼の母親は再婚した。
お互いに、やっと初恋を成就したのだ。
もう誰にも邪魔はされないだろう。
マリベルはしばらくテラスに滞在し、すでに中に引っ込んだようだが、熱気冷めやらない人々が、まだ外で盛り上がっている。帰りも大変そうだった。まあ10年に一度だしな。
沿道もすごい人だ。出店もたくさん立ち並ぶ。馬車も直ぐに出せそうにないので近くの露店を見て回る。
「父さん、この姉ちゃんの絵どう?」リリ!さっきから令嬢の言葉遣い、どこに置いてきた?
まあ一般人も多いから今はいいか。いや今は服装が貴族だったわ。後で説教決まりだな。
「お婆様へのお土産か?それにしても、すでにたくさん絵姿が出てるな」
「うーん、やっぱりこっちの姉ちゃんじゃない?」ベルナルドも絵を吟味している。
さすが聖女様だな、あちこちで娘の肖像画が売られているのは少し複雑な気分だが。俺に似てるし。
崇拝対象だからな。仕方がない。今後は更に出控えなければ。
「マリィの肖像画なら新進気鋭の画家にもう任せてある。お前達のも頼んでやろう」
兄、まだいたのか。「お祖母様には、ぜひそれをお持ちしなさい」兄はうちの婆様のことも崇拝しているからな。
それから少し露店を冷やかしたが、馬車が動けたのは更に3時間後だった。
歩いて帰れたな。




